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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第六十一話 Velda jezfarat

 今野は少し落ち着きを取り戻すと、椅子から立ち上がり、涼子に歩み寄った。


「…さて、刑事さん。美人を見ているのは本来好きなのだが…、もう君をそんな目では見れなくなったよ。だから、君が何者か、そろそろ答えたまえ」


 やりとりの仕切り直しで、主導権が自分にあることを再認識した今野。


 だが、そんな彼に対し首を横に振って苦笑する涼子。


「悪いけど、先に質問したのは私。だから、あなたから答えなさい。勿論、そのあとで私も答えてあげるわ。私が何者かね」


 今野は、立場を理解しない涼子の態度と返答に対し、“一人殺せ”、そう指示を出すか迷った。だが、その言葉を飲み込む。


「…人質は生きてるから意味がある、だったね?」


「ええ」


 頷いた涼子は、艶やかな笑顔を見せた。先程、大佐に見せた攻撃とのギャップに、今野は思わずため息を漏らした。


「ならば、まだ彼らを殺さず…会話を続けようかね。君のことを知れるというのであれば」


「賢明な判断ね」


 今野は、チラリと戦闘員に囲まれてる六堂たちを見て、“人質はいつでも殺せる”ことを確認した。その上で、どうしてもこの涼子おんなの正体を知りたいと思い、自分のことを話すことを決めたのだった。


「…先程から言っているが、私のことを話したところで、君が理解出来るとは思ってはいない。そもそも君は、質問を間違えてる」


 今野の発言に、訝しげな顔をし、目を細める涼子。

 

「……?」


「私が手に入れたのは、この“今野 秀麿”という存在だ。今野 秀麿が何かを手に入れたわけではない」


 意味不明な発言だ。


 “何を”言ってるのだろうかと、話を聞いている六堂たちも、そして大佐も兵士たちも思った。


「どういうこと?もっと分かり易く、説明してくれないかしら」


 涼子の顔を見て、笑みを浮かべる今野。


「分かり易くか…そうだな。では、君は、どうして私がスフォーニアで“何かを手に入れた”と考えたのかね?」


 また質問返しかと思ったが、話に進展が見られたことを考え、涼子は浅くため息をつくと返答をした。


「…昔のゴシップ記事よ」


 全員死亡したとされる、ダイナマイトの爆発事故。しかし研究調査チームのメンバーの一人が、救出活動直後には虫の息ながらまだ生きていたという内容の記事だ。


 涼子は木崎から聞いたままを話した。


「あの記事か。憶えてるよ…。くだらん低俗雑誌だったな。何て雑誌だったか……。しかし、まさか、よくそんなものを見つけたな。いや、そもそもどうすればあの記事から私へと繋がるのか?」


 たかがゴシップ記事、それも昔の雑誌から、どうして自分のことを調べようと思ったのか、今野は気になった。


「そうね、その雑誌を見ただけでは…。でも、あなたその研究調査チームの、支援者スポンサーだったわよね」


「…なるほど、それか」


「あの事故時、現地にいたわね。それ、偶然じゃあないわよね」


 涼子はその記事内容が単なるゴシップではなく、“事実である”と考えたことを説明した。


 スフォーニア国での爆発事故後に、政界へ進出。そして時を経て防衛庁副長官という立場になった。


 そして防衛庁内で発足された“国力強化プロジェクト”、そしてのリーダーが今野であることを突き止めたことも説明した。


「秘密兵器を開発しようって、プロジェクトでしょ?」


「厳密にはそんな単純なものではないがね」


「ええ、でも私たちにはそれで十分。セントホークで大勢を死に至らしめたのは、兵器だと理解するのにはね」


 今野は思わず笑った。防衛庁の力、そして部隊零の力を使い、完璧だと思っていた秘密情報が漏れ解かれていたことにだ。


「しかしまだ話が繋がらない。スフォーニアの件、プロジェクトの件とね。そもそも、どこから兵器という言葉が出てきたのだ?」


 涼子は、庄司エンタープライズ企画六課の課長が、今野の元秘書の大島だと知ったことを説明した。


「防衛庁と深い繋がりのある、庄司エンタープライズ六課の課長に、副長官の元秘書がいたとなれば臭うことこの上ないでしょ?セントホークの事件について、私たちは最初から庄司エンタープライズを疑っていたしね。当然、プロジェクトリーダーのあなたも、疑う必要が出てくるわ」


「大島は確かに、元秘書だ。しかしそれだけで、私に辿り着くものかね?」


 涼子は、四方を囲っているG-weaponの内の一体を指差した。


「そいつよ、そいつの姿が、私の知るゴーレムに似ていたことが、大きな切っ掛けよ」


 今野は、涼子がゴーレムをなぜ知っているかという疑問はまだあるものの、とにかく“知っていること”が事実だということは、もうはっきり理解した。


 “本物のゴーレム”を知らない者が、G-weaponを見て“似てる”ということを発言するはずがないからだ。


「つまりG-weaponを見て、ゴーレムに気づいたと?」


「ええ…。それに、その時に人型の、兵器であることを認識したわ。高性能サイボーグだってね」


「…だが待て、今ここ以外に、どこでG-weaponを“見た”というのだ?」


 最もな質問に、涼子は微妙な笑みを浮かべる。


「映像を見たの」


 怪訝な顔をする今野。


「映像?…もはや君がハッタリを言うとも思えんが、本当か?」


「ええ、…そいつの姿が映っている映像があるわ」


 今野は考えた。


 G-weaponは、自分の思念で動かす。逆に言えば、現場の情報もまた頭に入ってくるのだ。


 これまで、裏社会の人間に対しての使用試験の時にはあえて監視カメラや人気のない場所で行った。


 セントホークではテログループであったクァ・ヴァーキの者たちに警備システムを押さえさせ、カメラは停止させていた。


「…映像、どこで撮られた?上荻の階段下にいたホームレスは、確かに見逃したが、まさか奴がカメラを?いや、あんな輩がそんなもの持っているはずがない」


 独り言を言う今野に、涼子は軽く頷いた。


「その上荻…、G-weaponの試験対象にした人物がいたでしょ?」


 勝負は一瞬だったが、G-weaponの性質を見抜き、“いい戦いをした男“。話を聞いていた大佐も、そんな印象があったことを思い出した。


「確か…アメリカ人の殺し屋だったな。名はバーネット、そうロディ・バーネット」


「へえ、ちゃんと試験対象者の名前憶えているのね。でも、残念。殺し屋ではないし、名前も違うわ」


「…何?」


「庄司エンタープライズの元カンパニーズアーミー、それが正体。名前はジョー…ローデッカー」


「バカな、裏社会でも“腕利き殺し屋”と評判だった。あいつの情報は調べていた。だからこそ試験対象に選んだ」


「ロディは偽名、そして殺し屋は仮の姿よ。庄司エンタープライズの悪業を阻止するために、前田と共に命を掛けてた…」


 驚いた今野。


 しかし前田はやり手だったことは知っている。その前田と組んでいたとすれば、十分ありえるかと納得はした。


 そして問題は“そこ”ではなかった。


「なるほど、前田め…、我々の側と思わせ、随分と邪魔を企てていたようだな。しかしその男、ローデッカーは映像の入手をどうやったというのだ?」


「彼はね、あなたたちが行ったG-weaponの試験使用で先に殺した者たちの現場を調べ、“見えない”という性質は見抜いていた」


「G-weaponの…透明ステルス機能を見抜いていただと?」


「だからこそ、自分にミニカムを仕込み、どこから襲われても対応出来るよう特殊な火薬で罠を張っていたのよ。自分が倒せればそれでよし、ダメでもG-weaponの正体を撮った映像を、最も信頼の出来る男…、あそこの室富に託そうと、考えていたわけ」


 ジョーの考えについて涼子が語ったことは推測だった。しかし、本人の考えは実にその通りだった。


 室富自身、ジョー本人からそのメッセージを受け取ることはなく、実際にG-weaponと戦う前に映像を見るタイミングもなかったが、涼子たちのお陰で、命懸けの最後の戦いを見ることは出来、その意志は受け取ることが出来たと、今改めて感じていた。


「なるほど…前田に関わる人間は、全て炙り出したつもりでいたが、奴め、偽名を使い社外にいたローデッカー、そして完全に無関係の室富と、私の監視外にある人間が、計画を阻止するよう動いていたわけか…」


 今野はここで、ようやく室富という無関係な者が、何故わざわざ来日してこの一件関わったのか少し理解した。


「だが…ミニカムだと?」


「ええ。G-weaponに頭を撃ち抜かれた時に、壊れてしまったようだけど、気づかなかったでしょ?」


「テープに撮っていたというのか?いやありえん…、そんなものが出て来れば内通者が気づく。中継録画…でもない。そんな通信電波があれば、我が監視チームが、傍受しないはずがない」


「魔術アイテム、って言って分かるかしら?」


 涼子のその一言で、今野は独り言を止めた。目を丸くし、なるほどと言わんばかりに人差し指を立てて振った。


「ほう、ほうほう…… Magical powerspace…通称ミストネット、か。そのカメラに魔術を施した何かを仕込んでいたということか。君らの仲間に魔導士がいるようだな」


 どうやら今野は魔法の存在を知っているようだ。あっさりと理解した今野に、涼子は少しだけ驚いた。


「…残念だけど、魔術アイテムを用意したのは、おそらくローデッカー本人ね。どう用意したのか分からないけど、付け焼き刃の不安定なものだった。そしてミストネットに送られた映像を受け取ったのが、合田という男よ」


「…我々の周辺を嗅ぎ回ってた小物だな」


「ええ。ジョーの活動を手伝ってた、裏社会では小物なりに、なかなかやり手だった男よ。彼は魔力はないけど、魔法言語は独学で学んでいたみたいでね」


「言語?まったく…ウィザードキー…だな」


 今野の反応に、さすがに涼子は苦笑した。


「…思ってるより、色々知ってるわね」


「意外かね?私が魔法について知ってることに」


「…そう、ね」


 率直に答えた涼子に、頷く今野。


「魔法は、古代からの遺産と言っていいだろうな。現代の魔導士でそのことを知る者は一人もいないだろうがね。魔法の起源は、遥か昔…今の人類が誕生するずっと前、現代文明の無知な歴史には記されることのない古代文明の中にあった」


 やはり今野は古代文明を本当の意味で知っている、涼子はそう確信した。


「…副長官。改めて質問をするわ。あなたは何者?」


 今野は間を空けた。


 何を考え、思ったのだろうか。


 上を向いたり、下を向いたり、行ったり、来たり。


 そして頷きを見せた。

 

「…いいだろう。お教えしよう。私は、支配者にして、科学者。本当の名は、“ベルダ・ジェズファラト”」


「ベ、ベル…?」


「ベルダ、だ。限りなく、この国の言葉で発音しての名だがね。だが、今野でいい。私は今野 秀麿でもある」

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