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初仕事②



「でっっっっっっか……」


 開口一番、とても失礼な発言なのは承知してる。

 でもでかいのだ。マジで。

 多分、いや確実に、天使よりでかい。

 私は身長が165cmある。それでも首をしっかり上げないと、目の前に立つこの人の顔が分からない。


「あのくそ天使の言う通り、だいぶ失礼だなお前」


 この人の言う「くそ天使」が私の知ってるあの天使なら、目の前の彼は死神様で間違いないんだろう。

 まぁ、黒いスーツに黒髪、身の丈ほど鎌。ついでに、感情の読めない表情だがやっぱり作画が違う整った顔、のコンボで予想は出来たけど。

 てか目の下の隈はやばいことになってるな。

 天界も三大欲求あるって言ってたし、これは忙しすぎて寝不足なのか?え、現実味を帯びるとめちゃくちゃ面白いじゃん。


「お前……俺たちが心を読めること知っててそんな風に失礼なこと考えてんのか?」


「は?心読めんの??」


 予想外な言葉に目玉が飛び出るんじゃないかってくらい目を見開く。


「天使から聞いてねぇのか……俺たちは人間が考えてることが分かるんだよ。つまり、さっきからお前が考えてることも筒抜けって訳だ」


 やっべ。一応、死神様たちって私たち人間が敬う存在じゃん。

 あのくそ天使なんで最初に言わないんだ……いや、そう言えばあいつも私が考えてること分かってる、みたいな発言してたわ。


「あー、その……なんかすんません」


 はるか頭上にある死神様の顔を見て誤魔化すようにへらり、と笑う。


「別に……謝ることじゃない。普段は気にもとめないくせに、困った時だけ媚びへつらい図々しく願い事をしてくるような奴らより、よほど好感を持てる」


 私と目線を合わせるように長い足を畳んだ死神様は、表情こそ変わらないが、どこか優しい雰囲気で頭を撫でてくれる。


「」


「どうしたんだ?」


 何も言わない私に少しだけ首を傾げる姿に、少しだけ苛立ちが募った。

 自分の顔がどれだけよろしいか、どれだけ人間の目に毒か把握して頂きたい。

 こちとら頭を撫でられる経験なんて幼少期しかないんだよ!無駄に心臓が早く動くだろ!!寿命が縮むわ!


「あ、あの!!」


 私と死神様が無言で見つめあい、なんとも言えない雰囲気の中、湊くんが声を上げた。

 死神様と同時に振り返ると、驚いたように肩を跳ねさせる。


「湊くん、どうしたん?」


「なんだ?何か質問か?」


 こちらを見たまま何も言わない彼に問いかける。


「あ……その、冷静になればなるほど、どういう状況なのか分からなくて……」


 困ったように眉尻を下げる湊くんに、確かに何も説明してなかったと思い出す。


「……忘れてた!ごめんね、私も何も説明してなかったわ」


「なら、俺が説明しよう」


 そこから、

 悩みごとや心に傷を負っていると死者が取り憑くこと、

 湊くんにはそんな死者が取り憑いていたこと、

 私が天使の代わりに湊くんの話を聞きに来たこと、

 死神様や天使、天界のこと、

 もう取り憑いていた女の子はいないこと、

 ついでに私が天使の代わりをやってる理由、

 全て説明してくれた。


「幽霊……夢じゃ、なかったんっすね」


 呆然としつつ、納得したように呟く。


「正直、あなたにこちら側に引っ張られるまでは、頭に霧が掛かってるみたいにハッキリしない、気持ちの悪い感覚はあったんです。ずっと誰かの声も聞こえてたし……」


「あー、湊くんにくっついてた女の子の声かな?」


「お前は普段から死者が見えてたのか?」


「いえ、普段は……その、たまに声が聞こえたり、この道はなんだか嫌な感じがするなぁ、くらいです」


 ふぅん、元々霊感とか第六感なるものが鋭い子なのかもね。


「それなら自衛しておけ。ストレスは溜め込まず、氏神の神社に毎日通ったりしてれば早々巻き込まれることはない」


「まぁ、何はともあれ!お疲れ様、湊くん」


「あ、はいっ!お姉さんも、死神様も、助けてくれてありがとうございました!」


 私なにもしてないけどね。普通に半顔の女の子にビビってただけだし。ぶっちゃけ今日はお風呂に入れないと思う。角膜に焼き付いてるんだよ。ガチで。

 でもお礼を言われて悪い気はしないからお口チャックしとこう。


「今後三日間は死者に狙われやすくなる。目をつけられたく無ければ、氏神の神社以外は出歩かず、家で大人しくしてろよ」


「はい!本当に、ありがとうございました!」


「じゃ、他にも仕事残ってるから俺はそろそろ行くわ」


「あっ……私も、助けてくれてありがとうございました!!」


「……次はもっと静かに呼べよ。あんな叫ばなくても聞こえてる」


 そう言って柵の上に立つと後ろ手に手を振り、そのまま夜に紛れた。


「「かっこいー……」」


 吐息を吐き出すように溢れた台詞が重なった。

 思わず横を見ると湊くんも私を見ていて、どちらともなく吹き出す。

 分かる。あの去り方は格好良いよね。

 なんだろ、死神って人の命を扱うからなのか、想像していたよりもずっと優しい。

 最後に湊くんに忠告する時には頭を優しく撫でてたし。


「静かに登場して、静かに死者を消して、静かに去る。死神様が人間だったら多分モテてるね。それくらいスマートだった」


「分かります。しかもミーハーな女子よりも、ガチ恋が多そう」


「そうそう!でも本人は一切自覚がないやつね」


「天然とか鈍感なんじゃなくて、『困り事してたら手を貸す』っていう人として当たり前のことをやっただけだから、それだけで好かれるとは思ってないタイプですよ絶対!!」


「それ!!そうなると……老若男女にモテる運命にあるな?」


「それな」


 ぽんぽん中身のない言葉の応酬が続く。

 なんとなく、湊くんからは私と似たような匂いを感じるんだよね。

 と言うか、思考回路が似てる気がする。

 現に死神様をネタにして盛り上がれてるし。

 湊くんの適応能力がずば抜けてるだけな気もするけど。





──────────



 あれから沢山話した。

 屋上の柵に背中を預けて、横に隣合って座って。

 私の名前を伝えて無かったから、改めて自己紹介したし、私の趣味も伝えた。

 嬉しかったのは、湊くんの好きな映画が全て私と同じだったこと。

 湊くんは頭が良さそうだから、サスペンス系かな?って思ってたけど、まさかのアクション系だった。

 もちろん、私のテンションはぶち上がった。

 私も友達はいなかったし、むしろいなくていいと思ってた。

 正直、湊くんと友達になったものの趣味が合わないうえに連絡とかちょこっと面倒だな〜って思ってたけど、今はそんな考えが消えてしまうくらい、本当に楽しく素の私で話せた。

 私と似てるっていう点も親しくなれたポイントだと思ってる。






「命さん、今日は本当にありがとうございました」


 湊くんの家の前。玄関を開ける前にまたお礼を言われた。


「命さんは何もしてないって思ってると思うけど、『友達になろう』って言われたの本当に嬉しかったんです。……友達が出来るなら幽霊でもいい、なんて言ったけど……全然よくなかった。生きてる人間の友達を作って、映画に行ったり中身のない会話をしたり、そう言うことがしたかったんです。だから、僕と友達になってくれて、ありがとうございました。」


 ──命さんは、僕の心を助けてくれたんです──


「……高校生って、そういうこと恥ずかしげも無く言えるんだね」


 面と向かって小っ恥ずかしいこと言う湊くんに、思わず捻くれた言葉が出てしまった。

 でも、流石にこれは格好悪いよね。

 手のひらをぎゅ、と握り湊くんが何か言う前に口を開いた。


「私も、ありがとう。湊くんにさ、友達になろうって言ったけど、私も友達は一人もいなかったの。湊くんが初めて私と友達になってくれた人なんだよ。だから、ありがとうは私の台詞」


 若干早口っぽくなっちゃったし、どんどん小声になって言ったけど、静かな住宅街にはよく響いたみたい。

 湊くんは綺麗な顔で笑っていた。


「ふ、はは……!僕たち、似たもの同士ですね!」


「……早く家入んなよ」


 なんだか落ち着かない気持ちになり、追い払うように片手を動かした。


「命さん……また話したくなったら、連絡……してもいいですか?」


「なんのために連絡先教えたと思ってんの?友達なんだから、好きな時にしていいんだよ」


「へへ……また連絡しますね!お休みなさい!」


 屋上で見た時とはまるで違う背筋が伸びてる背中を眺め口端が上がる。


「しばらくは、私から連絡してやるかぁ」


 湊くんが遠慮しなくなるまでは。なんて考えながらグググ、と伸びをする。


 朝日が昇りだし、空の奥の方から赤とオレンジで染まり始めた。


 初仕事、無事に終了。かな?


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