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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第六十六話 国取り計画

「私は…その場で、ベルダと融合した…」


 “融合”の気分というのが、何とも表現し難い“心地よさ”だと今野は語った。


「ベルダの言う“進化”、まさにその素晴らしさを知った。自分というものを失うことに恐怖していたことが馬鹿げていたと思ったよ」


 今野とベルダ、融合していく二つの意識からの感覚は、それぞれ異なっていた。


 “今野 秀麿”からしてみれば、溢れんばかりの高度な知識と、誰も知ることなのない文明の記憶が入り込むことは、苦しさよりも快感だったということ。


 融合が進むに連れ、現代人がどんどん自分より遥か下に見えるようになり、神にでもなったかのような高揚感を覚えたのだそうだった。


 “ベルダの意思と記憶”からしてみれば、西暦1986年はまだ自分の思う文明に達してはいないものの、新たな兵器を開発するには十分な発展を遂げていると言えた。


 加えて今野家が思いの他、力のある家であることに満足をしたのだという。


 資産は勿論、祖父の作り上げた“部隊零”という、戦後から秘密裏に作られた軍システムをも自由に使えるというのは、“国取り”を実行するにあたり、本当に好条件と言えた。


「部隊零は、汚れ仕事をするのに重宝した。おまけに政府から忘れられた機関故に、まさに自分の手足として使えたからな」


 そしてまずは自身の政界への進出。


 これまで興味のなかった親の政財界への交流に、積極的に参加していった。


「両親は、突然どうしたのかと、目を丸くしていたがね」


 “国取り”計画の皮切りに、上手く、巧妙に、確実に日本政府に入り込んだ今野。


 同時に電子工学や原子力工学等についての学習もしたという。


 涼子はそれを聞き驚いた。


「あなた自身が?一から電子や原子力の専門分野について勉強したの?」


「当然だろ。“ベルダの知識”が、そのまま現代の科学技術に転用出来るわけではなかったからな」


 今野の返答を聞き、涼子は頷いた。


「…そう、そうか。なるほどね。融合で得た知識を、現在する物質や技術に合わせて消化していく必要があった、そういうことね」


 しかし、家柄のいい息子とは言え、政界進出も片手間で出来ることではない。その中で専門分野を複数勉強したというのは、とんでもないことで、涼子は感心した。


「その通りだ。幸い、体内に入ったスペスメモリアのお陰か、融合後は記憶力がアップしてね、“お勉強”は何時間でも出来たんだ」


 今野は新たに学んだ知識を元に、ベルダが古代文明時に開発したというゴーレムに代わる兵器の研究を進め、自らG-weaponの設計図を完成させたという。


 古代文明時、他にも兵器の開発をしていたベルダだが、日本の社会の構造と、東京を抑えるという計画性から、人型のゴーレムが適正だと判断したのだった。そして形状はゴーレムよりスマートに、人に近い形を目指した姿が、G-weaponのそれだということらしい。


「G-weaponは、“サイボーグ”や“ロボット”という低次元の物とは違う。体を構成している部品の数、密度、それはもう生物と言っても過言ではないレベルだ。金属で造られた生命体とでも言えばいいかな?」


「随分と…大げさな表現ね。技術が高度とはいえ、メカでしょ?」


「大げさ?メカ?いいや…そんなことはない。もうG-weaponの“動き”は見ただろう。ほぼ生物だ。人の賑わう休日のセントホークを試験的に何度も歩かせたが、それが人間でないとバレることはなかった」


 確かにそう。今野の言う通り、G-weaponの動きは生物レベルにあった。機械というにはあまりに高性能と言えた。


「“生命体”というのは、単なる比喩ではなく、また性能的なことだけでもなく、概念そのものが“機械”とは違うということを指している」


「どういうことかしら?」


「G-weaponの身体は“永久機関”なんだよ」


 機械というのは、それが高性能であっても部品は磨耗し、どこからかガタ来ていつかは故障する。そうならないためにメンテナンスを必要とするが、それでも壊れるまでの寿命を延ばすだけである。


 ところがG-weaponは、体内で生き物と同じように、劣化している部分は修復し、人間が常に細胞の再生を繰り返すのと同じ作用を持つ。今野はそんな説明をした。


「そんなことが…」


「可能だ…勿論、それがまさに古代文明の技術を応用した、今の時代の出来るこことに消化した結果だ。現代人に理解は遠く及ばないだろう」


 今野は自慢げな表情で語った。だが、すぐに真顔に戻り、「…しかし」と説明を続ける。


「…しかしそれだけでは“半永久”機関といったところだった。そこで、私の設計に加えて、庄司エンタープライズの持つナノ技術テクノロジーが役に立つことになった」


「…まさかナノマシン!?あれを実用化したの?」


「そう、よく知っているじゃないか」


「ええ、まあ…」


「君の言う通り、庄司エンタープライズが医療部門で開発していたナノマシンに、私は目をつけた」


 庄司エンタープライズは、もともと防衛庁から仕事を受注する企業、今野との繋がりは深かった。


 ナノマシンは医療部門の研究開発だったが、今野はぜひその内容を知りたいと、社長である庄司 順之介に連絡を取ったのだという。


「分かるかね?」


 今野は自分を守らせているG-weaponを指差した。


「さっき、室富君に撃たれた弾痕、まだ跡は残っているが、殆ど修復している。これこそナノマシンの力だ」


 ナノマシンに、G-weaponの構造をプログラムさせ、故障時には即時再生修復するようになっているという説明に、まさに古代文明と現代技術のハイブリッド兵器であると、涼子は感じた。


 片腕のG-weaponに目をやると、六堂に斬り落とされた断面が、中身がむき出しではなく、まるで皮膚が覆うような形になっていることが分かる。それもナノマシンの力なのだろう。


 今野がHuge S&Tを始め、他の高い技術持ったどの企業でもなく、庄司エンタープライズを選んだの他でもなく、そのナノ技術がかなり先んじて完成の域に達していることが、大きな理由だった。


 そしてもう一つは、社長だと今野は語った。


「庄司の社長、彼はとても支配的な人間でね、話はナノマシンの件では尽きなかった」


「…あら、社長さんを仲間に、スカウトでもした?」


「そんなところだ。国会は永田町にある“あの建物”でなく、“自身のビル”にしたいくらいだと言っていたよ。彼は、腐った現政府への強い批判を持っていた」


「…庄司エンタープライズほどの力があれば、政府への影響力も相当なものでしょう。権力だって凄いはず。政府を批判する意味が解らないわ。癒着の関係はあったでしょ」


「確かに影響力は大きく、癒着の関係はあった。組織票、政治献金等、他の企業には真似できない量をプレゼントしていたよ、庄司は。だがね、他の企業がやっていて、庄司がやっていないこともあった」


「…へえ、何かしら?」


「引退後や、まさかの落選後のクッション、政治家の天下り先の用意だ。テロへの資金援助も、兵器売買など、非合法なこともやっているが、それでも政治家の天下り先だけは用意していない」


「それは、なぜ?」


「簡単だ、欲しいのは理想的な国づくり。今の政治家など大企業にしがみつき、国を切り売りする程度のゴミだからだ。そんな奴らに用意するおまけのポストなど一つもないということだ」


「それでも、庄司は政府との癒着をやめなかった、不思議ね」


「勿論、影響力は必要だ。政府あっての企業という部分も、この国の構造上あるらな」


「不満抱えてるなら自分が政治家になればよかったのに、社長さん」


「社長自身が、国政の出馬に打って出なかったのは、政府の闇のルールという大きな歯車を変えることは、一人ではできないと悟っていたからだ」


 涼子は、何か悟ったように数回頷いた。


「…そこに副長官、あなたが国取りの話を持ってきたわけね」


「察しがいいな。その通り。彼には古代文明の話をしたよ。最初はまったく理解してくれなかったが、ゆっくり時間をかけ、私の作り上げた設計図と、計画をね」


 そして庄司エンタープライズ内の役員と、社と繋がりの深い、政界に影響力のある財界の大物を招集し、“国取り”の計画を持ちかけたという。


 話を知った以上、計画に反対した者は消し、賛同する者たちを後のこの国の運営に携わるメンバーとして、“裏政治家”と呼称し、計画の核として動いてもらっていたのが、ここのテーブルに座っていた者たちだった。


 その説明を聞いた六堂は、今野に「ちょっと待て」と大声で言った。


 振り返る今野は、怪訝な顔をする。


「何だね、探偵君」


「そのメンバーに、役員でも財界の大物でもない奴もいるよな?一人はあんたの元秘書だ。それはいい。企画六課の掌握と、防衛庁との繋がりのために送られた人物だろうからな。“江村”、あいつは何だ?ただの運営部長だろ」


「奴は庄司社長の甥っ子だ。妻の方の家のな」


 面倒臭そうに簡単に答えた今野。


 六堂は(コネ入社のボンボンか)と、思わず吹き出すも、納得した。


 話が丁度折れたところで、涼子は両手のひらを前に出した。


「その壮大な国取り計画についてはもう結構です。続きの内容は大体の想像がつく…」


「……そうか」


「どちらかというと、私の興味は、G-weaponそのもの。あれの動力は何?インダストクリュスタス、あれは存在しない。まさか電池やガソリンってわけじゃあないでしょ?」


「核エネルギーだ」


「核?原子力なの!?」


 少し動揺を見せた涼子に、今野は思わず笑った。


「大丈夫、放射能の心配をしているのだろう?私は原子力工学も徹底的に学習した。その上で開発した“ニュークリアーバッテリー”は、小指の先ほどの大きさもなく、そして放射能問題を完全に解決した」


「…嘘でしょ?」


「何故嘘をつく必要がある?私自身を危険に晒す物を造って何になる?仮に、その問題を解決していなかったとしても、バッテリーはあまりに小さく、ごく微量の放射能しか漏れない程度のサイズだよ」


 現代人は、インダストクリュスタスの代わりになるであろう核エネルギーという素晴らしいものを持っていながら、その制御がまったく出来ていないことに、今野は嘲笑った。


 化石燃料に比べ、生み出すエネルギーが比べものにならないことやコストだけを考え、放射性物質の脅威を解決していないまま使っている現代人は、いつか取り返しのないことになるだろうと。


「…ちなみに、原発は危険と政府は知っている。だが、危険性よりも自分の議席、バッジを優先する輩が、癒着のために動かし続けていることを、多くの国民は知るまい。少なくとも、私がこの国を支配した際にな、より安全で大量にエネルギーを作り出せる機関を設立してみせるつもりだ」


 この発言に、少し不思議に思う涼子。今の発言自体は、決して悪いことのようには聞こえなかった。


「…動力は解ったわ。それじゃあ、あの透過ステルス機能は…?あれも核エネルギーで?」


光学迷彩パースパケフェイル、ゴーレムの持つ機能だった。残念ながら、限りなく近いものは開発出来たが、使用する核ニュークリアーバッテリーから発する電気エネルギーは水に弱く、完璧なものとはいかなかった。しかし、G-weaponの強さはそれではない。光学迷彩パースパケフェイルは必要な時に使えればいい」


 涼子は間を空け、フッと笑うと小さな声で呟いた。


「…そう、そっか。さて、話はもういいかな」


「何?」


「大体のことは、分かったから…」

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