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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第六十話 古代文明を知る二人

 互いに大きな疑問を抱いた涼子と今野。


 二人は目を合わせたまま、少しの間、沈黙した。


 恐竜絶滅から人類誕生までの空白の歴史に存在した古代文明。誰も知らないその文明を、今野は間違いなく知っていると言える反応だった。


 どうしてそれを知っているのか気になる涼子だが、今野の方も又、涼子がどうしてそれを知っていることが気になっているようだ。


 動揺している今野に対して、再度話を切り出したのは涼子だった。


「もう一度聞くわ。1986年、スフォーニア国の巨石文化の研究チーム…そして爆発事故。あなたは現場に居合わせた。その時に“何”を手に入れたか…教えて欲しい…」


「…何を、か。君こそ一体何を知ってるのだ?」


 また質問に対して質問で返す今野に、涼子は目を細め、小さく舌打ちをした。


「…では、質問を少し変えましょう。G-…weapon…でしたっけ?兵器の名前。その“G”は、Golemゴーレムの英語読みの頭文字ね?きっと、あなたは“ゴーレム”を知ってる。1986年に手に入れた何かは、古代兵器ゴーレムに関わるもの、違うかしら?」


 今度は誰も知ることのない“古代兵器の名前”が出たことで、今野はますます彼女が何者なのか気になった。同時に驚きを隠せない表情を見せた。


「あれを…あ、あれを知ってるのか?」


「また質問?私、この一件に、関してはイライラしてて…これ以上は優しく聞く気ないわよ」


 鋭い目で睨む涼子だが、ゴーレムのことを“あれ”という今野の言い方が気になった。


――さっきの“あの文明”という言い方もそうだけど、まるでこの男…知ってるというより、その時代を生きてたみたいな……いや、まさか…


「…美人の刑事さん、さっきも言ったが、私が君の質問に答えても、君はそれを理解は出来ない。君がどうやって古代文明について情報を得たのかは、知らないがね」


「さあ、どうかしら」


「…では一つ、あの文明、そして兵器についてだが話してみようかね」


「ええ、どうぞ」


 今野は鼻でため息をつくと、両手を広げた。


「ゴーレム、あれを“造った”のは私だ」


 前置きもなく、一言そう言う今野。


 この場にいる人間で今の発言に反応をしたのは、涼子、そして六堂だけであった。側近である大佐でさえ、何を言ってるのか理解はしていない様子だ。


 四年前、六堂と涼子の二人はガディア共和国でゴーレムと戦っている。特に“古代文明”を知りようもなかった当時の六堂には、その目を疑った存在だった。


 そのゴーレムを、今野このおとこは自らが造ったと言ったのだ。


「どうだ?何を言ってるのか理解など出来まい?せいぜいが、“寝言”を言ってるように聞こえる程度だろう。知識だけで、ゴーレムの何たるかも知らん君にはな」


 涼子は、何とも言い難い微笑みを見せた。


「…そう。いえ、造ったって発言は予想外だったわ。あの怪物を造ったなんて、嘘だとしても思いつくネタではないし…、本当なの?」


 今度は今野が、涼子の言葉に怪訝な顔をした。


「…“あの”だと?」


「副長官、そちらこそさっき“あの文明”と言ったわね?まるで、その時代を知ってるかのように…」


「君も…まるでゴーレムを知識ではなく直接知ってる口ぶりだ」


「……ええ、知ってるわ。私はゴーレムを目の当たりにしてる」


「嘘を言え!知るわけがない。知ることなどありえない」


 ため息ざまに気怠げに答える涼子に対し、今野は感情的な態度を見せた。


「そうね、“普通なら”知りようもない。古代文明に対して概念すら持たないでしょうね。ところが、私は普通ではないので…」


「何だと言うのだ一体…貴様」


「ったく、そればかりね副長官。あなたは私の聞きたいことには何も答えてはいないのよ。そろそろ、きちんとお話ししませんかね?」


 涼子はそう言い、椅子から立ち上がると、側にいる大佐は今野の前に立った。


「…あら、私とやる気?」


 大柄な大佐を見上げる形ではあるものの、涼子は小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。


「副長官を守ることが任務なのでね。女とて、この方に手を出すのであれば容赦はせん」


 大佐は上着を捲り、脇のホルスターから拳銃を抜いた。しかし…


「な…!」


 グリップを握り、拳銃を抜いた途端、涼子の姿が視界にないことに、大佐は驚いた。


 まだ銃口すら向けていないのに、目の前から消えたのだ。


「ど、どこだ!」


 常に堂々と構えていた大佐が、左右をキョロキョロする様は、実に滑稽と言えた。室富は思わず吹き出した。


「大佐さん、後ろだよ、う、し、ろ」


 その様子を見兼ねた室富は口元に手を当て、大きな声で言った。


 六堂も少し苦笑している。


 大佐が踵を返すと、確かにそこに涼子がいた。今野の前に立っている。


「聞きたいことを話さないなら、このまま死んでもらうわよ」


 涼子は大佐のことを無視し、無防備に背中を向けていた。そして腰に手を当てながら度前屈みに、椅子に座る今野の顔に自分の顔を近づけていた。


「女!貴様!」


 大佐はそんな涼子を、今野から引き離そうと拳銃を持っていない左手を伸ばした。


 すると涼子は振り返る素振りもせず、伸ばしてきた大佐の左手首をスッと避けた。


「うるさいから、あっち行ってて」


 左手を伸ばしたことで、隙の出来た大佐の左脇腹に、左肘を打ち込む涼子。


 鍛えられた体の大佐だが、彼女の肘打ちは確実にダメージを感じた。ズシリとした重い衝撃というよりは、鋭い局部的な痛みが走る大佐。


 歪みそうな顔を我慢する大佐だが、やや体が前屈みになると、涼子は位置の下がった顔に目掛けて、振り向きながら右のハイキックを放った。


 ドゴッッ!と鈍い音が部屋に響き渡る。


 衝撃に強そうな太い首の大佐だが、涼子の脚にはプロテクターが着いており、掛けていたサングラスを破壊し、強力なダメージを与えた。


 六堂ら三人を側で見張っている以外の戦闘員は、大佐が膝を着くのを見て、一斉に涼子に銃口を構えた。


 だが大佐は手を部下たちに見えるように掲げ、“待て”と指示をした。


 当たり前だが、守るべき今野と自分がいたのでは発砲は出来ない。


 涼子は、体格で下回るとはいえ、自分の渾身のハイキックを食らっても意識がはっきりしている、そんな大佐に少しだけ驚いた。


「へえ…部隊零のリーダー、なかなかの男ね」


 室富は、木戸親子を守るためにスターズブルーを飛び出そうとした際、涼子に止められたことを思い出していた。


 その時に彼女は自らを“こう見えて結構強い”と言っていたが、どういうことなのか今理解した。


「…探偵よ、あの美人…一体何だ?大分、普通じゃねえ」


 独り言のようにそんなことを言う室富に、六堂は「ま、普通ではないよ、本当」と片眉を下げながら返した。


 そして涼子のことを、“姉の知り合いの刑事”というくらいにしか認識していなかった美雪は、拉致される、銃口を向けられる、というあまりに非日常的な恐怖体験の最中であるにも関わらず、彼女のその姿に目を奪われていた。


 ゆっくりと立ち上がる大佐を見て「タフね」と言い苦笑する涼子。


 今野は、唇をぎゅっと一文字にしたあと、首を振った。


「大佐…、私の護衛はいい。兵士の指揮だけに専念しろ」


「は…?」


「…君の膝を着かせる…、こちらの女性が只者ではないことは十分に理解した。しかし…探偵供の仲間でもある。私に危害を加えようとしたならば、まず一人殺せ」


「…分かりました」


 蹴られた側頭部から垂れてる血を拭うと、大佐は立ち上がった。


「待ちなさい…」


 目の前から離れようとする大佐を呼び止める涼子。


「…何だ?」


「あの三人、大事にしなさい。“人質は生きてるから”意味あるのよ」


「……それは貴様次第だ」


 大佐はそう言うと、見張りが倒されたという上の倉庫に、戦闘員を何人か行かせて様子を見てくるよう指示を出した。そして会議の参加者たちを一旦隣のウェイティングルームに避難移動させた。


 その時、弥は振り返り、美雪のことを見つめた。目が合う美雪。


 そしてそれに気づく六堂。


 詳しいことは今は分からないが、今野が美雪と“何かあった”ことは、理解した。そして、瞬間見せたその目は、スターズブルーで見た男のものだとも。


 今野は、G-weapon四体を自分の側に移動させ、涼子から身を守るために囲うように配置した。


「あら、人質を取ってるのに、更に“ゴーレムもどき”まで用意しちゃって」


 余裕の態度の涼子に、今野は舌打ちをした。


「君が“普通ではない”ことは分かったからな、警戒はさせてもらうよ。さて、話の続きといこうじゃないか。きちんと、お話しよう」

 

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