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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第五十八話 動き出す室富

「いいや、副社長…手当は結構。不出来な部下はそのまま捨てておいてくれ。今夜の会議後、次の“志賀”を決める」


 倒れる“志賀”を見ながら、大佐は真顔でそう言った。


 今の今まで自分の側に置いていた片腕だった部下への扱いとは思えない態度に、部隊零が人として扱われていないことを改めて感じる六堂。


 部隊零の兵士は、“世に存在しない”ことになっている。よって、本来番号で呼ばれ名前はない。


 “志賀”とは、庄司エンタープライズ本社ビルの、元々の警備責任者の苗字であり、警備員を部隊零の人間と入れ替えた際に、そのまま名前を使ったものだと、知るのは後々のことだった。


 社長である順之介は、むすこにもう席に着くよう命令をした。


 今野からいよいよ、六堂たちの死刑の指示が出たからだ。


 弥は口を一文字にし、目だけで六堂を見ると、父の言うことに軽く頷いて席に戻ろうとした。


 これ以上は引き伸ばせないととでも、言いたかったのだろうかと、六堂は席に戻ろうとしている弥の背中を見つめた。


 大佐がハンディ型の無線で命令を下すと、パーテーションの中の六堂と美雪に、戦闘員たちの持つマシンガンの銃口が一斉に向いた。


 美雪を胸に抱き締める六堂。


「伊乃さん…」


 小さな声で、六堂の名を呼ぶ美雪は、目を瞑った。


 室富の後ろに立っている、警備の服を着た戦闘員二人も銃口を彼に向けた。


 その内の一人はさっきまで六堂の後ろに立っていた男で、もう一人は室富の拳銃パイソンを抜き取った男だ。


 いよいよ行動しないといけない時が来たことを察した室富は、組んでいた腕を解いた。そして深呼吸なのか、ため息なのか、吸った息をゆっくり吐き出した。


「…おい、お前」


 少しだけ後ろを向くと、銃口を向ける警備の男に話を掛けた。男からは何の返事もなかったが、室富は話を続けた。


「…さっき、殺すのは最後にするって言ったよな?」


「……」


「悪いが、あれは嘘だ。それと、ボディーチェックが…甘い」


 室富は、右手の人差し指と中指をベルトのバックルに引っ掛けると、それをそのまま引き抜いた。


 引き抜いたバックルの先は、小さなナイフになっており、室富は二人の男にマシンガンの引き金を引かせる間を与えないほどの身のこなしでバックスピンし、一気に二人の喉を切り裂いた。


「…っ!」

「か…っ!」


 違和感を感じた時には、喉から血が溢れ出している二人の男たち。


 そしてその勢いのまま、室富は持っていたナイフを今野目掛けて投げつけた。


 室富の、目に捉えることの出来ないその速さに、首を掻き切られた警備の男二人は、何が起きたのか理解出来ないまま膝から崩れ落ちた。


 しかし飛ばしたナイフが今野に当たることはなかった。


 大佐が、今野の椅子を強引に引き、強靭な拳でナイフを弾き飛ばしたのだ。


 飛んだナイフが、部屋のどこかに落ち、カラランという音が聞こえる。


 だがその瞬間にも室富は動きを止めてはいない。流れるような動作で、喉を掻き切った男から既に二丁の拳銃パイソンを奪っていたのだ。


 左右両手に拳銃を持つと、会議テーブルに向かってジャンプした。


 上着を翻しながら、テーブルの真ん中に着地すると、ワイングラスが倒れ、皿や軽食が散る。


 椅子に座っていた者たちは驚き、一斉に立ちあがろうとしたが…


「動くな!」


 室富のその一声でピタリとその場を離れようとするのを全員止めた。


 室富はテーブルの上で片膝を着いたまま、両手の拳銃を、椅子に座る者たちに向けた。ゆっくりと、左右の銃口を一人一人に向けながら笑みを浮かべる。


「さあて…、大佐さん、俺を狙い撃つよう命令するか?出来ないよな?ここいる連中は、どうやらお前らの“計画”に必要なお偉いさんたちのようだからな、間違って弾が当たったら大変だ」


 マシンガンを持った戦闘員に囲まれたこの状況において、室富は最初から会議テーブルに着く者たちに近づくことを考えていた。むしろその者たちに近づくことで、周囲から撃たれることを防ぐためにだ。


「ついでによ、そこの探偵と娘に手を出してもこいつらを撃ち殺す」


 大佐は一瞬沈黙をし間を空けたが、ジェスチャーで銃口を下げるよう、部屋内の戦闘員たちに指示をした。


「よし…それでいい……ちょっと思ってたのとは違ったがな」


 バックルのナイフは、今野を“殺すつもり”で投げた室富。


 弥の願い通り今野を始末し、そのあとにこの状況に持ち込もうと考えていたが…、大佐が打撃でナイフを弾くとは想像していなかった。


「…殺し屋の、室富君だったか」


 今野は、自分を守るために前に立った大佐を横にどかした。


「ああ、今野ラスボスさん」


「せっかくだ…少し聞かせてくれないか?」


 室富は、六堂の方を一瞬見る。すると六堂は小さく頷いた。“時間を稼げ”、ということなのだろう。


「…いいぜ、恥ずかしい質問以外なら、答えてやる」


「では……、ずっと気になっていたのだが、君はどうして“あの日”……G-weapon実戦テストを行った日に、セントホークにいた?しかも…最初からよく理解していたようだね、準備がよかった」


「…そんなことか。正直、“何”が起こるかは知らなかった。何かしら兵器、それも戦闘に特化した物の、使用試験が行われることだけは知ってた。それを阻止するために、俺はあのビルにいたんだ」


 今野は頷き、空席になっている椅子を見つめた。


「なるほど、それを知ってたとなると…やはり前田か。彼に雇われたのだな」


「少し違うがな…、確かに接点は前田だ」


「また随分と遠くから来日したようだな。アメリカとは。殺し屋が稼業の君が請け負う仕事としては異例なようにも思えるが…」


「そこは話せば長い。普通はこんな日本ところまで来て、わざわざ受けようって仕事ではねえよ」


「…そして殺し屋の君が、どうしてまた人質の親子を助けた?」


 この質問には、室富は苦笑した。


「…今野さんよ、あんたは“殺し屋”に偏見ないか?俺は殺人狂じゃねえ。重い荷物を運ぶのに苦労してる年寄りがいたら手伝うし、子供が迷子になってたら親を探してやりもする」


「それは…私も見習わないといけないな」


「その必要はねえ」


 室富は、右手の拳銃を今野に向けた。


「お前は、今ここで、死ぬからな」


 再び今野の命を狙おうと引き金に指を掛けた室富。


 しかし次の瞬間、目の前のワイングラスや食器が、突然激しく砕け散った。会議テーブル自体もズンッ!と物凄い振動を上げた。


 驚いた室富だが、すぐに何が起きたか分かった。


 “G-weapon”だ。


 姿は見えないが、あの兵器が、目の前に現れたことは理解した。


「チッ!やはり用意してたか!」


 室富は両手の拳銃を前に向けて構え、一発ずつ同時に発射した。ババンッ!と銃声が響き渡ると、目の前の何も見えない宙空で火花が散る。


 バチバチと電気がショートしているような光を放ち、“あの”人の形が現れる。室富は既に見慣れた光景だ。


 室富の至近距離で撃った弾丸は、鋼鉄貫通弾。チタン整のボディーとはいえ、G-weaponにもダメージは見受けられた。


 室富は姿を現したG-weaponの頭部目掛けて、もう一発発砲した。


 バンッ!


 銃声と同時に激しい金属音が鳴り響くと、G-weaponはよろめきながら会議テーブルの上で片膝を着き、ワイングラスや食器が次々に壊れた。


「お前は俺が倒すとビルで誓ったからな、破壊してやるぜ」


 そう言い、室富は片膝を着いたG-weaponの頭部に銃口を近づける。だが、今度は背後から首を締め上げられた。


「…っ!?」


 もう一体のG-weaponだ。まるで宙に、浮いてるように見える室富。


 会議テーブルの椅子に座っていた者たちはこの隙に皆離れ、左右の戦闘員たちのいる方へと避難した。


「くっそ…」


 脚をばたつかせる室富は、右手の拳銃を肩から上を通して反対に向けて発砲した。


 バンッ!バンッ!と二発が当たると、G-weaponの手が緩んだ。室富は強引に首を締め上げていた手から外すと、テーブルに着地するなり振り返り、更に左右交互に発砲した。


 金属音を鳴り響かせると、よろめくG-weapon。


 窒息死から免れたが、右手の拳銃の弾が切れた。そして、盾にしていた者たちも、隙を逃さずテーブルから離れてしまった。


 咽せ反す室富は、再びの危機に(くそ…さすがにマズイな)と思い、周囲を見回す。


 テーブルの上の二体のG-weaponが、ゆっくりと立ち上がる。


 よく見ると、弾丸の当たった部分が少しずつ再生していってるのがわかった。


 室富はその光景に我が目を疑った。


――何なんだ、これは!?


 今野は満面な笑みを浮かべ、拍手した。


「いやいやいや…素晴らしいな。探偵君の格闘ショーに続いて、とてもいいものを見せていただいた」

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