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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第二十六話 迫る危機

 ジーナは、走り去る室富を追うか迷ったが、彼が“逃げること”と“姿消すこと”に長けていることを思い出し、勢いで行動するのをやめた。


 捕まえようと追うことこそが、室富の思うツボなのだと。


「ケガは?」


 ジーナは後腰のホルスターに拳銃をしまうと、六堂を心配した。


「ああ、大丈夫」


 そう返答するが、六堂の手に血のようなものが見えた。


「リクドウ、怪我してるんじゃない?」


「これか?」


 自分の手に付いてる血を示す六堂は、首を振った。


「俺のじゃない。奴が俺の銃を払った時に付着したんだ」


 六堂は床に倒れている男女を指差した。


「あの二人の血…だろうな」


 ビル外を見渡せる全面硝子の、広くてとても立派なオフィス。二日前に会った江村の部屋より立派だ。


 だがその床は、大量の血で惨劇の現場と化している。


 六堂は倒れている男女の首に手を当て、脈がないのを確認した。間違いなく死亡している。思わずため息が漏れた。


「これは、前田で…こっちの女性がきっと秘書だな」


 六堂は、前田の顔を警察の資料や、会社のホームページで、確認はしていた。


 倒れていたのは間違いなく前田だ。仰向けで倒れている。見た感じでは、喉を切られ、胸を一突きにされているようだ。


 ジーナは片膝をついて、二人の遺体を確認した。


「これ…ムロトミが?」


 難しい表情で首を振る六堂。


「わからん。だが俺たちで奴を捕まえないと…警備に見つかったら、警察に突き出されてしまう。そうなれば、俺たちの知りたい情報が得られなくなる」


 ジーナは頷き、二人はオフィスの外に出ようとした。


 しかし、廊下で待つように言っておいた佐藤が、ドアの隙間から、惨劇のオフィス内を覗いてしまっていた。


 血塗れの上司、前田の遺体を目の当たりにし、顔を青くした。


「…な、何だ、何だよこれ!!」


 慌て叫ぶ佐藤。ついさきっきまで一緒に仕事をしていた上司の凄惨な姿を見れば、平然とはしていられないのは当然だ。


「佐藤さん」


 六堂は何とか左藤を落ち着かせようとすした。だが、佐藤は近づく六堂をどかして、オフィスの中に入ってきた。


「今、廊下で…手に血を着けた男とすれ違ったんだ。この部屋から出て来た男とだ!!」


 左藤は慌てて内線で、社内にあるセキュリティーサービスステーションにここのことを報告した。六堂が止めようとするのにも耳を貸さずにだ。


 ビル内は突然サイレンが鳴りだし、緊急時のアナウンスが流れ始めた。主要な出入り口はロックされているはずだ。


「まいったな…さすが大企業だ、警備のレベルは高いな」


 ここまでの騒ぎになってしまっては、室富を追うのは難しい。先の読めない自体になってしまったが、だからといって佐藤のことは責められない。


「リクドウ……」


 不安気な声のジーナ。


「わかってるよ…状況はよくない。だが今は下手に動くのはよそう…」


 ジーナの肩に手を乗せて、六堂は微笑みながら言った。


 冷静な六堂の顔を見て、ジーナも軽く笑み、頷いた。


 エレベータからボディアーマーに身を包み、ライフルを装備した警備員が数名降りて、こちらに向かって来た。


 まるで兵隊だ。庄司エンタープライズのカンパニーズアーミーだろうか。


 その中で、一番前を歩いていた、屈強そうな男は、六堂たち三人の前で立ち止まった。


「庄司セキュリティサービスの責任者、志賀だ。ステーションに連絡をしたのは、君か?」


「あ、はい、左藤です」


 “志賀”と名乗った男は、引き連れてきた警備員たちに指示をし、前田のオフィスを封鎖させた。


 あまりに手慣れた指示の仕方に、六堂は訝し気にその様子を見ていた。まるで兵士さながらだ。


「…捜索と警備を続行せよ。犯人は身長180〜それ以上。サングラスを着用しているかもしれない。衣服、特に袖に血が付着している。武器も所持している可能性がある。各自慎重に行動してくれ」


 ザーッという音と共に、ビル内の封鎖完了の連絡が無線に入ると、志賀はそう指示をした。


「それで、君たちは?」


 交信を終了すると、ハンディ型の無線機を腰のホルダーに入れ、志賀は六堂とジーナを見て尋ねた。


「…遺体の第一発見者で、私立探偵の六堂という者です」


 六堂はバッジを見せた。


「こちらは、今、私の調査方法のアドバイザーとして同行してもらっているロス市警のフォスター刑事」


 志賀は六堂を見つめた。その表情、目つきからは、どのようなことを考え、思っているのかが判らない。完璧なポーカーフェイスというやつだ。


 ただものじゃない。


 それが気になった六堂は目を細めながら尋ねた。


「何か?」


 志賀は腕組みをして、鼻でため息をついた。


 「君たちが…そうか」


 質問に答えるでもなく、志賀はそう言った。


 六堂とジーナはチラリと目を合わせ、互いに不審な顔をした。何か違和感を感じたのだ。


「前田のところまで来ようとはな」


 志賀は顎に手をやり、考え事でもしているように黙り込んだ。


 そして冷徹な目つき、口調で言った。


「仕方ない。少しシナリオを変えるか…」

 

 志賀は腰に着けていたナイフをホルダーから抜き取り、逆手に持ったかと思うと、一瞬で側にいた左藤の喉を切り裂いた。


「なに!」


 目にも止まらない速さ、鮮やかな動きに、六堂とジーナは目を広げて、その突然のことに驚いた。

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