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『となりの席の、攻略対象外。』  作者: S.S


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第5話「ふたりきりの放課後」

文化祭まであと二週間。


クラスの出し物は、投票の結果――


お化け屋敷


になった。


「だから言ったでしょ」


九条が言う。


「まさか本当に通るとは思わなかったんだよ」


俺は黒板に貼られた企画書を見ながら肩を落とした。


ホラーは苦手だ。


いや、正確には。


かなり苦手だ。


だがクラスのみんなは妙にやる気だった。


「よーし!」


「過去一怖いやつ作ろうぜ!」


「泣かせよう!」


物騒な会話しか聞こえない。


絶対おかしい。


放課後。


俺と九条は備品の買い出しを任されていた。


段ボール。


黒い布。


装飾用のテープ。


細かい小道具。


思った以上に荷物が多い。


「重っ……」


「情けない」


「九条も持ってるだろ」


「朝倉より軽い」


それはそうだ。


だが男として認めたくない。


「貸せ」


「大丈夫」


「いや貸せ」


「平気」


「意地張るな」


「朝倉こそ」


言い合いになった結果。


二人とも同じ段ボールを持つことになった。


意味が分からない。


でも。


自然と距離が近くなる。


肩が触れそうなくらい。


妙に意識してしまう。


すると。


「朝倉」


「ん?」


「最近元気ない」


ドキッとした。


「そうか?」


「そう」


九条は前を見たまま言う。


「何かあった?」


何か。


ある。


ものすごくある。


原因は目の前の人だ。


でも言えるわけがない。


「別に」


「嘘」


即答だった。


「なんで分かるんだよ」


「顔」


また顔か。


俺の感情管理能力は壊滅的らしい。


学校へ戻る途中。


商店街の近くで。


「朝倉くーん!」


聞き覚えのある声が響いた。


嫌な予感がする。


振り返る。


いた。


美咲だった。


「またかよ!」


「まただよ!」


元気いっぱいだった。


「二人でデート?」


「違う」


俺と九条が同時に答える。


またハモった。


美咲は爆笑した。


「仲良し!」


「違う」


再びハモる。


さらに笑われた。


理不尽だ。


学校へ戻ると。


美咲は用事があると言って帰っていった。


やっと静かになった。


そう思った矢先。


「朝倉」


「ん?」


「聞きたいことある」


九条が珍しく真面目な顔をしていた。


「何?」


少しの沈黙。


そして。


「美咲みたいな子、好き?」


思考停止。


完全停止。


脳が落ちた。


「え?」


「だから」


九条は視線を逸らした。


「明るくて、可愛くて、誰とでも話せる子」


夕日が差し込む。


なぜそんなことを聞くんだ。


分からない。


でも。


答えは決まっていた。


「いいや」


九条がこちらを見る。


「違うタイプが好き」


言った瞬間。


心臓が爆発しそうになった。


ほぼ告白じゃないか。


俺。


何言ってるんだ。


だが九条は何も言わない。


ただ少しだけ。


安心したような顔をした。


気がした。


その日の準備作業は長引いた。


気付けば校舎にはほとんど人が残っていない。


時計を見る。


午後六時半。


窓の外はもう暗い。


「終わった……」


俺は机に突っ伏した。


疲れた。


本当に疲れた。


「お疲れ」


九条が珍しく優しい声で言う。


「九条もな」


教室には二人だけ。


静かだった。


廊下の音も聞こえない。


文化祭準備で何度も一緒にいたはずなのに。


今日の空気は少し違った。


変に意識してしまう。


沈黙。


長い沈黙。


その時だった。


突然。


バンッ!!


廊下から大きな音が響いた。


「うわあああっ!?」


俺は飛び上がった。


椅子ごと転びそうになる。


九条は一瞬呆然として。


次の瞬間。


笑い始めた。


「ふっ……あははっ!」


「笑うな!」


「だって……!」


お腹を抱えている。


そんなに面白いか。


めちゃくちゃ恥ずかしい。


「ホラー強いんじゃなかったの?」


「それは!」


反論しようとして止まる。


以前見栄を張ったことを思い出した。


九条は笑いながら言った。


「嘘つき」


「悪かったよ」


「知ってたけど」


「最初から!?」


さらに笑われた。


でも。


不思議と嫌じゃなかった。


むしろ。


その笑顔を見ているだけで嬉しい。


本当に重症だ。


帰る時間になった。


昇降口へ向かう途中。


九条が突然立ち止まる。


「どうした?」


「……朝倉」


少しだけ真剣な声。


俺も足を止める。


「文化祭終わったら」


心臓が跳ねた。


「うん」


「話したいことある」


世界が止まった。


何だそれ。


どういう意味だ。


期待していいのか。


ダメなのか。


俺が固まっている間に。


九条は先に歩き出す。


「じゃあね」


「お、おう」


去っていく後ろ姿。


俺はその場に立ち尽くした。


文化祭が終わったら。


話したいことがある。


その言葉だけが。


何度も何度も頭の中で繰り返されていた。


そして。


その様子を。


校舎の影から見ている人物がいたことを。


俺も九条も。


まだ知らなかった。


その人物――


美咲が。


少しだけ複雑そうな顔で。


二人を見つめていたことを。

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