表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『となりの席の、攻略対象外。』  作者: S.S


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/10

第9話「卒業前夜、それぞれの本音」

日曜日。


朝から落ち着かなかった。


何を着ればいいのか分からない。


髪も何度も整えた。


鏡の前を行ったり来たりしていると、母親に


「初デート?」


と聞かれた。


「違う」


即答した。


だが顔が赤かったらしい。


「へえ」


とだけ言われた。


恥ずかしくて家を飛び出した。


待ち合わせ場所は駅前の広場だった。


約束の十五分前。


当然のように早く着く。


落ち着かない。


スマホを見る。


また見る。


時間はほとんど進んでいない。


拷問か。


そんなことを考えていると。


「朝倉」


声がした。


振り向く。


そして。


息が止まった。


九条だった。


私服姿。


白いコートにマフラー。


学校では見ない雰囲気。


綺麗だった。


本当に。


驚くほど。


「……何」


「いや」


言葉が出てこない。


「似合ってる」


それだけ言うのが精一杯だった。


九条は少し目を逸らした。


「ありがと」


耳が赤い。


たぶん。


俺も同じだった。


その日は特別なことはしなかった。


映画を見て。


カフェに入って。


本屋を歩いて。


普通の休日を過ごした。


でも。


不思議だった。


ただ隣にいるだけで楽しい。


沈黙すら心地いい。


こんな気持ちは初めてだった。


夕方。


公園のベンチ。


空はオレンジ色に染まっていた。


人通りは少ない。


静かだった。


そして。


ついに。


その時が来る。


「朝倉」


九条が先に口を開いた。


緊張しているのが分かった。


俺も同じだった。


「話したいことある」


あの日。


文化祭の後に言えなかった言葉。


ずっと聞きたかった言葉。


九条は膝の上で手を握る。


少し震えていた。


「私」


声が小さい。


でも。


はっきり聞こえた。


「昔、告白して振られたことある」


俺は黙って聞く。


「だから怖かった」


風が吹く。


マフラーが揺れる。


「好きって言って、嫌われたらどうしようって」


九条は苦笑した。


「情けないよね」


「情けなくない」


反射的に言った。


九条がこちらを見る。


「誰だって怖いだろ」


俺だってそうだ。


何度振られても。


好きだと伝える瞬間は怖い。


「……ありがとう」


九条が小さく笑う。


そして。


少しだけ深呼吸した。


覚悟を決めるように。


「朝倉」


名前を呼ばれる。


胸が高鳴る。


「ずっと」


彼女の声が震える。


「ずっと好きだった」


世界が静かになった。


風の音も。


遠くの話し声も。


全部消えた気がした。


聞こえるのは。


自分の心臓だけ。


「最初は変な人だと思った」


ひどい。


でも事実だった。


「うるさいし」


事実。


「バカだし」


否定できない。


九条は笑った。


少し泣きそうな顔で。


「でも」


そして。


まっすぐ俺を見る。


「気付いたら好きになってた」


それが。


九条紗奈の告白だった。


数秒。


何も言えなかった。


夢みたいだった。


でも。


言わなければいけない。


今度は俺の番だ。


「九条」


呼ぶ。


彼女が緊張した顔をする。


「俺も好きだ」


即答だった。


迷いなんてない。


「最初から気になってた」


九条が少し驚く。


「相合い傘した時」


懐かしい。


あの日の雨。


「完全に好きになった」


九条が吹き出した。


「早い」


「自分でも思う」


二人で笑う。


緊張が少しだけ解けた。


そして。


俺は改めて言った。


「好きだ」


今度はちゃんと。


真剣に。


「付き合ってください」


沈黙。


数秒。


いや。


体感では数年。


そして。


九条が頷いた。


「よろしくお願いします」


その瞬間。


胸の奥にあったものが全部ほどけた。


長かった片想い。


不安も。


勘違いも。


すれ違いも。


全部。


ようやく終わった。


帰り道。


駅前まで並んで歩く。


付き合った。


本当に?


まだ実感がない。


すると。


隣の九条が小さく言った。


「朝倉」


「ん?」


「ひとつお願い」


「何?」


少しだけ迷って。


九条は言った。


「紗奈って呼んで」


心臓が爆発した。


無理。


難易度が高すぎる。


だが。


恋人になったのだ。


逃げられない。


「……紗奈」


呼ぶ。


九条――いや。


紗奈が笑う。


柔らかく。


幸せそうに。


その笑顔を見た瞬間。


俺は思った。


たぶん。


これから先。


何回見ても好きになる。


そして季節は流れ。


春が来る。


卒業の日が近付く。


二人の高校生活も。


終わりへ向かっていた。


だけど。


恋は終わらない。


むしろ。


ここから始まるのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ