第四十五話 Golem
「え、川島が!?」
涼子から、黒幕に“隠れ家の場所を知られた経緯”を聞いた水戸は驚いた。
思えば、聴取室で、セントホークでの出来事を聞いた一人だったので、危険の可能性を教えるために川島に電話を何度か掛けたが、一度も出ず、掛け直してもこなかったが、(そういうことか)と理解した。
「あの野郎……」
「でも、川島君自身が、黒幕と繋がっていたってわけじゃないわ」
「とはいえ、盗聴や発信機は…」
「そうね、それは許されないわ」
涼子と水戸は、そんな話をしながら、殺した四人の戦闘員の遺体を端に寄せて布を被せていた。
この戦闘員たちの遺体を調べても何も出ないことは既に知っている。ここで警察に連絡をすれば、佐々木に知られ、結果、黒幕にも知られることになる。
時間稼ぎのために、このまま放置しておくことがいいと涼子は判断した。
「しかしなぁ…川島、東帝大卒で放っておいてもある程度出世は約束されている。なのに、何で現場の捜査に拘るんですかね?大して成果も出してないし」
「さあ…それはいつか本人に聞いてみたら?」
涼子は、自分のことが原因であることは言わなかった。
川島の“抱いていた気持ち”など、興味はなく、事細かに話す必要もなかったからだ。何より、彼のあと先を考えない行動のせいで、隠れ家が狙われ、美雪も拐われ、とても甚だしかった。
「ところで佐々木警部こそ黒幕と繋がってるって、そっちはかなりヤバい話でしょう」
水戸は最後の遺体を引っ張りながら、尋ねた。
「ええ。もっとも、佐々木が関わってる証拠は何もないでしょうけど。そのために川島君を利用してたんでしょうし…そもそも動機が不明ね」
涼子は、奥の部屋に隠れてる家族たちは出てきてもいいが、あちこち血が飛んでるここには来させないようにと、水戸に指示した。
そして愛車のシートに置いていた上着を取りに外に出た。もう辺りはすっかり暗い。
――さて、これからどうしたものか…
戦闘員が装備していた無線機で、嘘の報告でも出来ればよかったが、使用時にコードを入力するタイプだったので、それは不可能だった。
連絡が途絶えれば、当然また狙われる。
その前に派遣した倉庫に偵察が来るだろう。時間は稼げても、長くはいられない。
海の向こうに、新東京の夜景が美しく目に映る。
本当なら、今夜はジーナと二人で、ハンバーグなら都内一と呼び声たかい“タカノイエ”でワインでも飲みながら美味しいディナーを食べていたはずだった。
当然、予約は取り消したが、煌びやかなビルを眺めて、ふとそんなことを考えながら深くため息をつくと、息が薄白かった。
風が当たり、寒さを感じた涼子は上着取るために車のドアを開けた。
すると、上着のポケットから携帯電話の振動音が聞こえた。取り出して、画面を見ると木崎の番号が表示されている。
――何か判ったのかしら?
一呼吸置き、通話ボタンを押す涼子。
『やっと出たぜ…忙しかったかい?』
「ええ、少ね…。でも今は大丈夫よ」
『そうかい。それでよ、あんたに言われて、庄司の企画六課について調べ直したよ』
そう言い、最初に出た話は、企画六課課長“大島 勝”のことだった。
大島の前職は、防衛庁副長官 今野 秀麿の元秘書。
学歴から、確かに工学系の知識は持ってはいるようだが、ある年、突如として庄司エンタープライズに入社したという。
「…防衛庁?防衛庁が黒幕なのか?」
『まぁ、待て…話は最後まで、聞いてくれ』
その“ある年”というのが、防衛庁内に極秘に立ち上げられた計画、“国力強化プロジェクト”が始動した頃だという。
「国力強化…プロジェクト?」
『まぁ簡単にざっくり話すと、核も保有できず、アメリカ頼みの貧弱なこの国をだ、メイドインジャパンの新兵器を研究開発して、国力増強をしましょうかってプロジェクトよ』
そのプロジェクトリーダーには、副長官の今野が就任した。
大島が、庄司エンタープライズに、入社し企画六課長になったのが、まさにその直後。意図されたことであることは間違いないタイミングだ。
防衛庁の“極秘プロジェクト”という大義名分を翳せば、かなりの研究開発費を使うことも出来、何より外部にその秘密がバレにくい。
恐らく、映像で見た、あの“人の形をした人ならぬ物”と、“姿形を消す技術”は、それを利用して作られたのだろうと、木崎は推測した。
だが、それは“一連の繋がり”ということに過ぎない。木崎のように腕のいいハッカーなら、難しいが、情報は辿れる。
問題は、映像に映っていたものが、“既存技術”ではないということだ。
『涼子さん、映像で見た“あれ”…完璧に姿を透明にするところも驚愕したが、姿を現した時に俺は思い出したことがあったよ』
涼子も同じだった。
姿を現してからローデッカーの頭を撃ち抜くまでの短い映像だったが、ある物を思い出していた。
「…“ゴーレム”だな」
『ああ。まぁ、ゴーレムよりはスマート且つ、サイボーグ感が出てたけどな。名付けるとしたら、“ゴーレム’99”かな』
“ゴーレム”とは、中東ガディア共和国に眠っていた、古代文明が生み出した兵器のことだ。
そう、誰も“知ることのない”古代文明の真実。
涼子は、その真実を知っている人物であり、世界各地に眠る“古代兵器”を破壊するための、シャドーメモリーズの力を持つ者。
六堂を始め、彼とかつてチームを組んでいた渡辺、夕紀、そして木崎は、涼子のその正体を知っている。
もちろん“知っている”といっても古代文明など突拍子もない話に、四人とも理解していないところも多くあったが、木崎が、“涼子という人物”が1978年の“ANS343便失踪事件”の生き残りの少女であることの裏を取っていたことで納得していた。
何より、涼子という人物が信頼に足る存在であることは皆よく知っていた。
今から四年前、涼子のサポートのためにガディア共和国に同行し、初めて本物の古代兵器を目の当たりしたのが、ゴーレムだった。
『…やっぱり似てるよな。予算が無尽蔵に使えたとして、庄司エンタープライズが世界に誇る技術を持ってたとしてだ…どうしたら“あんなもの”が作れるのか、色々調べたんだ』
これは結果、木崎といえど明確な答えとなるものは見つけられなかった。
しかし、今野という男には、気になる不可解な過去があることを知った。
今野は、もともと裕福な家の育ちで、若い頃から幅広い事業を手掛けていたのだそうだ。
その中で、いくつかの大学の研究チームのスポンサーとしても出資していた。木崎の言う“気になる”というのは、1986年に起きた“遺跡発掘爆発事故”のことだった。
「事故?」
『ああ…、“スフォーニア国”の巨石文化の研究チームのことだ』
スフォーニア国、メキシコ近く太平側に浮かぶ島国で、主に観光を国の資源とする日本でも海外旅行人気の高い場所だ。
解明されてない歴史的な遺跡を多く残していてる国でもあった。
事故というのは、陸奥大学の研究チームが、現地の発掘をしていた際、発破用のダイナマイトを誤って箱ごと爆発。それでチーム全員死んだというものだ。
『その事故の直前に発掘チームは“何か”発見したんじゃないかって、俺は思ったんだ』
木崎がそう思う根拠は、正規の記録ではなく、当時のゴシップ記事からだった。
事故時、発掘チームの中の一人が『生きていた』という内容で、虫の息だったが救出された際に「歴史的な発見をした」と譫言のように何度も言っていたというミステリアスに書かれたものだ。その手の記事を好んで読む者に喜ぶよう作られた文章だったが、“信じがたい事実”というのは意外とゴシップ記事に紛れていることが多い。
『この発掘チームな、表向きは“まとも“な歴史を研究する連中だったんだが、裏では古代文明を信じてた集まりだってのが、当時出た大衆誌の記事に書かれてたのを見つけた。いわゆる“文明の一巡説”を信じてた連中さ』
涼子はその話に黙ったままだったが、木崎は彼女はこの話に興味を示したことを察した。
『あんたなら、気になる話だよな?…とはいえゴシップ記事だ。そこまで当てにはなんねえとは思うよ。ただ、事故後の“現地会見”には、大学の連中と一緒に今野が出席している』
「何?今野は、スフォーニアの現地にいたってことか?」
『ああ。偶然、出資している研究チームの視察に、ということらしい』
木崎のこの話を聞いて、映像で見た“人ならぬ人の形をした物”と、“姿を消す技術”についての謎が少し見えてきたかもしれない、涼子はそう思い始めた。
「もし、その記事が事実だとすると……そうだな、研究チームが発見した“何か”を、今野が奪い、その存在を知る者たち、つまり発掘に関わったチームを事故に見せかけて全員殺害した、そんな流れになるのかしら」
『…問題はその“何か”だ。何を手に入れたかは判らねえが、今野がその後に政界進出。今は防衛庁の副長官になり…今回の一連の事件に深く関わる企画六課の課長がそいつの元秘書と来たもんだ…」




