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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第二十九話 脱出路

 入ってきた硝子張りが防弾使用なのを確認する六堂と室富。


防弾それですか?ここは、最重役の部屋ですから、セキュリティーはかなりのものです」


 硝子を見ている二人に明日美は説明をした。


「ここに入るための“このカード”も一度スキャンをするともう使えません。プログラムが書き換えられてしまいます。本当の緊急用です」


「君はカード(それ)をどうして?」


 六堂が尋ねると、明日美は部屋内の廊下の直角に曲がってる先を指し示した。


「説明はしますから、こちらに来てください、立ち話してる時間はありません」


 二人はジーナを抱えて、明日美の後に付いていく。


 曲がった所にもう一つ扉があり、そこはまた別なカードをポーチから取り出して、ロックを解除した。


「そのカードも一度きりか?」


 六堂が尋ねると、頷く明日美。


 扉を開けると、中は高級ホテルのスイートかと思わされる、広くゴージャスな部屋が目に入った。


「…大企業のお偉いさんのプライベートルームは色々見てきたが…これはまた凄いな」


 室富は部屋を見回しながら言った。洋間、和室、ホームバー…思わずため息が漏れる。


「…さっきも聞いたが、君はなぜこの部屋に入れるんだ?」


 六堂が再度尋ねると、部屋を見ていた室富も踵を返し、明日美の方を向いた。


「話せば長いのですが…簡潔に言えば、私は副社長の特殊任務を請け負ってるアーミーなんです。探偵さん…いえ、蒼光そうこうと呼ばれた裏社会きっての刀士とうし、六堂さん」


 明日美の返答以外の言葉に、六堂はほんの少し厳しい表情を見せた。


 室富は、右手を前に出し、二人の間に入った。


「待て待て、副社長?副社長って、それがあんたのボス?そして、この“にいちゃん”は刀士?え、お前刀士なの?」


 “刀士”とは、いにしえの時代から闇の世界、今で言えば裏社会にいたとされる戦士のことだ。現代において数は決して多くはない。


「ええ、そうです」と明日美が、「“元”…だ」と六堂が、


それぞれ室富の質問に答えた。


「そういう“お前”こそ、謎なんだよ。セントホーク事件にどう絡んでる?」


 六堂は力強く人差し指を室富に向けた。


「俺も色々複雑なんだ…一言で答えられん」


「言っておくが、俺はセントホーク事件を追ってお前を、散々探したんだ」


「そっちの事情なんぞ俺が知るか!」


 今度は、明日美が二人の「待ってください!」と言い、間に入った。


「まだビルから出たわけじゃありません。こちらの女性に適切な治療を受けさせるためにも、ここからの脱出を急ぎましょうよ」


 六堂と室富は一度見合うと、明日美の、方を向いて不満気に頷いた。


 明日美は、部屋にあるホームバーに並んでいるブランデーのボトルを三本置き換えた。すると、カウンター下にある床が開いた。


 驚く六堂と室富。一体どういう仕掛けなんだろうかと。


 明日美は屈んで、開いた床を覗き見た。


「OK、行きましょう」


 聞きたいことがか増えるばかりの六堂だが、黙って明日美に言われた通り付いていくことを考えた。


 一度ジーナを室富に支えさせ、上着を脱いでから彼女をおんぶする。そして、脱いだ上着をまわして、自分とジーナを結んだ。


「…っしょっと!痛むだろうけど、我慢してくれよ」


 ジーナは黙って頷いた。


 床下は、金属製の足場で使う階段が下に続いていた。というより、そこから足場そのものが、ずっと続いている。


「大声じゃなければ、しゃべっても大丈夫ですよ、六堂さん」


「…マジ?」


「ええ。ここは、外壁の内側で、ビル本体との間になります。本体側の壁も厚く防音です」


「つまり、このビルは二重に外壁があるってことか?」


「もちろんビル全部じゃありませんけど…」


 明日美の説明によると、ここの存在は副社長の庄司しょうじ わたるが自身の関わる特定の業者に、正式な設計図を巧妙に入れ替えさせて、作らせたものらしかった。


 名目は、ボンボンが女性遊びをするための秘密部屋プライベートルーム作り。


 庄司 弥は、庄司エンタープライズ社長の息子だ。


 巨大企業の時期トップであろう自分が女性問題でスキャンダルネタを掴まれたくないということで、プライベートルームを作ることを父親に許可してもらったそうだ。


 その時に部屋のための特定の業者を使って、実はこの秘密の通路作りをさせた。


「…副社長は、会社のために戦っている人です。その活動のために、ここを秘密裏に作ったんです」


「戦うって誰と?」


「父親である社長を筆頭に、社内で悪業に手を染める役員や、上役の社員たちとです」


「…やはり派閥争いか」


「そう言いたいですが…、派閥なんてそんな立派なものではありません。副社長が堂々と派を立てているわけではないので」


 庄司エンタープライズは、強大な力を持つ国際企業。何をしても許されるくらい、その地位は、特に日本では約束されている。それ故、政治との癒着、テログループへの援助など非合法な活動を多々行ってきた。


 庄司 弥は、そのトップの息子としてその中で育ってきたが、父親とは違った。


 企業は平和と人の役に立ち、その対価として稼がせてもらう、この当たり前のことをやるべきという考えを持っている。庄司エンタープライズほどの力があれば、どれだけ平和に貢献し、社会の生活を楽に出来るか…、まさにそういったことを自由に行いたいという信念が若い頃からあったという。


 そのために“従順な息子を演じ”つつ、社内の膿を取り除くべく秘密裏に戦い続けてきた。


「…六堂さんはもう解ってると思いますが、セントホーク事件は、庄司エンタープライズの人間が起こしたものです」


――敵対派との強弱の対比や、詳細はともかく、俺の最初の予想はばつあらそいは当たってたってこと…か。


 この時、ふと“江村”の顔が思い浮かんだ。何か隠しているのはあった時に察してはいたが、太々しく否定して笑っていた顔がじわじわと腹立たしく思えてきた。


「…だがセントホーク事件について、その動機はわからないな」


「私もそこまでは…。私の役目は“監視”です。受付に立って、報告の必要な人間の確認、場合によっては調査をすることです」


「へえ…。俺のことは、どこで知った?いや、判ったのか、と聞くべきか」


 明日美は少し間を空けた。


「…私も元は裏社会の人間です」


「…引き抜きか?」


「ええ、そう。庄司セキュリティーサービスに。そして、実は裏社会に身を置いてた頃に、あなたに一度会ったことあるんです」


 意外な発言に六堂は少し目を丸くした。


「へえ…どこで?」


「Étoile d'argentエトワール・ダルジャン


 店の名前は微かに記憶にあったが、明日美のことは思い出せない六堂。


「…わるいな、ちょっと憶えてないな」


「いいえ。そりゃそうでしょう。雰囲気は随分違ってて、最初は見間違えかと思いましたが…目元や耳の形、あとは左手の小さな傷跡で…ああ間違いないなって」


 ジーナが、“左手を見てた”と言ってたことを思い出す。


――はは…薬指を見たわけじゃなかったのか


 明日美が監視役になったのは、記憶力と観察力なのだろうと、六堂は理解した。


「左手、何、昔その店で会ったって時に見たの?」


 明日美は少し気まずそうな口調になる。


「その時、酔ってて…“噂の蒼光”を誘惑して口説こうとしたんです。その時に手を握って」


 六堂はふとその時のことを断片的に思い出した。


「あ…何となく…思い出してきた」


「こんなんじゃなかったですけどね。口も悪くて、見た目も違ってました私も」


 確かに、あの時声をかけてきた女はギャルっぽいというか、以下にも悪そうなナリだった気がした。


「…裏社会の噂ではあなたは死んだと。あの“阿修羅あしゅら 才蔵さいぞうを倒したあと姿を見た者はいないと」


 六堂は首を振った。


「俺は生きてるし、才蔵あいつは俺が倒したというより、他の人間の協力があって勝っただけだよ」


 黙って六堂と明日美の話を聞いていた室富が口を開いた。明日美にだ。


「…俺からも少しいいか?」


「ええ」


「前田のボスも副社長か?」


「そうですね」


「そうか…。あんたは前田の…」


 首を振る明日美。


「前田専務のことは、私は知っていましたが、あちらは多分こちらのことは知らなかったと思います」


「この“にいちゃん”がメールしてから来るのが早かったのは何でだ?」


「ああ…それは気になりますよね。簡単に言えば、既に二十八階フロアにいたから…ですね」


 前田と連絡が取れないことで、嫌な予感がした明日美は、六堂とジーナが上に向かったあとに、持ち場を離れて後を追うように向かったという。


「…六堂さんが事件を調べてることを知って、副社長に連絡を取りました」


「あの江村に会いに来た日か」


「ええ。裏社会の伝説、蒼光の介入はあるいは事件の解決に……。手助けをするよう指示を受けまして」


「まさか、それで連絡先を?」


 頷く明日美を見て、六堂は苦笑した。


「わからないよ。俺に気があるのかと」


「まぁ、ないわけでもなかったので…」Étoile d'argentのリベンジという意味では」


 そろそろ足場の板と階段が終わりが見えてきた。

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