表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
71/96

第六十七話 戦闘、再開


 まるで長い間、時が止まったように、この倉庫地下の会議部屋で語られた今野の話。


 皆静かに聞いてはいたが、部屋にいる者たちにその内容は理解し難く、まるで“おとぎ話”を聞いているような感覚だった。


 大佐も戦闘員も、今野の日本を支配下に治めんとする“計画”については知ってはいたものの、古代人との融合ことは初めて聞いたことであった。 


 古代文明について“辛うじて認識のあった”六堂は、何となく理解しながら聞いていたが、それでも現実の話としては信じ難いといった心境である。


 ただ一人、涼子だけは真剣に今野の話に耳を傾けていた。


 それはそのはずだ。彼女は古代文明を知っているのだから。


 ただ、彼女の知っていることはそう多くはない。それ故に今野の話は実に興味深いものだった。


「なるほど。話はよく分かりました、副長官。でも、“皮肉”よね」


 微笑んだ涼子を見て、今野は怪訝な顔をする。


「皮肉?」


「ええ。融合後、スフォーニア国の発掘現場にいた研究調査チームのメンバーと関係者は、恐らく全員集めて事故に見せかけた、“口封じ”したわけでしょ」


「…ああ、そうだ。話があると、発掘した地下に集め、ダイナマイトの誤爆だと思わせるよう、ドカン…とね」


 両手で爆発を表現する今野は、ドス黒い笑顔を見せた。


「…今更だけど、“そこまで”する必要あったのかしら?」


「古代文明のことを狂信的に信じてる連中だったからな、箱のことも、中身のことも知った時点で全員を生かしおくわけにはいかないと、私は判断した」


「短絡的ね」


「そうでもないさ。きちんと考えてやったことだ。“国取り”という一大計画を成し得るには、秘密を知る者は消すに限るとね。それにあの連中は生きていたところで、私の役には立たない者ばかりだったしな。しかし…」


 今野は笑うのをやめ、少し不快な顔をしてみせた。それに気づく涼子は苦笑した。


「…一人、生きてたわけでしょ?私が“皮肉”と言ったのは、そのことよ」


「…ああ、なるほど。あれは、桜庭のアシスタントで…子安と言ったかな。即死を免れ、虫の息だったが、ゴシップ記事を盛り上げる“一言”を残して逝ったのだ…」


「“その記事”が、十三年越しのダイイングメッセージになったなんて、“皮肉”以外の何でもないわ。それを私たちが受け取った、なかなかドラマチックじゃないかしら。あなたがセントホーク事件に関わる一連の首謀者として浮上する切っ掛けになったんだから」


 涼子が肩を竦めてそう言うと、今野は笑いながらため息をついた。


「関係ない」


「…あら、どういうこと?」


「結局は君らをここで始末すれば、計画は揺るぎないものになる」


「ああ、そう…」


 涼子は腰に手を当て、呆れ顔でため息をついた。


「…今日に至るまで、それなりに苦労してきたからな。探偵?殺し屋?警察?そんな程度の連中に邪魔されることはない。G-weaponを知る他の連中も全員見つけ出し、殺す。部隊零の総力を上げれば造作もないことだからな」


 自身満々にそう宣言する今野に、涼子は首を振った。


「それは私が“何者”か、聞いてから言った方がいいわよ」


「…ほう、ようやく…話す気になったか?」


 涼子は左手を前にスッと伸ばした。


「いいえ、あなたの話のお陰で、私から話すことはなくなったわ」


 涼子の返答が理解出来ない今野は、不快な顔をした。


「…どういう意味だ?また語らぬ気か?」


「どうして私が、古代文明について知っているか、それを聞きたいんでしょ?」


「そうだ。私は君の望み通り全てを話した。だから君も話したまえ!」


「…うるさいわね、大声出しちゃって。“これ”を見れば、十分なはずよ」


 前に伸ばした左手を開くと、突然だった。


 何もない宙空から緑の光が放たれた。そして、その光の中に手を入れる涼子。


「その光は…!?」


 今野は、この緑の光を知っている。


 今ここにいる誰よりも知っている。


 その光こそ、インダストクリュスタスが放つ聖なるエネルギーだからだ。


 涼子は光の中で何かを握り、下にゆっくりと引っ張った。


「さあて、何が…出てきますかね」


 微笑む涼子。


 光の中から出てきたのは、剣。


 大きく、そして漆黒に輝く、剣だ。


 剣が完全に姿を見せると、宙空の光は消えた。


 





「……ば、馬鹿なっっ !!!」







 ベルダの記憶に強く刻まれているその剣に、今野は目を大きく広げて驚愕した。


 六堂を除く、全ての者たちが、この光景を見てただ驚くばかりだった。今まさに“今野の話に出てきた物”とイメージが一致する、それを、涼子が手にしているのだから当然だ。


「おい、探偵、あの剣…、今あのラスボスの話の中に出てきたやつじゃないのか?」


 室富は、黒眼鏡を下げ、涼子の取り出した剣を見つめながら六堂に尋ねた。


「ああ、“ウェポンズ・ブレイカー”だ。久しぶりに見たよ」


 六堂が前に“ウェポンズ・ブレイカー”を見たのは二年は前になる。


「お前、剣のこと知っていたのか?ってことは、ラスボスの話をちゃんと理解していたのか?」


「…何となく程度にはな」



 しかし剣を目にし、誰よりも、信じられずにいたのは今野だった。


「ふざけるな!“ウェポンズ・ブレイカー”だと!あるわけがない!あるわけがない!あるわけがない!」


 今野は興奮し叫んだ。


「いいえ、ここにこうしてあるのよ」


「いや!ありえん!あったとして、それを扱えるのは…」


 剣を構えた涼子の瞳が一瞬、悪魔的に黒くなったのを見逃さなかった今野は、血の気が引くのを感じた。その瞳をよく知っているからだ。


 ベルダの記憶に刻まれた、恐ろしい戦士の瞳。


「扱えるのは?」


 言葉が詰まった今野に、涼子は尋ねた。


「…ま、まさか、そんな…シャドーウォリアー」


「そう。だから説明、いらないでしょ」


 今野は整えた髪が乱れるほどに、ぶんぶんっと首を振った。


「貴様は現代人だ!シャドーウォリアーになれるわけがない!あれはシャドーメモリーズが必要だ!シャドーメモリーズがあったとして、古代人に合わせて作られたあれが適合するなど…」


「知らないわ、私だって望んでなったわけじゃないもの。あなたの話に出てきた、エゼル…恐らくその人が、残したシャドーメモリーズと、融合しちゃったんだから。それも、古代兵器の破壊をプログラムをしたものをね」


「何…だと?」


「さっき言ったわよね。十三個の兵器を、まだ未開だった世界の方々に飛ばしたって」


「…ああ」


「私が取り込んだシャドーメモリーズには、十三個の兵器の破壊がプログラムされている。つまり、飛んでいく兵器を、エゼルは見ていたってことね。それがどんな物かは明確には記録されいなかったけれど、見れば分かるように飛んで行った兵器のビジョンが記録されているの。あなたの話を聞いて、ああなるほどねと思ったわ」


「くそくそ、エゼルめ!それに何だ!一体、どこから剣を取り出した!?」


 あまりに動揺している今野に、涼子は苦笑しながら仕方なく“亜空間ポケット”について簡単に説明をした。


 シャドーメモリーズの開発者が作ったシステムであること。そしてシャドーメモリーズが保管されていた大きなポケットも存在していることも。


 今野は、ベルダの言葉“エゼルは我々の考える次元を常に超越していた”というのを改めて思い出していた。


「そんな、今、この時代の、この文明の支配をも、彼女エゼルは許さぬというのか!?」


「さあね、私はあなたのように記憶があるわけじゃないから、エゼルの意思なんて知らないわ。開発者がエゼルという名の女性というのも、今日初めて知った。メモリーズに刻まれている記録をビジョンで見ているに過ぎないから、あなたの話は本当に興味深かったわ」


 そう言うと、涼子は“ウェポンズ・ブレイカー”の切っ先を今野に向けた。


「今野副長官、申し訳ないけど、私はあなたを抹消します」


「何だと!?」


「G-weaponは確かに既存技術ではないけれど、それでも古代兵器そのものではない。古代兵器は、あなたと融合した“ベルダの意思と記憶”。かつて、世界に解き放った十三個の兵器の中に、ベルダのそれがあった。それにどうやら、あなたを消せばG-weaponは動かなくなるみたいだし、融合を切り離せるなら、命は助けるけどね」


「私の思念を断ち切るということか。確かにな…」


「あ!そうだ、“思念で動かす”ってシステムについて訊くの忘れちゃった。始末する直前だけど、そのことも説明してもらっていいかしら?」


 涼子がそう言うと、酷く怯えていた今野は何故か冷静さを取り戻した。


「…なるほど、思念のこと知らぬのか。理由は解らぬが、シャドーメモリーズに適合したものの…君は所詮は現代人ということだな」


「なあに、その顔、気に入らないわね。急に余裕出てきた?」


「ああ、どうやら勝機はありそうだ」


「…あら、そう」





 二人の様子を見ていた六堂は、小さな声で室富と美雪に話を掛けた。


「おい…室富、そろそろ準備しておけよ」


「準備って?」


「涼子さんに部隊零のことは伝えていた。だから単身で乗り込むとは考えにくい」


「何だそれ、騎兵隊おうえんでも来るってか?」


「…ああ、きっと来る。美雪、もし何か起きても目を瞑ってこの室富ひとから離れるなよ」


 美雪はこくりと頷いた。


 大佐は、今野の命令を待たずして、六堂たちの処刑を実行すべきだと考えていた。しかし腰に着けているハンディ型無線に、上にいる戦闘員からの連絡が入る。


『大佐!!』


 ザザッととても聴き取りにくいノイズ混じりの声。その原因は、銃声が混じっているからだと察する大佐は、ホルダーから無線を手にした。


「どうした?」


『警察です!』


「警察…?」


『はい、完全武装した警察官十三名の奇襲です!今攻撃を受けています!』


 大佐はため息をついた。


 すると側にいた戦闘員が携帯電話を片手に、大佐に何かを伝えようとしてきた。それに気づいた大佐は、無線に「少し待て」と言った。


「大佐、無線応答中に申し訳ございません」


「要点だけを言え」


「情報部からの連絡で、今、警視庁からSITの出動が異例の速さで受理。こちらへ向かう準備が進められているという内容を傍受したそうです」


「何!?」


 大佐はその報告を聞くなり、無線で「今増援を送る」と伝えた。


 そして今ここにいる戦闘員の半分を、上で行われている銃撃戦の増援に向かうよう命令を出した。


 


「ほらな」


 微笑む六堂。読みは当たった。


「笑っている場合かよ。まだ結構な数の兵士が残っているぞ」


 室富が小声でそう言うと、六堂は囲んでいる戦闘員たちに見えないよう三本指を立てた。


「…!」


 その指に気づいた室富は、彼が今から行動を起こすカウントダウンであることを察した。


 指を二本…、一本と折っていく。そして、〇本。六堂の手が握られ拳になった瞬間だった。


 物凄い速さで回転する六堂。


 しかし彼の一番近く、背後にいた戦闘員はその動きを見逃すことはなかった。容赦無く構えているマシンガンの引き金を引いたのだ。


 ダダダダッ!!!


 激しい銃声に、目を瞑る美雪。


 だが弾丸は、六堂をすり抜け、反対側の戦闘員にヒットした。


「な…!しまった!」


 思わず叫ぶ、引き金を引いた戦闘員。六堂は回転と同時に、その戦闘員の銃口の向きをほんの少しずらしたのだ。


 六堂が何かを仕掛けてくることには集中して警戒していた背後の戦闘員。強化兵士として鍛え上げられた反射神経は、六堂の動作に十分に対応出来ていた。だが六堂の初動は、あくまで銃口の向きを変えることだった。


 六堂は更に追撃した。射殺に失敗した戦闘員との間合いを一気に詰め、銃口より内側に入ると、顎目掛けて肘を打ち上げたのだ。


 頭部が反対側に仰け反った戦闘員の背後を一瞬で取り、手にしていたマシンガンを一気に囲んでいる戦闘員に向けて乱射した。


 室富は美雪の頭を押さえて素早く屈む。


 戦闘員たちは慌てて応戦するも、六堂は一人の戦闘員を盾にしているので、弾丸がヒットせず、一方的にやられていった。


「立て室富!こいつらボディーアーマーを着ている!」


 六堂は叫んだ。


 そう、六堂が見事な速技で、マシンガンを放っても、倒れた戦闘員たちは死んではいない。


 叫ぶ声に瞬時に反応し、室富は倒れている戦闘員の内の一人から、拳銃を抜き取った。そして目にも止まらぬ早打ちで、倒れている全員の頭部目掛けて発砲していった。あまりの速さに、六堂も驚くほどだった。


 六人の戦闘員に完全に囲まれていた六堂と室富が、全員を倒して退けるまでに掛かった時間は十秒にも満たなかった。


 まさにあっという間のことであった。


 増援の指示に意識がいっていた大佐は、その様子を見て憤慨し、部屋に残っている戦闘員に、六堂と室富の射殺命令を出した。


「やべえ!!」


 六堂は抱きかかえていた戦闘員を手放し、会議テーブルに飛び込んだ。


 同時に室富も美雪を抱きかかえて、同じテーブルに飛び込んだ。


 残っている戦闘員、八名による集中砲火だ。


「おい、探偵、この娘忘れて一人で隠れるとか、あるかよ!」


 銃弾が雨のように飛んでくる中、室富は六堂に叫んだ。


「言ったろうが!あんたが美雪を放っておくとは俺は思ってないって!」


「はあっ?」


「俺は兵士の一人を抱きかかえてたんだぞ、あんたの方が美雪を助けやすかっただろ」


「だから俺は関係ないと…」


「いいから、この状況、何とかすること考えろ室富!」


 六堂はそう言うものの、マシンガンの勢いはどんどんと増していく。


 会議テーブルを包囲した戦闘員たちが発砲を繰り返しながら、ゆっくり距離を詰めていっているからだ。


「くそ、このままじゃやられる」


 室富は叫んだ。


 

 


 その時だった。



 

 会議の参加者たちを非難させた隣のウェイティングルームの扉が勢いよく開いた。


「お、おい、貴様何を!」


 開いた扉の向こうからそう叫んだのは、社長の順之介。そして扉を開けたのは、副社長の弥だった。


 弥は、何かを抱えて銃弾の飛び交う中に向かって駆け出した。


「発砲やめ!発砲やめいっ!」


 弥は計画の重要メンバー。大佐は大声でそう指示した。しかし…


「いいや大佐!そのバカ息子は裏切り者だ!構わんから撃てえええっ!」


 弥の父、順之介はそう叫んだ。


 これには大佐もさすがに困惑した。


「いいから殺せ!命令だ!」


 庄司エンタープライズの社長の指示も、聞くように今野から許可はもらっているが、重役の中でも上の地位にいる副社長を射殺しろというのは、理由も聞かずには出来なかった。


 弥はその隙を逃さず、一気に会議テーブルに駆け寄り、内側に飛び込んだ。


「ふ、副社長!?正体がバレては…」


 突然のことに、六堂も理解が出来ず、唖然とした。


 肩で息をしながら、微笑みを見せた。


「さっき親父にカミングアウトしたんだよ」


「え!?」


「ここでの話は聞いていた。今野の持つ脅威的な知識の正体、そしてあそこの女性刑事さんのこと…、私は悟った。全ては今夜で終わりだとね。そうでなければ、どの道この国に明日はない」


 そう言い、抱え持っていた日本刀を六堂に差し出した。


「これは?」


「すまない、本当は銃の一つでも隠し持って、いざという時に君に渡せたらと思ったが…。会議の参加者は武器の傾向を許可されていなかった。しかし、この倉庫は親父のコレクションが沢山眠っていてね。さっきの高級ワインもその一つだ。そして隣の部屋に飾ってあったこれを…持ち出した」


 立派な鞘と柄。値打ち物であることはすぐに解った。


「…“我妻龍徹あがつまりゅうてつ”です」


 弥は刀の名を言うと、六堂は驚いた。


「名刀だ!本物…ですか?」


「ええ、親父は偽物は嫌いですから」


 こんな時に冗談なのか、弥の言葉に、六堂は思わず苦笑した。


 弥は、きっと明日美から“蒼光”は刀士という話を聞いたのだろうと。しかし残念ながら、六堂はもう刀士の技法は使えない。


 それでも我妻龍徹これで何とか出来ると、弥は希望を持って命を賭けて持ってきてくれたのだろうと考えた。


「…あなたの御行為を無駄にするわけにもいかないか、明日美さんのためにも」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ