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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第四十六話 刀

 日も沈み、暗くなった頃、六堂はスターズブルーを出て、徒歩で事務所に向かっていた。


 谷中が、見回りがてらに、室富に頼まれていた服と荷物を持ってスターズブルーに戻った時、「特に怪しい人物の動きは見られなかった」と言うので、暗くなるのを待って店を後にしたのだ。


 “美雪を拉致した者”からの連絡もなく、庄司エンタープライズ本社での戦いで弾を殆ど使い切っていたため、これからに備えて一旦装備を整えようと考えてのことだった。


 そんな彼に付いて来たのが、室富だ。


 室富は銃撃戦で薄汚れたスーツから、私服に着替え、愛用の拳銃パイソンの手入れをしながら、「で、探偵よ…これからどうすんねい?」などと言ってきたのだ。


 一連の事件の容疑者を連れて歩きたいと思うわけではなかったが、“来るな”と言ったところで無駄なことも解っていたので黙って付いて来させていた。


 この一件では、彼の師である“ジョー・ローデッカーのこと”もあり、無関係とは言えないだろうと、六堂にも一定の理解はあってのこだった。


 何より、現時点で一番頼れる戦力であることも確かだ。


 一方で、川島は処分保留ということで、佐久間と行動を共にすることになった。


 川島のことがバレたと知られては、佐々木か黒幕かわからないが、彼が消される可能性が出てくる。であるなら、このまま利用することが得策だと思ってのことだった。


 六堂は彼を信頼するに足るかは何とも言えなかったが、佐久間が大丈夫と保証した。


 スターズブルーは一度目を付けられているので、怪しまれないようラッドは通常営業をすることを決め、そして治療中のジーナのこともあり、谷中は店にそのまま残ってくれていた。

 

「あ?ゴー…なんだって?」


 二人は住宅の並ぶ南青山の裏道を通り、六堂探偵事務所まで向かっていた。


 我慢していた煙草に火をつけ、ようやく気持ちよく吸い出した室富は、六堂の“言ったこと“を聞き返した。


「“ゴーレム”だ」


 六堂は素っ気なく答えた。


「何だそれ?」


 室富の反応に(そりゃ解るわけないよな)と、軽く鼻でため息をついた六堂。


「“古代兵器”…。映像で見たあの人形ひとがたのやつがゴーレムに何となく似てるなと言ったんだよ」


 室富は、ふう…っと、煙を吐き出し間を空けた。寒空の中に消える白い煙を眺めながら「土人形を魔術で動かすとかいうユダヤの伝説…確かそんなのがゴーレムって名前だったっけな」と呟いた。


 確かにユダヤにゴーレム伝説は存在する。その伝説が事実かは知らないが、六堂の言う古代兵器を生み出した文明はその遥か昔のこと。


 ただ、不思議な力を持っていたとされるイエスも、古代人の血を受け継いでいた可能性が高いと、涼子が言ってたことがあった。昔の伝説や逸話には、古代文明の名残が今より濃く残っていたのかもしれないと。


 今残る、一般的には常識の範囲外である“刀士の技法”、“魔道士の血族”等も、そのルーツを只管辿れば古代文明に行き着くと思うとも言っていた。


「へえ…そういうこと知ってるんだな」


「いや、そんな伝説があったなって程度さ」


「そうか。俺の言うゴーレムは、その話とは違ってて、素材は確かに土だが、鉄の鎧を身に纏っているんだ。“古代エネルギー”を圧縮したクリスタルが入ってて、それが動力…らしい」


「本当にそんなもの存在きてるのか?そもそも“古代兵器”ってなんだ?」


 六堂は口をへの字にして、首を横に振った。


「…普通は知ることもないし、お目にかかることもないし、知らなくてもいい」


 そう言われて、眉根を寄せて、訝しげな顔をする室富。


「お前は知ってるってことは、見たこと…あるんだよな?


「まあな」


「どこで見たってんだ?」


「ガディア共和国」


「ガディア?中東の小国、か」


「…“古代文明”の件は話すと長い。もしこの件が無事解決したら、帰国前に少し話してやるよ。もう着くぜ」


 南青山の住宅街は、上り下りが幾つかあって、六堂の指し示したそこは一段一段の面積が大きな階段があった。


 そこを上がると、六堂の事務所が見えた。普段は車なので反対の通りから帰って来るが、今はその逆道から帰って来たのだった。


――そういや、車……修理してまだ乗れるかな…


 今頃警察に押収されてるであろう愛車シビックのことをふと思い出した六堂。


 登録者を照合して、すでに自分だと判ってるだろうに、携帯に連絡がないのも、あるいは佐々木の手が回ってるからなのだろうかとも考えた。


 “元刀士”の活動拠点と聞いて、どんなものかと少し気になっていて室富だったが、ごく普通の住宅で、少し拍子ぬけた。


「これが、事務所?」


「ああ」


「…普通の日本のおうちだな」


「いや…まぁここ普通に住宅街だからな。逆にどんなの想像してたんだ」


 二人は、事務所に入る前に、建物周辺に人の気配がないか、怪しい者はいないか確認をした。


「大丈夫か?すでに侵入されてる形跡はないか?」


「安心しろ、本格的に破壊でもしないとここは入れないよ。“隠密に“ここに侵入することは難しい」


 一見、ただの住宅に見える建物だが、襲撃や侵入に備えている作りになっていることを説明した六堂。


 そして玄関には既製品ではない“木崎が作った”オリジナルの指紋認証システムが備えられている。


「さあ、入ってくれ」


 六堂に言われた通り室富が一歩、玄関に足を踏み入れた…その瞬間だった。


「なっ!?」


 ドンッ!と突然、物凄い勢いで背中を突き飛ばされた。


 身構えていない状態で後ろから衝撃を受けた室富は、前にいた六堂ごと建物の中に吹っ飛んだ。


 まるで車に後ろから追突されたような勢いに、受け身を取る間もなく住宅用の壁を突き破り、家具を部屋中に散らしながら思い切り倒れる大の男二人。


「…くっそ、なんだ?」


 うつ伏せに倒れた室富は、首を抑えながら体を起こし、玄関の方を振り返った。


「…ちくしょ、誰だ」


 しかし、誰もいない。


 室富は黒眼鏡を一瞬下げ、見直したが目に映る者はいない。


「まさか、こ、こいつは…!おい、起きろ探偵…やべえぞ」


 室富に体を揺さぶられると、気を失いかけた六堂も頭を振りながら体を起こした。


「何だ一体…」


 パキッ…ガチャッ…


 これは予想していなかった。


 姿は見えずとも、足音が聞こえる。


 床に散らかった物を踏みつける音。そしてその音は、こちらに近づいてくる。


「……っ!?」


 室富の言った“やばい”とは、“あいつ”のことだ。あの姿の見えない“兵器”がここに来たのだ


 美雪を人質に、黒幕から何か脅迫めいた連絡が来ると思っていた六堂は、直接仕掛けて来るとは予想していなかった。


「姿を消して待ち伏せていやがったのか!」


 六堂はそのまま床から立ち上がらず、急いでホルスターから拳銃を取り出し、足音の迫って来る方に向けて発砲した。


 バンッ!バンッ!バンッ!


 乾いた音が部屋に鳴り響く。


 だが手応えがない。狙いが正確じゃない。


「くそっ!」


 殆ど残っていなかった六堂の拳銃の弾が切れた。


 室富も続いて拳銃を取り出したが、引き金を引く前に構えた手首を掴まれ勢いよく引き寄せられた。


 ぐんっ!と引っ張られる感覚。「おわっ!」と叫ぶ室富は、手首が抜けそうな強い力を感じた。そして今度は逆に玄関に向かって空を飛ぶように吹っ飛んでいった。


「室富っ!」


――やべえ!弾だ!武器がいる!


 六堂は立ち上がり、武器を保管している自分の部屋のある二階へ向かって階段を駆け上がった。


 その後ろから、自分に迫る固い足音が聞こえて来る。


 自室の扉を開けようとドアノブを握るが、それを回すより一瞬早く、上着の後ろ襟を物凄い力で引っ張られた。


「おわっ!くっ…!」


 六堂はそのまま振り回され、ダイニングルームに吹っ飛ばされた。


「おごわっ!」


 食器棚に激突する六堂は、散らばる皿やコップと一緒に床に落下した。


「あ…くっ…馬鹿力め…」


 片膝をついて体を起こすが、今度は首に強烈な圧力を感じた。


「ぐっ…ごっ」


 傍から見たならば、六堂の体はまるで宙に浮いたように見えているであろう。だが自身は強い力で首を締められ、そのまま持ち上げられているのが解った。


ーー…この、ままでは窒息す…る…


 六堂は、反動をつけて自分の首を締め上げている“それ”の腕だと思われる部分に、膝蹴りを勢いよく入れた。


 手応えを感じた。


 僅かにだが首の圧迫感が緩んだのだ。


 その隙を逃さず頭を後ろにずらし、締め上げられてる首を外して床に着地した六堂。


 だが、呼吸を整えてる間もなく、強烈な衝撃と共に目の前がフラッシュした。


 六堂は吹っ飛び、激突した扉ごと自室に勢いよく入っていき、部屋の中を滅茶苦茶にした。刀を飾っていた神棚も崩れ落ちて来た。


ーー…く…何だ?蹴り、か…


 一瞬、意識が遠のく。


「探偵!」


 室富のその声に、はっ!とした。


 二階に上がってきた室富は、飲料水の入ったペットボトルを片手に持っており、それを放り投げた。


 ズドンッ!


 乾いた銃声が響いた次の瞬間、投げたペットボトルは弾け、部屋のあちこに中の水が激しく散った。


 散った水が、“それ”に触れると、眩しい光を放った。まるで電気がショートしているような光だ。徐々にその光は人の形を型どるように、姿を見せた。


 その現象はまさに映像で見た、そのものだ。


 そしてダークグレーのぴったりとした素材のスーツに身を包んだ姿がはっきりと現れた。


 室富はセントホークでの戦いで、一度それを見て知っていたが、再び目の当たりし、冷や汗が出てきた。


 姿が見えたところで、“そいつ”が攻撃を止めたわけではない。


 太もものナイフホルダーから大きなサバイバルナイフを取り出し、逆手に持って六堂に迫ってきた。


 六堂は、上から落ちきた刀を拾い上げ鞘を捨てた。そして両手で刃を上に向け下から上に斬り上げた。


 空を斬る音と共に、その速い太刀筋は薄らと目で追えるような青い光が走ったように、室富の目に映った。


 何より六堂の雰囲気から凄まじい圧を感じた。


 同時に、“それ”の腕が宙を舞ったのだった。物凄く、緻密で細かい金属片、部品、液体を散らしながら、ナイフと共に腕がガシャンッ!と床に落ちる。


 落ちた腕は、激しく蠢いた。まるで“切られたトカゲの尻尾”のようだ。機械というには程遠いまるで生物のようなその腕。しかし生物でなく、間違いなく金属の部品で交際されている。


 腕を切り落とされた“それ”は、残っている方の腕で自身の斬られた部分を確認し、六堂の方を見つめた。


 その動作は、まるで人間のようにも見えるが、何とも言えない不気味な顔だ。特に人間と決定的に違うのは、目だ。まるで生気のない目。明日美の言っていた話を思い出す六堂。


 六堂は立ち上がると、腰を落とし両手で刀を構えた。


「どうやら、“ゴーレムほど”俊敏ではないらしいな…」


 向けられる刀の切っ先を見て、後ずさりする。まるで戦況を分析し、考えているようだ。


 拳銃を構えてる室富と、交互に確認をしている。


 六堂は、“それ”が銃を持っていないと確認すると、距離を詰め始めたが、“それ”は逆に六堂から距離を取ろうと後退する。


「おっと…形成逆転か」


 室富も拳銃を構えたまま“それ”に近づこうとした。


 すると、“それ”は床に落ちたサバイバルナイフのグリップを爪先で踏み、刃先を浮かせると、室富に向けて蹴り飛ばした。


「…っ!」


 ヒュンッ!と飛んできたナイフを紙一重でかわす室富。ナイフは顔の横を通り過ぎ、壁に勢いよく刺さった。


「こいつ!」


 ほんの一瞬ナイフに意識を取られた室富は拳銃を構え直そうとするが、“そいつ”はその隙を逃さず空中を回転しながら後ろ回し蹴りを放っていた。


 その直撃を受け、キッチン側に吹っ飛ばされた室富。


「ごわっ!」


 六堂は自室から飛び出て、後ろを向いてる“そいつ”に切り掛かった。


 だが“そいつ”は振り向きながら、なんとテーブルを片手で持ってぶん投げてきたのだ。


「な…っっ!」


 飛んでくるテーブルに向かって刀を思い切り振る六堂。


 テーブルは、綺麗に真っ二つになり、六堂の左右に分かれ、後ろの壁に激突した。


 飛んできたテーブルに一瞬視界を奪われたが、斬り裂いた向こう側に、既に“それ”の姿はなかった。




 静まり返る部屋。




 六堂は、起き上がった室富と、お互いを顔を見合わせた。


ズレた黒眼鏡を直す室富。


「逃げたみたいだな」


「…そのようだな。しかし…片手でテーブルぶん投げるとはふざけた馬鹿力だ」


「…それを真っ二つにするお前も、大分ふざけてると思うがな探偵。あいつ…ライフル喰らってもダメージが殆どなかったんだぞ」


 六堂は、鞘を拾い刀を納めると、自分についた汚れを払い、切った口の血をペッと吐き出した。


 室富も、拳銃をホルスターにしまう。


「…助かった」


 六堂は室富に一言礼を言った。


「いやいいさ。しかしそれ…凄い刀だな」


「…二度と使うまいと決めていた“これ”を抜かせやがって、怪物め」


 六堂は刀を部屋の机の上に置き、床に落ちたフォトフレームを払い上げた。


「……」


 学生時代の自分と、二人の少女と写っている写真を見つめると、刀の横に置いた。


 室富は屈んで床に落ちている腕を見た。


 部屋は暗かったが、それが機械仕掛けというには、あまりに次元の違うものであることは見て取れた。


「す…凄えな、これ」

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