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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第十六話 状況報告会

1999.12.3 -Friday-


 二十一時過ぎ。


 六堂とジーナは、涼子と会うために、彼女の自宅のある二子玉川ライズまで来ていた。


 『自然との調和』がコンセプトの、まだまだ開発途上にある街だが、既にマンションがいくつか建てられていた。


 涼子の自宅もその中の一つで、駅からほど近い場所にあるタワーマンションの二十二階だった。


 ロビーのインターホンを鳴らすと、涼子が入り口のドアを開けてくれた。


「リョウコ、凄いところに住んでるね」


 広々としたエントランスに、常駐しているコンシェルジュと警備員が目に入り、感心するジーナ。


 涼子は、独身貴族のためか、それなりに裕福な実家のお陰かはわからないが、確かにいいマンションに住んでいる。


 エレベーターで二十二階に上がり、涼子の部屋の前で、またインターホンを鳴らすと、ようやく彼女とご対面だ。


 着替えず仕事着のブラウス姿の涼子に出迎えられた。


「お疲れさん。さ、入って」


 広いリビング。綺麗な部屋も魅力的だが、窓から見える夜景の美しさは絶景だ。ジーナは(Wow!)と目を輝かせた。


「カーテン閉めなよ、女の一人暮らしなんだから、一応」


 苦笑しながら六堂はタッセルを外して、カーテンを閉めた。


「何、『一応』って。私も今帰宅したところなのよ。それに誰も覗きゃしないよ。同じ高さのマンションまだないんだから」


 冗談めかして言う涼子は、ソファーの上に乗せていた書類や、外したホルスターを棚の上に置き、二人に適当に座ってと言った。


「待ってね、今水戸君が夕飯買ってこっち向かってるから。コンビニだけど」


「それより話って何?」


 涼子はソファーにどかっと座ると、リモコンでテレビをつけた。そして話がしやすいよう、音を小さめに調整する。


「話すことは色々あるんだけどね…まずは室富に会ったってことが一番かしらね」


 六堂とジーナは目を丸くした。


 事件の真相を知るために、“ロスでも尻尾を掴めない男”を必死に探していたのだから、当然の反応だろう。


「…会ったの?」


「ああ、会った」


「室富と?」


「そう」


 六堂は(まいったなあ)と言いたげに苦笑いを浮かべ、頭を掻いてみせた。


 どういう経緯で室富と会ったのか、涼子は、木戸家襲撃事件のことを簡潔に説明した。


「…で、奴は窓から飛び降りて消えたってわけよ」


 ジーナも目前で逃げられた経験があるのだろうか、話を聞いて物凄く不愉快な顔をしていた。


「木戸宅に現れた襲撃者って何者なんだ?」


 六堂のその質問に、涼子はため息をついた。


「…身元は不明だ」


「…何だって?」


「指紋、歯の治療記録はもちろん、有りと凡ゆる方法で、確認したけどヒットせず。まるで幽霊ね」


「殺し屋…傭兵か?」


「これがまた…装備が特殊でね」


 襲撃者の装備していた接近専用サブマシンガンは最新型で入手は容易ではない。


 特に侵入時に使用したハイテクのガラスカッターは、一般には認知されてない代物で、数秒で音も立てずにレーザーでカッティンできる。


 実際、現場にいた水戸も侵入したことには気づかなかった。


「それと、室富が木戸宅に現れたことは隠したかったんだけど、無理だったわ」


「捜査本部に知られたのか?」


 頷く涼子。


 室富が木戸宅に来たことを隠せなかったのは、襲撃者を射殺したためであった。


 襲撃者は防弾ベストを着用していたのだが、室富が使用した弾丸が鋼鉄貫通弾、通称“コップキラー”であり、襲撃者の防弾ベストを貫通し、壁にその弾痕が残っていたことで、木戸宅に室富が来たことを、捜査本部に隠せなかった。


「コップ…キラー?」


「1980年代にアメリカで出回った弾だ。今はもう市場に出回っていない代物さ」


 日本で入手することは難しい弾丸が壁から出て来れば、“これは何なんだ”となるわけで、誤魔化しようがない。


 表向き、“木戸家襲撃とセントホークとの繋がり”は証明できていないが、“セントホーク事件と室富が何かしら繋がっている”ことにはなっている。


ーー何だか室富が、セントホーク事件起こしたみたいな流れじゃないか?


 小さい音でつけていたテレビに目をやると、セントホーク事件についてのニュースが放送されていた。


 テロップには『SAT全滅』と出ている。


「いよいよ、解禁か…もう少し粘るかと思ったけど」


 セントーホーク事件について、警察からの公式の説明が行われている。


 警察の殉職者の数から考えても、警察の非難は相当なものになるだろう。


 事件についての記者会見を行なっている映像に切り替わると、“できそうな捜査官”のような雰囲気を醸し出している、佐々木警部が映し出された。


「佐々こいつだよ、SATの件を発表すると張り切ってたのは。私が指揮していた時は、まだ“SAT全滅”の件は黙っていろと言ってたんだけどね」


 そして、現在、セントホークの事件の容疑者に、海外から日本に入った殺し屋、室富の名を上げていた。


ーー何だ、やっぱりそういう展開なのか。


 セントホークで撮られた唯一の室富の画像がテレビに映し出された。


 木戸家襲撃も室富の疑いがあると流れていて、護衛していた捜査官が殉職者を出しながらも撃退したということになっていた。


 また、関連事件のニュースでは、クァ・ヴァーキ教の代表、浦林が狙撃されたこと、近くで専属運転手も殺されていたこと、また雲隠れしていた幹部たちも方々で遺体となって発見されていることが流れていたが、いずれも容疑は室富ということになっていた。


 これで今後の捜査本部は、室富探しが中心になることは容易に解る話と言えた。


「…こりゃダメだな」


 唐突にそんなことを言う六堂に、涼子は「何?」と返した。


「いや…何でも。そういえば、木戸さん一家って今はどうしてるの?」


 思い出したように木戸一家のことを尋ねる六堂。


「ああ、埠頭の倉庫…あんたをしごいた、あの倉庫にいるわ」


 “倉庫”とは東京湾にある、涼子が個人所有しているものだ。


 六堂は高校を卒業後、“その倉庫”で涼子に厳しく鍛えられた思い出があった。


「はは…あそこなら、問題ないな」


 正式にセントーホーク事件の捜査を外された涼子は、木戸一家の護衛に着く許可をもらっていた。


 もっとも断られても“勝手に守るつもり”だったが、佐々木はこれについては許可を出した。


 そしてその木戸一家の居場所について、涼子は上に報告はしていない。“どこにいるか誰もわからない”ことに意味があるからだ。


「報告しなくて、平気か?」


「そのことだが…」


 涼子は少し難しい顔をした。


「実は警察に、情報を流出させてる奴がいるんじゃないかと、気にしていてね」


 それを聞いた六堂は、真っ先に、シードカンパニー代表の中村死亡のことを考えた。


「それって、中村の首吊りの件…だよな?」


「そ。司法解剖結果を待つまでもなかったが、やはり死亡時期は、私が中村宅に到着する少し前だった。何だか先回りでもされた感が否めなくてな」


 “中村の情報”は、六堂が木崎から独自に入手したもの。愛理出警察署の聴取室にいた人間以外は、知らないことだ。


 そして更に追い打ちをかけることは、この件は“自殺”の線で方がつきそうだということだった。


 都の新しい施設のシステム開発に、都議会議員、作田さくた 健三けんぞうに便宜を図ってもらうために中村が賄賂を渡した証拠が出たらしいのだ。


 そして作田議員は、収賄を認めている。


「まだニュースにはなっていないが、この件も明日には報道されるだろう」


「…手際がいいな」


 もちろん、都の議員との賄賂など、仕組まれたことだろう。


 だがその表向きとは別に解ることもあった。


 それは、都議会議員を簡単に動かせるネタを江村か誰か、庄司エンタープライズ側の人間が持っている。


 もしくは、都議会議員よりも更に上の人間が関わっている可能性があるということだ。


「自殺に見せかけたのか、自殺するように仕向けたのかはさておいて、中村はセントホーク事件とどの程度関わっていたのだろう?」


「水戸君の調べでは、シードカンパニーは、セントホークの管理のシステム開発を行ったメイン企業だそうだ。庄司エンタープライズが自社で行ったことになっているけどね」


「じゃあ、テログループを実際にビル内に手引きしたのは、江村ではなく、中村の可能性もあるわけか…」


 涼子は一瞬間を空け、曲げた人差し指を、口元に当てた。


「ま、トカゲの尻尾切りね」


「え?」


「シードカンパニーが庄司エンタープライズと繋がりあることは表向きはわからなかったでしょ」


「ああ…」


「なのに、簡単にその繋がりを知った。そんなあなたが、事件の真相、もしくは手掛かりに辿り着いてしまうことを危惧して、口封じに殺したって線が妥当じゃないかしら」


 六堂は、微妙な笑みを浮かべた。

 

「だとして、要するに俺が情報を入手したことを知った奴がいないと、その話は成立しないよな」


「だから、情報を流出させてる奴がいるって話よ。いい?気をつけなさいよ…この件、あんたが狙われない理由はないわよ」


 鋭い目つきで涼子がそう言うと、六堂は軽く頷いた。

 

 少しするとインターホンが鳴った。やってきたのは水戸刑事だ。


「遅くなりました、夕飯です」


 手にはコンビニの袋を持っている。中には飲み物や食べ物が沢山入っていた。


 涼子が頼んでいた、夕飯だ。


「ありがとう、寄り道させて悪いな。お金はあとで払う。さあ、あなたも入って」


 薄暗い玄関から、明るい部屋に入ると水戸の顔の青痣がはっきり目に入った。


「護衛、大変だったみたいで」


 六堂がそう言うと、水戸は軽く頷いた。


「ええ…、仲間も二人失いました」


「ああ、仕事とはいえ、残念だ」


 皆、ダイニングのテーブルに着くと、水戸がコンビニで買ってきた物を口に食べ始めた。


 六堂は(お茶だけでいい)と言うと、口を尖らせたジーナがおにぎりを強引に渡してきた。


「ちゃんと食べなさい。I can't fight if I'm hungry」


「はいはい、わかったよ」


 受け取ったおにぎりのビニールをペリペリ剥く六堂を見て、ジーナもおにぎりを手に取った。


 二人のそんな何気無いやりとりを見て、涼子は何となく微笑ましいものを感じた。


「それで、あなたたちは、室富を追って…何だっけ?ロディ?」


「んああ、ロディ・バーネットね」


 六堂はロディ・バーネットを探すことになった経緯、四人の裏社会の凄腕が例の“透明”な何かに殺されたと思われることや、ローデッカーという男の遺体の件など、この二日間のことを簡潔に説明した。


「…で、とりあえず、ジョー・ローデッカーのことを知ってるらしい、前田という人物に話を聞いてみようと思うんだ」


 前田は、本社にいる専務だ。涼子は六堂が再び本社ビルに行くことを心配した。

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