13話
とある格闘技ジム。
ジムと聞くと汗臭くて汚いイメージを連想しがちだが、最近は意外とキレイになっている。
そのリング上で月雄は同年代らしき選手とスパーリングを行っていた。
両者共にボクシングパンツのみ身に着け、髪の長い月雄は見えやすいように髪を後に結い、相手は金髪の丸刈りなので特に何もしてない。
「ッシュ!」
相手がジャブを出す。
しなるように繰り出される連続ジャブ。
月雄はソレらをスウェーで避け、グローブで弾くことで防御、上体を反らす事で回避した。
「しゃあ!」
月雄の反撃。
上体を戻しながらフック気味のストレートを繰り出す。
足腰の力が入った一撃。
しかし相手は咄嗟に防御を固めて受け止めた。
「―――ッ!」
追撃をかける。
ガードが空いた腹部にボディブロー。
しかし相手も咄嗟に肘を降ろしてガード。
肘打ちで月雄のグローブを弾いた。
相手の反撃。
その場で回転してエルボーを繰り出した。
至近距離での回転肘打ち。
月雄にとって死角からの奇襲。
しかしチラリと視界の端に映った影を元に、咄嗟に防御体勢を取る。
スリッピングアウェイ。
打ち込まれた瞬間に首を回転させて衝撃を反らすボクシングの高等テクニック。
しかし完全とは言いきれず、肘によって左眉辺りを切られた。
たらりと、血が滴って月雄の視界を遮る。
「…」
月雄に動揺した様子はない。
顔を切られていながら、自身の血を見ていながら。それがどうしたと言わんばかりの態度であった。
ジリジリと間合いを図る両者。
時には詰めて時には離れてと繰り返し、やがて動き出す。
「ハイそこまで。もう1ラウンド終わったよ」
しかし、ソレに待ったをかける。
リングの外から二人の練習試合を見守る男性。
タンクトップにボクサーパンツといった格好をしており、鍛えられた逞しい肉体が見える。
だが顔は端正であり、長い髪をポニーテールにまとめてる。
名田拳一郎。このジムの会長である。
「なんでさ会長これからだったのに!」
「だからだよ達也。熱くなりすぎ。ウチは流血《赤》NGって言ったろ?」
会長は月雄と達也にタオルを投げ渡す。
ソレを受け取った月雄は血を抑えた。
坂口達也。
このジムに通う中学生であり、来年はスポーツ特待生として月雄と同じ学校に入学する予定である。
「しっかし流石月雄くんッスね!まさかあのタイミングで来た肘を受け流すなんて。…プロ目指す気ありません?」
「いや、俺には荷が重いな」
「イヤイヤ!あんな高等技術やっといてソレはないでしょ!」
「そんな俺を追い込んだお前も無いでしょ」
月雄は卑屈に答える。
「………月雄、達也は天才だ。ちょっと負けたぐらいでウジウジするものじゃないぜ?」
達也は天才である。
ボクシングを始めたのは去年からだというのに、今では所属歴が長い年長者たちやプロ入りした選手たちでさえ倒せるほどに成長した。
今の彼にとって練習相手になるのは月雄ぐらいであり、その月雄も最近は押され始めている。
「確かにお前は天才だ。けどその上がコイツだったって話だ。お前だって今まで先輩たちを追い抜いてきただろ?」
「…そんなんんじゃないんですよ」
一瞬、口から出そうになった言葉を飲み込む。
自分は転生者であり、その上化け物になっている。
ここまでチートを積んでるのだから勝つのは当たり前。なのに俺は負けた。
論理的ではないことは自覚しているのだが、月雄はそんな自分をどこかで恥じていた。
「それじゃあ、俺用事ありますんで」
そくさとシャワー室に退散する月雄。
「月雄くん、才能あるんだけどねぇ…」
「マジで強いんだけどな、月雄くん」
そんな月雄を二人は悲しそうな目で追った。




