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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第七十話 対決、恵を殺した男

 大佐は新東京開発時の資材搬入路を抜けて、地下からセントホークタワービル内に入っていた。


 事件以降、営業は停止しており、中は無人。警備システムは復旧しているが、それが大佐に反応することはない。


 地下の資材搬入路に設けたセキュリティーは、シードカンパニーの中村が、江村の指示で請け負い組んだシステムで、セントホークと共通であり、大佐の“キーカード”は、セントホークのセキュリティシステムにもアクセス出来るのだった。


 ここまで少し急いでいた大佐だったが、扉を締め、無人のフロアに出ると、ゆっくり歩き始めた。その足音がカツ、カツと反響する。点々とライトは点いているが薄暗いビル内。


 大佐は、出入り口のあるエントランスへと歩を進めていた。


「…っ!」


 バンバーンッ!


 突然、大佐の背後から響き渡る二発の銃声。


 だが発砲より一瞬早く、“殺意”を察知した大佐は横に飛んで銃弾をかわした。


 静まり返るフロアに、もう一つの足音は聞こえてくる。


「……誰だ?六堂 伊乃か?」


 身を隠した柱に背を向け立ち上がると、大佐は尋ねた。


「…守るといった副長官の側にいなくていいのか?大佐」


 六堂の声が聞こえると、大佐は苦笑した。


「私は部隊システムの維持も最優先なのでな。それより、よくここに入って来れたな」


「ここに入れるキーカードをもらったよ」


 六堂は銃口を、大佐の隠れている柱に向けながら、ゆっくり近づきながら答えた。


「…三人しか持ってないはずだが?」


「らしいな」


「…なるほど、副社長か。奴が父親から奪った、か」


「まあ、そんなところだ」


「はっ!本当に裏切り者なのだな、庄司 弥は」


 六堂は、柱の近くまで来ると、少し離れた所で足を止めた。


 大佐が本当に志賀以上の戦闘能力だとすると、下手に近づくのは危険だ。確実に射程に捉えられる距離で、二丁の拳銃を構えた。


「…事件の翌日に現場調査で来て以来だ。まさか、あの倉庫の地下から、ここに出て来るなんて、想像もしていなかったよ」


「庄司は新東京開発に莫大な費用かけてたらしいからな、セントホークはG-weaponの社会への浸透、汎用性の研究のために用意された意味合いも大きいらしい」


「なるほど…。事件の時に、包囲した警官隊が誰も出ていくのを確認出来なかった秘密が、資材搬入路だったとは恐れ入った」


「“あの日”は私も通路には待機していた」


「知っている。志賀が言ってたよ。あの事件時、突入したSATは全滅はしてなかったって。一人…いや二人が切り抜けたそうだな。そしてその二人を殺したのは、G-weaponじゃあないってな」


「…ああ、私と志賀がとどめを刺した隊員だな。G-weaponを見て逃げられては不味いのでな…。結局は、ビルに忍び込んでいた室富に親子が助け出されてしまったがな。……おっ!」


 バンッ!


 六堂は、柱に向かって引き金を引いた。


 様子を視認するためにチラリと大佐の顔が出た瞬間を逃さず発砲したする六堂。誰もいない空間に銃声が反響する。


「おっと…危ない危ない。射撃の腕はいいようだな、六堂 伊乃」


 大佐も上着を捲り、脇のホルスターから拳銃を抜いた。


「出てこいよ。俺はお前を殺すためだけに、セントホーク事件を追ってきたんだ」


「…なるほどそうか。私が止めを刺した、益田 恵巡査だな」


「察しがいいな…」


「大切な女だったようだな。葬儀にも出ていたな。あの参列で貴様の事件を追う動機が判った」


「それで妹の方を拐ったわけだよな。それも許すつもりはない」


 鋭い眼光を放ち、六堂が引き金を引こうとした時だった。ライトの灯りと、足音が近づいてくるのに気づいた。エントランスの方からだ。


 六堂は目を大きくした。


「…!?だめだ!来るな!」


 六堂はそれが誰かすぐに分かった。


 警察官だ。ここは今でも大きな事件現場。現場保存のために、外に常時警察官が数名いるのだ。


 銃声を聞いて中に確認に来たのだろう。


 六堂が近づいて来る警察官に気を取られた一瞬、大佐はその隙を逃さなかった。


――しまっ…


 大佐は柱から物凄い速さで飛び出し、拳銃の引き金を引いた。


 バンッ!


 六堂は銃声がするより一瞬早く、身体を回転させた。飛んだきた弾丸が六堂の肩を掠めて通り抜ける。


 一回転した六堂は、銃を構えながら正面を向き、大佐に次弾を撃たれる前に反撃しようと左右の拳銃を数発交互に発砲した。


 だが大佐はもうそこにはいない。


 六堂の放った銃声が響き、静まり返ると、遠ざかる足音が聞こえた。


 大佐が放った一発は、六堂を殺すためではたく、追い詰められていた状況から脱するためだったようだ。


 遠く離れていく走る音のする方から、一発の銃声も聞こえた。大佐が、こちらに向かって来ていた警察官を撃ったのだろう。


「…くそ」


 六堂は、大佐の走り去った方へと駆け出した。


 少し先に、床に倒れている警察官がいた。胸に一発。右に持っている拳銃を左脇に挟むと、六堂は警察官の首に指を当てた。


 脈はない。既に事切れている。


 更に遠くから、銃声が数発聞こえた。


「チッ!」


 急いでエントランスへ向かうと、出入り口付近で、三名の警察官が同じように倒れていた。念のため全員脈を確認するが、生きている者はいなかった。


 すぐに追跡すると、大佐は商店街と倉庫街の間にある道を小走りで移動してるのを発見した。


「待て!大佐あっ!」


 銃口を向けて六堂が叫ぶと、大佐はピタリと止まり踵を返した。


「…よくこの道だと判ったな、江村が貴様を“嫌な野郎”だと言っていた理由がよくよく解る」


 倉庫街は今、銃撃戦の最中。そもそも現状離脱するために秘密の通路を使ったのに、また同じ場所に向かうことは考えにくい。


 そして人のいない時間とはいえ商店街側では明かりで目立つ。


 この道がベストであろうと六堂は即座に判断したのだった。


 だが振り返った大佐の態度に何か引っ掛かった六堂は、彼に近づこうとしていた足を止めた。


 “何か″あると勘がそうさせた。


 その一瞬あとのこと、ひゅんっと空を引き裂く音がし、地面から火花が散った。そして遠くから、ズドオオンッ…という銃声が遅れて聞こえた。


――狙撃手スナイパーか!


 六堂はすぐに建物の陰に隠れようとしたが、持っていた左手の拳銃に次弾が命中した。


 チュイインッと金属音が激しく鳴り、吹っ飛んだ拳銃が地面を擦りながら転がった。


 建物の陰へと飛び込んだ六堂は、自身への命中は避けたが、痺れと痛みの走った左手をぶんぶんと振った。


「…ってえ…くそ。スナイパーを用意しているのか?大佐」


「ああ、私の逃走経路を見渡せる建物に一人配置しておいた、言わば保険だ。現状離脱が必要になるとは思っていなかったが、やはり念入りな準備は大切だな」


「…必要と思っていなくても、きちんと奥の手を用意している。さすが部隊束ねる人物と言ったところか」


「お褒めいただきありがとう。さて、私は去るが、死にたくなければそこを動かにことを勧めておく。部下のスコープに貴様が入った途端に狙撃されるからな」


――…くそっ


「ああそうだ、六堂 伊乃。貴様が女の仇を打てる日はないことは教えておこう」


「…何?」


「部隊零を再編成した後、貴様を殺すために死ぬまで部下が狙う。私は姿を隠し指揮を取るだけだ。探し出すことは難しいだろう。そして部隊は、貴様が大事に守ってきたG-weaponを知った連中も消すだろう。せいぜい楽しみにしておけ」


 そんな言葉を吐き捨て、今まさに立ち去ろうとする大佐。身動き出来ない六堂は悔しそうに歯を食いしばった。


 しかし、その時だった。


 スナイパーライフルとは異なる銃声が聞こえ、大佐はその足を止めた。


 バーンッ!バーンッ!という二発の銃声。拳銃の音だ。


 そしてそのすぐ後、ズドオオンッ!という、また異なる種類の銃声が聞こえた。今度のはスナイパーライフルだ。


 しかし六堂を狙ったライフルの音とは少し違う。何より弾丸がこちらに飛んでくる様子がない。


「一体何だ?」


 大佐は腰のホルダーからハンディ型の無線を手に取り、口元に近づけた。


「大佐だ。048、何かあったのか?…応答しろ048」


 無線からはザザ、というノイズしか聴こえてこない。


 大佐の様子を見た六堂は、ゆっくりと建物の陰から身を出した。


「……よく分からないが、どうやら、保険とやらは、もう役に立たないんじゃないか?」


 身を出しても、六堂を狙っていたはずのスナイパーからの狙撃がない。


 “そんな馬鹿″な、そう思いつつも大佐は冷静に踵を返し、拳銃を構えた。


「そのようだ。貴様も奥の手を用意でもしていたか?」


 何がどうなっているのか、はっきりとは分からないが、少なくともセントホーク事件の状況を知っている誰かが助けてくれたのだろうと、六堂は考えた。


「さあ、どうかな。それより、大佐…形勢は五部五部になったな」


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