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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第六十二話 今野 秀麿


 1986年8月、スフォーニア国、某地区。


 陸奥大学の研究チームのメンバー八人が、この国に点在する巨石の歴史について調べていた。


 実は、このメンバーには共通の裏の顔があった。


 恐竜絶滅の6600万年前から、人類誕生の20万年前までの空白の歴史に現代文明よりも進んだ文明が存在したということを信じている集まりだった。


 文明の一巡説だ。


 文明は一度進化を遂げて滅び、そのあとに誕生したのが現代の文明だという説。


 かつて太平洋上に、その文明により栄えた大陸があったとされる。一時はそう提唱する学者の声が世界に広まったが、時が経つにつれ、恣意的解釈や、証拠や記録の捏造が露呈し、空想論者のデタラメであると決着のついた説でもあった。


 このスフォーニアの巨石調べは、その古代に存在したという文明の証を見つけるためでもあった。


 無駄とも思えるこの研究調査が、どうして行えるのかといえば、援助をしてくれる支援者スポンサーがいたことに、他ならなかった。


 今野 秀麿という、資産家だ。


 今野は、実業家でもあり、投資家でもあり、裕福なだけではなく、更なる金を儲ける実力を持った男だった。


 恵まれた経済環境に生まれたことで手にした持て余す金を、投資にまわしたり、歴史調査や、技術の研究開発をしてる大学のチームに援助したりと、庶民には理解出来ないスケールの道楽を趣味の一つとしていた。


 そんな今野は、実は心に秘める思いがあった。それは、日本という国を自分のものにしたいというものだ。


 もっとも、本心ではあるが、所詮は妄想に過ぎないということの自覚はあった。いくら資産家とはいえ、一国の支配などは不可能な話。


 今野家は、資産家故、政財界の大物との交流も多い。一般の人々からすれば理解も出来ず、また知ることもない闇のルールが、政財界には存在する。“伏魔殿”というやつだ。


 幼少の頃から“それ”を見ていた今野だったが、どういうわけか、彼は“それ”に染まることはなかった。


 そう、今野は政財界に支配されず、自由に生きていた。


 エリートと呼ばれる教育を受け、国内トップの東帝大学を卒業したが、何にも属さず、関わらずにいた。


 日本でエリートと呼ばれるには、政府が決めた仕組システムみの中で良い成績を取ること。子供の学習ひとつとっても、文部省が決めたことなど、所詮そのよう作られている。全ては国を支配する政財界の人間の都合により、全ては決められている。


 今野から言わせれば、真の勉強とは、探究心を埋めるがごとく興味のあることに対して研究や調査をすること、また知りたいことを納得が行くまで学びを得ること、そういう思いがあった。


 今野もエリートコースと呼ばれる学歴だが、伏魔殿に潜む、黒いルールに縛られて私服を肥やすだけの人生は歩みたくなかったのだ。


 だからこそ、なかなか認められず国からの資金援助を受けられない面白そうな研究や開発こそ学びであると、スポンサーになっていたのだ。


 陸奥大学のスフォーニア国の巨石文化の調査チームへの援助も、その一つだった。今野は、彼らが知られざる空白の古代文明を崇拝するように信じてることも認知していた。


 そんなある日、スフォーニア現地から国際電話が今野のもとに掛かってきた。


 研究調査チームのサブリーダー、安生からだった。


『もしもし今野さん!大発見をしました!大発見をしましたよ!』


 安生はとても興奮していて、話を聞いても今野は今ひとつ理解出来なかった。


 話を整理すると、古代文明に繋がる発見をしたかもしれないということ。


 支援者スポンサーである今野には、現地視察に来てもらい、ぜひ“それ”を見てもらいたいということ。


 そしてチームリーダーの桜庭が倒れて大変だということだった。


「桜庭君が倒れただって?病気か?怪我か?」


 理由を聞くも、安生からは曖昧な答えしか返って来なかった。


 翌日、今野は早速、自家用ジェットで日本を発ち、スフォーニア国に向かった。


 正直、研究チームの探究心は買っていたが、古代文明はやはりないだろうと、どこかで思っていた。


 かつて太平洋上に存在したとされる大陸とその文明。それが後のスフォーニアの巨石文化に影響を与えたとの考えから、“何か”あると、研究調査チームのメンバーは推測していた


 確かに、太平洋上にその大陸が事実あったとしたなら、スフォーニア近隣の土地に、何かが流れ着いた可能性はあるだろう。例えば、1400年代からのメキシコのアステカ文明も、その一つと彼らチームメンバーは考えていた。


 しかし“その大陸”があったという証拠は何一つ見つかってはいないというのが現実だ。


「“何が”出たというのやら」


 期待は持っていない今野だが、これは観光だと気持ちを切り替えての、フライト時間だった。


 ジェットは約十二時間半空を飛び、スフォーニア国際空港に到着をした。


 時間は夕方だったので、まずは首都イスファードのホテルに泊まり、翌日に手配していた現地のガイドが運転するジープで、調査をしている現場に向かった。


 現地が見えてくると、こちらに気づいた安生が手を振っているのが見えた。


 研究内容と支援金の話をするのに、数回会ったことのある人物。最後に会ったのは一年以上前だったか。


 本来は調査や研究内容のレポートを提出してもらうだけという話だったが、“大発見”とやらを確認するために、わざわざ足を運んだ。ついでに倒れたらしいチームリーダーの桜庭のことも、支援者としてはいくらか気にしてはいた。


 今野は、ガイドにしばらく待機するよう指示し、車から降りた。


「ご無沙汰しております、今野さん」


 駆け足で近づいた安生が、少し汗を滲ませながら挨拶をする。


 今野は、スフォーニア国までは自家用ジェット、着いてからの移動は車、そしてホテル宿泊と、常に快適な場所にいたので、ようやくむわっとするこの国の夏の空気を感じた。


「お疲れさん、安生君。まずは、桜庭君の容体を確認しておこう。入院しているのか?」


「ここから一番近い病院で、一晩入院しましたが、今は戻ってきてます。ただ、まだ無理は出来ないので、あそこのテントで休んでますよ」


 今野は、安生に指し示されたテントに歩を進めた。


 捲って中を見ると、チームリーダー、桜庭が簡易ベッドの上で扇風機に当たりながら横になっていた。


 桜庭は、物音に気づくと慌てて体を起こした。


「あー、そのままでいいよ」


 今野は手のひらを軽く前に出し、そう言った。


「お久しぶりです、今野さん」


 申し訳ないと思いながらも、一度起こそうとした頭を枕に落として、挨拶をする桜庭。


「一体どうしたんだ?見たところ、怪我ではなさそうだが」


 桜庭は軽く頷いたあと、自分の身に何が起きたのか説明を始めた。


 それは、この先にある巨石に地下空洞につながる入り口跡らしきものを発見したことから始まったということだった。


 完全に埋もれてはいたが、そこにはかつて間違いなく部屋があったと見られる痕跡が見つかったのだと。


 そこから日数を掛け、慎重に掘り出し、掘った穴が崩れないよう地元建築士の協力を得て、中に支えを作りながら調査を進めた。


 そこで、一つの箱が見つかった。


「箱?」


「ええ…でも、古い木箱などではなく、見たことのない材質でした。それに蓋もなく、実は開けるまでは箱とさえ思いませんでしたよ」


「…それを、開けたんだな?」


 桜庭は続けた。


 開けることが出来たのは、偶然だという。


 岩場で腕を傷つけていたことに気づかないでいた桜庭だったが、汗と共に滴り落ちた血が箱に触れた途端に、発光し、蓋が開いたのだという。


「…凄いと思いませんか?まさにテクノロジー。技術だ。そんな箱、我々では作れませんよ」


 聞く分には確かに凄いと思ったが、その話だけでは何とも言えない今野は、興奮しながら語る桜庭に苦笑した。


 この話にはまだ続きがあった。


 中身のことだ。


「…何だって?記録…メディア?」


 桜庭の言ったことに、今野は聞き返した。


 箱の中に入っていた物は、いわゆる記録媒体じゃないかと言ったのだ。


「どういう…ことだ?中身は書物とか、石板の類か?」


「いいえ。入っていたのは、板状の、その何ていうか、基盤というか…」


 桜庭は口籠った。


 そんな彼に、今野は手で言葉を遮る。


「分かった、直接見てみる。安生君が、私に見せたがっているようだからね」


「待ってください…、私が倒れたのは、“それ”に触れたせいなんです」


 桜庭は、“それ”を記録媒体だと言った理由は、ここだった。


 箱の中から、“それ”を取り出してみようと触れた時に、桜庭は自分の指と“それ”がくっついて離れなくなったのを感じたという。


 自分の指はめり込んでいるのか、それとも“それ”が自分の指を取り込んでいるのか、とにかく気味の悪い感触だった。


 そして同時に、自分の中に何かが入ってくるのを感じた。


 それが“何か”という正確なことは言えない桜庭だったが、頭の中に入り込む情報を認識したという。


「情報?」


 訝しげな顔で問う今野。


「ええ、記録…というより、記憶とでも言えばいいのか…見えたんですよ、まるでそこに自分がいたことあったかのように、リアルな、そのリアルなファンタジーとでも言えばいいのか、ビジョンです、リアルなビジョン」


 あまりに荒唐無稽なことを言っているような桜庭に、今野は苦笑しながら首を振った。


「桜庭君、少し落ち着きたまえ」


 はっとした桜庭は、深く呼吸し、間を空けた。


「すみません……今野さん。でも、本当のことなんです。ただ…、そのビジョンの他に、僕の中に何か違う意識が入ってくるのも感じたのです」


「意識?」


「え、ええ、そこから記憶にありません。そこで、倒れたらしい…、安生からそう聞いています」


 安生が言うには、箱の中に入っていた“それ”に触れた瞬間に、桜庭は激しく痙攣し、白目を向いて倒れたらしかった。


「…分かった。では、注意を払うことは忘れないようにしよう」


 桜庭の話だけでは何とも言えない今野は、“それ”を直接拝見することにした。


 発見した箱とやらは、桜庭が倒れたことで、掘った穴から移動させてはいないとのことだった。そして念の為に“それ”と、掘った穴をスキャンし、放射能やウイルスの検査もしたが、特に人体に影響のありそうな危険は反応はなかった。


 今野は安生に案内してもらい、“それ”のある穴の中へと入った。


 地元建築士と作業員が、安全に階段や足場を造っていて、穴の奥までも普通に歩いて行けるようになっていた。


 途中、穴が崩れないための柱に使った材木や工具が置いてあり、そして“Dynamite”と記された木箱が目に入った。


「…これは?」


 通り過ぎながら、今野は木箱を指差した。


 掘削に難があった時に使おうと用意したものだとうい。ただ、遺跡の破壊に繋がるかもしれないと、よほどのことがない限りは使用しないようにするつもりでいたらしかった。


 そして今野はこの時、何か声のようなものを聞いた気がしたのだった。

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