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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第二十一話 命を狙われる理由


1999.12.4 -SATURDAY-


  午前二時過ぎ。


 涼子のマンションを出て家路についていた六堂とジーナだったが、行き先を変更し、ローデッカーの遺体発見現場、上荻の路地裏に再び来ていた。


 涼子から、合田が殺されていたという連絡のあと、一度切られたが、また電話があったのだった。


 それは“合田がどうして殺されたのか”という理由についてだ。


 テログループ、その大元であるクァ・ヴァーキ教の代表 浦林と幹部。人質たち。シードカンパニー代表の中村。そして合田。


 殺されてはいないが、襲撃された木戸親子も含めて、接点と呼べるものは、庄司エンタープライズの“何か”だと、涼子は言った。


 事件自体は手掛かりもなく、謎が多いが、今回の件で『命を狙われた者たちの理由』だけを考えれば、その“何か”のことを少しでも知っている、関わりがあるなどが理由にあげられた。


 推測する動機としてはあまり大雑把ではあるが、庄司エンタープライズの目的のスケールが、大きければ大きいほど、微塵の情報も知られたくないであろうとの考えからの推測である。


 事件と直接の接点がない合田が殺されたことで、特にその考えが確信に近づいたと言えた。


 テロの話を持ちかけられたが断った浦林と反対派幹部は、当然セントホーク事件で“こと”が起きるとは知ってたので消された。


 賛成派の実行グループと人質が殺されたのも、現場で起きたことを知られたくはないからだろう。


 室富に救われた木戸親子は、庄司エンタープライズ側にとっては想定外のこと。現場で起きたことを理解はできないことであれ、“何か”を見てしまっている。そして自宅で再度襲われた。


 シードカンパニーの中村も、江村との関係、セントホークの警備システムに関わっていた以上、何か知っていたと考えるのが普通だろう。


 そして合田は、ロディと接触のあった“ハイウェーブについて”嗅ぎ回り、その裏に庄司エンタープライズがいることを突き止めていた。


 ハイウェーブと接触のあったロディと他四名も、セントホーク事件の同じ“何か”をおそらく目の当たりにはしたが、死んでいる。


 セントホークの現場に突入したSAT隊員も生き残りはおらず。


 つまり、この一連の出来ことに少しでも関わっている、知っている者はもう、保護している木戸親子を除けば、六堂とジーナ、涼子、室富、強いて言えばあとは水戸くらいだろう。


 その涼子からは「だから気をつけてくれ」ということを伝えてきた電話だったのだが、六堂は昨夜、ローデッカーが殺された現場を見ていた老人のことを思い出した。


 涼子の推測が正しいとすると、あの老人も狙われる可能性があったからだ。


 そして昨夜に老人と会った現場に来ていた。しかし階段下にその姿はなかった。


 六堂とジーナは、二手に分かれて辺りを探していた。



「Can not find…」


 ライトを片手に、ジーナは白い息を吐きながら呟いた。


 暖かい気候のロスに住むジーナには、東京とはいえ12月の深夜は身にこたえる寒さだ。


ーーリョウコの推測が正しかったとして、あのOld man、ローデッカーが殺されるところを見ていたと黒幕は気づいているものなのかな?


 内心、既にローデッカーが殺されて数日が経っている。六堂の心配しすぎな気もしていたジーナ。だが同時に、彼の優しさが、笑顔だけではないこともまた感じていた。


 かじかむ手をぐっと握りしめ(ま、仕方ない!)と老人探しを続けた。



 一方、六堂もライトを片手に老人を探すも、見つけ出せずにいた。


「くっそぉ、どこ行ったよ、おじいさん」


 白い息を吐きながらぼやく。


 ふと、小さな雪が降っていることに気づいた。小さな、小さな雪。地面を濡らすこともないであろう雪を見て(寒いわけだ)と思う六堂。


 もう少し探して見つからなかったら、今夜はとりあえず諦めようと思った時だった。微かに、人の声がしたような気がした。


ーー誰かいるのか?


 足音を立てないよう、ゆっくりと建物の陰や、路地の曲がり角を覗き込むように確認をする。


「…情報の場所にターゲットはおらず。周辺探索もしましたが、見つからず。どうぞ」


 黒い戦闘服に身を包んだ男が一人、喋っているのが見えた。六堂に対して背中を向けているが、どうやら無線に繋いだ咽喉マイクに話をしているようだ。


ーーあの格好…木戸さんや合田を襲撃したって奴らの話と一致する。やはり、あのじいさんを始末するために?


 人気のない深夜の裏路地とはいえ、どう見ても普通の人間が出歩くのにする格好ではない。 


 六堂は一旦、覗き見ていた顔を引っ込ませ、脇のホルスターに手を入れた。


ーーどうする、ここであいつを生け捕るか?


 もし捕まえれば、黒幕や事件の情報を何か得ることができるかもしれない。そう判断した六堂は、ホルスターから拳銃を抜き取った。


 本当は人を捕まえて吐かせるというのは違法だが、セントホーク事件にはそういうったことは通用しない黒幕がいることは判っている。手荒な真似をせざる得ないことは仕方ない。


 六堂は建物の外装に体を密着させて、そっと目出し帽の男を覗き見ようとした。


 だが、次の瞬間、背後に気配を感じた。六堂は降りきながら拳銃を構えた。


「…!」


 驚いた。そこに立っていたのは、探してホームレスの老人だった。


「お、おじいさん…」


 拳銃を構えられ、両手を挙げている老人は、六堂の顔を見て笑った。


「やっぱりあんたか、まさかと思ったが」


「探してましたよ、どこに…」


 老人に質問をしようとしたが、建物の角から人の気配が近づくのを感じた。目出し帽の男だろう。あちらも、こっちの気配や物音に気付いたのだ。


「…ごめん、おじいさん、隠れてて!!」


 六堂は拳銃を両手でしっかりホールドし、目出し帽の男が姿を現わすタイミングを狙った。老人は慌てて建物の陰に身を潜めた。


 狙い通り、目の前に現れた目出し帽の男。六堂の構える拳銃を見て、静止した。


「!」


「…よしよし、動くなよ。両手は上に」


「……」


 目出し帽の男は、言われた通り、両手を挙げた。


「そのまま横を向いて、建物に両手を着けろ。脚は開け」


 今度は建物の外層に両手を着かせて、六堂はゆっくりまわり目出し帽の男の背後に立った。


「そのままだ」


 六堂は、P.D.のイニシャルの掘られた手錠をポケットから取り出し、男の右手首にそれをはめようとした。


 だが、掴もうとした右手首は、触れた瞬間に消えたのだった。六堂は何もない空を掴んだ。


「…!」


 目出し帽の男は、瞬時に180度開脚をしたのだ。外装の前に立たされては、膝が邪魔で屈むこともできないが、まるで体操選手のように綺麗に開いた脚は、建物の外層に平行して体を下に沈ませた。一瞬、六堂の視界から男の姿が消える。


 目出し帽の男が腕に装着しているプロテクターからはナイフの刃ができた。男は開脚を維持したまま、その刃を六堂の腹部目掛けて突き刺した。


 物凄い反射神経で刃をギリギリ避けた六堂。


 だが、男は背中を地面に着けたかと思えば、建物の外層に沿って脚を閉じ、後転しながら刃と蹴りで六堂の脚を狙う攻撃を繰り出した。アクロバティック且つ素早く、そして正確な攻撃。足元に注意がいっていると、男は素早く立ち上がり、刃で六堂の顔面を襲った。


 しかし六堂はその攻撃も避ける。そして避けた勢いで左に回転し、カウンターにバックブローを放った。


 目出し帽の男は、バックブローを左腕でガードするが、威力で体をよろめかせる。その隙を突いて、六堂は銃口を男に向けた。


「…次、抵抗したら撃つ」


 上半身には防弾ベスト、太腿に包丁を刺されても身動きをとるほど痛みに耐性があることも話で聞いている。銃口の指す先は、男の眉間だった。


「聞きたいことが色々ある」


 目出し帽の男は静かに笑った。


「…ああなるほど、お前、私立探偵か。なるほど、いきなり銃を向けられて、誰かと思ったが、こっちのことは少し知っているってわけか」


「俺を知っている?ってことはお前は江村の指示で動いているのか」


 男は首を振った。


「何も言うつもりはない。殺したければ、殺せ。どうせ俺の死体からは、何も出てこない」


 確かに、木戸宅を襲撃した男の遺体からは、何の手掛かりも見つかっていない。


 六堂は少し考えると、銃を上に向けた。


「…行け」


 目出し帽の男はにんまりと笑うと「利口だな」と言った。


「事件は暴く、黒幕にそう伝えておけ」


 六堂は路地の闇に姿が消えていくのを確認すると、拳銃をホルスターにしまった。


 そして白いため息をついた。


「おじいさん、もう出てきてもいいよ」


 建物の陰から老人が出てくると、不安げな顔で言った。


「やはり、狙いは俺か?」


 六堂は黙って軽く頷いた。


 老人は、今夜の冷え込みに耐えかねて、昨夜六堂からもらった金を片手に、体の温まる食料を買いに表通りのコンビニまで出ていたとのことだった。階段下の寝場所まで戻ると、さっきの目出し帽の男が立っていたのだという。


「…それでな、昨夜、あんたが声をかけてきたろ?俺の見たとても信じられない光景を、あんたきちんと聞いてくれた。それをふと思い出して、嫌な予感がしてね。俺の寝床を、見るからに怪しい輩が調べているってことは、俺の見たことと関係あるなと…、戻らずに隠れていたんだ」


 その話を聞いて、六堂は思わず笑った。ただのホームレスではないなと感じたことが間違いではなかったということだ。


「よかった。おじいさんの勘が鋭くて」


「この生活していると、見たくないものも色々みて、その情報を売る奴もいるんだが、口封じに消されるホームレスってのも結構いるんだ」


 六堂は老人に、見た“もの”について、理解をしようがしまいが、“見たことで”殺される可能性について、セントホーク事件の詳細を含めて説明をした。


 話の内容についても驚いていたが、ホームレスである自分の身を案じて、助けに来てくれたことに老人は驚いたのだった。そして昨夜、五年前に自分を助けてくれた青年とは別人だと言われていたが、目の前にいる探偵の男と、五年前のその青年が同一人物だと確信をした。再度確認をしたわけでもないし、六堂がそうだと言ったわけでもない。ただ、そう確信したのだった。


 六堂は、携帯で付近にいるジーナに、ホームレスの老人を見つけたことを伝え、合流した。


 その後、涼子に事情を話し、木戸一家の隠れている埠頭の倉庫へと、老人を案内したのだった。

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