第七十五話 刑事たちの戦いと、殺し屋と
ズドーンッ!
ダダダダダダッ!!
時は少し戻って、地下の秘密会議室から六堂が大佐の後を追って行った、同時刻…。
上の“ハイウェーブ″の倉庫で、十三名の刑事と、部隊零の戦闘員二十五人による、激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
倉庫に積み上げられた木箱や段ボール箱を破壊しながら、飛び交う弾丸はまさに“戦場”だった。
「ああっっ!」
悲鳴を上げ、ドサッと倒れる一人の刑事。その人物のスラックスに革靴を履いた脚が、フォークリフトの陰にズルズルと引き摺られていくのが、佐久間の目に入る。
「須藤がやられた!」
撃たれた須藤を、飛んでくる弾の当たりにくいフォークリフトの陰に引っ張り、そして叫んだ刑事は、井上。
「ぐ、すまん…井上」
須藤は助けてくれた井上に掠れた声で礼を言った。
防弾ベストを着用してはいるが、須藤は右肩と右脚を撃ち抜かれていた。
「佐久間さん!あいつらヤバイですって!」
敵のあまりの勢いに、井上は泣き言を言い始めた。
刑事たちの装備はショットガン“レミントンM870″にスラッグ弾、そして防弾ベスト。これでも一般の刑事には精一杯の武装だ。
それに対して部隊零の戦闘員は、腕にも脚にも装着されている防弾用の特殊ボディーアーマーに、近接戦闘用の最新のサブマシンガン“APC10”。
さらには戦闘に対して徹底的に訓練を受けているプロの兵士ときている。射撃の腕や展開する動きが刑事たちとはまるで違う。
はっきり言えば人数でも下回る刑事たちに勝ち目はないと言えた。
「諦めるな!時期SITが来る!それに警部補がこの倉庫のどこかで、セントホークの重要参考人を抑えるのに手を打ってるはずだ。その連中を逃すわけに行かん!まずはこいつらを引きつけておくぞ!」
士気が落ちないよう気合の声を張り上げる佐久間だが、横並びだった戦闘員はじわじわと半円形のフォーメーションを取りながら、刑事たちを囲おうと動き始めていた。
「のあっ!」
また一人やられた。悲鳴を上げ倒れたのは末廣だ。ショットガンを構えるのに空いた脇に、マシンガンの弾が当たった。
さらに富平、そして林も撃たれた。
次々と刑事側は数を減らして行く。
――くそっ!SIT到着まで持たねえぞこりゃ…戦闘に特化した“兵士″相手じゃ、俺たちでは部が悪すぎる!
ヤクザの事務所に単身乗り込んだ経験もあるベテラン佐久間も、この状況には焦りと苛立ちを感じるばかりだった。
雨のように飛んでくる弾丸の狙いは恐ろしく正確で、敵との距離が近くなるほどショットガンを構える隙さえなくなってきていた。
「ん!?」
そんな中、佐久間は構える銃口の先に一瞬、人影を見た。倉庫内は薄暗く、はっきりと確認出来なかったが、部隊零の戦闘員とは異なるシルエットに見えた。
――あいつは…!
倉庫内をまばらに照らす水銀灯の真下に、その人影が入ると、それが間違いなく“室富″であると確認出来た。
――室富!?
室富は静かに、だが速く、部隊零の戦闘員の一人に近づいて行く。その動きはまるで“忍”だ。そして背後から、戦闘員の一人に密着出来るほどの距離に寄ると手にしていた拳銃を撃った。
銃撃戦の派手な音に紛れ、バンッ!と一発の銃声が鳴った。
「がっっ!」
撃たれた戦闘員は悲鳴を上げた。
室富が撃った箇所は、ボディーアーマーの隙間で、膝裏だ。戦闘員は脚をくの字にしながら倒れた。
「何だ!?」
「下にいた室富だ!」
「何故ここに?」
仲間がやられたことに戦闘員たちは気づき、室富の姿を確認した。
指揮を取ってる現場リーダーと思しき男は、何人かの部下に、狙いを刑事たちから室富へ向けるよう支持を出した。
だが室富はニヤリと笑みを浮かべると、積んである荷の陰を上手く利用して、飛んでくるマシンガンの弾を避け、そしてまた一人の戦闘員の目の前まで距離を詰めた。
「は!速い!」
目の前に現れた室富に、その戦闘員は慌てて銃口を向けようとするが、室富はそれよりも速く拳銃をボディーアーマーに守られていない二の腕へ発砲していた。
更に左手に持っていたマシンガンで、太ももにも何発か撃った。
「ごわっ!」
また一人、悲鳴を上げながら倒れる戦闘員。
室富の華麗な接近戦は、刑事たちを囲い始めていた半円形の陣形を少しずつ崩していった。
すると、若干だが飛んでくる弾丸は減り、刑事たちが反撃をする隙が生まれた。
「あ、あいつ凄え、佐久間さん、一体奴は…」
井上は、一人で敵を倒して行く室富の戦い方に圧倒された。
「井上!あいつは“味方″だ。ボケっとしてないで、反撃だ!」
「み、味方って…」
「俺を信用しろ!せっかくのチャンスを無駄にすんな!」
「は、はい!」
劣勢だった刑事たちは、室富の加勢により息を吹き返したように、ショットガンを構え、反撃した。
「室富一人に何をやってる!“手榴弾”を使え!」
リーダーと思しき男から支持を受けた二人の戦闘員が、ミリタリーポーチから手榴弾を取り出した。手榴弾は庄司エンタープライズ製の対人デジタル式。起動後、投げたあとに人を感知してから爆発する仕組みだ。
「おっと、危ねえもん投げてくんじゃねえ」
室富は手榴弾を取り出した二人に上着を翻しながら猛スピードで距離を詰めると、左右の手にしている拳銃とマシンガンを同時に発砲した。
二人の戦闘員は弾丸を喰らい、吹っ飛んだ。ボディーアーマーを装備しているので、二人がそれで死ぬことはないが、一人が起動ボタンを押した手榴弾を思わず手放してしまった。
「あ!」
声をもらした直後、それを持っていた戦闘員を感知した手榴弾がドカンッ!と爆発をした。
そして爆煙が立つと、室富はそれを利用して、接近して敵の関節部に弾丸を撃ち込む攻撃を再び続けた。
刑事たちも応戦を続けていたが、銃の発砲音に紛れて、バラバラという音が微かに聞こえることに気づいた佐久間。
「こ…この音は…!?」
ヘリコプターの音だ。
佐久間の持ってる無線に、ガッ!というノイズ音が入ると、ヘリコプターからの声が聴こえた。
『こちらSIT第一及び第二小隊のリーダー佐竹警部補だ』
佐久間はハンディー型の無線手に取り、嬉しそうに応答した。
「こちら捜査課の佐久間だ!待ってたぜ!」
ヘリコプターから照らされる投光器の灯りが、倉庫の天窓から入ってくると、室富は、ため息をつき、笑みを見せる。
「どうやら警察の応援が到着のようだな」
その後、フル装備のSITが倉庫内を制圧するまでにはそう時間はかからなかった。
個人の持つ能力の高さにおいて部隊零の戦闘員は大変な超人ぶりだが、SITは倍以上の人数で抑えにかかり、最終的には数が物を言った形となった。
撃たれた刑事数名も、重傷者はいたが殉職した者はおらず、佐久間もほっとしていた。
「お前ら、よくやったな」
担架で運ばれる刑事たちにそう声を掛ける佐久間に、意識のある者は笑顔で返した。
そして…、室富の姿はもうどこにもなかった。
生き残っている戦闘員の逮捕や、現場確保に騒めく中、倉庫周辺を探したが、やはり室富は見つからずら佐久間は思わず笑いが漏れ、呟いた。
「ありがとよ…殺し屋」
その室富はといえば…、
“お得意の”逃走で、現場から少し離れた場所に止めていた、ラッドの愛車の側に座り、煙草を吸っていた。
上手く現場から姿を消し、少し遠回りをしつつ、最初の場所に戻ってきたというわけだった。
上を向き、深いため息をつきながら吐き出す煙は、白い息と共に空にゆらりと立ち昇り消えていく。
煙と共に、“やれることはやったぜ”と、死んだジョー・ローデッカーに心の中で伝えた。
「…そうだジョー…俺の稼業は殺し。戦闘は得意じゃねえんだから、頼むぜ本当」
室富は苦笑しながら、独り言を呟く。
そこに近づいて来る足音が耳に入ると、室富は立ち上がり、咥えていた煙草を摘んで地面に落とし、踏んで火を消した。
足音は三人。少し怪訝な顔をした室富は、黒眼鏡を下げた。
「……探偵か?」
足音のする方へ声を掛けると、「ああ」と六堂の声が返ってきた。
そして暗闇からゆっくり街灯の下に、“ジーナとラッドに肩を借りている六堂”が現れた。
それを見て驚く室富は、目を丸くした。
「ジ、ジーナ?それとあんた、バーのマスターじゃねえか」
三人は驚く室富を見て、思わず笑った。
ジーナとラッドの二人が、どうして六堂と一緒にいたのか、その理由を聞くと、室富は黒眼鏡を元に戻して苦笑した。
「…しかし…また随分やられたな、探偵」
「ああ、治療が必要だ…」
ラッドは六堂を助手席に乗せると、振り返って室富を見て安心したようなで顔を見せた。
「いや、あなたは元気そうですね、よかった」
ラッドがそう言ったのは、車を運転出来そうでよかったという意味だ。
ラッドはジーナを乗せて、セカンドカーで来ていたため、六堂に貸した愛車を残して行くことになるかと、気にしていたのだ。
「いえね、六堂さんもジーナさんも運転が出来る体調ではなかったので、あなたが元気そうでほっとしました」
「あ?俺が運転すんの?これを?」
室富は、まさか最後に、“また”この小さい車を運転することになるとは思わず、苦笑した。




