第30話 白聖教襲撃
白聖教の大聖堂にて、
ミースの専属メイド、サヤ
ミースのお目付け役、ラコッタ・テラコッタ
見習い執事、カズララ・ラズベリー
上記の3人は、カルト・コバルトグリーンとその他の護衛と別れ、大聖堂の中へ避難する。
大聖堂に入った彼らの前に現れたのは、巨大な礼拝場であった。
3階建ての建物がすっぽり入るほどの高い天井、広い空間で、窓や装飾はステンドグラスで作られており、色鮮やかに神聖な雰囲気を醸し出している。
入り口から一番奥には、装飾が豪華な白い祭壇があり、その祭壇へ向けて一直線に、道路ほどの幅の白いカーペットが敷かれていた。
そしてその両側には、木製の長いベンチが祭壇に向かって何列も並んでいる。
つまり、規模は異なるものの、一般的な教会のイメージに近い間取りをしていた。
そんな礼拝場の白いカーペットの上をサヤ、ラコッタ、カズララの3人は歩き、祭壇へ向かう。
祭壇の前には別の3人の人影が存在していた。
真ん中に立つのは、全身を白い布で巻き付けた少女のような存在である。
長い白髪に色白な肌、身長160センチほどの小柄で、さらに幼げな顔立ちをしており、神聖な雰囲気を纏っていた。
彼女こそ、白聖教のまとめ役、白聖教、教祖"ノーバスト・スノーホワイト"である。
「ずいぶんと騒がしいですね。
王様との謁見中、誰もが浮かれるのは仕方がないかもしれませんが。」
ノーバストは目を細め、訪れたサヤたちにそう声を掛けた。
「えぇ、まったく。
まず受け入れていただき感謝します。
"王様に会えないのなら、せめて聖女に会いたい"という連中に纏わりつかれてね、本当に助かりましたよ。」
ミースのお目付け役としてついて来たラコッタ・テラコッタが、サヤとカズララを代表してそう返す。
「以前のあなたなら、
グリーガス・レッド侯爵と共に返り討ちにしていたでしょうに。
しわくちゃになって、まぁ、歳は取りたくないものですね。」
親しい関係なのか、ノーバストは笑みを浮かべ、ラコッタをいじる。
「教祖様こそ、ずっとお変わりないご様子、
"あの方"との進展を全く聞かないので、教祖様だけ時が止まっているのかと錯覚してしまいそうでしたよ。」
ラコッタも笑顔を作り、ノーバストへそう返す。
「ふふ、」
「あーはは、」
ノーバストとラコッタの間の雰囲気は良好だったが、この場でその会話を聞いていた他の者たちは凍りついてしまっていた。
そんな空間で、教祖ノーバストの向かって左に立つ普通体型の偉い神父のような格好の男性、第3教祖補佐"ハイ・スカイグレイ"が、見かねて声を上げた。
「ノーバスト様、…話が逸れております。」
「ああ、ごめんなさい。
つい旧友と話し込む所でした。」
ノーバストは顔を引き締め直した。
「さて、お三方、よくここまでいらっしゃいました。
アルマ・アイボリー伯爵から大体のことは把握しています。
これであなた方の役目は終わりました。
後は、王の謁見が終わるまで、休んでいくと良いでしょう。」
「お心遣い、感謝します。」
ラコッタも態度を改め、うやうやしく頭を下げて感謝を示した。
それに対して、サヤとカズララも頭を下げた。
「それでは、ロイムさん、案内をお願いします。」
教祖ノーバストの向かって右に立つ、背の高い身分の高そうな神官的な服装を着た女性、第2教祖補佐"ロイム・クリームイエロー"がノーバストに指名され、前に出た。
「承知しました。
では皆様、ご案内いたしま、」
"ドォン!"
"ドォン!!"
"ドォォン!!"
ロイムがラコッタ、サヤ、ガスララの前に立ち、案内を始めようとしたその時、遠くから破裂音が響く。
その場の全員がそれに耳を傾ける。
そして次の瞬間、
"バガアアアアアアアアアアン!!"
"バリリィリィ!!"
礼拝場の入り口側の壁が破壊され、人間サイズの火の玉が侵入する。
またそれによる衝撃波によって、礼拝場の窓や装飾のステンドグラスが割れ、散らばった。
サヤとガスララは、ラコッタに地面に押さえつけられる形で伏せる。
第2、第3教祖補佐のロイムとハイは、自身の周りに魔法の結界を張った。
そして教祖のノーバストは、予見していたのか、
白い光を放ちながら、鬱陶しそうな顔を作り、侵入してきた火の玉へ向けて、右手を掲げる。
「ダンスパーティーの始まりだぁぁあ!
盛り上がってイこう、うお!」
侵入してきた火の玉、"ボトル・レディッシュブラウン"は決め台詞を吐こうとした瞬間、ノーバストから伸びた巨大な白い光の手に鷲掴みにされ、礼拝場の地面に叩きつけられる。
「ぐぉ!」
"ドガァァァァァァァァン!!"
しかし、叩きつけられる前にボトルである火の玉を中心に大爆発が起きる。
その衝撃により、白い手は吹き飛ばされ、
地面への叩きつけは、相殺、
巨大なクレーターだけを作る結果に終わる。
「いいねいいね!盛り上がってるねぇ!」
{厄介ね、}
「ロイム!、ハイ!、」
ノーバストはボトルの危険度を察し、教祖補佐たちに声をかける。
さらに、自身から放たれる白い光を強め、本格的な戦闘体制に入った。
そしてその白い光は、無数の光の手となり、間髪を入れずにボトルへ向けて伸びる。
それに合わせて教祖補佐たちも動く。
「「了解!」」
ノーバストの声掛けにまず動いたのは、第3教祖補佐"ハイ・スカイグレイ"である。
"改名":"クラウド"
ハイは、自身の光を雲へ変え、ロイムと襲撃者であるボトル以外の人の顔を覆う。
それを確認した第2教祖補佐"ロイム・クリームイエロー"は、ボトルの元へ向かった。
"改名":"グルー"
しかし、ロイムの"改名"によって、ハッキリとは何も起きない。
ただ、ロイム自身がクリームイエロー色に発光しているだけである。
「ヘイヘイ聖職者のねぇちゃん!
まずあんたが踊ってくれるのかい!」
ボトルは、矢継ぎ早に迫ってくる白い光の手を爆発で吹き飛ばしながら、自分に向かってくるロイムへ声をかける。
「その通りよぉ、
でも踊るのはあなたになるでしょうけどね。」
ロイムは、余裕を持ってそれに答えた。
「美女となんて、盛り上がって来るなー!
盛り上がってイこうぜ、ねぇちゃん!」
ボトルも余裕を持って答えた。
しかし、
「ぐお!なに!」
ボトルは今度こそ白い手によって、地面に抑え付けられる。
{見落とした?
何故白い手が?}
ロイムを見据えながら、ボトルの動揺は大きい。
{違う!}
「目が、離せない!」
そしてボトルは、自分に起こっている現象に気付き驚愕した。
「正〜解、」
ロイムは、ボトルの驚愕を肯定すると共に、短剣を取り出す。
そう、ボトルはロイムのことを目が離せなくなっていたのだ。
これが"改名":"グルー"の能力である。
さらに、ロイムのクリームイエロー色の光が液状となり、彼女の足元からボトルへ向かって広がっていく。
「私に見とれてなさい、異端者、」
ロイムはボトルの爆発の範囲外で止まり、クリームイエロー色の液体を広げながら煽る。
さらに、いつの間にかそんなボトルの後ろに雲が流れ、そこからハイが長剣を構えながら現れた。
{良いね!良いね!
いろいろ盛り上がってるねぇ!
だが!全部爆発すりゃ解決なんだよなぁ!}
「盛り上がってイこうぜぇぇぇええ!!」
ボトルは、視界がロイムに占領され、地面に白い手で押さえ付けられながらも、笑みを深めていた。
そしてボトルの火の玉の光が増し、再び大爆発が起きるその時、
「ヴ?」
ロイムの喉から、レイピアのように鋭く、長い針の様な物が生えた。
「「「「「!!ッ、」」」」」
この場にいる全ての人物に衝撃が走る。
ロイムの喉の針は引っ込み、
彼女は倒れる。
そして、それは現れた。
"改名":"モスキート"
いったいどうやって、いつ、そこに現れたのか、誰にもわからない。
それは、いわゆる人型の蚊の化け物であった。
黒く丸い大きな複眼と、長くフサフサの触覚が付いた頭鎧を被ったような頭部。
人間の口が見えていたが、そこが唯一の人間らしい部分であり、それ以外は人型から逸脱していた。
細長い胴体にさらに細長い足、腕が4本生えており、黒い外殻に身を包んでいる。
特筆すべき点は、2本の羽と4本の腕の先がすべて手ではなく、蚊の口のような針、スピアとなっているところだ。
そんなロイムの喉を後ろから刺した蚊の化け物は、地面に押し付けられているボトルに向けて口を大きく開く。
「なぁに、やってんだ! ボトル!」
「キ、キトスさん! 何故ここにいるんすか?」
ボトルは、笑みが消え、再び動揺する。
そう、彼こそ"ブラック・ワスプ"、"4大黒元"の第2席 "キトス・ブラック"であった。
「馬鹿者!
お前の役割は街の破壊だ!
それがなんだ!
まだどこも破壊していないようだが!!」
キトスは続けてボトルを叱りつける。
「盛り下がるようなこと言わないでくださいよぉー、
ここも街に含まれているでしょう?」
ボトルの火の玉は、薄くなりながらも、キトスへ抗議した。
「他の者の"獲物"には手を出さない取り決めだ!
殺されたいか!!」
しかし、ボトルの抗議はキトスに強く跳ね除けられる。
「あー分かりましたよ!
すいやせんでしたー!」
ボトルはその発言とともに爆発した。
押さえ込んでいたノーバストの白い手を跳ね除け、逃げるように打ち上がって行き、天井を突き破っていった。
ノーバストはそんなボトルを追撃しない。
新手のキトスに集中する。
「全く、戦闘狂が、邪魔したな。
白聖教のバカ共、」
キトスはノーバストたちに向き直り、そう言った。
ノーバストはキトスに対して軽蔑の視線を向ける。
「・・・救いようのない異端者、
あなたが今、手に掛けた人物の名前を言ってみなさい」
ノーバストは眉ひとつ動かさず、ただ無表情に、どこまでも冷たくその言葉を響かせる。
「知らん、」
キトスはそれだけ返すと、いつの間にかその場から姿を消していた。
「「「「「!?」」」」」
多数の目があったにもかかわらず、
何の予兆もなく、
忽然と、
初めからそこに居なかったかの様に、姿を消していたのだ。
瞬間、
ノーバストやサヤたちのいる礼拝場、祭壇側以外が雲に包まれる。
{"そういう系"か、
だが、"実態"は必ずある。
爆発野郎も巻き込めれば良かったんだが、}
これは、第3教祖補佐"ハイ・スカイグレイ"がボトル戦に向けて準備していた技であり、対象だったボトルが飛んで行ってしまった以上、キトスに向けて発動されたのだ。
その時、ボトルを追いかけてきたコバルトグリーン色の全身鎧のカルトが、礼拝場の壊れた入り口に現れた。
「これは!?」
カルトは雲に覆われた礼拝場に驚くが、すぐに状況を理解し、肩の力を抜く。
{ハイさんか、
ということは、異端者を雲の中に閉じ込めたのか、}
ここで視点は雲の中に移る。
雲の中は、雲の多い青い大空がどこまでも広がっていた。
明らかに礼拝場ではない、"別の場所"となっている。
そんな中、キトスは姿を現し、空中で静止する。
そして一向に"端"に到着しないという事実を受け止めた。
「ちっ、"そういう系"か、」
キトスは、一言愚痴を溢し、再び姿が消える。
ただ、ただ雲の多い青空が広がっていた。
「・・・」
場面は戻り、雲の外の祭壇側にて、
ノーバストは礼拝場を埋め尽くしたその雲を見つめていた。
戦いの中、サヤとカズララを庇うように木製のベンチの隙間に隠れていたラコッタも、その雲を確認する。
そしてラコッタは、その雲が不自然に脈打つのを見てからノーバストに声を掛ける。
「・・・何とか閉じ込められたみたいだねぇ、」
それは、雲の中への拘束に成功したという合図であった。
「その様ね、」
ノーバストはそれを肯定し、ラコッタと共に警戒を解く。
そして考察が始まる。
「私の光の中でも位置が掴めなかったわ。
本当に突然その場に現れて、突然その場から消えているみたいね。
そっちは?」
「あたしの"改名"でも同じだねぇ。
でも遠くから観測されていて、攻撃の間だけ瞬間移動しているって感じじゃないね。
拘束できている時点であり得ない。」
「そうね。
でも私とあなたで感知できないようなら、
もうそういう"感知"ができない能力ってことね。」
「しかし、"感知"されないなら、
わざわざ姿を出す必要がない。
時間制限か、
それとも、こちらに干渉する時か、
必ず姿を表さなければならない時がある。」
「流石ね、私はそこまで考えられないわ。」
「教祖様は、その必要がないからでしょう。
それに今回も。」
「えぇ、そうね。
何はともあれ、有効打は"範囲攻撃"。
まぁ、任せて。」
考察を終え、ノーバストは雲に近づき、右手を差し入れた。
それに合わせて、雲が不自然に大きく揺らめく。
これが、この状態のハイとのコミュニケーション手段である。
「ラコッタ、戦いを再開します。」
ノーバストは、その揺れを見てラコッタに戦いを再開することを告げた。
「あたしらは、雲の中に入ればよろしくて?」
ラコッタはノーバストの意図を理解し、そう提案する。
「えぇ。」
ノーバストは頷いた。
そして、それを聞いていたサヤとカズララも共に、ラコッタは、雲の中に速やかに入っていった。
1人になったノーバストは、自らが放つ白い光をさらに強め、雲を含め、礼拝場全体を包み込んだ。
ここで視点は再び雲の中に移る。
{面倒くさい。}
雲の中は、相変わらず雲の多い青空の空間が広がっていた。
そんな空を高速で飛ぶ黒い点があった。
人型の蚊こと、"ブラック・ワスプ"、"4大黒元"の第2席、"キトス・ブラック"である。
{黒髪でもないのに雲に入ったが最後、
"出ることができない"なんて都合の良い能力なわけがない。
ボトルとの戦いで自分が出入りしていたしな。
どこかの雲が外と繋がっているか、そもそもの本体を殺すか。
あぁ、面倒くさい。
これはただの時間稼ぎだ。}
「?、」
その時、この雲の多い青空が歪む。
1つの雲が拡大していき、キトスを包んだ。
キトスは特に抵抗しなかった。
雲が薄れていく。
ハイがキトスを外へ出したのだ。
{倒す準備ができたか、
身の程知らずか
付け焼き刃で黒髪を止められると思ったか。}
そして雲が晴れ、礼拝場に戻ったかと思えば、そこは白であった。
「何!?」
“改名“:“ホワイトアウト“
視界は、全て白で埋め尽くされるほどの雪、吹雪である。
足元の地面にはどんどん雪が積もっていった。
白聖教、教祖ノーバスト・スノーホワイトの改名である。
{だがまぁ、やることに変わりはない!}
キトスは、そんな吹雪をものともせず、空を飛ぶ。
しかし、キトスに異変が起きる。
{? なんだ? ・・・
眠い? 思考がぼやけるな。
いや! バカな! そういう能力か!
急がなければ! }
キトスは、さらに自身の虫の羽を高速に動かし、加速する。
そして、この吹雪の中心にいるノーバストは、微笑む。
{無様、
異端者には、お似合いの最後ね。
存分に遭難するといいわ。}
彼女が発生させた吹雪は、ただの吹雪ではない。
この吹雪の中を進むほど、思考能力が落ちていくのだ。
そして、文字通りホワイトアウトした視界では、探し物が困難である。
彼女の吹雪の中で遭難した者の末路は、何も考えることができない廃人、そして凍死だ。
※備考
白聖教、教祖補佐について、
その役職名の通り、教祖を補佐をします。
教祖に代わり、各地の視察に向かう事が多い為、なかなか揃いません。
以下は、そんな教祖補佐3人と能力の紹介です。
第1教祖補佐:ノビス・ホリゾンブルー("スリネトス"視察中)
改名:ホライゾン
能力:彼女の光を見続けた者は、徐々に空間の認識、視界が広がっていき、最終的に視界の全てが伸ばされ地平線となる。
また、見続けた者の体は歪む視界の中でそのままです。
広がった認識、視界の分、労力が要ります。
第2教祖補佐:ロイム・クリームイエロー
改名:グルー
能力:彼女の光を見た者は、彼女への注目を強制される。
また、自身の光は液状の接着剤になります。
第3教祖補佐:ハイ・スカイグレイ
改名:クラウド
能力:自身の光から雲を発生させる。
その雲の中は、彼自身も入る事で、一定距離をループする特殊空間にする事が出来る。
また、発生させた雲は、おとぎ話仕様な為、乗れたりします。




