第六十八話 コンビ対陣形
大佐が攻撃を躊躇したわずかな間、六堂は日本刀を鞘から抜いた。
美しく輝くそれは、まさに“名刀”であることが伝わる。
そして重い。
六堂が刀士だった頃に使っていた刀は、鉄より軽いミスリル銀製。
鉄の日本刀を使ったことがないわけではないが、かつて愛刀だったそれとは勝手が違う。
さらに今戦う相手。
チンピラの撃つ銃弾なら、素手で倒すことも出来る六堂だが、今ここにいる八人は特殊な訓練を受けた強化兵士。銃の腕は一流。
それも囲まれたこの状況で、日本刀で打破出来るのか、六堂の中では賭けの域を超えた戦いだった。
六堂たちを囲んでいる戦闘員たちは、大佐の指示で再び銃口を向けた。
“迷う”ことは、それだけ不利になると思った六堂は、同時に会議テーブルの外に飛び出たのだった。
八人の戦闘員が、六堂に照準を合わせて引き金を一斉に引いた。
ダダダッという激しい銃声が鳴り響く。六堂はわずかに向けられる銃口よりも早く、弾丸の軌道より逸れた位置に全力で撹乱移動する。
銃を装備して円形を組んでいる場合、兵士ははっきりした目標がその場に止まっていない時には互いに同士討ちを避けるために、全員が同じタイミングで発砲することはない。いわゆるフレンドリーファイアを避けるためだ。
六堂はその隙を作るために、的を絞らせないよう、超速で囲んでいる陣形の一角に真っ直ぐ飛んだ。
それでも移動する正面側の戦闘員たちの弾丸は真っ直ぐ飛んで来る。
弾は、六堂の顔を掠り、肩を掠り、太腿を掠った。
「くっ!」
だが六堂と時間差で会議テーブルからは室富が飛び出していた。
六堂より高く飛んだ室富は、さっき戦闘員たちの止めを刺すのに使った拳銃を使い、六堂の正面側にいる三人に向かって上から発砲した。
バンッ!バンッ!バンッ!
射撃をするには不安定な宙空から、見事に三人の戦闘員に命中させる室富。
ボディーアーマーを着ているとは言え、円形の一角に隙が出来、六堂はそこに向かって日本刀を振り翳した飛び込んだ。
そして正面の戦闘員を斬り込んだ。
「ぐわああああっ」
ボディーアーマーごと斬られた戦闘員は悲鳴を上げ、上半身からは血が噴き出した。
しかし六堂がその返り血を浴びることなく、斬り終えた瞬間には、その戦闘員を通り過ぎ、円形の外側に飛び出ていた。
囲まれていた外に出た六堂は、狙い撃ちされないよう、まさに円を描くように素早く移動し始めた。
同時に床に着地した室富は拳銃を戦闘員に向けて次々打っていく。一人一発ずつ、見事な早撃ちだ。
戦闘員たちの陣形は完全に崩れた。内側の室富を撃つか、外側の六堂を撃つかで、攻撃にバラつきが出たのだ。
六堂は室富の弾を喰らい隙の出来た戦闘員から次々斬っていった。
そしてあっという間に最後の八人目を倒す二人。
室富はその勢いのまま、少し離れた場所に立っている大佐に向かって拳銃を発砲した。
ババンッ!!
銃声のあと、室富に持つ拳銃は、弾が切れ。スライドが後退したまま、ロックした。
大佐は飛んで来る弾丸の軌道の外側に避けた。
しかし、八人の部下が、あっという間にやられたことに少なからず動揺しているようだった。それもたった二人、手にしている武器は一人は日本刀、一人は拳銃という、信じられない光景だ。
「ば…バカな。イラク、アフガニスタンと、戦場経験も豊富な猛者たちだぞ」
一方、会議テーブルの反対側に立つ、涼子と今野。
「…なかなか騒がしいわね。何だか、あなたのご自慢の兵士たちがやられちゃってるように見えるけど」
涼子は変わらず、笑みながら剣を構えている。
「…そうだな。もはや、想定内とは言えまい。だが…、それは貴様の存在あってのこと」
今野は上着を脱ぎ捨て、ネクタイを外した。その様子を見た涼子は、首を傾げた。
「まさかとは思うけど、あなた…私と戦う気?」
「出来れば…戦いたくはないがな」
「待って待って…あなた技術者でしょ?いや、政府の人間か…どっちにしても、戦闘するとか、ないでしょ」
今野はベンチーニのカフスボタンと、ローレックスの腕時計を外した。
「治める者、支配する者は、強くなくてはならない。私は二度と同じ過ちを繰り返すまいと、過去の記憶から学んでいる」
ニヤリと笑ったかと思うと、突然今野の身体が緑に光出した。




