第4話「ライバル登場、幼なじみ襲来」
文化祭まで残り三週間。
実行委員の仕事のおかげで、俺と九条は以前より話すようになっていた。
昼休みに少し会話をしたり。
放課後に準備をしたり。
たまに一緒に帰ったり。
……まあ、付き合っているわけではない。
全然ない。
まったくない。
でも。
「最近ずいぶん仲良いよな」
藤崎のその一言で、俺は盛大にむせた。
「な、何がだよ」
「朝倉と九条さん」
「普通だろ」
「普通のやつは毎日話さない」
「話すだろ」
「好きな相手ならな」
「ぐっ」
反論できない。
だが九条の気持ちは分からない。
少なくとも俺のことを嫌ってはいないと思う。
でもそれだけだ。
それ以上は――。
「朝倉」
突然名前を呼ばれた。
振り向くと九条が立っている。
「文化祭の資料」
「あ、ありがと」
彼女はプリントを渡す。
それだけのはずだった。
なのに。
「紗奈ー!」
教室のドアが勢いよく開いた。
そして。
小柄な女の子が一直線にこちらへ走ってきた。
「久しぶりー!」
ぎゅうっ。
九条に抱きついた。
教室中がざわつく。
九条も珍しく驚いた顔をしていた。
「……美咲?」
「会いたかったー!」
美咲と呼ばれた少女は満面の笑みを浮かべた。
茶色がかった髪。
明るい性格がそのまま形になったような雰囲気。
そして。
めちゃくちゃ可愛い。
「転校してきたんだよ!」
「聞いてない」
「驚かせたかったから!」
九条が少し困ったようにため息をつく。
でも。
その顔はどこか嬉しそうだった。
「誰?」
俺が小声で聞くと。
「幼なじみ」
九条が答えた。
なるほど。
だからこんなに距離が近いのか。
すると美咲がこちらを見た。
「え?」
じーっ。
ものすごく見られている。
「もしかして彼氏?」
「違う」
九条が即答した。
即答だった。
一秒も迷わなかった。
少しだけダメージを受けた。
「友達」
九条が続ける。
すると美咲が笑った。
「へえー」
なんだその意味深な笑顔は。
嫌な予感しかしない。
放課後。
文化祭準備のため教室に残ると。
そこにも美咲がいた。
「なんでいるの?」
「暇だから!」
理由が軽い。
「邪魔しないよー」
そう言いながら普通に居座っている。
絶対邪魔するやつだ。
案の定。
「ねえ朝倉くん」
「ん?」
「紗奈のこと好き?」
ブフォッ!
飲んでいたお茶を吹きそうになった。
「な、何言ってんの!?」
「気になるじゃん」
「気になるな」
九条まで乗っかるな。
俺は助けを求めるように九条を見る。
しかし。
彼女はなぜか少し面白そうな顔をしていた。
ひどい。
完全に他人事だ。
「で?」
美咲が身を乗り出す。
近い。
圧が強い。
「いや別に」
「嘘だ」
「なんで!?」
「分かるもん」
なんなんだこの子。
エスパーか。
すると。
「美咲」
九条が静かに言った。
「朝倉困ってる」
「あ、ごめんごめん」
全然悪そうじゃない。
だがそれ以上追及はしてこなかった。
助かった。
本当に助かった。
そう思った矢先だった。
「じゃあ私が朝倉くんと付き合おうかな」
沈黙。
教室の空気が止まった。
「は?」
俺。
「は?」
九条。
見事にハモった。
美咲はケラケラ笑っている。
「冗談だよ」
「心臓に悪い!」
「反応面白い」
この人絶対楽しんでる。
帰り道。
珍しく九条と二人だった。
夕焼けが街を赤く染めている。
しばらく歩いていると。
「ごめん」
九条が言った。
「何が?」
「美咲」
「ああ」
思わず苦笑する。
「賑やかだな」
「昔から」
九条は少し遠くを見る。
「でも悪いやつじゃない」
「それは分かる」
むしろ良いやつだ。
距離感がおかしいだけで。
すると九条が小さく笑った。
「朝倉、振り回されてた」
「お前も笑ってただろ」
「少し」
少しじゃない。
結構笑ってた。
その時。
九条がふと立ち止まった。
「どうした?」
「……」
彼女は少しだけ迷うような表情を見せる。
そして。
「美咲ね」
「うん」
「昔から、人の恋愛に首突っ込むの好きなの」
「へえ」
「だから変なこと言われても気にしないで」
そう言った。
でも。
なぜかその声は少し硬かった。
まるで。
何かを気にしているみたいに。
「九条?」
呼ぶと。
彼女はすぐいつもの顔に戻る。
「なんでもない」
そう言って歩き出した。
俺も後を追う。
だけど。
その日の帰り道。
俺は気付かなかった。
少し前を歩く九条が。
ほんの少しだけ。
不機嫌そうな顔をしていたことに。




