第12話 「知らない名前」
1
日曜日の朝、枕もとのスマートフォンが短く震えた。
画面には、ゲームの公式アプリからの通知が一件だけ表示されている。
「今日は昼過ぎには入る」
まだ、八時五十分だ。
別に遅くなるわけでもないのに、わざわざメッセージをくれた。
私はすぐに返事を書きかける。
「了解」
あまりにも素っ気なく見えて、消した。
「待ってる」
昨日あれだけ待っていた翌日の返事としては、私には可愛すぎて、これも消す。
悩んで迷ってから、「わかった」と打ち込んで送信した。
誰もいない部屋の中で、私の表情はゆるゆるに崩れている。
メッセージを送ってからも、しばらくスマホの画面を見つめていた。
昨日までは、彼がいつ頃来るのかもわからなかった。
でも今日は、知っている。
「よし」
昼過ぎまでに洗濯をして、掃除をして、ご飯を食べて、心置きなくログインすればいい。
そう決めて、私はベッドから起き上がった。
◆◆◆
金曜から続いていたシステム障害の対応で、だいぶ疲れていたのに、やけに早く目が覚めた。
昨日の「ずっと、待ってた」が、あまりにまっすぐで、あの文字の残像が頭から離れない。
俺はゲームの公式アプリを開いて、メッセージの入力画面を出す。
別に、今日が特別遅くなるわけでもない。
それなのに、何を送ろうとしているんだか。
「今日は昼過ぎには入る」
しばらく考えてから打ち込んだ一行は、結果的にただの業務連絡みたいになった。
昨日は待たせてしまった。
だから今日は、先に知らせておく。
それでいい。
少しすると、返信が届いた。
「わかった」
昼過ぎにログインすれば、向こうも来るだろう。
それまでにクリーニング屋に行って、シャツを回収してこよう。
2
洗濯も掃除も終わって、ご飯も食べたのに時間はまだ十三時前だった。
どうしようか迷ったけれど、結局ゲームにログインした。
このゲームでは、装備の性能とは別に、キャラクターの見た目を好きな服へ変えられる。
「ドレスアップ」と呼ばれる機能で、凝る人は季節や行き先に合わせて、何着も服を作っていた。
私はそこまで興味はないけれど、強い装備だからといって、ちぐはぐな格好のまま歩くのは気になる。
久しぶりに、見た目を変えるのもいいかもしれない。
そう思っていたのに、二十分ほどでKzさんはログインしてきた。
Kz:いた
るびぃ:いたよ
Kz:待ってた?
るびぃ:今日は待ってない
待ってたといえば、そうなんだけど。
Kz:今日は?
るびぃ:ドレアする服を見てた
Kz:ふうん
Kz:服変えるの
るびぃ:変えようと思ってたら、あなたが来た
るびぃ:ちゃんと昼過ぎだったね
Kz:言っただろ
るびぃ:昨日は信用がなかった
Kz:今日は?
るびぃ:八割
Kz:低いな
るびぃ:これから上がるかも
Kz:じゃあ、がんばる
昨日の夜に近づいた距離はそのままに、会話だけが、いつもの調子へ戻って行く。
3
画面下には、チームチャットが流れている。
日曜日の今日は、昼間からずいぶんにぎやかだ。
リリィ:シンさん、デイリー行こうよ
シン:ああ、いいよ
リリィ:るびさんも誘う?
シン:誘えば?
シン:多いほうが楽だろ
なんだか、呼ばれそうだ。
リリィ:るびさん、デイリー行こうよ
リリィ:シンさんがデイリー行くぞって、しつこいからさw
シン:てめぇ、自分から誘っといて何言ってやがる
リリィ:でも、行きたいでしょ?
シン:日課だから、行くけどよ
リリィ:ほらw
シン:なに言ってんだ
シン:ほらってなんだ
もう、吹き出してしまった。
リリィさんは、シンさんに対していつも話をちょっと曲げる。
るびぃ:wwwww
□
フレンドチャットに切り替えた。
るびぃ:チームの人にデイリ―クエスト誘われた
るびぃ:ふたりいるみたい
毎日受けられて、報酬もおいしいデイリークエスト、いわゆる「日課」だ。
Kz:行きたい?
るびぃ:あなたも一緒なら
Kz:じゃあ、行こう
□
チームチャットに戻して、リリィさんに返事をした。
るびぃ:Kzさんと行こうかって話してたとこなの
リリィ:じゃあ、Kzさんも一緒に行こうよ
シン:4人ならすぐ終わるな
リリィ:シンさんは、最初から4人で行きたかったみたい
シン:一言も言ってない
リリィ:でも、断ってないじゃん
シン:人数増えて断る理由ないだろ
リリィ:シンさんって寂しがり屋w
シン:リリ。お前は来なくていいわ
リリィ:なんでよー
リリィ:あたしがいないと、るびさんが寂しがるからさ
いや、そんなこと言ってない。
リリィ:るびさん、PT誘ってーw
三人を順番にパーティへ誘った。
四人がそろうと、今度はパーティチャットに切り替えた。
リリィ:Kzさん、はじめましてー
Kz:どうも
リリィ:シンさんが、どうしても4人で行きたいってー
シン:まだ、やんのか
リリィ:Kzさんも気を付けてね
Kz:何を?
リリィ:シンさん、すぐにかわいい人守りたがるから
シン:誰が守るって言った
シン:日課で守る場面なんかねぇだろ
街へ行って、クエストを受けて指定の場所へ行くと、シンさんがいつものように仕切りだした。
シン:東側、俺がやる
リリィ:ひとりで全部倒したいらしいよ
シン:手分けした方が早いって言ってんだ
リリィ:シンさん、張り切ってるから任せよう
シン:お前も働け
リリィ:るびさん、こっち行こ
シン:るびは俺と反対側だ
リリィ:るびさんを私から引き離した
シン:効率の話だろうが
Kz:いつもこんな感じなの?
るびぃ:だいたい
Kz:大変そう
るびぃ:見てる分には面白いよ
シン:聞こえてんぞ
四人でやれば、日課は数分で終わった。
ひとしきり好き勝手なことを言ったあと、リリィさんは真っ先に切り出した。
リリィ:じゃあ、あたし落ちるねー
シン:結局、お前が一番先に落ちるのか
リリィ:シンさんが行きたがってたから、付き合ってあげたのにぃ
シン:お前、ずっとそのテンションで疲れねぇ?
4
リリィさんがログアウトしたあと、三人になったところで、Kzさんが思いついたように言った。
Kz:このあと、塔行かない?
シン:いいな
Kz:ひとり呼べる
るびぃ:だれ?
Kz:古いフレ
私の知らない人だろう。
Kzさんのフレンドさんは、何人か一緒に遊んだことがある。
先日のラスボスもKzさんのフレンドさんだった。
【リノがパーティに加わりました】
リノ:K、ひさしぶり
Kz:久しぶりってほどじゃない
リノ:二十日ぶりくらい?
Kz:最近じゃん
シン:Kって?
リノ:この人
リノさんは、そう言ってKzさんの隣に移動した。
シン:二文字くらい呼べんだろ
リノ:昔からKだから
Kz:気にしなくていいです
シン:俺が気になるんだよ
るびぃ:wwwww
るびぃ:シンさん、細かいww
画面の上では、私も一緒に笑った。
でも、本当は私も気になる。
私は、ずっとKzさんと呼んでいる。
敬称付きで。
リノさんは、私の知らないKzさんを知っている。
リノ:るびぃさん、はじめまして
るびぃ:はじめまして。よろしくお願いします
リノ:最近、Kとよく一緒にいる人だよね
るびぃ:知ってるんですか?
リノ:フレンドリスト見たら、いつもふたりでPTだもん
リノ:前にKから、ちょっと聞いてたし
シン:監視されてんぞ、K
リノ:wwwww
Kz:シンさんが言うとややこしくなる
「よく一緒にいる人」
Kzさんは、私のことをリノさんに何と話したんだろう。
知られていたことは、少しうれしい。
それなのに、胸の中には別のものも混じっていた。
5
私たちは、砂漠の国にある塔へ移動した。
制限時間内に次々と現れる魔物を倒し、得点を稼ぐ四人用のコンテンツだ。
全滅すると、それまでに稼いだ得点を失ってしまう。
最後まで戦うだけでなく、危なくなる前に脱出する判断も必要になる。
塔は一から四まであり、数字が大きくなるほど難易度も上がっていく。
一度の挑戦は、第一陣から第四陣まで。
それぞれの陣の最後に現れる守将を倒すと、次が始まるまで短い準備時間が設けられている。
その間に、先へ進むか、得点を持って生還するかを選ぶことができる。
祭壇の前に四人がそろったとき、リノさんが口を開いた。
リノ:K、三から行く?
Kz:るび、今週どこ残ってる?
るびぃ:二と三
Kz:じゃあ、二から
リノ:Kが二から行くの、珍しいね
Kz:最後に二だけ残る方が面倒でしょ
リノ:前は難しい方から行ってたのに
Kz:いつの話?
リノ:昔
リノさんとKzさんは、この塔にもよく来ていたのだろうとわかる。
会話を聞いているだけで、ふたりとも場馴れしているのが伝わってくる。
私は、Kzさんがこのゲームでどんなことを楽しんでいたのか、知らないことだらけなのではないかと思う。
今日は、どの塔にするかを私に合わせて考えてくれている。
だけど、本当はもっと難易度の高い方に挑戦するほうが、彼にとっては楽しいのかもしれない。
リノさんは何度も挑戦しているらしく、魔物が現れる場所や攻撃の特徴をよく把握していた。
四人の役割を、迷いなく振り分けていく。
リノ:K、最初は左でいい?
Kz:うん
リノ:鐘が出たらお願い
鐘は放っておくと新しい魔物を呼び寄せるため、現れたらすぐに壊す必要がある。
Kz:了解
シン:俺は?
リノ:右側、お願いできますか?
シン:任せろ
リノ:るびぃさんは、中央に残った敵をお願いしてもいい?
るびぃ:はい
リノ:中央は数が多いから、るびぃさんの範囲攻撃が一番早いと思う
そう言って、私にも丁寧に説明してくれた。
でも、Kzさんには「鐘」とか「左」だけで、全部通じているみたいだった。
リノさんは、Kzさんがどう動くのか、何をするのかをちゃんと把握している。
今日は、私とふたりでいるときには見えないKzさんを、少しだけ覗いているような気がした。
私とKzさんにも、言葉にしなくても通じることはある。
日課へ向かう順番も、何もせずに過ごす時間も、いつの間にかふたりのあいだにできたものだ。
それでも、今日ここにいるのは私の知らない場所で、私の知らない人たちと遊んできたKzさんだった。
戦闘が始まると、四方八方から、さまざまな魔物がわらわらと湧いてきた。
リノさんは、魔法攻撃のダメージを軽減する補助魔法を、全員に素早くかけてくれた。
Kzさんは左へ、シンさんは右へ、私は中央へと、それぞれ散らばっていく。
リノ:K! 奥!
Kz:見えてる
リノ:次、中央
Kz:了解
短い単語だけなのに、それだけで全部通じている。
私は中央に集まった魔物へ、範囲攻撃を続けた。
数は多いけれど、一体ずつはそれほど強くない。
近づいてくる敵をまとめて巻き込みながら、次々に削っていく。
その合間にも、視界の端へ左側のふたりが入った。
リノさんの回復がKzさんへ飛ぶ。
その直後、リノさんの背後へ近づいた魔物に、Kzさんの大剣が振り下ろされた。
左側が落ち着くと、リノさんはすぐにシンさんへ回復と補助を飛ばす。
Kzさんも、次に中央へ現れた魔物へ向かって、迷いなく走り出した。
私は自分の攻撃を続けながら、何度も二人の動きを目で追っていた。
打ち合わせた様子はない。
それでもリノさんは、Kzさんが次にどこへ行くのか知っているようだった。
Kzさんも、リノさんがどこまでならひとりで耐えられるのか、わかっているように見えた。
何度も一緒に、この塔へ来た人たちの動きだった。
Kzさんとシンさんが第一陣の守将を前方から攻撃する。
私は後方から魔法を放ちながら、広範囲の攻撃を避けた。
そして――守将が倒れた。
画面の中央に、次の陣が始まるまでの残り時間が表示される。
三十秒。
戦闘状態が解除され、四人のキャラクターが祭壇の中央へ集まった。
リノ:K、今回は奥まで行きすぎないでね
Kz:行ってないでしょ
リノ:前、突っ込んだ人を追いかけて、戻れなくなったじゃん
Kz:何年前の話してるの
リノ:私が三人分蘇生させられたとき
Kz:あれはシンさんみたいな人が勝手に突っ込んだから
シン:なんで俺が巻き込まれてんだ
リノ:似てるから
Kz:いや、似てない
シン:俺も似てねぇと思う
るびぃ:wwwww
Kzさんがここで走り回り、失敗して、笑って、勝ち方を覚えていった頃、私はまだ、彼の隣にいる人ではなかった。
彼には、私の知らない失敗があり、笑いがあり、勝利がある。
第二陣開始直前、リノさんが私に言った。
リノ:るびぃさん、次は中央に大きいのが出るから、少し下がってた方がいいかも
るびぃ:わかりました
リノ:Kはすぐ奥へ行くから、放っておいて大丈夫
Kz:放っておかないでください
リノ:戻ってくれば回復するよ
シン:扱い雑だな
リノ:昔からだから
リノさんは、誰にでも平等に親切だった。
勝つために必要なことを、迷いなく教えてくれる。
この人となら、また一緒に遊びたい。
そう思えるくらい、頼りになる人だった。
それなのに、また一緒に遊ぶことになったら、私は今日と同じように笑っていられるのだろうか。
彼のことを「K」と呼び、短い言葉だけで、あの人のことを分かっているように話す人。
私は、嫉妬している。
その自覚が、ちゃんとあった。
ふたりが今まで一緒に遊び、戦ってきた時間を、急に目の前へ置かれたようで、息が詰まった。
カウントがゼロになり、第二陣が始まった。
私は言われたとおり、中央から少し後退した。
直後、横から一体の魔物がこちらへ向かってくる。
リノさんは右側のシンさんを回復していた。
私が攻撃を選ぶより先に、声が飛んでくる。
Kz:るび、右
るびぃ:うん
私が右へ避けた直後、Kzさんの大剣が魔物を斬り伏せた。
彼は、私を見ていてくれた。
もしかすると、最初からずっと気にしてくれていたのかもしれない。
私には、ほかの場所を見る余裕などなかったけれど。
ボスの周囲で飛び回る雑魚が、ずいぶん減ってくる。
攻撃対象が減ると、また大剣を持つKzさんと片手剣を両手に持つシンさんが直接攻撃する。
時々、太い尻尾を振り回すドラゴンの範囲攻撃を避けながら私も後方から攻撃を繰り返した。
やがて第二陣の守将も倒れ、再び準備時間へ入った。
Kz:るび、平気?
るびぃ:うん
Kz:きつかったら言って
るびぃ:大丈夫
シン:俺には聞かねぇのか
Kz:平気そうなんで
シン:見りゃわかるだろ
リノ:シンさんは元気だね
シン:当たり前だ
リノ:Kも前より後ろ見るようになったね
Kz:敵を見てただけ
リノ:前も敵はいたよ
Kz:昔の話でしょ
リノ:そうだね
さっき、彼が私に「右へ」と言ったことを指しているのだと思った。
慣れていて、周囲を見る余裕があるからできたことなのかもしれない。
それでも、見ていてくれたことがうれしかった。
◆◆◆
第三陣が始まった。
リノが来てから、るびぃの返事が妙に短い。
口数も少ない。
この塔には、るびぃも毎週来ていたはずだ。
けれど、俺とは一度も来たことがない。
普段、誰と来ているのかまで聞いたことはなかった。
リノとは、初対面で緊張しているのかもしれない。
特にリノは、こういう荒いコンテンツに慣れている。
それだけで、圧倒されているのだろう。
第三陣まで来ると、魔物の攻撃とダメージが増す。
油断していると、倒れてしまう。
一度、倒れると蘇生と回復が重なって、全体が揺れる。
俺は、るびぃのほうも気にしながら、左側から攻めた。
シン:るび、中央寄れ
るびぃ:うん
あいつが、るびぃの周囲をちょろちょろしている。
シン:るび、俺の後ろ
るびぃ:そこ範囲来るよ
シン:だから俺の後ろ来いって
るびぃ:はいはい
るびぃは毎週ここに、コイツと来ていたのだろうか。
いやにやり取りが慣れた感じがする。
中央に立つるびぃの周囲に、魔物が集まっている。
シン:るび!こっちだ
Kz:るび、左
Kz:こっち
俺が呼ぶと、るびぃはこっちに走ってきた。
どちらでも、範囲攻撃は避けられただろうが、こちらに来た。
範囲攻撃を避けて、中央左寄りでるびぃも魔法攻撃を放っている。
背後から、リノが回復とバフで補助している。
第三陣の守将に、るびぃが守備力を下げる魔法をかけた。
効果が続くのは二十秒ほどだ。
魔法を放ったるびぃが、俺の側まで下がってくる。
今のうちに叩く。
シンも右側から、こちら側へと移動していた。
第三陣が終了して、また三十秒の間があいたとき、シンがるびぃに声をかけていた。
シン:るび、俺が呼んだのに何でそっち行くんだよ
るびぃ:近かったから
Kz:左の方が安全だったんで
シン:お前に聞いてねぇ
Kz:説明しただけだ
リノ:ふたりとも、次始まるよ
ラストだ。
今のところ順調だ。
「近かったから」
るびぃはそう言った。
左の方が安全だったから、それだけだろう。
それでも、あいつの方を選ばなかったことが、妙にうれしかった。
◆◆◆
第四陣が始まった。
さっき、シンさんに聞かれたことを、なぜKzさんが代わりに答えたのだろう。
左の方が安全だったのは、本当だ。
でも、私がそちらへ行ったのは、それだけではなかった。
全体の動きを把握しているリノさんは、とにかくすごい。
最近は、耐久力を上げた硬いヒーラーも多い。
彼女も、この塔のためだけに炎耐性を積んだ装備を用意しているに違いない。
シンさんは、二刀流で接近戦が強い。
そのぶん敵の攻撃も受けやすく、リノさんは特に注意して見ているようだった。
中央から左手に、Kzさんがいて虎の相手をしていた。
彼の背後に、巨大ななめくじのような、緑色の魔物が近付いていた。
私は咄嗟に、それを凍らせた。
Kz:助かった
るびぃ:見えた
そのあとは、湧き続ける魔物を延々と範囲攻撃で削っていた。
最後はやっぱり、Kzさんとシンさんが守将をタコ殴りにして終わった。
時間はぎりぎりだったけれど、なんとかクリアだ。
とりあえず、足手まといにはならずに済んだ気がする。
終われば、ランキングが出て、強制的に祭壇の前へ飛ばされる。
リノ:楽しかったw
リノ:るびさん、また行こう
るびぃ:はい、ぜひぜひw
でも、「K」は聞きたくない。
シン:るび、来週も俺とだからな
るびぃ:はいはい
Kz:誰にでも言ってるよね?それ
シン:言ってねぇよ
シン:るびとリリくらいだ
るびぃ:レイさんにも言ってるの聞いたことあるよ?
シン:レイには一回しか言ってねぇ
るびぃ:はいはい
リノ:じゃあ、お疲れ様
るびぃ:解散しときますね
そう言って、パーティを解散したら、すぐにPT申請が来た。
Kzさんからだった。
6
【Kzからパーティ申請が届いています】
承認を選んだ。
【Kzのパーティに加わりました】
すぐに、パーティ申請が来たってことは、このあとも私と一緒にいようって思ってるんだよね。
それなら、嬉しい。
Kz:疲れた?
るびぃ:ちょっと
Kz:家に戻る?
るびぃ:うん
Kz:フェアルでいい?
フェアルという街の住宅村に彼の家がある。
私の家は、グリーザの住宅村だ。
るびぃ:うん
彼の家の庭の隅に、一緒に選んだ小さなランプが今も同じ場所で灯っていた。
家の中に入って、ふたりで近くにあった長椅子に座った。
お互いしばらく黙っていたけれど、彼が先に沈黙を破った。
Kz:シンとは、よく遊ぶの?
るびぃ:チームでたまに
Kz:塔も?
るびぃ:誘われたら行くかな
Kz:毎週一緒なのかと思った
るびぃ:なんで?
Kz:慣れてたから
るびぃ:シンさんは、誰にでもあんな感じだよ
Kz:知ってるよ
Kz:すぐわかるw
知ってるのに聞くのね。
るびぃ:ふたりで行くことは、ほとんどないよ
Kz:ふーん
るびぃ:なに
Kz:別に
るびぃ:その「別に」が信用できない
Kz:チームの人間関係を聞いただけ
るびぃ:はいはい
Kz:それ、シンに返した返事と同じ
るびぃ:よく見てるね
Kz:見えるところで言ってた
私だって聞きたい。
聞きたいけど、過去に探りを入れるみたいで遠慮してたのに。
そっちが聞いたなら、私だって聞いてもいいかもしれない。
頭の中で、理屈をこねまわしていた。
るびぃ:リノさんは?
Kz:古いフレ
るびぃ:どれくらい?
Kz:三年くらいかな
るびぃ:私より前だ
Kz:そうだね
私の知らない彼を知るリノさん。
なにか、重くて硬いものを飲み込んだみたいになる。
るびぃ:Kって呼ぶんだね
Kz:昔から
るびぃ:ふーん
Kz:なに
るびぃ:別に
Kz:その「別に」信用ない
るびぃ:真似しないで
Kz:そっちが先
Kz:リノが来てから、ちょっと静かだったよね
るびぃ:戦闘に集中してたし
Kz:それだけ?
るびぃ:初めて会った人だし
Kz:リノ、苦手だった?
るびぃ:んーん
るびぃ:いい人
るびぃ:また、一緒に遊んでもいいと思う
でも、「K」は聞きたくないけど。
Kz:ならよかった
少し間があいて、彼は続けて言った。
Kz:リノとは、たまにエンドとか行くくらい
Kz:最近は、そんな会ってない
そこまで説明してくれるのはうれしい。
けれど、「最近は」ということは、前はもっとよく一緒にいたのだろうか。
るびぃ:リノさん、私のこと前に聞いたって言ってた
Kz:別に大したこと言ってない
Kz:最近よく一緒にいる人がいるって
るびぃ:それだけ?
Kz:二年来のフレだって
るびぃ:それだけ?
Kz:なんて言えばよかったの
そう言われたら答えに困る。
でも、彼の中では、私たちはまだ「フレンド」の枠から出ていないのだろうか。
るびぃ:わからない
Kz:じゃあ、聞くなよ
るびぃ:聞きたかったの
Kz:そう
私たちの関係には、ほかの人へ簡単に説明できる名前がなかった。
友達ではある。
けれど、ただの友達だと言われたら、少し違う気がした。
でも、それは私がそう思っているだけなのかもしれない。
少し黙っていると、Kzさんがいつもの調子で聞いてきた。
Kz:次、なにする?
るびぃ:ふたりでできるやつ
るびぃ:知らない人がいないところに行きたい
Kz:過疎ってる初期村とか?w
るびぃ:それもいいね
るびぃ:スライムも逃げていく
Kz:じゃあ、行ってみる?
るびぃ:うん
私たちは、ゲームを始めたばかりのプレイヤーが最初に降り立つ、小さな村へ移動した。
日曜日の昼間なのに、広場には誰もいなかった。
村を出ると、近くにいたスライムが私たちに気づき、反対方向へ逃げていく。
Kz:ほんとに逃げたw
るびぃ:言ったでしょ
このゲームを始めたころ、私はひとりでこの村から歩き始めた。
迷いながら、ここまで来た。
今は、ふたりで迷いながら、ここにいる。
紅葉便り 第12話 「知らない名前」 おわり




