11話
「やあ大丈夫かい?ずいぶん派手に転びかけたね~」
男の手を何者かが引っ張り上げ、ゆっくりと立たせた。
「ケガはないみたいだね。動ける?」
「え?あ、あ…」
男は立たせてくれた人物を見て声が出なかった。
赤いラインの入った学ランと学帽に、ジョーカーのような仮面。
首に巻かれてる深紅色のマフラーは風がないのに靡いている。
紅マフラー。その名を男は知らないが、 先ほどの恐怖体験のせいか、男はすぐに気づいた。
彼もまた人間ではないと。
「こんな時間にジョギング?精が出るね」
「え、いや…」
しかし軽口と仕草でそんな感じはしない。
むしろ生きている人間より明るく感じしてしまった。
「さてと…」
紅マフラーは男の背後に目をやる。
男はソレでやっと声と手の持ち主の正体を知ることになった。
古びた着物を着た、異様に髪と首が長い男女。
その背後にはゆらゆらとうごめく何体もの影。
ゾッとする光景だが、ある一点のおかげで恐怖は吹き飛んだ。
怖がっている。
紅マフラーを見て怯えている。
自分を助けてくれたこの存在に、あれらは恐怖しているのだ。
「ダメじゃないか、足なんか引っ張って。中年おじさんはビックリするぐらいケガしやすいんだよ?だからこうして運動してるのに」
「余計なお世話だ!」
更に軽口を叩く紅マフラー。
このおかげで陰鬱とした怪談話のような雰囲気は一気に吹っ飛んだ。
だが眼前の悪霊共はソレが気に食わなかったようだ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「お、元気だねえ。いいぜ、おじさんの代わりに遊んでやる」
悪霊の一群が紅マフラーへ飛び掛かった。
一体目。
飛び掛かる悪霊の一体を殴り飛ばす。
対象の首が長いせいでより拳が当たりやすくなり、キレイに拳がぶち当たった。
一撃で吹っ飛ばして橋の下の池に落とす。
二体目。
悪霊の髪を掴んで橋の手すり部分に叩きつけ、更に肘をぶちかます。
その衝撃で首がグキッと嫌なを音を立て、フラフラになる悪霊。
瞬間、トドメと言わんばかりに池へと放り投げた。
三体目と四体目。
悪霊の一体の服を掴み、もう一体目掛けて投げ飛ばす。
巻き込まれる形で二体とも倒れこみ、もみ合いになって上手く立ち上がれない。
その隙に片手ずつ裾を持ちあげ、二体まとめて池に放り投げた。
「ハイハ~イ、ちゃんと並んで~。一人ずつお池に戻してあげるから」
次々と悪霊を打倒し、池に放り投げる。
派手に水しぶきをあげて浮かんでこない悪霊たち。
この池はそれほど深さがないというのに、次から次へと沈められていく。
「は…ハハッ。すげえや」
眼前の光景を見て男はつい乾いた笑みをこぼした。
恐怖体験をしていたというのに、次の瞬間にはヒーローショーに様変わり。
ヒーロー役も化け物だが、おかげでさっきまでの恐怖はキレイになくなった。
代わりに、今は目の前のショーを楽しめている。
「お、もう最後尾か」
男の背後から悪霊が現れた。
先ほどの一群と同じく、髪で顔が隠れている男とも女とも取れない白装束。
しかし発する圧のようなものは先ほどの悪霊とは一回り違う。
ソレを見て再び男は恐怖を思い出す…わけもなく。
「ちゃんと列にお並びくださ~い。割りこみ厳禁ですよ~」
「最後尾じゃねえのかよ」
紅マフラーの軽口を無視して悪霊が攻撃を仕掛ける。
代わりに男が答えたが、それも無視。
両腕をゴムのように伸ばして紅マフラーに掴みかかった。
スパン!
紅マフラーの攻撃。
いつの間にか抜いた短刀で悪霊の伸ばされた両腕を掻っ切る。
動脈を切ったのか、両手首から血を派手に流す悪霊。
慌てふためいている間に、紅マフラーは敵の懐へ一気に飛び込む。
スパンスパンスパン!
首筋に三つの銀閃が走る。
傷口を刻みつけ、続けて拡げる。
首から血が噴き出てゆっくり背中から倒れる悪霊。
血溜まりの中で倒れ込んだ悪霊はそのまま黒い灰となって散っていった。
「ん?」
悪霊が消えたと同時、橋の上の妙な雰囲気が消えた。
見れば、橋の終わりがすぐ間近に見える。
どうやら原因が消えて普通の橋に戻ったようだ。
そのことを理解して男は安堵のため息をついた。
「じゃあねおじさん。夜の外出は程々に。お化けだけじゃなく刃物とか持っている危ない奴とかいるからね」
短刀を振り回してナイフアクションをする紅マフラー。
お前が言うな。
男はそう言いたくなるが、さっき助けてもらった恩もあって強く言えない。
「あ、ありがとう。良ければ名前を…」
「紅マフラー。僕の名前さ。次は会わないことを願うよ」
そう言って紅マフラーは立ち去って行った。
「紅、マフラーか」
男はその姿を追わなかった。
ヒーロー染みた行動をしたとはいえあれは化け物。
彼の言う通り、次も会わないのが一番。
だけど、また恐ろしい目に遭ったら…。
「その時はまた頼むよ、紅マフラー」
こうして、都市伝説が消えた代わりにもう一つの都市伝説が強まった。




