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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第六十五話 気がつくと…


 光に包まれたその後のことは、ベルダにも分からない。


 本人が消滅を招いた光の中にいたのだから当然だ。


 消滅から今日に至るまで、多くの謎を残している。


 ベルダの言った通り、現代人は古代人の造った生物の進化系なのだとしたら、どうやってその時の消滅を免れたのか?


 古代人が使っていた魔法は、今もどうして残っているのか?


 しかし、知る術はないだろう。


 可能性の一つとして、古代人の中にも、未開の地へと冒険に出ていた者もいたという。その殆どが帰ってくることはなかったが、文明の消滅を免れた者がいた可能性は0ではないとのことだった。


 それと、ベルダ自身も未確認ではあるが、エゼルは“ノア”というシステムを研究していたらしいことは分かっていた。


 今野の知識を確認したベルダは、旧約聖書に出てくる箱船が、それに関わっているのではと考えた。


「エゼルは我々の考える次元を常に超越していた。君らの知る伝説に何らかの影響を残していたとしても、不思議ではない」


 ベルダの言う通り、エゼルは常に先を行く研究開発を行なっていた。


 また、“新たな兵器は造らない”としつつ、インダストクリュスタスと、古代文明においても“神の金属”として入手困難だったオリハルコンを合成させた“ウェポンズ・ブレイカー”の開発をしていことも、支配者たちを恐怖に陥れた理由の一つだった。


「ウェポンズ・ブレイカー?」


「対破壊兵器のために造られた、剣だ。別名、オリハルコンブレードとも呼ばれていたが、オリハルコンの入手さえ困難だったのに、エゼルの研究はその加工技術まで達していた」


「剣?…シャドーウォリアーたちが手にしていた、あの剣か」


 今野の問いにベルダは頷いた。


 緑に発光する、漆黒の剣。ビジョンで見ただけでも、とても印象に残る剣だった。


 普通の剣としても勿論使えるのだが、特殊な性質として、インダストクリュスタスを使う破壊兵器にのみ、攻撃的な反応をするというのだ。


 また、“シャドーメモリーズにリンク”して初めて扱うことが出来るようになっており、つまりはシャドーウォリアー以外は、鞘から抜くことはおろか、持って運ぶことすら出来ないのだという。


「あの剣こそ、シャドーウォリアーの象徴的な存在だった。エゼルの探究心、知識、技術、才能が、民についた時点で、我々の敗北は決まっていたのかもしれない」


 しかし、支配欲に取り憑かれた権力者は、長年の特権階級の暮らしを捨てるなど考えることが出来なかったという。

 

 文明が滅び行く、その少し前のこと……、シャドーウォリアーの攻撃が差し迫る中、支配者の所有する兵器の幾つかが、まだ未開の地である世界の方々に飛んでいった。


 それは、いつの日かまた支配をする立場に返り咲くことを願った、追い詰められた権力者たちの悪あがきであったらしい。


「兵器は十三個…その時に、私を含む、まだ生きていた支配者十三人が飛ばした兵器の数だ。だが、皆死んだ…文明と共にね」


 ベルダは人差し指を自分の頭に当てた。


「私が…いや、ベルダが飛ばした兵器は、この記憶だがね」


 ベルダは言った。“私こそ兵器”だと。


 再び、世界を支配するのは物理的な破壊兵器ではない。それを造った知識と、国を統治した記憶、そしてまた支配者になりたいという意志だと。


「だからベルダは、自分の記憶と意志をコピーしたのだ…、スペスメモリアに。他の支配者は、長らく権力の座にいたため、頭が回らなかったのだろう。最終的に必要なのは、自身の能力。物理的兵器はまた造ればいいという、考えには至らなかったのだ」


「…それで、どうやって君は再び支配者になるというのだ?」


 今野は、最もな質問をぶつけた。


「…スペスメモリアは、人と融合することが出来る」


「ゆ、融合?」


「そうだ。記憶と意志だけでは意味があるまい。人と融合するための、有機体とそれを腐らせず保つために、インダストクリュスタスで構成された箱で保管してきたのだ」


 大昔、スペスメモリアを発見し

偶然にも箱を開け、融合した人間がいたが、文明は恐ろしく原始的だった。


 それがここ、後のスフォーニア国だという。


 ベルダは、まだまだ原始的な文明の中において、一人で際立った頭脳で可能な限りの神がかった文化を作り出した。その痕跡が、スフォーニアの巨石文化だった。


 いつか文明がまた発展した世界で、支配者として生きるため、遺跡となるであろう部屋を作り、スペスメモリアを箱に戻して長い眠りについたという…。


「そして時を経て、今、私が…いや、私が出資している研究調査チームが、掘り起こしたのか…ベルダ、君を」


「そのようだ」


「しかし…そこまでして今尚、世界を支配したいのか?」


「オリジナルのベルダの気持ちは分からない。私は、その時の意志をコピーしたに過ぎないのだから」


「…私に求めているのか?その融合をか?」


「…君の前、桜庭という男はスペスメモリアに対して拒絶反応を示したが今野 秀麿、君は今こうして私と会話をすることが出来ている。それも私の声に誘われるように、スペスメモリアに触れた。性質的に相性がいいのだろう」


「相性…か」


「スペスメモリアは、あくまで古代人われわれの身体に合わせて開発した物。君ら現代人の身体にどこまで合うかは、分からない。下手をしたら死に至る。しかし、君は何らかの偶然か適応するようだな」


「…私と融合するのか?だとして、君と融合することに、何か私の得るメリットはあるのか?そもそも融合したことで、君の記憶と意志が入り込む…、すると私自身はどうなる?私という一人の人格…いや、存在そのものは」


「どうもしない。融合すれば、それはもう別な存在となる。ベルダでありベルダでない。今野 秀麿であって今野 秀麿ではない…」


 今野は、自分でなくなることに恐ろしさを感じた。


「それでは、今の私が死ぬようなものではないか…」


「それは短絡的な見方だ。進化だとは思わないか?」


「進化?」


「私には感情や人格はない。“その時”を生きたベルダの記憶と、世界を支配したいという意志意外はない。故にベルダに乗っ取られるわけではない。かつて、融合した男から分離出来たのは、その者があまりに原始的で、身体意外の適合性がなかったからだが、きっと君とは完璧に一つになれるだろう」


「それが、進化だと言うのか?」


 ベルダは頷いた。


 すでに今、スペスメモリアと接続していることで、ベルダは今野の全てを把握していた。


 日本でも高い地位にいる家柄、金と権力、あらゆるコネもあり、今野自身も頭がよく、そして日本という国家を支配したい欲があることを。


「君のその立場、能力に、私が加われば、望み通り、日本を手中に治めることが可能だ。確実にな。」


 今野はその言葉に、ゾクゾクする感覚を覚えた。


 これまで何不自由なく生きてきた彼にはある意味、初めてのことだった。


「おや…融合への恐怖から、高揚感に変わりつつあるな…」


 ベルダがそう言うと、今野は体の底からくる震えを止めるために、唇をキュッと一文字に閉じた。





「…のさん!今野さん!しっかりしてください!」


 ふと、遠くから安生の声が聞こえた。


 すると、今まで見えていたビジョンはゆっくり消えていくのが分かった。


 そしてベルダも、同じように消えていく。


「ベルダ…君の言うことは、本当か?」


 その問いに応えることなく、ベルダは消えた。いや、今野の目が覚めたのだ。


 今野は、ゆっくりと目を開けると、地下の発掘現場にいた。仰向けに倒れていることに気づくの少しかかった。


「よかった!激しく痙攣したあと、まるで死んだみたいになってたから慌てましたよ」


 周囲を見渡すと、安生の他、研究調査チームのメンバー数名がいた。


「…私は、どうしたのだ?」


 ゆっくり起き上がる今野。


「箱です」


「箱?」


「我々が発見した例の…触ってはダメだと注意したのに…」


 今野は側にある箱…、スペスメモリアを見た。


「…安生君、私はどれくらい気を失っていた?」


「て?あ…いや…多分、二、三分くらいかと」


――随分と長い間、ベルダと語り合っていた気がするが…やはり夢だったのか?


 




『いいや、夢ではないよ、今野 秀麿』




 今野は、聞こえた声に目を大きくした。


 それはベルダの声だ。

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