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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第二十五話 本社ビルへ再び


「今日はどのようなご用件ですか?」


 魅力的な笑顔で応対する受付嬢。


 六堂は、彼女から電話番号とメールアドレスを記した紙をもらっていたことを思い出す。正直そのことは忘れていた。


 実は、上着の胸ポケットにまだその時の紙が入っている。


 仕事だからなのかもしれないが、笑顔だけではなく、所作の美しさも魅力的な彼女。


 普通の男なら、こんな美人から連絡先をもらえたら、嬉し過ぎて興奮するのだろう。


 しかし六堂には、そんなことを考える余裕がなかった。


 何より彼にとっては、恵が亡くなったばかりの今、他の女性が入り込む精神的隙間はなかった。


 とはいえ、興味程度でも自分に好意を持ってくれた気持ちは嬉しいもの。忘れていたことを申し訳なく思った。


 ただ受付嬢は、仕事に徹している。特に微妙な顔をするでもない。


「前田栄蔵氏に話を聞きたくて。でもアポは取ってないんだ…。会えるかな?」


 一瞬、色々と考えた六堂だが、自身も仕事に徹した。


「専務の前田ですね。少々お待ちいただけますか?少し前に、来客がありまして、まだ応対中かもしれないので、確認いたします」


 受付嬢は内線の受話器を手にした。


 前田はロス支社長時代に、遺体の男ローデッカーを護衛にしていた。


 ロスで死んだはずの男が日本にいたことは偶然ではないだろう。そしてローデッカーが見えない“何か”と戦ったのは間違いと思われ、前田からは何かしら事件に繋がる情報が少しは得られるだろうと踏んでいた。


 だが、何やら受付嬢の様子がおかしい。


「…出ないのか?」


 受話器を手にし、何度も内線ボタンを押す受付嬢。気になったは六堂は思わず尋ねた。


「はい、申し訳ございません…」


「外出中ということは?」


「いえ、それはないかと…」


 受付嬢は首を振った。


 この会社では役員、社員全員にIDカードがあり、外出時、帰社時には、社内の各フロアの端末でそれをアクセスするのだという。どの人間がビル内に今いるかいないかをモニターを通して確認出来るとのことだ。  


「じゃあ、アクセス忘れということは?」


「それもありません。IDを端末にアクセスしなければ、社内のコンピューター等を扱うことが出来ませんから。それに前田のIDは二時間程前にアクセス済みなんです」


 この時、ふと勘のようなものが、騒ついた。


「どうかしましたか?」


 受付嬢は、六堂の表情が変わったことに気づいた。


「間違いなく、前田氏は社内にはいるはずなんだな?」


「え、は、はい」


「来客は何者だ?」


「外部コンサルタントの人間ですが…」


「…そいつは、間違いないか?」


「前にも、来社された方ですよ」


「……」


 これまでのことを考えると、前田の身に何か起きたのではと、考える六堂。


 そんな彼に、後ろから誰かが声を掛けてきた。


「何か、お困りですか?」


 振り返ると、爽やかな雰囲気の高そうなスーツ姿の若い男が目に入った。


「前田専務の名前が聞こえたもので…立ち聞きみたいで失礼かと思いましたが、お困りの顔に見えたから、トラブルかと…。あ、私は、前田の下で仕事をしてます佐藤と申します」


 受付嬢は当然、佐藤の顔は知っている。


「あ…佐藤さん、専務、内線出ないんですよ。接客中だとは思うのですが…」


「え?おかしいなあ…秘書も出ません?」


「ええ…」


 佐藤は、六堂が私立探偵であることと、用件がセントホーク事件の調査に関することだと確認すると、頷いた。


「…なるほど、解りました。前田ならいるはずです。忙しい方ですが、そういうことでしたら、短い時間でもお会いされると思いますので、私が部屋までご案内しますよ」


 親切な佐藤に、六堂は尋ねた。

 

「御本人を見たのですか?」


 すると佐藤は、持っていた封筒を見せた。


「見たも何も、今日は一緒に他社での会議に出ていました。一緒に戻って来たのですが…、ほら、これ。車に忘れ物をしまして、今取ってきたところなんです」


 納得の返答に、六堂少しほっとした。感じた騒つきも、ここ二日間、神経を張り詰めていたせいかと思った。

 

 六堂とジーナは佐藤に連れられ、エレベータに乗り込んだ。佐藤は二十八階のボタンを押し、ドアを閉める。


 ドアが閉まり、静かになると、佐藤は尋ねた。


「…ちなみな、セントホーク事件と、前田がどういったことなのですか?」


 六堂は、表情は変えず、首を振った。


「調査中のことはあまりお話できませんが…二、三確認したいことがあるだけです」


 それはそうだろうと納得した佐藤はそれ以上は尋ねようとはしなかった。


 ただ、直属の上司且つ重役。気になって訊いたのだった。


「こちらです」


 到着した二十八階廊下は、物凄く静かだ。


 エレベーターから降りてすぐ、シルバーのセキュリティーチェックを自動で行うポール状の機械が二本立っている。


 IDを持っていないと、センサーが反応し、社内の出入り口が封鎖されるシステムのセキュリティだ。六堂は、以前、他の企業や研究所等でも見たことがあった。


 巨大企業の重役の部屋がある階なのだから出入りは厳しいのだろう。


 六堂とジーナは、受付嬢から受け取っていた重役用レベルの来客IDがある。自動で読み取り、セキュリティーは問題なく通過した。


 廊下は、オフィス用のパネル式の絨毯が敷かれ足音は響かない。


 専務室はすぐに見えた。


「あれ?」


 佐藤は専務室の扉を目に入れるなり訝しげな顔をした。


「どうしました?」


 六堂が尋ねると、佐藤は返答せず少し歩幅を広めて、先に見えるドアの方へと歩き始めた。


 佐藤が気にしたのは、そのドアが締まりきっておらず、半分開いていることだった。


 それに気づいた六堂は小走りで佐藤に近付き、彼がドアに向かうのを止めた。


「…何を?」


 六堂は人差し指を口元に立てた。そして真剣な表情で彼に小声で言った。


「あれが前田氏のオフィスですよね?」


「え、ええ…そうですが」


「我々が先に中を見ます。あなたはここで待っててください」


 事情を飲み込めない佐藤は、困惑した。その顔を見た六堂は、佐藤の肩を軽く叩いた。


「説明はあとです…」


 あまりに恐い表情で六堂がそう言うので、佐藤は納得し、黙って頷いた。


 六堂はジーナに、首をくいっと専務室に向けて(行くぞ)と伝えると、二人で拳銃を手にして、前田のオフィスの前に立った。


 六堂が先に入り、ジーナが援護。お互いアイコンタクトでそれを確認する。


 六堂は足でゆっくり閉まり切っていないドアを開け、銃を構えて中に入った。


 すると、三人の人物が目に入った。顔はよく見えないが、二人は床に横たわっていて、一人はその側で片膝を着いて屈んでいた。


 倒れているのは男と女。屈んでいるのは、黒眼鏡をかけた男だ。


 屈んでいた男は、六堂が部屋に入ってきたのを見るや振り返り、慌てて立ち上がった。


そして部屋から出ていこうと走り出す。


「待て!」


 六堂はドアの前に立ち塞がり、男に向けて銃を構えた。


 しかし男は走る勢いをそのままに一気に距離を詰め、六堂の腕を払い除け、掌底で銃口の向きを自分から逸らした。そしてその動きから繋ぐよう肘で六堂の顔目掛けて攻撃を仕掛けた、


 六堂は体勢を崩しながらも、驚異的な反応で攻撃を防ぎ、男の頭を狙ったカウンターのハイキックを放った。


 だが黒眼鏡の男もそのキックを上手くガードした。


 ほんの一秒や二秒の間の、高いレベルでの攻防に、お互いが一瞬冷や汗をかいた。


 キックの勢いでよろめきながらドアに背中を着けた男の顔をよく見た六堂は、驚いた。


「お前、室富……雷朗!?」


 セントホークの監視カメラからの写真とはイメージの違う、七三分けのヘアスタイルにスーツ姿。だが見覚えのある黒眼鏡を掛けたのその顔は間違いなく室富その人だ。


 室富は黒眼鏡を中指でくいっと上に上げ、ずれを直した。


「リクドウ、大丈夫か!?」


 部屋の中で激しい物音に、ジーナも銃を構えて入ってきた。


 彼女の顔を見た室富は冷静さは失っていないものの、驚きの顔を見せた。


「…ジーナ…フォスター」

 

 ロス市警の彼女がどうしてここに、そう思ったのだろう。


「ム…ムロトミ!?」


ジーナは大きな声で叫んだ。


 だが室富は、ジーナを押し退け、部屋の外へと駆け出して行った。

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