8話
秋の夕暮れ時。
カラスが電柱に止まって鳴いている住宅街。
中学生の俺は一人で学校から帰っていた。
そんな時だった、アイツが現れたのは。
赤いリボンを巻いたシルクハットとピエロの仮面を被った不審者。
目が疲れそうなほど派手に赤いマントを羽織っている。
「赤がいい?青がいい?それとも他がいい?」
そいつはいきなりそんな質問をしてきた。
俺は無視して通り過ぎようとした途端…。
「他がいいなら、赤にしよう」
いきなりそう言って俺の首を刃物で切り裂いた。
当時から格闘技を嗜み、大会出場経験もあった。
なのに俺は、そいつの動きに反応すらできなかった。
「あ…あぁ………」
首からドクドクと血が流れる。
体温が失われていく。
同時に、何かが俺の中に入っていく妙な感覚を覚えながら、俺は気絶した。
翌日、俺は病院のベッドにいた。
斬られたはずの首は無事で、医者曰く傷一つなかったらしい。
道に倒れていた俺を通行人が通報し、ベッドで安静にしていたようだ。
その後、俺は無事に退院。いつもの日常へと戻った。
紛れ込んだ異物と共に。
「どう思うこれ?特ダネじゃね?」
まずいまずいまずい!
どうする、どうするべきだ!?
スマホを奪うべきか、それともここで脅すべきか。最悪の場合は…。
いや、何を考えている。いくら何でもソレは許されない!
けどやらないと…もし俺の正体がばれたらどうなるか分かったモンじゃない。
俺だけじゃなく、今世の家族まで巻き込んでしまうかもしれない。
どうする、やっぱりやるしかないのか………!
「…っぷ、アハハハハハ!」
突然、朱然は笑い出した。
なんだこの女?一体何を考えてる?
もう焦りを通り越して殺意が湧いてきてるのに、マジで実行するぞ。
「ウソウソ!というかこんなの、脅しになんないよ!」
そう言って俺にスマホを突きつけ、画像を見せる。
映っていたのは紅マフラーとしての俺ではなく、人間としての俺だった。
「怪異は写真を媒介にするタイプ以外は基本的に映らないの。というか怪異調査で機材は大抵役に立たないわ」
「………何のつもりだ?」
意図が分からず俺は朱然に問う。
「アンタがどれだけ怪異のこと知ってるか知りたかったの。で、アンタマジの素人ね。怪異なのに縄張りや結界のことも知らなかったし」
「………」
ああそうだよ。俺はオカルト素人だ。
ただ力を手にしただけで、そういった知識はほぼ皆無。
知ってるのは自分の事だけ。どういった怪異でどう力を使うかはなんとなく出来た。
「てか赤染ってマジ何者?見た感じ赤マントの系譜っぽいけど、赤マントにそんな能力ないし」
「っ!?何か知ってるのか!?」
赤マント。
その名を聞いた瞬間、俺は冷静さを失って朱然の肩を掴んだ。
「教えろ、奴は今どこにいる!?」
「し…知らないし!赤マントは特定の縄張りが無い怪異!出現時は夕方って音以外は出現ランダム!会えるかどうかは運ゲーなの!」
「そ、そうなのか………」
落胆した俺は手を離す。
クソ、折角手がかりを見つけたと思ったのに!
「…その様子だとあんまし進展良くなさそうね。…じゃあさ、あーしが協力しようか?」
「………どういう意味だ?」
話の意味も意図も理解できず、俺は聞き返す。
「言った通りよ。アンタ、力はあっても怪異や都市伝説の知識もないし、探す伝手もない。何なら遠征する足や活動資金とかも無いんでしょ。だからあーしが代わりに用意してあげる」
「………」
確かに魅力的な提案だ。
俺は知識も伝手も金も無い。
出来ることは怪異の噂をネットとかで集め、現場に向かうこと。
けどソレで集まるっ情報は高が知れてるし、大半はデマで空振り。今回みたいに本物でも出会えないケースもある。あと、遠出になると金や時間もいる。
彼女の提案は非常に魅力的だ。
だからこそ気になる。
「お前は俺に何を望む?何が目的だ?」
「あーしの警護と怪異退治。見ての通りあーしはただの可憐なJKギャル。こんなか弱い少女じゃ怖い怖い怪異には何も出来ないの」
シクシクと泣きまねをする朱然。
「だから赤染の力を借りたいの?どう、悪い話じゃないと思うんだけど」
「………考えさせてくれ」
とりあえず俺は保留を選んだ。
ゆっくり整理する時間が欲しいし、何よりはぐれたコイツの連れも心配だ。
何処かであの怪異に怯えてずっと震えてるのは可哀そうだ。早く迎えに行ってやらないと。
「優しいね。いいわ、明日の放課後に話しましょ」
そういうことで一旦その場を解散し、はぐれた子たちを迎えに行った。
全員確保した後、夜も遅いし怖がってるので話どころじゃないから、朱然が用意した車に俺以外乗せて帰った。
野郎は一人寂しく徒歩で帰路に就く。
「そういやアイツ…何で俺の電話番号知ってたんだ?」
聞くことが増えたなこりゃ。




