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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第三十四話 恵との別れ

「この喪服、どこから持ってきたの?」


 六堂は、女性スタッフ用更衣スペースを仕切るカーテンの向こうにいる涼子に尋ねた。


 当然、六堂の家に入れるわけもなく、よく用意したものだと感心していた。


「あの倉庫よ、水戸君たちの様子を見るついでにね」


「へえ…こんなものあったっけか?」


「知らないわよ。あったから持ってきただけよ。まだ他にもあなたの私物沢山あったわよ」


 水戸たちが隠れ家にしている倉庫、かつて涼子に厳しく“しごかれた場所″だが、同時に裏社会に身を置いていた頃の六堂の住処でもあった。


 六堂は、ビルでの銃撃戦で掠めた腕の血をタオルで拭き取っていた。椅子に投げかけたシャツも腕が破け、赤く滲んでいた。


 先に着替え終えた涼子がカーテンを開けて出てくると、苦笑して上半身裸の六堂を見た。


「…ん、何?」


 救急箱から大きめ絆創膏を腕に貼り付けながら、六堂は涼子の視線を気にした。


「いいえ、無理してと思って」


「…無理はあいつらだよ…いきなり殺そうとしきて」


 “セキュリティーサービス”を名乗ってはいたが、恐らく昨夜路地で出会した、目出し帽の男と、“同じ”仲間であろう。六堂はそう思っていた。


 木戸家や、合田の住処で涼子を襲った男たちも含め、話からも、何かの組織に属してる兵士であることは間違いないとは思っていたが、ビルでの警備を見てそれは確証を得た。


 庄司セキュリティーサービスの格好をしてはいるが、本人たちは別組織なのだろう。


 明日美が“知らない”と言っていたことからも、それは間違いないだろう。


ーー明日美…。


 ふと、そんな明日美のことを考える。無事、あの場から逃げられたろうかと。


 本当はシャワーを浴びたい六堂だったが、通夜まで時間がない。ラッドに持ってきてもらった、暖かいおしぼりで、顔の汚れや、汗を拭いて、喪服に着替えた。


 車を失った六堂は、涼子のポルシェに乗せてもらい、二人は恵の通夜が執り行われる会場に向かった。


 大通りは、さっきの連中がドンパチをやらかした現場保存と捜査のために渋滞しているだろうと、遠回りでも裏道を通り抜けることにした。


 法的に微妙な権限のあるカンパニーズアーミーが絡む件は、捜査が面倒になる。庄司エンタープライズのような巨大な会社になると尚のことだ。


 会場は西日暮里。スターズブルーからは車で三、四十分かかる場所だ。


 六堂は助手席のシートを少し倒し、目を瞑った。


 そんな彼に、何も言わない涼子。


ーー銃撃戦のあとの通夜か…


 倉庫に寄った時に、昨夜六堂が救った老人がいて驚いた。事情を聞けば、彼らしいとも思ったが、そこでも“目出し帽の男″との一戦があったことを聞き、休みなく事件を追う六堂の疲労を考えられば、車の中でも休むのは大事だと思った。



 恵の通夜には何とか間に合った。彼女との最後のお別れである。


 見るに耐えなかった病院で対面した時とは違い、葬儀社の見事な技術で、顔は綺麗になっていた。まるで眠っているだけで、今にも目を開けるのではとさえ、思った。


 一気に大勢の警察官が殉職したからなのか、思いの外、警察関係者の数は少なかったが、時折、涼子の顔見て頭を下げるものたちが目についた、


 無事に通夜を終えると、六堂は涼子とそのまま葬儀会館にある宿泊施設に泊まり、明日朝からの出棺と本葬に参列するスケジュールだった。


 部屋に備えられてるバスルームで、ようやく体を洗えた六堂。通夜の間、冷静を繕っていた彼の糸が切れた。


 シャワーの流れ出る音に混じり、静かに泣いた。恵の死が悲しい、本当に悲しいのだった。




 シャワー終えてバスルームを出ると、畳の部屋に敷かれた布団の上で、待っていた涼子は寝落ちしていた。


 彼女も相当疲れているのだろうと、六堂は起こさず、部屋を出た。


 時間も遅く、お香の匂い漂う会館内は静かだった。六堂はその中を、恵の眠っている棺のある部屋に向かった。


 部屋は、蝋燭と線香が絶えず焚かれており、その間に故人への焼香は幾度やってと構わないと会館スタッフに言われていたので、もう一目、恵を見ようと思ったのだ。


 明日朝には出棺してしまう。他の参列者もいる中では、ゆっくりと最後の顔を見ることは出来ないだろうと思ってだ。


ーー…ん?美雪。


 部屋には美雪がいた。姉に何か話をしている様だった。


「…お邪魔だったかな?」


 振り返ると、美雪は涙を拭った。


「ううん…伊乃さんも、お姉ちゃんに会いに来たんだね」


「ああ…」


 美雪の隣に立ち、恵の顔を見る六堂。


 彼女の気持ちに、真っ直ぐに答えたことは一度もなかった。いつもいるのがお互いに当たり前だったから。


「悲しい…本当悲しいよ伊乃さん…」


 震えながら涙を流す美雪にそっと寄り添い、六堂は彼女の頭を抱き寄せ胸を貸した。


 美雪はその中でひたすら泣き続けた。



 美雪が落ち着くまで一緒にいた六堂はしばらくしてから、宿泊部屋に戻った。


 翌日、朝から出棺、火葬、そして本葬が滞りなくなく済むと、その後の会食は、事件の捜査(調査)を理由にお断りし会館を後にし、六堂と涼子はスターズブルーに戻った。


 時間はお昼過ぎ。まだ店は開いてないが、ラッドは昨夜から谷中と残っていてくれていた。


 ジーナは医者の治療で一命は取り留めた。医者は帰ったが、そのアシスタントの看護師ナースが残り、点滴を替えたり容体の確認をしていた。もちろん看護師といっても、資格を持ってるだけの本業は裏家業に精通した人間だ。


 室富は勝手に店を出ることなく、スタッフルームで大人しくしていた。昨日までの七三分けではなく、ワイルドなヘアスタイルになっていたが、怪我人ジーナに気遣い煙草も我慢していた。


 変わったことといえば、そこに佐久間と川島がいたことだった。


「…何?何であなたたちがここに?」


 驚く涼子。


 目線を逸らし、暗い顔な川島と、鋭い目つきで怒っているような佐久間。

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