第二十二話 夕紀の居場所
“涼子の推測”が濃厚になったことで、水戸は妻子を連れて、木戸一家の隠れている倉庫に行くことにした。水戸も、木戸親子の“見たもの”について聴取室で話を聞いていたからだ。
一緒にその場にいた川島にもそのことを伝えようと何度か電話を入れたが、出なかった。
倉庫に行った水戸の名目は、“木戸家の護衛任務”。
勿論、佐々木には報告はしていない。誰にも知られない倉庫は安全だとしても、実際に何かあった時に守れる者を一人は置いておきたいというのは涼子の考えではあった。
勝手に水戸を護衛任務に着かせたことで、佐々木はカンカンに怒ったことは言うまでもなかった。
涼子の佐々木に対する態度も悪く、ついには課長に呼び出される始末となった。
課長からは、きついお叱りとともに、木戸親子、水戸の居場所を直ちに報告するよう命令を受け、停職の検討すると言われたが、どういう方法を取ったのか、涼子は何のお咎めもなくなり、課長室を後にしたことは、後々知るこになる。
倉庫では、水戸の子供たちと、木戸家の子供たちが、互いに遊び相手が出来たことで、ただ閉じこもるだけの時間から解放され、仲良く遊んでいた。
倉庫内のシャワーを貸してもらい、汚れを落としたホームレスの老人も、何とも話し上手で、子供たちに物語を聞かせたりと、隠れ家は和やかになった。
水戸は、倉庫内の武器を確認し、今度は護衛ミスがないよう気を引き締めていたのだった。
1999.12.4 -SATURDAY-
六堂が老人を助けて、何時間か経った朝。
ウィザードキーを持って押しかけていた涼子の頼みで、仲間だった魔導師の夕紀探しをすることになった木崎。
「おい、悪いけど起きてくれ」
木崎は、ベッドで寝ている少女の肩を揺すった。
女は眠そうな顔で、目を開けた。
「何、木崎君」
「お前の手が必要になった」
「……?」
「頭シャキッとさせたら、サポート頼みてえんだよ」
少女は寝癖のついた長い茶色の髪をもさもさと掻き、こくりと頷いた。
「その子も…ハッカーか?」
涼子は少し驚いた顔をした。
「ああ、まだアシスタント程度だげどな…」
木崎はベッドからバスルームへ行く彼女を目で追う。
「近い将来は間違いなく俺と同じだけの能力を持つと思うぜ」
涼子は鼻で笑った。
「なるほど、付き合ってるって話しは嘘じゃないんだな?」
木崎は舌で頬の内側を押し、涼子の方を見て頷いた。
「…そうだ。一年前の夜、フラフラ歩いているところを捕まえた」
「ナンパか?」
「…ああ、遊びのつもりだったのは否定しねえがな。夜中に可愛い子が歩いてんだ、逃す気はねえさ」
「それで、遊びが遊びではなくなった理由は、何だ?」
「…その晩、朝まで一緒に過ごしたけど、話しをしてて結構楽しかったんだ。それに見た目ほど馬鹿じゃねえんだよ、あいつ。試しに仕事の初歩を教えてやったら、あっとうい間に憶えてな。出席日数はヤバイくせに、テストもいい点ばかりで、学校の成績も優秀なんだよ」
「あの子の家族は?」
木崎は首を横に振った。
「母親は男にだらしない人物だ。親父は所謂“呑んだくれ”で暴力を振るうクズだ。もっとも実の父親じゃねえ。母親の再婚相手さ」
「…まぁ、よく聞く子が親を選べない不幸ってやつだな」
「ああ。小さな頃から酷い目に合わされてたんだそうだ。おまけに信頼していた恋人にいいように使われ捨てられて…だから自分見失って、街で金もらっておっさんの相手にしたり、ナンパについてったりしてたみたいで」
「そしてお前と出会ったと……」
木崎は煙草を咥え、頷いた。
「…以来、あいつの学校の学費も俺が払ってる。あいつも料理作ってくれたり、ハッキングにの仕事手伝ってくれたり、それなりに仲良くやってるぜ」
「おいおい…未成年に“犯罪を行わせている”なんて、私に言うな。一応、警察官なんだぞ私は」
透かした笑みを見せる木崎は煙草に火をつけた。
「それを言うなら、俺のところで生活してること自体問題あるだろう?でもよ、俺を児童福祉法違反で逮捕して、彼女を保護しても、今の暮らしより、よくなることはねえぞ」
「それは言わないでもわかるさ。一応、あんたをギリギリ“まとも”と思っているからな」
「そりゃどうも」
「で、何で彼女の面倒見てる?飽きたらいつも捨ててたくせに」
木崎はウェスタンシャツのボタンをはめながら答えた。
「俺も…同じだったんだよ」
“同じ”、自身の生い立ちの片鱗を表す言葉に、女遊びばかりで口の悪い彼にも、苦労というものがあったのかと涼子は思った。そういう生い立ちが、裏社会に身を置くことになった理由の一つなのかもしれないとも。
顔を洗い、頭をすっきりさせた少女が戻ると、木崎は部屋の機器の電源を立ち上げ、起動させていく。
「よし…“夕紀を探し”始めるぜ。ところで、もし居所がわかっても、国外だったらどうする?」
木崎の最もな質問に、涼子は苦笑した。
木崎曰く、夕紀の実家の骨董品屋は、昨年になくなっているとのことだった。
そして友達の少ない夕紀は携帯を持っていない可能性が高い。試しにチームを組んでいた頃にの番号にかけてみたが、契約されていない番号になっていた。
そうなると交通関連、セキュリティ関連のカメラをハッキングして、顔認証プログラムで探すか、電話会社のサーバーから通話やメールの記録から、夕紀に関するワードを見つけて行くか、コツコツ作業になりそうだと木崎は言った。
「言っておくが、二、三日、で見つかるなんて思わないでほしい」
木崎曰く、顔認証も精度がいいとは言えず、期待は決して高くないということだった。
「あれ?」
顔認証プログラムにかけるためにスキャンした写真を見て、少女は首を傾げた。
写真は、今よりも少しだけ若い雰囲気の六堂、渡辺、木崎、そして夕紀の四人で写っている写真だった。場所は、どこか喫茶店のようだが…。
「木崎君…、この写真ってさ自由ヶ丘の喫茶店?」
木崎は訝しげな顔をした。
「…ああ、そうだが」
「ええと…“Secret Story”かな?」
「お前、知ってるの?」
“Secret Story”は、日中でも暗い裏路地にある目立たない喫茶店で、かつて六堂たちが集いの場にしていた場所だ。
あまり一般の人が知ることのない店で、オーナーはいくつかの不動産で生計を立てていて、店は半分趣味みたいなものだという。だから客の入ることないような場所で営んでいる、そんな店だ。
木崎は少し驚き、苦笑した。
「木崎君に拾ってもらうまで、方々ウロウロしていたから、私。こういう店いくつかフラッと入ったことあるけど…、その中でもここは“猫のシャーロット”が可愛くてさ、二、三回は行ったことあるよ」
オーナーの飼い猫で“看板娘”のシャーロット。この名前が出るということは、少女の言う店は、間違いなく木崎の知るSecret Storyだ。
「ああ、それとね、私、この女の人知っている」
少女は写真に写る夕紀を指差して言った。
「は?マジ?」
木崎は思わず咥えている煙草を落としそうになった。
「マジマジ。この店で働いているよ。顔はこの写真よりは…もう少し大人っぽくなっているけど、多分この人」
木崎はキーボードから手を放し、デスクの上の車のキーを手に取った。
「どこで何してるのかと思えば、そんな近くにいたとはな…つれない女だぜ」
涼子はソファーから立ち上がると、ウィザードキーを鞄にしまった。
「朝から押しかけて悪かった。何だか意外な形で、夕紀の居場所が見つかってしまって、結果助かったが…」
「それはもういい。俺も面倒が省けてよかったよ。それより、行くんだろ、喫茶店に。俺も付いて行かせてもらうぜ」
少女はにっこり笑って自らを指差した。
「私も行っていい?ケーキごちそうしてよ、探している人見つけたご褒美に」




