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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第七十一話 陰ながらの助っ人

「…おっと、ほら、やはりここで正解でした、六堂さんが見えましたよ」


 ここはセントホークタワービル近くにあるビルの屋上。


 そこにいたのは、バー“スターズブルー”のオーナー兼バーテンダーのラッド。黒のロングエプロンを靡かせながら、双眼鏡を目に当てて遠くを見ている。


 そしてその側にいるのは、怪我で療養しているはずのジーナだった。


 二人は英語で会話していた。


 ラッドは、いわゆる“英国訛り”があり、“イギリス人″なのだなと思ったジーナだが、今はそんなことを気にしてる場合ではない。


 ジーナはトライポッドに装着したスナイパーライフルのスコープを覗きいた。


「どこ?」


 ジーナが尋ねると、ラッドは方向を指示した。その先を見ると、薄暗い道だが確かに六堂だと分かる姿が、ジーナにも確認出来た。


 明るい表通りの商店街から少し離れた、倉庫街寄りの道で、両手に拳銃を持っている。


――リクドウ…


 六堂の前には、黒いスーツを着た男がいる。様子から六堂が、その男を追って来たのだろうことは分かった。


「あの黒スーツの男を狙っていいかしら?」


 ジーナが、ラッドに尋ねたその時だった。

 

 ズドォンッ!


「何!?」


 突然の銃声に驚くジーナ。


 銃声はゴオオっと反響し、人気ひとけのない真夜中の商店街の空気を振動させた。


 ラッドは双眼鏡で、六堂の足元に弾丸が弾かれ火花が散る瞬間を見ていた。


 ズドォンッ!


 そしてもう一発。今度は六堂に当たったようだ。彼の手にしていた拳銃が弾け飛んだのが確認出来た。


「…なるほど、どうやら…近くに狙撃手スナイパーがいるようですね」


 建物の陰に飛び込んだ六堂と、何かを喋っている黒いスーツの男。


 身動きが取れなくなった六堂を確認し、スナイパーは明らかに彼を狙っているのだと理解したラッドは、銃声の聞こえた大まかな方角と、その付近の建物を確認し、双眼鏡でその方向を覗いた。


「…ジーナさん、ここからならスナイパーを倒せる角度だと思います。狙撃の準備をしてください」


 ラッドに言われた通りライフルの方向を変えるジーナ。


 しかし、敵スナイパーが六堂を狙えるであろう建物は絞れても、どの階にいるかが暗くて見えない。おまけに双眼鏡も、ライフルに取り付けているスコープも、ナイトビジョン用ではない。


「あそこの、ビルが分かりますか?」


「ええ…」


「スナイパーのいるビルは間違いなくあそこだ。ただ、どこの階のどの部屋にいるかが分かりません」


「どうするの?」


 ラッドは少し考える。だが悩む時間はない。


「…そうですね。私が今から銃を二発撃ちます。恐らくスナイパーはその確認のために、こちらを探すはず…その時、ネオンの明かりがスコープに反射する…その瞬間を狙って撃てますか?」


 距離、およそ600メートル。狙撃に適した距離としてはギリギリだ。そして暗い。


 しかしジーナは笑みを浮かべた。


「OK」


 一言、迷いのない彼女の返事に、ラッドは安心してズボンの後ろ挟んでいた拳銃のグリップを握った。


「では、いきますよ」


 そして、ターゲットがいると推測されるビルに向けて適当にバンッ!バンッ!と二発撃ち込んだ。


 乾いた音が反響する。


 ジーナは、目を凝らしてスコープからビルを見つめた。あちらの敵スナイパーもこちらを探してる。どちらが、先に見つけ出せるかの勝負だった。


 だが、点滅するネオンの明かりに一瞬反射したスナイパースコープを、ジーナは見逃さなかった。


――いた!十階、真ん中の部屋…


 ジーナは引き金を引いた。


 ズドオオンッ!


 ライフルの力強い反動に一瞬身体が、強く突き動かされる。


 レバーを弾き、次弾を装填するジーナ。排出された薬莢が地面に落ちると、チャリンと音を立て、静まり返った。


「……大丈夫、二発目は必要ない。命中です、お見事」


 双眼鏡で確認したラッドは親指を立ててそう言った。そしてすぐに六堂の方へと双眼鏡の向きを変える。


 こちらの銃声を聞き、六堂も黒いスーツの男も、何が起きたのかと辺りを見回してる様子だ。


「…黒いスーツの男が動揺しているところを見ると、配置させてたスナイパーは一人だけなのでしょう」


 ほっとしたラッドが双眼鏡から顔を離して振り向いた。するとジーナが脇腹を押さえてうずくまっていた。


「ちょっと、ジーナさん…大丈夫ですか?」


 ライフルの強い振動が、怪我に響いたのだ。脂汗を流しながら、親指を立てるジーナは、我慢しながらニッと笑った。


「二発目は無理だったわ、当たってよかった…」


「全く、無理するから。死なないでくださいよ」


 ラッドは再度、双眼鏡で六堂の様子を覗いたが、黒いスーツの男と銃を撃ち合っているのが確認出来た。こちらにも何発も銃声が聞こえてくる。


「ど…どうリクドウは?」


 銃声が気になり、ラッドに尋ねるジーナ。


「まあ…あの黒いスーツの男と、戦ってますよ」


「ついでに狙撃すればよかったかな?あの黒スーツ」


「いいえ、深追いはやめましょう。大丈夫、彼は簡単に死にませんよ」


「…あなた、彼をよく知っているんだね…」


「ええ、大切な常連さんですからね」


 ラッドは双眼鏡を下ろすと、地面にへたり込んでいるジーナに寄って、ポケットのハンカチで額の汗を拭いた。


「マスター…あなた何者?」


 ふうっ…と、痛みを我慢するための深呼吸をしながらジーナが尋ねると、ラッドは微笑みを見せた。


「私ですか?」


 ここにこの二人がいるのは、他でもなくジーナに頼まれたラッドが、連れて来たからだった。


 六堂と室富が、スターズブルーを出る際に、“自分も行く″と願い出たが、大怪我をしていたので当然断られた。それでも行くと粘ったが、“室富の言葉せっとく″が効き、その時は大人しく待つことにしたジーナだった。


 しかし、少ししてからのこと。ラッドが事務所の奥でガサゴソと何か取り出している音に気づいたジーナ。ベッドで横になっていたが、気になって体を起こして見ると、彼が手にしていたのはライフルケースだった。


「マスター、それ…」


「ああ、ちょっとした不法輸入品ですよ。あ!はは、ロスの刑事さんとはいえ、目の前で不法な物を見せるのは不味かったですかね」


 ケースを開けると、中に入っていたそれは、イギリス製の小型スナイパーライフル“L96AWS″だった。


 六堂が、江村からの電話で指定された住所を地図で確認したラッドは、“その場所″と、今回の元々の事件現場であるセントホークとの位置関係が気になっていた。


 気になったのは、単純にそれだけではない。セントホークで人型兵器が現れた話を聞いてたので、六堂たちが黒幕に呼ばれた場所と近いのには、何かあるのだろうと推測したのだ。


「いやね、事件当時、完全に包囲していたセントホークからは、誰一人として出てこなかったわけでしょ?じゃ、人型兵器はどこから?」


「でもムロトミはその中を逃げたし、兵器は姿を消せるんでしょ」


「室富さんは単独の殺し屋。現場の離脱、逃走はプロだ。それはあなたがよく知っているはず」


「…まあ、そうね」


「それに事件当時は雨がずっと降っていました。室富さんのビル内での兵器との戦いの話、あれが本当なら姿を消す機能は水に弱い」


「じゃあ、セントホークには誰も知らない部屋か…」


「もしくは、どこか別な出入り可能な通路があるのでしょう。私の推測が正しいとすれば、六堂さんたちが指定された場所に関係している…かもしれませんね。かも、ですが」


 ラッドは、六堂たちの後を追って役に立てることはないが、セントホーク周辺を張っていれば、何かあるいはサポート出来る可能性があるかもしれないと考えたのだ。


 そう考えたラッドは、少し離れた場所からセントホーク周辺を見渡せるビルを地図で確認し、そこに向かおうとした。


 そんな彼をジーナが呼び止めた。


「行くの?」


「ええ。ちょっと近くまで。様子を見るだけですよ。もし、何かあれば助けになるだろうし、何もなければそれで構いません」


「なら私も連れてって!」


「え?いやいや、ダメです」


 首を振るラッド。


「近くまで様子を見に行くだけなら危険はない。お願い!」


 口では“ Please″と言いながら、日本人のように両掌を合わせて懇願するジーナに、苦笑するラッドは、何度も断るも根負けし、“無茶をしない″ことを条件に、一緒に連れてきたというわけだった。


 六堂が出てきたのは偶然だったが、結果として、“指定された場所とセントホークに何かある″というラッドの推測があったからこそ、彼の危機を救えた。そしてジーナを同行させたのも、その結果に繋がったと言えた。


 しかし、ラッドのその推測する能力、所持していたライフル、そしてここでの対応を見て、ただのバー経営者でも、バーテンダーでもないことは、ジーナにはもう十分に伝わっており、彼が一体何者なのかが気になったのだった。


 ラッドは不敵な笑みを浮かべた。


「私はね…最高の訓練を受けている、女王陛下の特殊空挺部隊SASにいたんだ。アメリカでのスパイ活動がバレ、当局から追われ、密航船でここ日本まで逃亡したんです」


 そう語るラッドを見て、ジーナは間を空け怪訝な顔をした。


「…え?何、“007″?」


「あ、いえ、“あっち″ではないです。イギリスの元スパイが活躍する、違う映画作品です」


 ラッドは、ジーナの質問を映画のセリフを引用して茶化したようだった。


「はあ?ちょ…マスター、痛くて笑えないって。私、真面目に訊いたんだよ」


 苦しそうに笑うジーナ。


 いつの間にか銃声も聞こえなくなり、ラッドは立ち上がり、双眼鏡で六堂のいる場所を覗いたが、二人の姿も見える範囲になかった。


「私は、ただのバー経営者でバーテンダーですよ」

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