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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第五十二話 悪魔に魂を売った者の末路


 NTCHの特別治療室。


 部屋の近くまで案内してもらった看護婦にはナースセンターに戻ってもらった。


 音の出ないアキュドアをスウッ…と開けると、普通の病院では見たこともない機械に囲まれたベッドが目に入った。


 どういった物なのかは解らないが、見ただけでそれが高い技術で作られたものということだけは伝わる。


 そしてそこから出ている複数のチューブやコードで繋がった女性が、ベッドの上で寝ていた。


 静かな部屋で、一定の間隔で聞こえるのは機械を通している、恐らく人工的に行なっている呼吸音。


 その横にある椅子に、佐々木が座っていた。


「……奥さんですね、警部」


 聞き覚えのあるガラついた声。


 佐々木は背後から部屋に入ってきた人物が佐久間だと振り返らずとも解った。


 嫌そうな、深いため息をつく佐々木。


「ああ…そうだ。しかし、ここは…私以外、面会謝絶だがね、佐久間刑事」


 佐久間は内ポケットから、さっき受け取った捜査令状を取り出した。


令状これがありますから…きちんとこちらまで案内してもらいましたよ」


 佐々木はゆっくり振り返った。


 すると、佐久間の手にしている捜査令状より、川島がその隣にいたことに驚いたようだった。


「……川島」


 目が合うと、川島は気まずそうな顔をした。


「警部…あんたがセントホーク事件の黒幕と繋がっていることは、もう判っている」


 佐久間はストレートに“内通者″の件を口にした。


 目を細めて間を空ける佐々木。


「……私が、か。そう言うのであれば、その証拠がある、ということだな」


 佐久間は目を瞑り、ゆっくりと首を横に振った。


「…いいえ」


 佐々木は鼻で笑った。


「証拠もなく…一体何の捜査令状だ?」


 佐久間は内ポケットに捜査令状をしまうと、佐々木に指を差した。


「ご自分の胸に聞かれてはいかがですか?」


「何だと…?」


川島こいつを使って、坂崎警部補の行動を監視、盗聴をしたことは、言い逃れできないでしょう」


 佐々木の顔が少し強張る。


「“それ”が問題と言うなら、監察官にでも言えばいい。何故、あなたなんだね?佐久間刑事」


 佐々木は、佐久間に問いつつも川島を威圧的な目で睨みつけた。


 “涼子の監視、盗聴がバレた″ということは、何かしらのミスにしろ、意図的にしろ、川島以外からそのことが知られることはないからだ。


 圧に押された川島は思わず目を逸らした。そんな佐々木の眼光に臆している川島の肩に、佐久間は手を乗せた。


「坂崎警部補の不当な監視だけならそうでしょうね」


「…何が言いたい?」


「セントホークの生存者親子ですよ」


「…ああ、それが」


「今回の事件、“あるもの″を見るか、知るかした人間は、次々殺されてきた。セントホーク事件の人質、教団のテログループは勿論、代表の浦林、その他にも真相に近い人間は殆ど殺されたか、命を狙われた」


「それと私と、どういう関係があるというのだ?」


「その中で、人質だった親子も例外なく今回の事件の黒幕に狙われていた。俺の可愛い愛弟子の水戸も死にかけましたなぁ。だから坂崎警部補は、親子の保護を単独で行った」


 佐々木は苦笑した。


「報告もなし、更にどうやったのか部長ら上からのお咎めもない、その坂崎の件…か。むしろ坂崎あいつこそ、独断専行、問題行動について調べる必要があるんじゃあないのかね?」


警察官みうちに事件の情報を流す輩がいるとなれば、それも仕方のないこと。内通者については、殺された内の一人、シードカンパニーの中村、あの男が死んだ絶妙なタイミングで既に疑っていましたよ」


「……ほう」


「だから坂崎警部補は、保護した親子一家のいる場所を、あなたに報告しなかった。しかし…まさか内通者それがあなたとは」


 首を横に振り、佐々木は眉根を寄せて更に苦笑した。


「…佐久間刑事、あなたは本当に証拠なしにそんな発言をしているのか?」


「ええ。確かにあんたが内通者である証拠はないんだが…、しかし、さっきも言ったが、坂崎警部補の動きを川島にマークさせていたでしょ。そっちは“証言″が取れるんでね」


 佐久間の話を聞き、佐々木は川島をまた睨む。


 川島は涼子の監視について佐々木からの指示があったことを、正式に証言するつもりでいた。


「川島…いいのか?いくらお前が東帝卒といっても、これでキャリアは潰れるぞ」


 川島は下唇を噛んだ。そして逸らしていた目をキッと佐々木に向けた。


「…あなたのやり方に否定する刑事もいるが、僕は犯罪者の逮捕に向けた気持ちは本物だと信じていた。警察官としての正義の心あってのものと。しかし、僕のその気持ちを利用していただけとあって、それを黙って見過ごす訳にはいきません」


 学歴だけの“坊ちゃん刑事”だと思っていた川島から出た言葉に、佐々木はより険しい顔をした。“キャリア″をチラつかせたら川島の心が揺れ動くと思ったが、その思惑は外れたのだ。


「生意気な…坂崎あのおんなに入れ込み、超えたいだの、成果を上げたいだの、生温い寝言をほざいていた小僧が、随分と立派なことを口にするのだな」


 佐久間は、川島を威圧する佐々木に手のひらを向けその口を止めた。


「……坂崎警部補の監視、盗聴の件は切り口。川島にマークさせていた彼女のその行き先を、黒幕に連絡していたこと…、問題はそこだ。その他にも色々あるみたいだが…、俺はね、個人的にはその理由を知りたいんだ。ハッキリ言ってあんたはクソだ。が、悪事に手を染める人柄だとは思えなくてね」


 佐々木は、黙ると深くため息をついた。これ以上、誤魔化すことは無理だろうと察したのだ。そして目の前の二人を、この場で消すこと考え始めていた。


 ここは庄司エンタープライズの施設内。二人を始末しても、黒幕である庄司エンタープライズが、何とかしてくれるかもしれないだろうと。

 

「…なあ、警部。あんた今、俺たちを殺してしまおうって考えていやしないか?」


 佐久間に言い当てられた佐々木は、目を細め、顎を下げて鋭い目で睨んだ。


「…つくづく佐久間、あんたは刑事だな。その鋭い勘、嫌になる」


「我々を殺しても何にもならないでしょう?」


「いいや…どうかな?このままでは、私も、お前らも、消されるだろう。妻もな。だが、今ここでお前らを始末すれば、私も妻も助かる可能性は高い」


 “妻も″、佐々木の言ったこの言葉に、どうやら彼が内通者になった理由は、そこにあるのだと佐久間は察した。


 佐々木は脇のホルスターから拳銃を抜き、ゆっくり立ち上がった。


「やめましょうや警部…、この場で俺らを撃ち殺せば、その映像が流れる」


「何?」


 佐久間は、立てているコートの襟を捲った。すると、首元に小さなカメラが着いているのが見えた。


「…カメラ?だと」


「そう、この様子は録画している…」


 佐久間はそう言うが、佐々木はゆっくりと銃口を向けた。


「なら貴様を殺して、テープごと破壊するまでだ」


「残念だがね警部、ここにあるのはカメラだけですわ」


「……どういうことだ?」


「今撮ってる映像は、テープに録画してるわけじゃあない」


 訝しげな顔をする佐々木は眉間にしわを寄せながら、少し首を傾げた。


「…通信録画?…いや、そんな“ちゃちなカメラ″で、通信が出来るわけがない」


「そうですね。ところが俺にも理屈はよく解らんのですが…、ここで撮った映像は、特別な方法で補完される、そんな手品みたいなことが出来てしまう物が、何やらこのカメラには組み込まれてる…らしい」


 これはジョー・ローデッカーが上萩の戦闘時に使った方法だ。もっとも佐久間には今一その理屈が理解出来ずにいたので、説明が雑だった。その雑な説明故、佐々木は苦笑した。


「…ハッタリだな」


 強気な佐々木に、川島が首を横に振った。


「いいえ警部、“魔導師の男″が持たせてくれたカメラなんです。間違いないでしょう。実際、その手法で記録された映像を私たちはこの目で見ましたよ。あなたが捜査を適当に打ち切ったらしい、上萩の裏路地の殺人事件の映像です」


 スターズブルーで室富が話してくれた中に“情報屋の桐谷から聞いた”という話があった。その時に黒木、木口、ジャッド兄弟の遺体が発見された事件は“意図的に打ち切られた″という内容が含まれていた。


 内通者が、現場で力のある佐々木となれば、もうその答えは簡単だった。


 上萩のローデッカーが殺された事件は勿論のこと、例の人型兵器の試験使用を含む、庄司エンタープライズが裏で絡む一連の事件は、深く捜査をさせないように手を回していたのは間違い無く佐々木だと言えた。


 一連の事件の中で最も大きなセントホーク籠城事件も、涼子を担当から外し、捜査の対象を室富に向けたのも彼だったことで、その証拠はなくても十分理解できる話だった。


「… 魔導師か。しかし法は…、いや一般社会では魔術の存在は認知されていない。いくら映像を撮っても裁判では証拠として取り扱われない」


 まだ余裕の態度を見せる佐々木に、佐久間は、“いい加減観念しろ″と言わんばかりの鋭い目で睨みつけた。


「そんなことはあなた言われなくても、知ってます。しかし…ここでの会話を見れば黙っていられない人間は出てくるでしょう。となれば恐らく……宮原行方不明については再捜査になる可能性が出てくる」


 “宮原”その名が出ると、一変して佐々木の顔から余裕がなくなった。


 間を空け、ゆっくりと上を向く佐々木は、だらりと拳銃を持った手を下げて、そのまま椅子に腰を掛けた。


 動揺を誘って、このままこちらに銃口向けて引き金を引くか、あるいは追い詰められたことで自決するのではと、佐久間は構えていたが…、意外にもあっさり観念したのだった。


 佐々木の個性とも言える威圧感は消え、両膝に肘を置いて下を向いた。


「…ダメだな、もう疲れた。解っていたさ、あんたがここに来れたことで……、いやそうじゃない。私が悪魔に魂を売った時点で、終わりに向かっていたんだろうな」


 佐久間は、佐々木に同行するよう指示した。


 手錠は掛けなかった。


 佐々木は、妻の手を一度握ると、手にしていた拳銃を佐久間に手渡した。


「私を押さえても、一連の事件については何も知ることはないぞ」


 佐々木がそう言うと、佐久間は黙って頷いた。


 佐久間は携帯電話を取り出し、涼子に“佐々木の身柄を確保”したことを伝えた。


 すると、涼子からは、一人で黒幕の元へと向かっていると返してきた。愛理出の西38番地だ。


『…佐久間さん、私は私でやることがある。申し訳ないのですが、本件捜査本部の人間を出来る限り集めて、応援に来てくれないですか』


 涼子はそれだけを言うと電話を切った。






 ナース連続殺人事件。


 佐々木が逮捕した男子大学生、宮原みやはら 祐介ゆうすけ


 宮原は“間違いなく″、ナース連続殺人の犯人だった。


 だが、被害者に使ったとされる凶器は何一つとして出てこない。遺体から宮原のDNAも出てこない。


 アリバイを証明する人間がいなかったことや、被害者らの病院に出入りしていた姿が監視カメラに映っていたことで、捜査線上に上がっていた人物だった。


 佐々木は宮原を強引に逮捕までこじつけ、自供させようとしたが、宮原は犯行を真っ向から否定した。


 しかし佐々木には、宮原の目を見て解ったという。


 こいつは黒だと。


 本当に無実の人間が、必死に無実それを訴えることとは、その目が違ったという。童顔で純粋な青年の皮をかぶっているが、精神力が強く、折れない心を持っていると見抜いた。


 そんな宮原に、キレた佐々木は手を上げた。


 宮原についた国選弁護士から暴行障害で起訴されかけたが、宮原はそれを取り下げていた。


 佐々木は捜査方法は強引ではあるが、無罪の人間を逮捕したことはない。悪を見出す力は捜査官としては高いものがあった。


 その佐々木から見て、宮原は間違いなく犯罪者だと確信を持っていた。


 ただ、拷問紛いの取り調べは、何も問われなかったとは言え、さすがに事件の担当は外された。


 それから数日が経過き、自宅に帰ると佐々木は驚愕する出来事があった。


 妻がいるはずの家が暗かった。


 買い物でも行ってるのかと思った佐々木だが、電気を点けて、大声で叫んだ。


 妻が倒れていたのだ。頭部から大量の血を流して倒れていた。


 いつも冷静な佐々木もその時ばかりはパニックだった。


 報復、佐々木は瞬時にそう悟った。宮原は訴訟で自分に罰を与えるのでなく、妻を殺すことで、されたことへの復讐をしたのだと。


 佐々木はすぐにその場を離れ、宮原のアパートまで行き、殺した。


 何の躊躇もなく、話も聞かず、抵抗させる隙も与えず、宮原の首の骨を折ったのだ。


 “その話”を佐久間が聞くのは、何日が後のことになる。


 ただ一つ、ナース連続殺人事件の犯人について、佐々木の目に狂いがなかったことは確実と言えた。


 何故なら、佐々木が宮原を殺してから、“ナース連続殺人事件”は起きなくなったのだ。

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