表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
58/96

第五十五話 駆け引き合い

 高そうな生地の仕立てのいいスーツ、整えられた髪、やや頬骨の出た輪郭に、切れ長の目。


 エリートそうな雰囲気はあるが、そこまで“特別″には見えない印象の今野。


 とはいえ、防衛庁副長官にして、国力強化プロジェクトのリーダー。そして、セントホークを始めとする一連の事件と、謎の兵器“G-weapon″開発の中心人物であることは、今この場の会議テーブルの上座にいることで証明されてはいる。


「探偵君……面白いことを言うのだね君は。ひょっとして……こちらが思っている以上に、“何か″、色々と知っているのか?」


「……さあ、どうでしょうかね?」


 六堂は首を傾げ、真顔で答えた。


「…江村君から聞いてはいたが、本当に嫌な奴だね」


 六堂のその態度を見て、今野は苦笑した。


「おい、探偵…あまり今野あいつを怒らすなよ、ラスボスらしいからな」


 小声で室富がそう言うと、六堂は口をへの字にして軽く頷いた。


 今野は黙ったまま、人差し指で大島に席に戻るよう指示をした。大島では六堂の相手にならないと判断したのだ。


「さて…Huge S&Tか。あそこに、G-weaponの腕を渡したというのは、何のつもりだ?」


 大島の言った通り、Huge S&Tでは、G-weaponの技術解明することは不可能だと、今野は改めて語った。


 何よりHuge S&Tも防衛庁の依頼を受注している企業であり、関係は深い。少し圧力をかければ、“言うことを聞かせる″ことは造作も無いのだとも今野は付け加えた。


 更に言えば庄司エンタープライズ側のスパイがHuge S&T内にいることを告げた。


「おいおい、産業スパイは犯罪だ。堂々と宣言することじゃあねえ」


「そんなことはどうでもいい。…探偵君、私が言いたいのはね、つまり“腕″を取り戻すことは、君に“ただ隠される″よりむしろ簡単だということ」


 六堂は、腕を組むと微笑んだ。

 

「…あんたがその権力を使い、Huge S&Tから腕を取り戻すのに、どれくらいかかる?」


「…さあ、どうかな。今からでも私が一本電話かければ、明朝には手元に戻ると思うがね」


「そうか…。しかしHuge S&Tもかなり高い技術を持った企業だ。あんたらの、何とかって人型兵器の解明は出来なくとも、庄司エンタープライズの特殊な“技術″、あるいは“部品″を一つ、二つ発見するくらいは容易だろう。すでに、見つけているかもな」


「…ほう、なるほど。それで?」


「証拠はそれで十分だ。セントホークの事件と、庄司エンタープライズの関わりについてはね。俺からの連絡が途絶えたら、腕と共にそれを“あるスジ″に公表する手筈になっている。瞬く間にあんたらの悪事は拡散されるだろう」


 今野はテーブルに置いてある、ペットボトルの水を一口飲むと、ゆっくりと頷きながら、背もたれに体を倒した。


「…それは面白い作戦だな。探偵ごとき君に、そこまで出来るのか?」


「ハッタリだと…思うか?一応言っておくが、あの会社の関係者には俺の味方もいる。そいつと、あんたの権力やスパイ、そのどちらが優秀か試してもいいんだぜ」


 六堂の考えている作戦、そして態度に、少し驚きを見せる今野。


「すごいな、君は本当にただの探偵か?仮に君にそれが出来たとして、一体何が望みだね、探偵君」


「それは簡単なことだ。公式会見を開き、あんたは全国に放送するんだ」


 六堂が今野の尋ねた質問に答えると、会議テーブルに座ってる者たちが騒めいた。


 それは、記者会見の場で、今野が、政府にも秘密で“国力強化プロジェクト″に託けて、庄司エンタープライズと共にG-weaponという名の兵器を作っていたこと、その兵器の試験使用のために実戦テストも行っていたこと、そのテストの一つがセントホーク籠城事件の真相であることを話せ、と言うのだ。


「…あの籠城事件を起こした教団は“餌″だ。宗教絡みのテロとなれば、SATが出動する。兵器の実戦テストのためにSATを誘き寄せる…、そのために教団を唆し、武器を提供し、セントホークのセキュリティーに引っかからないよう、中村に手引きさせた…」


 事件の大まか流れが当たっていたことに、大島も江村も、目を丸くした。


「大した探偵だ。よくもまあ、そこまで調べ上げたものだ」


 内通者を利用し、警察の捜査を、理由は分からないがセントホークにいたアメリカの殺し屋“室富″に向けるようにしたというのに、目の前の男は真実に辿り着こうとしている。今野は感心をし、思わず笑った。


「何を笑ってる…?いいか、会見でそれらを発表しろって話だ、今野さん」


「まさかな、希望内容がまた、正気とは思えん」


 今野は、笑いながら首を振る。


「俺も、人質の娘も、他の人たちも、ここで見逃してもらったとしてもだ、それではあとからすぐ消されちまう。本当の意味で俺らが助かるには、あんたらが世間に、やっていたことを公式発表するしかないんだ」


 今野は、六堂のあまりに“馬鹿げた要望″に、間を空け、大笑いをした。それに釣られるように、会議テーブルに座っている者たちもクスクスと笑った。


「君は嫌な奴というだけではなく、とても面白い男だね、探偵君」


 今野は、大佐に手招きをした。顔を寄せる大佐の耳元で何か一言指示を伝える。


 大佐は、腰のホルダーに入れてるハンディ型の無線を手に取り、部下に何かを指示したようだ。


「さて、君は私たちと対等に駆け引きをしたいのだろうがね…、それは難しいということを理解してもらわないといけないね」


 今野がそう言うと、六堂と室富は一瞬顔を合わせて、互いに訝しげな顔をする。


 今野は人差し指を立て、「別に君たち二人のことはこの場で殺しても実は構わないんだ」と微笑んだ。


 六堂から余裕があるように見えていた雰囲気が消えた。


「我々は君が思うより強大だ。まさに今君が述べたように、人を探し出して始末することは、そう難しくないし、これまでもやってきた。ただ…、それでも面倒なことは避けたい。証拠消しも楽ではないからな。だから、君たちが大人しく、こちらの指定した者たちを連れてきてくれれば、ありがたかったのだが…」


――…そう来たか。こりゃまいったな…


 六堂は頭を掻きながら、苦笑した。ここで今野が折れると思っていたわけではないが、状況は一気に悪くなった。


「…なぁ、室富」


 後ろでマシンガンの銃口を向けている警備を気にしながら、六堂は室富に少し顔を寄せた。


「ん?」


 横目で六堂の顔を見返す室富。


「あんた、何かここでの作戦って立ててるよな?」


 小声で尋ねる六堂に、室富は小さく頷いた。


「…一応な」


「それって“時間稼ぎ″になるか?」


 室富は口を一文字に首を振った。


「多分…探偵のように間延びさせる展開とはいかねえな、俺の作戦はな」


 室富の返答が“期待に沿うもの″ではなかった六堂は、ため息をついた。


「何をこそこそ話している?」


 今野はまっすぐ六堂たちを見ながら、見下すような笑みを浮かべた。


「いや……別に。ところで…、二つほど聞きたいことがあるんだが」


 六堂は、二本指を立てた。


「……いい加減、諦めてはどうだね?探偵君。こちらもこれからのことを話していかねばならん。君らとの対談イベントではないのだよ」


「…二つ、これで質問は最後だ」


 六堂がそう言うと、黒眼鏡の内側で、室富の目つきが変わった。


 もし、六堂の質問がこれで本当に最後ならば、今野は言った通りにこの場で殺そうとしてくるだろう。その時にはこちらも行動に出る必要があるからだ。


「…よろしい。では、聞こう」


 今野が了承の頷きを見せると、六堂は軽く握った拳を口元に当てて、咳払いをした。そして、間を空ける。


「…あんたらが、ここに連れて来いと言った者たちは、俺たち二人の他、あんたらの人型兵器を見た木戸親子。そしてその親子から話を聞いた刑事、坂崎、水戸だな?」


「君と一緒にいたブロンドの女だ。あとは、上萩に目撃者がいると聞いているが。浮浪者ホームレスの年寄りとか。兵がその浮浪者を消しに行った際、君にコケにされたと、報告を受けているが…どうせその浮浪者も君らが匿ったのだろう」


「……ああ、そうだな」


「内通者が利用するので殺すなと言っていた川島…とかいう刑事だったかな、そいつも対象だ」


「…内通者ね。佐々木警部だろ?」


 真相に近づいていた六堂このおとこならば、それくらいはもう知っていて当然かと、今野は軽く頷き、納得した。


「で…俺が知りたいことは、ぶっちゃけさ、“その人たちを全員殺した″としてだ、それであんたらは安心なわけか、ということさ」


「何だって……?」


 今野は目を細め、首を傾げた。


「あんたらの作った、何とかって兵器の…例えばあれを見た親子らが、SFじみた話を世間に公表したところで、誰が信じる?せいぜい大衆向けのゴシップ記事を盛り上げて終わるだけだろ」


「関係ない。見た者、聞いた者は、100%消す。それが…我々の方針だ」


「…それはまた、とんでない方針だな」


「我々は壮大にしてかなり大胆なことを計画していてね。計画実行までに少しの情報も漏らすつもりはない。ゴシップ記事などありえんな。リスクは0%を心掛けている。それに…現にだ、親子の話を信じた者たちがいたわけだしな、君のように」


 壮大で大胆な計画、弥の口から出た“国取り″というやつかと、六堂は考えた。


「…なるほど。だとすれば、逆にもっともっと他の人間に、あんたらの兵器のことが広まっていたら、どうだろう?そいつら全員殺すのか?俺も、この室富も、親子も、すでにもっと色んな人間に話してるかもしれないぜ」


 実際、ジョー・ローデッカーの撮った映像で、兵器の存在を知った者は、佐久間を始め、他にもいる。幸い、映像の存在は、ここにいる黒幕らには気付かれてはいないが。


「我々は情報を常に監視、傍受している。防衛庁内の機密プロジェクトにより使える権限と、巨大国際企業の力でね。そして“人を消す″ことにかけては最高の腕を持つ部隊がいる。さっき、君は“あるスジ″に情報を公表すると言ったが、それさえも我々はキャッチすることが可能だ。はっきり言っておくが、誰かが聞いたところで、情報の拡散は…出来ん」


 今野の話は事実だろう。庄司エンタープライズ内では高い地位であるはずの弥や前田が太刀打ち出来なかったのはそういうことであり、六堂は驚きもしないが、改めて黒幕らの強大さを感じた。


「そうかい…。とんでもないな、あんたら。じゃ、質問はこれで最後になるかな」


 六堂は、また、咳払いをし、間を空ける。そして、さっき事務所で兵器G-weaponに襲われた話を切り出した。


 事務所のセキュリティーの高さと、殺しが目的ではなく、志賀が自分を“確保する″ことが目的で使用したことは、弥から聞いて知っていたが、勿論それを言えば“誰から聞いたのか″疑われる。


 六堂はあえて知らないふりをし、どうしてG-weaponを使用したのかを尋ねた。


 それが二つ目の質問だった。


 今野の答えは、当然そのままその通り、弥から聞いた通りだった。


「…なるほど。で、わざわざ事務所おれんちに派遣した兵器が返り討ちにあったわけだ」


 六堂は自分の腕を切り離す真似をしてニヤニヤしながら言った。


「…何が言いたいのかな?」


「いやぁ、あんたらの兵器を馬鹿にしてるわけじゃあない。ただ、あそこの志賀さん?あの人が、庄司本社で俺にやられたからって変に意識しなかったら…、と思ってね」


 六堂の言葉に、志賀は明らかに反応した。勿論、高度に訓練された兵士だ。彼の表情にそれが出ていたわけではない。だが、僅かな気の乱れは六堂には伝わった。


「俺はこうしてここに来た。わざわざ大切な兵器を使わなくてもさ…。それに使わなければ腕を切り落とされることもなかったろうにな。言っておくが、こうしてる間も、腕から証拠を得るために俺の仲間が頑張ってるよ」


「…探偵君、そんなことをしても無駄と言っただろ?」


「そうか?でも…リスク0%を心掛けてるんだったら、そうも言ってられないんじゃあないのか?俺はHuge S&T社内に腕があるとは言ってない。仲間はいるが公式にHuge S&Tに渡したわけではないからな、あんたがあちらに電話をしても、朝までには腕は見つからないと思うよ」


 六堂はそう言うと、今野の左に立っている志賀に指を差した。


「さて、兵器の使用許可を出したのは、あんたか、その隣の黒い男だと思うが、あいつの“見栄″のせいで、兵器の腕を奪われたんだ。違うか!?」


 六堂は、志賀を挑発するかのように問うた。


「…何が言いたい?」


 今野は、側に立つ志賀に目をやると首を傾げた。


「いや…、そこの志賀さんの、余計な感情で招いた失態だから、そいつは責任は取らないのかと思ってね」


「…探偵君、兵器使用の許可を出したのは確かに私だ。使用の理由が、彼の“見栄″とやらが原因でも、責任は許可を出した私にある。それに、腕のありかは問題はない」


 今野は、会議テーブルの空席になっている椅子に目をやった。


「我々はずっと秘密裏に敵対行動をとっていた前田とその部下たちも暴き出したのだよ。探偵君の仲間がどんなに秘密にしていても、Huge S&Tから腕を見つけ出すのことも不可能ではない」


 空席はやはり前田の座っていた椅子だと理解した六堂。


 前田からの依頼でこの件に関わった室富は、空席をじっくりと見つめた。


「さて、気は済んだか?」


 今野の余裕の返答で、六堂の二つ目の質問が終わった。


 指定した人間を連れてくる気もなく、腕を返す気もない六堂を、この場で殺すことを決めた今野は、大佐に死刑を指示した。


 同時に、美雪を連れた戦闘員が、奥の扉から入ってきた。


「…美雪」


 両手を後ろで縛られている美雪を見て、思わず声が出た六堂。パッと見だが、傷ついている様子はないことを確認する。


 大佐が無線で指示をしたのは、“美雪をここに連れて来い″と言うことだったようだ。


 どうやらもう人質の必要はなく、六堂たちと一緒に始末をする気なのだろう。


「探偵君、こちらも最後にもう一度聞く。私たちが指定した者たちを今からでも、G-weaponの腕と共にここに連れて来る気はないかな?」


 六堂と美雪は目が合った。


 返答をどうするか、次の行動をどうするか、必死で考える六堂。


 その時だった。


「…お待ちください!」


 志賀が大きな声で今野と大佐に向かって言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ