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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第十七話 合田のSOS

 食事も終わり、軽い雑談を交わしたあと、ひとまず解散となった涼子宅での集い。


「警部補、何かあれば連絡を」


 相変わらず表情の変化の少ない水戸だが、上司を気遣う一言には彼なりの優しさが篭っていた。


「私は平気だ。捜査は大変だろうが、奥さんと子供のために家にも、たまには帰ってあげなさい」


 出ていく水戸を見て、六堂は軽く頭を下げた。


「さあて、俺たちも帰るか、ジーナ」


 六堂は椅子に掛けていた上着を手にした。


 すると、上着の胸ポケットに入れている携帯が、ブルブルと振動しているのに気づいた。取り出してみると、番号は非通知だった。


――…誰だろうな


 六堂は通話のボタンを押した。


「もしもし?」


『あ…ダンナ?』


 電話の向こうからは聞き覚えのある声がした。


「合田か?」

 

 小声で、とても焦っている感じだ。


『まずいことになりました…』


「どうした、何かあったのか?」


『ロディさんの件と関係あるのか、俺、狙われ始めたようでして』


 深刻な口調でそう言う合田。


 六堂は携帯をスピーカーフォンにした。


「落ち着いて話せ」


『もう…“かも”って話じゃなくて、ロディさんは本当に殺された』


「どうしてそれが判る?」


『俺の元に、ロディさんから“ある物”が届いたんです』


「何?何が届いたんだ?」


『今は話している余裕はないんです。自分の身を隠すためのダミーの住処も…、そして昔の住処も、電話の中継地点にしているアパートも火事や天井の倒壊でなくなったんです』


 合田はもともと臆病なところがあるので、大袈裟に言っているだけかもしれないとも思ったが、話しを聞く分には、今回はどうもそうではなさそうだ。


 それに、話していることが本当だとすれば大変なことである。


 庄司エンタープライズのことを調べていたロディから届いた物は、六堂が必要としている情報があるかもしれない。今、合田が殺されては、それが入手できなくなる可能性がある。


「合田、私だ、刑事の坂崎だ、わかるか?」


 聞いていた涼子が、六堂の持つ携帯に向かって言った。


「あ、坂崎あねさん!?一緒にいたんですか?」


「…必要な物をまとめておけ。今からそっちに行く」


 六堂は、驚いた。


「一緒に来るの?」


 合田を助けにいくつもりでいた六堂は、驚いた。


 だが涼子は首を振った。


「いいえ、行くのは私だけ。あなたはジーナと帰りなさい」


 再度、合田に助けに行くことを伝えると、涼子は横から手を伸ばして、通話を切った。


「何だ、心配か?」


 棚に置いていたホルスターを装着しながら、涼子は言った。


「いや、心配はしてないけどさ…」


「伊乃は事件の揉み消しを図る連中にわざわざ会う必要はない」


「俺も狙われない理由はないって話かい?」


「“黒幕”は私たちの想像を超えて手早い行動が出来る。合田は正直に間に合わないかもしれん。だから一緒に行っても仕方ない。あいつのいる場所だけ教えて」


 (涼子がそう言うなら)と、六堂とジーナは帰宅することにした。


 マンションの地下駐車場から、吠えるようなエンジンの音と共に、物凄い勢いで走り出す、涼子の愛車マイカーの赤いポルシェ911。


 一瞬で消え去った涼子の愛車を見届けると、六堂はジーナを連れて自宅である事務所会へと向かった。


「しかしさ、リョウコ、住んでるところもそうだけど、車もいいの乗ってるねえ」


 感心するジーナに、六堂は首を振った。


 普段は警察車両に乗ってる涼子。ポルシェに乗るのは久しぶりに見た。



 事務所までの移動中、ジーナはイーバードから追加で来ていたメールを読んでいた。内容は、ローデッカーの情報についてだ。


 ローデッカーはカンパニーズアーミーとしては優秀で、非合法な活動にも多々関わっていると思われるものの、その証拠は殆ど出ていないとのことだった。


 カンパニーズアーミーに対しての警察の扱いはとても難しい。その企業にとっての損失が国の経済に影響を与えかねない場合のみ、銃の発砲や捜査などの権限が正式に国から与えられている。それを理由に、暗殺や誘拐など、大きな企業間での争いは激化の一途を辿っていて、警察の事件介入で衝突することもしばしばあるという。


 これまでロスでローデッカーが殺人の容疑を掛けられた事件が二つ。その事件の被害者は、兵器関連の会社の人間で、それも開発に携わるお偉いさんたちであることにジーナは注目した。


「この二件の被害者…」


「どうした?」


「Ah…、この二人、“ギルバート・マックス”と関わりがあると噂された人物ね」


「誰それ?」


「マックスはアメリカのブラックマーケットの重鎮で、FBIがマークしている人物」


 更に、被害者二人の勤務先である会社は、どちらも庄司エンタープライズ ロス支社と共同で研究開発があった過去がある。こっちは噂じゃなく、確かな記録だ。


「興味深い話だな、何の研究開発をしていたんだろう」


「…Nanomachine」


「え?」


「これ、医療用のナノマシンの研究開発よ」


 この二日間、常に明るかった彼女からは、一変したようなとても小さな声だ。複雑な表情を見せた。





 AM0時。


 唸るエンジン音。


 新宿歌舞伎町の交番の前に、車を停車させる涼子。


「ちょ、ちょっと君!!どこに車を停めとるんだ!!」


 交番から中年の警察官が飛び出てきた。お腹の出っ張った、いかにも中年警官という感じの男だ。


「警視庁の坂崎だ」


 颯爽と車から降り、バッジを見せると、中年の警官は驚いた。


「あなた、名前は?」


「は、はい、大竹、大竹巡査長です」


 涼子は車のキーを大竹に向けて放り投げた。慌てて何とかキャッチする大竹。


「大竹さん、そこ、パトカーの隣空いてるでしょ。私の車、そこに停めてください」


「は、はああ??」


 大竹は困惑し、思わず大声をあげた。


「歌舞伎町の道脇に、こんな車停めていたら、悪戯されて傷つけられるでしょ。お願いね」


 開いた口が塞がらないと言った風に、大竹はぽかんとする。


「ほら!!返事は!?」


 厳しい顔つきで叫ぶ涼子。


「え?は、はい」


 理不尽且つ公私混同しているにも関わらず、涼子の声に大竹は返事をしてしまった。


 立ち去ろうとする涼子だが、一度足を止め、振り返り様に「あ、動かすの難しいから、傷つけないでね、大竹さん」と言うと、大竹はこくりと頷いた。


――さて…


 裏路地へと入って行く涼子。


 “まともな女性”が歩く所ではないその路地に、ヒールの音が響き渡ると、屯してる危険な男たちが涼子に視線を集めた。


 しかし、あまりに堂々と歩くその姿に、どこか圧倒され、ナイフをチラつかせて襲ってしまおうなどという気には、誰もがなれないでいた。


「合田よ、無事でいてくれ」


 ロディの住処でもある、廃ビルのような建物を前に独り言を言う涼子は、錆びた階段を駆け上がる。


 そして六堂から聞いた三階の廊下の奥へと進む。瓦礫やガラスの破片が、一歩進む度に音を立てた。


「ここだな」


 涼子は部屋をノックしようと、ドアの前に立った。


 しかしすぐに異変に気付いた。ドアノブが変型している。そしてドアそのものは完全には閉まっておらず、わずかに開いていた。


――何だ?


 涼子はホルスターから拳銃を抜き、足でドアをゆっくり開ける。そして片手で拳銃を構えながら部屋の中に入った。


 デスクの上の電気スタンドだけがついていたが、部屋全部を照らすには光が弱い。だが、中は荒らされたように滅茶苦茶に散らかっているのはわかった。


「…合田っ!」


 奥の部屋に血塗れの合田が倒れているのを発見した涼子は、部屋の周囲を見回しながら近付き、屈んですぐに息があるかを確かめた。


 死んでいる、脈はない。


 しかし死体は凄く暖かかった今殺されたばかりだと窺える。


「……」


 涼子は合田からゆっくり手を離すと、屈んだままぴたりと動きを止めた。


 そして神経を研ぎ澄ませる。


 何の物音もしない部屋。だが涼子は左隅の本棚向けて拳銃を構えた。


「そこにいるな…出て来い」


 涼子が警告をすると、本棚を蹴散らすように、目出し帽を被った男が飛び出てきてた。木戸宅の一階で死んでいた侵入者と同じような格好をしている。


 そしてその男は、飛び散る本と共に、物凄い勢いで近づき、涼子の構える銃口を反らした。


 涼子は体勢を立て直し、再度拳銃を構えるが、相手の動きはかなり素早く、今度は拳銃そのものを蹴り落とされてしまった。


「こいつっ!」


 涼子は男が放った拳打を交わし、その手首を掴んで捻りを加えて投げ飛ばした。


 男は勢いよくデスクに体をぶつけ、ダメージを負う。


 だが戦意が喪失する様子はない。腰に着けていた大きな軍用のナイフを握り、構えた。


 それを見た涼子は顔色も表情も変えず、両手を組み、ぐっと反らしてボキボキっと音を鳴らした。


そして拳を構える。


 男は、涼子がただ者ではないと判断し、先程のように一気に距離は詰めず、ナイフをシュッ、シュッとまるでボクサーのジャブのように浅く突き出した。牽制の動きから、隙を窺おうという動きだ。


 その動きを見た涼子は、ニヤリと笑い、今度は自身が一気に距離を詰めた。


 その動きは、履いている靴がヒールとは思えない程だ。一足飛びて相手との距離がまるで瞬間移動でもしたかのように詰まる。


 男は慌てて反撃するも、既に攻撃は遅く、涼子の掌底をもろに喰らうだけの形となった。顎が完全に上に向き、よろめいたところに、追い打ちのボディストレートを放つ涼子。


 目出し帽の下からうめき声が聞こえる。


「っうう……くそ」


 だが倒れない。


 男は、窓ガラスを突き破り、そのまま下まで飛び下りた。


 涼子が割れた窓から下を見ると、男は見事に着地し、すぐにその場を立ち去った。


「おいおい…三階だぞ、ここ。あの動きといい、何者だ?」


 涼子は服に着いた埃をパンパンっと払い、拳銃を拾った。


 何しても、殺人事件が起きた。やむを得ず、涼子は警察に連絡を入れた。


 通話を終えると、携帯をポケットにしまい、再度、合田の遺体を間近で見た。屈んでよく見てみると、喉を切り裂かれているのがわかる。


 涼子は合田の無惨な姿を改めて見て、鼻でため息をついた。


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