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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
38/96

第三十六話 川島

1999.12.5 -SUNDAY-




「おい、両手を上げろ…」


 ガラついた声。


 川島はゆっくりと振り向いた。目に入ったのは、拳銃を持った佐久間だ。その銃口は自分に向けられている。


「い、いやだなぁ、佐久間さんか。誰かと思いましたよ。こんなところで…その銃、何の冗談です?」


 平静を装ってはいるが、ベテラン刑事の佐久間には、川島の緊張が手に取るように解った。


 そもそも“冗談で拳銃を抜くことがない“など、川島も解っているはず。慌てて出た台詞せりふなのは見え見えだった。


「冗談のつもりはねえよ…抵抗、及びこの場から逃げるつもりなら、俺は撃つからな」


 いつも人当たりのよい“おっちゃん”のイメージが強かった佐久間の、人でも殺しそうな鋭い目つきに、川島は抵抗どころか身動きが出来なかった。


 川島が見ていたのはバー、スターズブルー。それも裏口だ。


 中に入ろうとしたのだろう。


 脇のホルスターの拳銃に手を伸ばしたところで、その背後を佐久間に押さえられたのだった。


「バーの営業時間には早すぎだぜ。あそこに誰がいる?」


「…あなたには関係のないことだ」


「そうとも言えねえな。坂崎警部補ねえさんが三日前、シードカンパニーの中村の家を訪ねることを、直前に密告した奴がいてな、俺はお前だと知ってた」


「は?何を言って…」

「言い訳すんな!」


 佐久間は厳しい口調で川島の言葉を遮った。


 そして拳銃を右手で構えたまま、ポケットから何か小さな物を取り出した。指で摘む程度の大きさで、何か機械のようなものだ。


 それを見た川島は、目を丸くした。


「これは、お前さんが仕掛けた盗聴器だな…?それも結構な高性能なやつだ」


 川島はその質問には答えなかった。ただ、言い訳を考えているのか、かなり落ち着かない表情だ。


 その様子を見た佐久間は、盗聴器をポケットにしまうと、ゆっくり川島に近づき、脇のホルスターから拳銃を抜き取った。


「俺は“正しいことをしろ”と言ったよな…機会は与えたつもりだ 」


 佐久間は、自分の拳銃を脇のホルスターに入れ、川島から取った拳銃はコートを捲って、ズボンの後ろ腰に入れた。


 そして、更に川島の身体を探った。両脇から、腰、足首までだ。すると、右足首に小さいホルスターが装着されていた。


「おっと…足に、これはM442…用心深いんだな」


 佐久間はべりっとマジックテープを剥がして、ホルスターごと取り上げた。


「…あのバーに何の用があった?」


「……」


「だんまりか…」


 佐久間は、川島の上げている手の左手首を掴むと体を反対に回し、背中に向けて捻り上げた。


「いたっ、いたたた!」


 抵抗する川島だが、見事に極められ無駄に動くほど痛みが走った。


「抵抗すんねえ、手錠掛けるぞ」


 佐久間は一見はただの初老だが、逮捕術、柔道はマメに鍛錬をしている。警察柔道大会の都代表の水戸と、乱取りをすることも度々あった。


 だから“エリート坊ちゃん”の川島が抵抗してどうにかなるほどヤワではないし、川島自身も手首に感じる握力に驚いていた。


「それじゃ、あのバーに行ってみるか」


「はぁ!?何を…」


「何をじゃねえ、お前さんが答えないなら行って見てみるまでじゃねえか」


「いや、待って…ちょ…!」






 ーーという出来事があったのが、今朝のこと。


 佐久間が川島の腕を捻り上げたまま、バーの裏口に向かいノックをすると、出てきたのは店主マスターのラッド。


 中では、ベッドのジーナ、闇ナース、谷中、そして何より室富を見て、佐久間は驚いたわけたが、六堂と涼子がここに戻って来たのはそれから三時間ほどしてからのことだった。


「…ってわけだ、警部補ねえさん


 佐久間は、涼子と六堂に、ここに来た経緯を話した。そして、ポケットから盗聴器を取り出し、テーブルに置いた。


「…これが?」


 涼子はそれを手に取って見た。


「そう、あんたらがセントホークで生き残った親子から話を聞いた部屋にあった、高性能の盗聴器だ」


「本当か?川島君…」


 川島は黙ったまま神妙な顔で、部屋にいる者たちを見た。


「間違いねえよ、あの部屋にはあんたらが出て行ったあと、誰も入ってねえ。監視カメラで確認済みだ。ってことはその前に仕掛けたものだ。さりげなく、映像ではわからんようにな」


 涼子が自宅に会いに向かうタイミングで、首を吊っていたシードカンパニーの中村。


 そのタイミングの良さに、内通者を疑った涼子から連絡を受けた佐久間が、すぐに聴取室を調べていた。


 その際に出てきたのが、この小型の高性能盗聴器だった。


 佐久間は、同じタイプの別の盗聴器とすり替えていた。


「…お前さんが回収したのは、俺がすり替えた別物よ。こっちのこれを詳しく調べれば、お前の持つ受信機に辿り着くだろう」


 涼子は川島のその行動に疑問を抱いた。“内通者”が彼なのかというのこと。


 佐久間は涼子の表情を見て察し、首を横に振った。


「こいつじゃねえよ、警部補ねえさん


 そう、確かに川島は、聴取室で涼子に反抗して部屋を出て行く前に、盗聴器は仕掛けていった。


 しかし佐久間は、川島が“本気で室富を追う”その姿を見ていた。またその時の会話で、“涼子に認めてもらいたい”という気持ちもあったことを確認している。


 彼に一連の事件の黒幕に情報を送る理由はない。


「…だが、警部補ねえさんのやり方に納得出来ないのも事実だったわけだよな?」


 佐久間は、川島を座らせている椅子の前でしゃがみ、目線を川島に合わせた。


「佐々木だな…。今回の事件のもっと前から、あいつに相談していたな?」


 川島は顔を動かさずに上目で涼子の方を見た。そしてようやく口を開いた。


「…ええ、そうです」


 目を周囲から逸らし、苦笑する川島。


「しかし何故だい?あいつが警部補ねえさんを毛嫌いしていることを知ってたろ?だぁがお前さんは、彼女にご執心だ…よく解らねえな」


 涼子ほんにんを目の前に、(何を言うんだ)と、川島は恥ずかしく嫌そうな顔を見せた。


「…そのことと、捜査方針や考えたは別です。佐々木警部は、自分ルールにはうるさいし、確かにあの人は坂崎警部補を嫌ってます……。が、事件解決や容疑者逮捕数もダントツだ…」


 佐久間は立ち上がると、涼子の顔を見た。


「んー…ま、理由は通ってるわな。そんで、警部補あんたのやり方とは別の方法で成果を上げ、自分を認めさせたかったわけだ。確かに言っていた、刑事としても、男としても認めてもらいたいって」


 テーブルの上の盗聴器を指差す佐久間。


「だが、盗聴器これは何だ。何のためだ?」


 川島は再び口を閉じた。


 佐久間はその理由を知りたく、すぐには川島の追求をせず、室富探しにも付き合い様子を見てきた。彼に悪しき様子はなく、形はどうあれ、それなりに信念を感じてはいた。


 涼子は目を細め、一瞬六堂の方見た。


「…まあ…切っ掛けは嫉妬かしら?」


 その一言に川島は顔は下を向いていたが、目を丸くした。


「あん?何だいそりゃ」


 佐久間は訝しげな顔で尋ねる。


 涼子は目を瞑り、軽く笑った。


「いえ…セントホーク…あの現場で、川島君は初めてりくどう いのを見た。それで私との仲を見て、怒ってたっけね…」


 佐久間は(あ、そういえば…)と現場でのことを思い出した。


「で、すぐに佐々あいつに、今回の事件の捜査について、相談したわけね。私より結果を先に出して、認めてもらおうと。難事件確定だったし、解決に貢献できれば評価はかなり上がるわ。で、佐々木に盗聴器を渡されたってとこかしら」


 黙って、今の話を聞いていた六堂は、ため息をついて、喪服の黒ネクタイを外した。


「きっとそうだろう。そして佐々木の入れ知恵だ。涼子さんより“上に行く”とか“結果を出すため“だの、そいつの希望を叶えるために、涼子さんのやり方を先に知れ…って、吹き込まれたんだろ?」


 六堂も佐々木のことを少しは知っていた。


 探偵になってから二回ほど、事件現場で会ったこともあり、邪魔者扱いされたことがあった。


 だが何より裏社会時代にもその名は耳に入っていた。事件解決のためには裏社会の人間を脅したり“飴”を与えたり、手段は選ばないことで有名であった。


「佐々木に相談して、指示を仰ぐようになったって話の流れから考えりゃ、多分そうだ。でなきゃ、ストーカーだな」


「ば!ばかいえ、ストーカーなんて…」


 川島は慌てて否定して。


 それを見て、六堂は目を細めて笑った。


「…なるほど。佐々木の指示だが、そこに託けて、そういう気もあったわけだ」


「ち!違う!」


 涼子は、額に手を当て、呆れ顔で、割って入った。


「そんなことはどうでもいい、話を戻すと、三日前に中村のところに行くこと。あなたは佐々木警部に伝えたわけね」


「そうです。それがどうしたって言うんですか?さっきから聞いてると、中村が首を吊ったのと関係あるように聞こえますが、僕は問題行為の多い警部補あなたの行動を、佐々木警部補(うえ

)に報告したまでです」


「そうか…」


 違反行為、涼子に否定は出来ないが言うなら佐々木も大いにやっていることであると反論にしたい気持ちはあった。


 しかし佐々木が“ただの嫌な上司”という存在に留まらないことが判った今となっては、そんなことを言う気持ちにはなれなかった。


 中村が何らかの形で事件に関与していて、口封じに殺された可能性が高いと考えていたが、涼子が“中村宅に向かう前に黒幕に連絡した”のは、佐々木警部の可能性が高いことがはっきりした。


「ところでよ、俺も色々聞きたいことがあるんだが、まず…」


 佐久間は親指を立てて、自分の後ろで、椅子に座ってブランデーを呑みながら、煙草を吸っている室富を指した。


「…今回の一連の容疑者むろとみが、何でここにいるんだい?」


 涼子は首を横に振った。


「話せば長いのですが、一連の犯人ってわけでは…」


「いやいや、ヤバいんじゃあねえのかい?殺し屋だって話じゃねえか」


 佐久間が少し引き気味で苦笑してそう言うと、川島がガタッと椅子から立ち上がった。


「そ、その通りだ!この状況を僕が連絡すれば、坂崎警部補あなたはまずい立場になりますよ」


 佐久間はそんな川島に近づき、指を差した。


「聞きたいことは、お前さんもだ」


「……」


「一つは、なぜこの店の前にいた?室富がいること知ってたんだろ?一人で乗り込んで捕まえようって考えだったんじゃないのかい?」


 図星を突かれたのは、川島の表情からすぐに伝わった。


 ブランデーグラスを空にすると、カッ!とテーブルに置き、室富は吐き出すように笑った。


「捕まえる?見るからにフニャったそいつが?この俺を?」


 川島は馬鹿にされ、室富に駆け寄ろうとした。だが佐久間に止められた。


「おっさん、止めなくてもいいぜ。そいつにマシンガンを持たせても、俺を捕まえるなんて出来やしねえ。実力は一目で判る」


「貴様!犯罪者の分際で、僕をバカにするか!」


 バタバタと佐久間の静止を振り解こうとする川島。


「待て待て、あの男を捕まえても、事件解決には繋がらん。もし繋がるなら警部補ねえさんとて放置しねえ」


「そんなことは逮捕をした後の取り調べで確認することです。事件の容疑者として警察が正式に追っている以上、捕まえるのは我々の仕事です!」


「お前の言うことは、まぁ理解するとして…、さっきも聞いたが、どうして室富は“ここ”にいると判っていたんだ?」


 やりとりを見ていた六堂の携帯がポケットの中で振動した。(ちょっと悪い)と手を出してそう示すと、反対の方を向いて通話ボタンを押した。


 相手は美雪の母親だった。普通に挨拶から始まった電話だと思ったのも束の間、六堂の声色が変わった。芳しくない様子が窺える。


「…え?美雪がいない」


 その言葉が耳に入ると、涼子は六堂の方を振り向いた。


「あ、いえ、一緒には…ええ…わかりました。まだ涼子さんといるので…はい、はい、失礼します」


 電話を切ると、六堂は少し上を、向いて間を空けた。


「伊乃…、美雪ちゃんがどうした?」


 涼子が尋ねると、その質問には答えず六堂は川島の側に歩み寄った。


 川島は(何だ?)という顔で六堂を見た。


「…お前、まだ何か隠してるだろ?」


「何?」


「…俺の友人の喪主の娘が、葬儀会場から姿を消した」


「は、はあ?」


 母親からの電話は、“美雪がいなくなった”という内容だった。


 六堂たちが食事会に参加せず、会場を出るまでは確かにいた。


 その後、母親も娘を見掛けないなと思ってはいたが、忙しくそこまで気にしていなかったらしい。しばらくして不審に思い、携帯に電話したが、電源が切られているのか通じなかったという。


 美雪が葬儀会場を出る理由はない。この今の状況を考えると、偶然とは思えないと六堂は、川島を疑った。


 自分たちの行動の裏に、黒幕と繋がる内通者がいることは判っている。その大元が川島であることも。


 その川島が、まるで縁のないスターズブルーの前に、室富がいるこのタイミングでいたことは、何かまだ言ってないことがあるのだろうと、六堂は察した。


 六堂の威圧的な目が尋常でないことに、気圧される川島。セントホークの事件現場で、佐久間に“あの男にケチつけるのはやめておけ”と言われたことを思い出した。だが、それでも口を紡ぐ。


 “ビルで直接命を狙われた”こと、そして“明日美からの話”で、事件の黒幕が庄司エンタープライズであることははっきりしている。もちろん表立っての証拠はまだ何もないが、事実としてそれは間違いない。


 そして恵の葬儀会場で、美雪が消えた。


 美雪が奴らに拉致されたとして、どうして狙われたかを考える六堂。


 これまではセントホーク事件に関わる者の命が狙われてきたが、美雪にそれはない。理由に最も近いことと言えば、姉が現場にいたことだけ。


「姉…恵との接点…とするなら、俺と…涼子さんが、関係者であることを知られたってことになるか。だがそうだとして、恵の葬儀のことを、庄司の連中が調べるに至るまでって…そんなことあるか?」


 今の話を聞いて佐久間はハッとした。


「警部補…あんた、赤い車…。この二日ずっとあれで移動を?」


「…ええ、そうよ」


 佐久間のその発言に、川島は黙ったままだが、口を一文字に目を丸くした。


「…てめえ川島、警部補ねえさんの車に何か仕掛けたな!」


「え?」


 涼子は訝しげな顔をした。


 何故スターズブルー(ここ)にいたか答えない川島だが、葬儀会場と、どちらも涼子が愛車ポルシェで向かっている。


 昨夜、室富探しで、新宿の交番に寄った際、強引に涼子に置いて行かれた愛車ポルシェそれを動かせずに困っていた佐竹という警官の代わりに、川島が駐車したことを、佐久間は思い出した。


 警官の話から、涼子の車だとわかり苦笑したが、それを動かせる川島は、さすが“坊ちゃん”とその時は思った佐久間だったが…。


 涼子は事情を聞くと、不出来な部下とはいえ、盗聴の件に加え、さらに裏切られたのかと腹を立てた。


 怒った涼子は、川島の襟首を掴み、大声で怒声を浴びせた。


 さっきの六堂の目つきも相当なものだったが、本気で怒った涼子のそれは、更に上を行く空気感が漂っていた。


 川島は力が抜けたように椅子に座り込み、両腕を両膝に乗せて下を向いた。


 異性として好意を抱いてた涼子の、まるで想像もしたことなかった恐ろしい姿に完全に恐怖したことと、ショックさに何か折れたのか、喋り始める川島。


 彼は確かに涼子の愛車ポルシェに、発信器を着けていた。シートの下だ。


 盗聴器と同じく、佐々木から渡されていたらしい。


 水戸を私的に使っていること、木戸親子の居場所を教えないことなどを理由に、違反行為の情報を教えるように佐々木から指示を受けたいたと。


「…馬鹿な。その件は、課長と話が着いてる!くそ!つまり、私の動きが佐々木に筒抜けになってたわけか…」


 川島が交番で車に発信機を付けてからの、涼子のこの一日での主要な移動場所は、『木崎のマンション』、『夕紀の働いている喫茶店“Secret story”』、『木戸親子や水戸らのいる倉庫』、そして『恵の葬儀を行った会館』と、この『スターズブルー』だ。


「まずいな…、木崎と、夕紀ちゃんの所に寄っているんだ…」


 涼子は慌ててポケットから携帯を取り出した。


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