7話
とある廃墟。
月明りが窓から照らす中、二体の怪異が向かい合っていた。
車椅子に座り点滴棒を持つ老人の姿をした怪異と、超人紅マフラー。
一見すれば老人の怪異は弱弱しく映るが、ソレは見かけに過ぎない。
「あああぁぁぁ!」
点滴棒を杖にして起き上がる老人の怪異。
立ち上がったと同時、車椅子に手をかける。
今にも折れそうな、枯れ木のように細い腕。
だというのに片手で車椅子を持ち上げ、剛速球で紅マフラーに放り投げた。
「おっと」
軽々と避ける紅マフラー。
その横を通り過ぎた車椅子はヒコンクリの壁に激突。
罅が入った箇所から壁をぶち破って埃が舞う。
「あああぁぁぁ!」
続けて点滴棒を振り回す。
バックステップで難なく避ける紅マント。
標的を失った点滴棒は床のフローリング突き刺す。
バキィと硬い音を鳴らしながら、深々と刺さった。
ヒビが入って脆くなったとはいえ、劣化していたとはいえ。
鉄筋入りのコンクリートの壁やフローリングを破壊する程の怪力。
外見は今にも骨折しそうなヨボヨボの老人だというのに。
これが怪異。
外見に騙されてはならない。
人の理から外れたソレに常識は通じない。
そしてこのルールは紅マフラーにも当てはまる。
「元気だねぇおじいちゃん。リハビリは順調みたいだ」
あれほどの怪力を見せたというのに、紅マフラーは軽口をやめない。
むしろ更に煽るかのように続ける。
「あああぁぁぁ!」
再び老人の怪異が動き出す。
右手に点滴棒を、左手に車椅子を持って。
車椅子を振り落とす。
先ほどコンクリの壁を破壊したというのに傷一つ付いてない。
紅マフラーはソレを下から蹴り上げて迎撃。同時に相手の体勢を崩す。
続けて後ろ回し蹴りを繰り出し、紅マフラーは確かな感触を覚えた。
点滴棒を振り回す。
フローリングを砕き、貫いたというのに一切曲がってない。
紅マフラーはソレを右手に持つ短刀で弾いて迎撃。同時に相手の体勢を崩す。
続けて懐に飛び込んでドスを何度も胴体に突き刺した。
「はあ!」
老人の怪異を投げ転がす。
ドスンと、衝撃が床が揺れながらヒビが入る。
紅マフラーは怪異を踏みつけながらドスを振りかざした。
藻掻く老人の怪異。
足を退かそうと掴むがビクともしない。
あれほどの怪力を以てしても抵抗出来ないパワー。
その事実が紅マフラーの強さを証明していた。
「一応聞くぜ。怪異をやめる方がいい?それとも俺に殺される方がいい?」
紅マフラーが質問する。
しかし老人の怪異は返答せず唸るだけだった。
そもそもこの怪異には応答するような知能はない。
人間だった経験がないからだ。
だが拒絶の反応は見せた。
それだけで紅マフラーの質問は意味を成し強制力が発動する。
ドスっ!
短刀を首に振り落とす。
ソレは頸動脈どころか頸椎すら破壊し、老人の怪異の首を跳ね飛ばした。
首と胴体が生き別れになったその身体は、黒く変色しながら塵となって消えて逝く。
その一部が紅マフラーの仮面やマフラーに掛かった。
終始圧倒。
この程度の怪異では、彼の相手は務まらない。
「………」
怪異の姿から人間に戻る。
身体を構成していた学ランやマフラーが色を失い、闇のように仮面へと吸収さ、その仮面も虚空に消えた。
今の彼は怪異ではない。赤染月雄というただの高校生だ。
カシャ!
瞬間、シャッターを切る音が木霊した。
慌てて紅マフラー―――月雄は音がした方に振り向く。
そこにいたのは、スマホを構える朱然茜だった。
「決定的瞬間激写! これって世紀の大発見じゃね?」
「………」
ニヤニヤする茜。
対する月雄は苦々しい顔でどう動くべきか模索する。
スマホを奪うべきか、それともここで脅すべきか。最悪の場合は…。
「ちょっと頼みがあるんだけど、いい?」
最悪だ。
それしか月雄は言えなかった。




