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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第五十四話 黒幕たちの会議の中で

「副社長…一体何がおかしいのです?」


 六堂と室富の目の前で、笑い出す弥に江村が問うた。


 困惑する江村に、弥は手のひらを振った。


「いやいや…悪い、悪いな江村部長。悪気はないんだ。でもおかしくて…。セントホークではこの殺し屋の男に、目撃者の親子を逃されたんだろ?」


「…え、ええ」


「それどころか、SATの“殆ど″を倒したG-weapon四体を相手に、この男一人に翻弄されたそうじゃあないか」


「それは…そう」


「片や…捜査が及ばないよう内通者を使い、警察には何も判らないと鷹を括っておきながら、この探偵に真相手前まで迫られたわけだろ?」


「……そうです。それが厄介になってきて、本人をここに来させたんです。それの何がおかしいのですか?」


 真剣な顔で尋ねる江村に、弥は対照的なニヤけ面のままため息をついた。


「何が?だってさ、綿密に、極秘に、国際企業と防衛庁が組んでやってきた壮大な計画をだ、たった二人の人間にコケにされてたんだぜ。そんなんで本当に“国取り″出来んのかなって?それを考えたら笑えてきたわけよ」


 弥は体をくねらせながら、会議テーブルに向かって言った。席に着いている者たちは、黙ってその様子を見ていた。


「弥…、席に戻れ」


 弥にそう言ったのは、父親である庄司エンタープライズ社長、庄司しょうじ 順之介じゅんのすけだ。新聞や雑誌で何度か見たことのあるその顔を

六堂は思い出していた。


「これは失礼、社長。でも俺の不安は事実でしょ?今集まってる“裏政治家″の皆様もそう思ってるんじゃあないですかねえ。あなたや、今野さんの手前…言えないだけで。皆さーんっ!違いますうっ?」


 父親の注意を受け、話を続けつつも、弥はフラフラと自分の席に戻った。


――“国取り″…“裏政治家″?


 六堂は気になる言葉ワードに訝しげな顔を見せた。


 そして、会議席に座っている面々をよく見ると、何となくだが見覚えのある人物も幾人かいることに気づく。どれも財界の大物だ。


 恐らくは、よく知らない顔も同じ類の人間だろうと思った。


――“裏政治家″…か。確かに、国を裏で操っていると言ってもおかしくない連中ではあるな。その連中が揃って“国取り″…なるほど。


 その中で、上座に座っている男が防衛庁副長官、今野 英麿であることはすぐに解った。


 今野の左右に、屈強そうな男が一人ずつ立っているが、左にいる男はビルで六堂と“やり合った″志賀であることに気づく。


 そしてその反対、右側にいる黒いスーツの男は、間違いなく志賀より実力も立場も上であることは、見ただけで解った。スーツの上からでも伝わる鍛え上げられた体、そしてサングラスごしでも解き放たれている殺気が半端でない。


「さて、会議の続きを始めたいわけですが…」


 そう言い、今野の隣に座っていた男が席から立ち上がる。


 彼は大島 勝。防衛庁での今野の元秘書にして、庄司エンタープライズ企画六課の課長だ。


「江村君。今回、スペシャルゲストがもっと来る予定のはずだが…どうだろうか。二人しかいないというのは、一体…?」


 江村は冷静を装いつつ、少し嫌な顔を見せた。


「もちろん…G-weaponの存在を知った者たちについては、ここに連れて来るよう指示をしました。“人質″もいることを伝えています」


「…ほう。ということは“内通者からの情報″を元に、埠頭に派遣した兵士たちが上手く消してくれたということですかね?大佐」


 大島は、今度は今野の右横に立っている黒いスーツの男に尋ねた。


 その話から、涼子所有の倉庫を狙ったことを言っているのだと六堂は察した。


 そして、どうやら部隊零の指揮官は、黒いスーツの男なのだということも判ったが、“大佐″の呼び方に違和感を覚えた六堂。だが、部隊零が日本唯一の“軍″であることを思い出し、(ああ、なるほど)と納得をした。


 黒いスーツの男、大佐は表情を変えずに首を横に振った。


「いいえ。ターゲット抹殺のために埠頭に派遣した兵三名からの連絡が途絶え、その確認のために追加派遣した連絡係から先ほど、兵三名の遺体を発見したとの連絡がありました」


 大島は一瞬、何も言わない今野の顔をチラリと見た。


「あーー、要するにぃっ…」


 また弥だ。態度の悪い口調で、デスクに頬杖をついたまま叫んだ。


 大島は(またお前か)とでも言いたげに、少し怪訝な顔でそんな彼の方を見た。


「要するにだ、この二人…こっち、私立探偵の男の方。捕まえた娘はさ、この男の人質でしょ!この探偵が人質の意味がよく解ってないって言うのなら、とりあえず目の前で痛めつけましょうよ、ねえ」


 大島は口をへの字に、軽く首を振った。


「ご意見ありがとう、副社長。この探偵の話次第ではそうさせていただこう」


 そう言うと大島は六堂の近くまで歩み寄った。


「六堂君、だったね」


 大島は、人差し指を立てながら、尋ねた。


「…そう。あんたは?」


「私は大島。庄司エンタープライズ、研究開発部門の企画六課の責任者だ」


「ああ…、あんたが…大島か」


「知っていたか?」


「事件を調べてる内に、名前はね。どうやら企画六課の課長以外にも、立場がありそうな雰囲気に見えるな…」


「確かに…鋭いね。ところで、今言ったように、君が…何故、セントホークでの事件を調べていたのか、こちらは全く解らなかったんだ。それもだ、事件の捜査を誤魔化すために警察に有力な内通者を用意したのに…君はこの数日で、どんどん我々に近づいてくる。実に困っていた」


「そりゃどうも…さぞ迷惑だったろうな」


 六堂は首を傾げ、苦笑した。


「ああ大迷惑だ。しかし…君の動機は、偶然、その内通者からの情報で知った」


「葬儀だろ?」 


「そう。こちらが消したいターゲットを探すために、そのターゲットらの身柄を保護している坂崎という刑事の動きを追うことでね…」


 SATの隊員の葬儀参列。


 セントホークで殉職した隊員の一人、益田 恵の葬儀に、監視していた涼子と一緒にいるところを確認された六堂。


 そのことで、ただの私立探偵が、どうしてこちらが起こした事件の調査をしているのかを理解したと大島は語った。


「…セントホークで殉職した益田という人物の経歴を調べた。何故、葬儀会場に君がいたのか気になってね。そして判ったこと…幼い頃から君に近い者なのだとね。恐らくは、恋人」


 果たして恵のことを自分の“恋人″と呼んでいいのか、六堂は複雑な気持ちだ。お互い愛の言葉さえ交わしたことはない。しかし大切な存在であることは事実だ。


「まぁ、大方は当たってるかな」


「君のその真相に近づく能力はとても厄介だったよ。だが、君が我々のやっていることを調べようとする動機が判明したお陰で、それを止めるための人質を手に入れることが出来た」


「そうか…、大事にしろよ。あそこに座ってる江村まぬけづらにも言ったが、人質は“生きてる″から意味があるんだぜ」


「それは君の出方一つだ。では、本題に入ろう」


 大島は、六堂の前をゆっくり回るように歩き始めた。


「六堂君、君はなぜ…こちらの要求した者たちを連れてこなかった。そしてG-weaponの腕もだ。チタン製のあの腕をどうやって切り落としたのかそれも知りたいがね」


「…逆に聞くが、あんたらの要求した人たち…どうしてここに連れてくる必要がある?」


 間を空けずに尋ねる六堂に、少しイラっとしたのだろうか、大島は眉根を寄せた。


「質問を質問で返すのか?」


「回答を求めるなら、順序がある。ま、いい。面倒だ。俺が代わりに答えてやる。ここに要求した人たちを連れて来させる理由は、“殺すため″ってのは知っている」


「……で?」


「ならその人らを素直に連れて来たら、俺はどうなる?人質の娘は?一緒に殺すつもりだろ。だから…段階的に“こと″を進めようと、“まず″は俺たちが出向いてやった。つまり、そっちの要求に一つ応えたわけだ。次はそっちの番。俺の出方も、あんたら次第だ」


 六堂の態度に、大島は目を細め、江村の方を向いた。江村は、(だから言ったでしょ)と言わんばかりの顔で首を横に振って見せた。


 大島は質問を続けた。


「…G-weaponの腕は?」


「ああ、あれはもう俺は持ってない」


「俺は?」


「“Huge S&T″…」


 六堂の方から出た名前に、会議テーブルに座っている者たちが少なからず反応をした。


 “株式会社Huge S&T″。


 庄司エンタープライズと同じように、高い技術をメインに、あらゆる分野でその力を奮っている巨大国際企業。総合的には庄司エンタープライズに負けているが、同じ分野であることで順位を計るのであれば、国内では庄司エンタープライズに次ぐ第二位だ。


「大島さん、確か企画六課あんたのところに、Huge S&Tの産業スパイが紛れ込んでいたよな?」


 六堂の言っているのは、渡辺が回収保護をしようとした人物のことだ。


「…どこで、そのことを?」


 冷静な顔を保ちつつ、大島の口調に少し乱れを感じた六堂。


「どこだっていいだろ。ま、スパイは残念ながらあんたらに消されたみたいだが…、ただ少なからずあんたらのやってた兵器の研究開発の情報は本社に連絡されていたはずだ。姿を消す透明ステルス技術のことなんかね」


 苦笑する大島は、肩を竦めた。


「… S&Tに腕が渡ったから何だと言うのだ?まさかな… S&Tごとき、G-weaponの技術を解明するなど不可能なことだ」


 軽く頷きながら、六堂は微笑んだ。


「そりゃそうだろう…。切り落として驚いた。あの腕の中のまるで生き物かよって高密度にして繊細な部品…いやもう部品の域ではなかったな。あれを現代の既存技術で作れるわけがない。遥か先、ずっと先の未来の技術か…あるいは幻の…技術か」


 大島は、目を広げ、今野に向かって振り返った。


 会議テーブルについてる面々もざわついている様子が窺えた。


 ここまで黙っていた今野が、(やれやれ)と言いたげな表情で苦笑をすると、初めて口を開いた。

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