表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
30/96

第二十八話 受付嬢

 六堂たちは、前田のオフィスのある二十八階の、掃除用具や資材の保管をしている倉庫部屋に隠れていた。


 エレベーターを使えばすぐに動きもバレて、待ち伏せされるだけ。おそらく非常階段も抑えられてるだろう。


 ダクトやエレベーターシャフトを掻い潜ることも考えたが、高層ビルでそれをやるには負傷したジーナと一緒では無理があった。


 この倉庫は幸い、監視カメラはない。とはいえ、そう長く留まっていては見つかるのは時間の問題だ。


 そもそも、ジーナの怪我を考えれば、すぐに治療するためにも、早くここを離脱しなくてはいけなかった。


「で、どうする?」


 六堂が尋ねると、室富は床に座り込んで壁に寄りかかり、ため息をついた。


「“一旦安全な場所”って言っても、あと何分もここにないられないぞ」


「…わかってるよ。本当はな、奴らの一人をやっつけて、あの制服奪って逃げようかと思ったんだけどな…。俺一人なら…」


「…なぜそうしなかった?」


「さっきも言ったろ。“顔見知り”がいて、気になったんだ」


 黒眼鏡を少し下げ、ジーナの方を見る室富。


 見るからに具合の悪そうなジーナは片目で、室富を睨むように見ていた。そして息絶え絶えに小さな声で言った。


「… Unconscious」


 室富は黒眼鏡を目の位置に戻すと「あん?」と言った。


「…Youに…助けられるとは、“不覚”って言ったのよ」


 それを聞いた室富は、肩をすくめて、首を振った。


 六堂は、前田と秘書の遺体のことを尋ねようとする。


「室富…一応聞くが…」

「俺じゃねえよ」


 だが、質問を言い終える前に、室富は答えを被せた。


「そうか…なら今はこれ以上聞かない。あとでゆっくり話をしよう」


「…そのつもりはない。とっととここからズラかって、お前らともサヨウナラだ」


 そう返す室富だが、聞きたいことは色々ある。しかし今は彼の言う通り、“とっとと”このビルからの離脱方法を考えなけらばならない。


 とりあえず室富は“話が通じる相手”であることと、“腕は確か”だと判断し、今はそれで十分だと思った。


「さて…どうしたものか…」


 涼子に助けを求めたとして、ビル内は封鎖中。“社内トラブル”と言われれば、警察に無理な介入はできない。


 仮に警察が上手く入り込めたとして、涼子なり、他の警官にこの広いビル内で、自分たちを見つけ出してもらう前に、警備に殺されてしまう可能性が高く、何より時間的にジーナの身体が持たない。



――くっそ…


 六堂は、頭を抱えた。


 これまで幾多の修羅場を経験してきた六堂だが正直、八方塞がりだと言わざる得ない状況だった。


 あの“志賀”と名乗った男を始め、まるで軍の兵士のような警備員の強さに加え、このセキュリティレベルの高い高層ビルで、不利な状況に追い込まれてしまった。


 室富の介入がなければ、この倉庫部屋にもいられなかったろうが…そこは彼に感謝をしていた。


「Sorry…ゴメン、リクドウ…」


 脂汗を流しながら、ジーナーは謝った。自分から手伝うと言って、脚を引っ張るどころか、命の危険に晒していることに、不甲斐なさと申し訳なさで一杯になっていた。


「…謝るなよ。俺たちが相手にしてる連中が、思っていたよりヤバかった、その結果だ」


 微笑みながら、そう返す六堂に、ジーナは(こんな時までそんな笑顔見せないでよ…)と、複雑な思いを感じた。


 自分が囮になり、その間に室富にジーナを連れて逃げてもらう…六堂がそんなことモヤッとを頭で描いているとと、ふと思い出したことがあった。


 六堂はポケットから折られた紙を取り出して見た。


「……」


そして携帯も取り出し、メールを打ち始めた。


 室富はそんな六堂に訝しげな顔をした。


「何だ?誰かに助けのメールでもしてるのか?恐らく今ビルは外部からの人間は入れないぞ」


 室富がそう言うと、六堂は苦笑した。


「わかってるよ…だからビル内の人間に…助けを求めてみようかと」


「…他に仲間でもいるのか?」


「いや…。だから“ダメ元”、賭けだ」


「…は?」


 受付嬢からもらった、電話番号とメールアドレスの書かれた紙を見せる六堂。


「…下の受付の子、わかるか?」


「あ、ああ、結構美人の…」


「あの子から、これもらってて…」


「マジか?お前…やるなぁ…って何?受付の女に“助けて”ってメールしたの?」


「いや、“デートしませんか?”って」


 室富は呆れた顔をした。


「居場所教えたのか!バカかお前…あの子とてここの社員だ。警備の連中に報告しておわりだ」


 六堂は、両手を広げて前に出し、(まあまあ)と宥めた。


「どうせこのままでも、状況の好転はない。ただ殺されるのを待つだけなら賭けてもいいだろ?」


「アホすぎる!仮にあの子が何とかしようとしたとしても、主要な出入り口はロックされてるだろうし、ウロウロしてりゃ警備に怪しまれて終わりだ」


「じゃあ、このままでいいのかよ?」


「そうじゃなくて、何かするにも他の手を…」


 コンコン…


 二人の会話を遮るように、小さなノックのような音がドアから聞こえた。


 六堂と室富は、同時に口を一文字に声を殺した。


――やべ…声デカかったか?


 室富は、六堂へのツッコミに思わず大きな声を出してしまったことに、“しまった”と感じた。


 ただ、六堂の行動が無謀且つ、信じ難いものであったことは事実だ。助けに戻ったことを急激に後悔し始めていた。


 コンコン…


 小さな音だが、確かに間違いなくノックだ。自分達を探して警備たちが丁寧にノックをすることはない。


 六堂と室富は、お互い目を合わせると軽く頷き合い、ホルスターから拳銃を抜き取った。


 室富がドアの前で拳銃を構えると、六堂は右肘を奥に下げて拳銃を覗き込む顔の側で構え、そっとドアを開けた。


「…!」


 開けたドアの隙間を見た六堂は目を丸くした。


 六堂のその表情を見た室富は何事かと思い、銃口をドアに向けたまま、向こう側が見える位置にゆっくり横に動いた。 


 見えたその顔は、メールを送った相手の受付嬢だったのだ。


 何に驚いたか、実際に彼女が目の前にいることは勿論だが、何よりメールをしてから何分も経っていないことだ。


 受付嬢は、周囲を見回し、サッと倉庫部屋に入り、ドアを静かに閉めた。


「えと…明日香さ」

「明日美です」


 名前を間違える六堂に被せるように名を名乗る受付嬢。


「メールも、名前間違えてましたよ」


「え?あれ、そう?」


「ちゃんとメモ見てないでしょ?私にはあまり興味は湧かなかったですか?」


 受付にいる時とは異なる表情で、片眉を下げた苦笑いの明日美。


「おい、この“にいちゃん”がメールして、どうやって来た?何より早すぎる…」


 室富は拳銃を構えたまま、明日美にそう問うた。


「無事でしたか、“室田”さん」


 明日美は少し“わざとらしい笑顔”で、会釈をしてみせた。


「むろ…た?」


 六堂が訝しげな顔を見せると、室富は「いいんだ、気にするな」と手と首を振った。


「それより、質問に答えろ」


 室富は銃口を向けたままそう言うと、明日美は持っていた小さなポーチを側の資材棚の空いてる所に置き、制服のマーメイドスカートを捲って、太ももを見せた。


 右太ももの外側には小さな拳銃の入った、レッグホルスターが装着されている。スカートから膨らみがわからない程度の小さな拳銃、“ベレッタ・ナノ”だろうか。


 そして左内腿には、ナイフホルダーが装着されていた。


 スカートを下ろすと、ポケットから髪留めゴムを取り出し、長い髪をまとめながら、説明を始めた。


「私は、庄司エンタープライズのカンパニーズアーミーです」


「…ちょっと待て。それじゃ今俺たちを探してる連中にの仲間じゃねえのか?」


 明日美は、苦笑しながら、ポーチを開けた。


「知りません。今ビル内にいる連中は、本物のセキュリティサービスではないですし」


「…どういうことだ?」


 聞き返す室富の銃口に、六堂は手を当て下に下げさせた。


「ま、いいだろ?とりあえず、話はここでき聞かなくてもさ」


「このままツッコミどころ満載のこの女を信じろというのか?」


「それは“もっともな話”だが、仮に罠にハメるとして、こんな面倒なことしないだろ。大声出せばいいだけだし、ね?」


 六堂が明日美に「ね?」と笑顔で言うと、彼女は微笑み返した。


「ありがとう探偵さん」


 明日美はポーチから小さなスプレーと、戦地でも使う特殊な止血テープを取り出した。


 そしてジーナの側に寄り屈んだ。


「大丈夫ですか?」


 容体を尋ねると、ジーナは目を開けないまま苦笑して、親指でグッドサインをしてみせた。


 明日美は、六堂に壁に寄りかかってるジーナを起こして支えるよう指示し、血塗れの上着とシャツを捲った。


 スプレーは、緊急時の止血のための接着効果のあるもので、噴霧した上からテープでぐるぐると腹部を巻いた。


「痛む?ごめんなさいね。これから移動するのに血の跡を残しては、すぐに追跡されちゃうから」


 苦しそうなジーナの顔を見ながら、明日美はそう言った。


「よし、とりあえずこれでよしっと。探偵さん、彼女を立たせて。移動します」


 六堂は、明日美の指示に従って、ジーナの右腕を肩を回すと、黙って見ていた室富も拳銃をホルスターにしまい、左腕を肩にまわした。


「よし、いいぞ」


 ドアをそっと開けて廊下を見ていた明日美にそう言うと、四人は倉庫部屋を後にした。


 明日美は、倉庫部屋からほど近い、非常階段に向かった。その後に続く六堂たち。


ーー非常階段にも警備がいるだろう?


 そう思った六堂だが、明日美は振り返って人差し指を立てて口元に当てると、履いていたヒールを脱いだ。そしてドアをそっと開ける。


 予想通り、警備の人間が複数人いるようだった。足音や、無線音がいくつも聞こえてくる。


 明日美は、声を出さずに人差し指で上を示した。


 指示の通り、六堂たちは足音を立てずに明日美の後に付いて二階上の、三十階のフロアまで上がった。


 三十階のドアを静かに開けて、フロアの廊下に出ると、更に硝子張りの扉があった。


 明日美は、ポーチからカードを取り出し、硝子張りの扉横にあるセキュリティー装置にスキャンをした。すると、ロックが解除される。


 硝子張りの向こう側へ行くと、明日美は軽くため息をついた。


「…もう声出してもいいですよ」


 そう言われると、六堂と室富は一瞬お互いを見た。


「…本当に?」


 六堂が尋ねると、明日美は頷いた。


「ええ、ここにあの警備れんちゅうは入れません」


「ここは?」


「副社長室兼プライベートの住居です」


 明日美は手にしていたヒールを下に置いて、履いた。


「この奥に、副社長のオフィスと、とっても豪華なお部屋がありますよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ