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SHADOW DETECTIVE  作者: 柳生 音松
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第十二話 佐々木警部

 下の廊下から聞こえてきた声に、修一は“自分の家族の命を狙っている輩”だと思い恐怖した。銃声や、激しい物音がしたあとだけに、そう思うのは当然だった。


 だが、息子の陸斗は、セントホークで助けてくれた男の声をしっかり記憶していた。


 嬉しさと安心で、急いで足元の扉を開けようした。修一は、『やめなさい』と慌てて止めたが、扉は開かれた。


 下から差し込むライトの光が一瞬眩しく感じたが、陸斗嬉しそうに叫んだ。


「やっぱりだよほら!昨日助けてくれた人だ!お母さん見て、昨日の黒い眼鏡の人だよ!」


 下にいたのは、セントホークで陸斗ら親子を助けた室富だった。


「おう、また会ったなボウズ」


 助けられたと言っても、よく知らない怪しい男で、警察の聴取の時に殺し屋だと聞いていたので、祥子は“安心”とは言い難い心境ではあった。


 木戸一家は、一人ずつ、廊下に降りた。物音や声で、娘の亜美も目を覚ましていた。


「ほら、こっちに」


 室富は手を差し伸べ、亜美を受け取った。


「ほうら、憶えてるかお嬢ちゃん」


 室富がおどけた顔でそういうと、亜美はにっこりしながら頷いた。


 全員が降りると、室富は外の刑事が既に殺されたことと、水戸が一階で奮闘して守っていたことを説明した。


「…ということだ。下にいた刑事は。あんたら一家のために相当頑張っていたようだぜ。今はキッチンで気絶しているが、あとで礼を言っておくと喜ぶぜ」


「それで、その、私たちはこれからどうしたら?」


 不安げに祥子が尋ねると、室富は少し難しい顔をした。


 侵入者の男が組織的に動いてることは無線から判っている。このままここでのんびりしていては、また誰かやってくるだろう。


「そうだな、とりあえずはあんたら、ここを離れて…」


 木戸一家にこれからのことを話そうとしていた室富だが、ハッとして拳銃を素早く抜き取り、振り返りながら構えた。


「何者だ…」


 気配を感じなかった。室富は完全に背後を取られたことを理解し、相手がその気なら殺されていたと悟った。


「…警察だ」


 暗闇の中での女性の声。その声に陸斗はまた笑顔になった。


「あーー!おねえさん!警察のおねえさんだよ!」


 涼子だと分かると、今度は祥子も安堵した。


 新たな刺客かと疑った室富は、拳銃を構えたまま、苦笑した。


「…気味の悪い奴だな、本当に警察か?」


「警視庁の坂崎だ。正真正銘の警察官さ」


 室富は、黒眼鏡を下にずらした。ライトの明かりに照らされる涼子の顔をよく見た。


ーーへえ美人だな。


 涼子は首を傾げ、外と下を指さした。


「外に私の部下が二人、下にも部下一人と、男が一人倒れていたが、全員お前がやったのか?」


 涼子の質問に室富は訝しげな顔をし、首を軽く振った。


「…外の二人は手遅れだったが、下の刑事は助けてやったぜ。まだ息はある。礼はいらないが、逮捕はしないでくれよ」


「お前を逮捕するつもりはない、とりあえず今はな」


 それを聞くと、室富は拳銃をホルスターにしまった。


「下で倒れてるあんたの部下、頑張ってたみたいだぜ。相手が悪かったみたいだがな」


「ああ…生きててよかったよ。優秀な部下なんでね。で、お前はどうしてここに来た?」


 室富は黒眼鏡を元の位置に上げ、笑みを見せた。


「セントホークに俺がいたことは、もうバレてんだよな。余裕なくてな、放置してしまったライフルバッグと…、それに気をつけてはいたが、あのビルやたらと監視カメラの数が多かったから、どこかに顔の一つでも映ってはいたろうしな」


「まあな」


「成り行きだが、この親子を助けたんだよ、あの凄惨な現場からな。皆、られたんだ。そこで唯一生き残ったこの子らが心配だっただけさ」


「助けたことは、証言から知ってはいたが。その後のことも気にするとは、殺し屋にしては優しいな」


「殺し屋にしては?はっはっ、憶えておいてくれ。出来ればセントホークからこの親子に付いててやりたがったが、こっちは警察の目を掻い潜りながら行動してるもんでね。この家探すのも一苦労だったぜ」


「やはり狙われると思ったのか」


「まあな。あんたがこの一家に護衛つけたのも、同じ理由だろ?あそこでの生き残りは、きっと危ないって」


 涼子は室富の軽い態度に、眉根を八の字にして苦笑した。


「室富、お前この件にどう関わってる?何から木戸さん親子を守った?」


「…それを話すと少し複雑なんでね」


 室富は、窓をガラッと開けて、サッシに足をかけた。


「下で俺の撃ち殺した男はどこかに属してる。新手が来る前に、署に連絡した方がいいんじゃないか」


「どこかにって、それは庄司エンタープライズのことか?」


「いや、多分違うな」


 室富は窓の外に体を出すと、涼子は『待て』と止めた。


「ここでお前を捕まえないのは私個人の判断だ。警察はお前を追ってる」


「そうか、まあいいさ。追われるのは慣れてる」


 そう言い残すと、室富は窓から飛び降りた。


 涼子が窓から下を見ると、既に室富の姿はなかった。


「話は聞けずか…」


 水戸を助けに来たつもりだったが、“六堂や川島が探している人物むろとみ”に、まさかばったり会うとは、涼子は思わず苦笑した。


 ただ、木戸親子の証言通り、室富がセントホークで守ってくれたというのは事実だとわかった。


 そしてもう一つ、セントホークで唯一生き残ったことで、木戸親子の命が狙われるという推測も、間違いないということもわかった。


「さて…木戸さん御一家、ご無事で何よりです。護衛の増援を出せなかったのは私の責任です」


 涼子は家族四人に頭を下げた。


 引き続き一家の護衛増援のために、“セントホークで生き残ったために狙われた”と話を通したいところだった。


 しかし、下で死んでる男が何者で、セントホーク事件との関わりをきちんと証明できなければ、上司の佐々木警部は聞く耳を持たないであろうことは、容易にわかることだった。


 涼子がすぐに警察に連絡を入れ、間も無く静かな夜の住宅街は多くの回転灯で真っ赤に染まった。


 そのためか、木戸一家を狙った男の背後にいる組織の追撃はなかった。


「気が付いたか?」


 あたりのガヤガヤとした騒がしい物音や声に、気を失っていた水戸が目を覚ました。


「警部補…」


 痛む頭と顎。体を起こすと、救急のストレッチャーに寝かされていたことが分かった。


「いつつ…」


「このまま病院で検査を受けろ」


「いいえ…、大丈夫ですよ」


 水戸はストレッチャーから降り、後ろ首を抑えながら、パトカーと警官で囲まれた周囲を見回した。


「…一家は?」


「無事だよ」


 それを聞いて安心する水戸。


「天田と中迫は?」


 首を横に振る涼子。


「私が来た時にはもう」


「そうですか、優秀な奴らだったのですが」


 水戸の顔が難しい表情になる。


「ところで、何だ?食卓を油まみれにして…佐久間さんの教えか?」


「え、ええ。レンジ爆弾を作ろうと考えていたのですが、停電させられていたので…」


 珍しく水戸が苦笑いを見せた。


 二人が話していると、ヘッドライトを遠目ハイビームにした高級セダンの車が近づいてきた。ヘッドライトの眩しさに、二人は手を額に当てて目を細めた。


 車が止まり、中から深緑色のスーツ姿の刑事が出たきた。佐々木幸宏警部だ。


 水戸も高身長で体格はいい方だが、それに引けを取らない体格で、威圧的な雰囲気がさらにその姿を大きく見せた。


 涼子が視認できているにも関わらず、ライトを遠目にしてわざわざ目の前まで来るというのも、彼女に対する意地の悪さと、性格が出た行動だった。


 腕を組んだまま、佐々木警部に挨拶をする涼子。


「…明日で指揮担当は外れるというのに、現場でご苦労だな坂崎」


 涼子は近づいた彼を見上げた。


「ええ、仕事は最後まで責任を持ってやるのが私ですから」


 真顔でそう言うと、佐々木はため息をついた。


「…相変わらず、面白い奴だな」


 そう言う佐々木の顔は、呆れと怒りが混ざっている感じだ。


「警部は現場にはあまり赴かないと思っていました」


「ふん、そうでもないさ。俺も、仕事には責任を持つタイプだからな」


 涼子は現場保存のテープを貼られた方を指差した。


「じゃあ、どうぞ、事件現場はあちらですよ。それとも私ともっとお喋りしますか?」


「優秀だからと調子に乗るなよ、階級は俺が上。そして女のお前には越えられない歯車というのが、警察組織にはある。いや、社会にかな」


 そう言うと佐々木は、ポケットに手を入れ、現場の方へと歩いていった。


「相変わらず嫌な野郎ですね、男女差別も甚だしい」


 涼子は、怒る水戸の肩を叩いた。


「お前は器用にやれ。私みたいになるな」

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