第31話 純白の王と蜂。
主人公、ミース・アイボリー
主人公の父親、アルマ・アイボリー
傍迷惑、イノセス
上記の3人は、密かに王城へ避難し、王との謁見へ参加する。
そして、王との謁見の最中、爵位の昇格を受けたアルマとミース、そしてそれを羨ましげに見つめるイノセスの3人の後ろに、
新たな聖女が現れた。
約180cmの長身に、黒い軍服のような正装を身にまとい、首にはマフラーのような物を巻いたスレンダーな人物である。
鋭い目が特徴的で凛々(リリ)しく、美しい顔立ちを持っていた。
そして、その髪は長く、純白の長髪であった。
新たな聖女は、"ハイヴ"と名乗り、挨拶と共に王との謁見中に聖女となったことを宣言する。
{はぁ!?}
ミースの心情は荒れる。
切れる手札をすべて切り、王ジャッチス・ホワイトに強い印象を残せた彼女だが、新たなライバルの登場に、その思考は忙しく回った。
しかし、そんなミースを置いて、状況は刻一刻と変わり続ける。
「そんな偶然、あるものなのだな。」
ジャッチスは楽しそうに新たな聖女、ハイヴを見つめる。
「私自身も驚きです。
目撃者もいますし、紹介しますか?」
ハイヴはハキハキと返事した。
「いや、いい。」
ジャッチスはハイヴへその必要が無い事を伝える。
「そうですか、
ところで、黒髪についてどう思いますか?」
ハイヴは自己紹介とは一切関係のない質問をした。
微妙な空気が流れる。
「黒髪は……存在するべきではないな。
それがどうしたというのだ?」
ジャッチスはそれでも面白げに答えた。
「私は普通のことだと思います!残念です!」
ハイヴはジャッチスの答えにはっきり反論する。
「こちらも残念だよ。」
ジャッチスは笑みを絶やさず、そう答えた。
ハイヴはここで雰囲気をガラリと変えた。
「存在の否定とは、
到底、一国の王とは思えないね。」
聖女であるはずのハイヴは、黒いモヤを全身から放ち、姿を変える。
その途中、驚愕の中でミースは見た。
首に巻かれていたマフラーが落ち、その首には悪趣味なチョーカー、地雷系が身に付けるようなトゲトゲのチョーカーがある事を、
そしてそれは以前、ミースが身に付けて魔法が使えなくなった代物に似ていたのだ。
それと違う点は、チョーカーのトゲのように付いている結晶が純白に染まっているところである。
そして瞬く間にそれらが黒に染まり、砕け、チョーカーそのものが崩れていく。
それと同時に純白の長髪が見事に真っ黒な長髪へと変わった。
姿を変えたハイヴ、さらに変化はそれだけに留まらず。
それは現れた。
"改名":"ワスプ"
それは、いわゆる人型のスズメバチの化け物であった。
その頭と体は、ほぼ人間の形をしていたが、触覚が頭から生え、おでこには逆三角形を形作る位置に3つ目の目が生まれた。
またマスクのように口を大顎で覆われる。
そして手と足は甲殻に覆われ、鋭い爪が生え出す。
特筆すべき点は、当然のように虫の羽が背中に生え、
腰に蜂の代名詞である毒針を備えた腹部が生えていることであろう。
「改めまして、ジャッチス国王、
私は、"ブラック・ワスプ"、"4大黒元"が第1席、ハイヴ・ブラック、
あなたには、死んで貰うよ。」
「とても、
そう、とても残念だよ、ハイヴ君、」
ジャッチスは、その変化を見ても笑みを崩さず、玉座に座ったままそう答えた。
そして
"カッ!!"
刹那のフラッシュ、
ジャッチスが一瞬で光を放ち、この空間を支配する。
静寂が訪れた。
全ての人間の動きが止まる。
まるで時が止まったかのように、
「・・・?」
ミースとアルマ、イノセスは、ハイヴの異変に距離を空けようとしていたが、
ミースのみが動け、距離を空けられていた。
「これは?、」
状況について行けないことを察したミースは、早々に思考を切り上げ、目の前に起きた事のみに集中する。
「改めて名乗ろう!
"改名":"時枝 将"!
遥か彼方の同郷の者よ!」
人々が静止した世界で、動くミースと、もう一人、ジャッチスが王座から降り、ミースに歩み寄っていた。
{まさか、まさかの、}
「・・・"時止め"、」
{いや、あり得ない。
規模が他の改名と違いすぎる。
だとしたら止めているのは・・・}
ミースは静止しているアルマの口へ、手を近づける。
その口は呼吸をしており、
よくよく見れば、アルマの目は瞬きまでしていた。
「思考停止、」
ミースはその答えを導き出す。
「流石、前世の記憶を持つ者、察しが良いな、
正解だよ。」
ジャッチスはミースの前まで来ると、それでも見下ろし、そう褒める。
そして右手を差し出してきた。
ジャッチスが何をしたいのか理解したミースは、改めて自己紹介し、握手を交わす。
「"改名":"尾花卯花"です。
こちらこそよろしくお願いします。」
「少し話せるか?」
「喜んで、」
ここから、前世の記憶を持つ二人だけの会話が始まる。
「実は、前世の記憶を持つ者で、わざわざ私に会いに来てくれる者がいなくてね。
恥ずかしながら、前世の記憶を持つ者は、前の王としか会ったことがないんだ。」
「まぁ、そうでしょうね。
私も家柄がなければ、面倒ごとは避けて田舎で隠居しているところです。」
「ふははは!そうだな!
私もそうする!
しかし、お前はそういうタイプには見えないが、
まぁいい。
話を変えるぞ、
お前ならさっきの質問、どう答える?」
「"黒髪"についてですね。
正直、前世のこともありますし、私も黒髪は普通のこととしか思えませんね。
ですが答えるなら、白聖教の提携文を答えるでしょう。」
「まだ、この世界の"認識"が甘いな。
では、"裁判"の本質についてはどう思う?
無論、前世のだ。」
「前世の裁判の本質ですか。
何かの争いを公平に審判してくれる"もの"だと思いますが?」
「まさに、提携文的な返しだな。
それは正しい。
私もそう思う。
だが!こう、感じたことはあるか?
何故、ここまで時間が掛かるのか、と。」
「それは、まぁ、
色々手続きとかあるでしょうし。」
「それはな!、"風化"のためだ!。」
「はぁ?」
「考えてもみろ。
他人のイザコザなんて、これ以上面倒くさいことはないだろう?」
「元も子もないですね。」
「ははは!、だな!
しかし、私は風化も一つの解決方法だと考えている。
当事者と、それに巻き込まれる人間、果たしてどちらが多いかな。
もちろん例外もあると思うが、
もし証拠不十分で、当事者間でどちらにも決定力がなかったら?
もし微妙な証拠だけで、犯行を確実に証明できなければ?
泥沼だ。
最悪だ。
多くの無関係な人間が、無駄に巻き込まれることだろう。
故に"風化"だ。
そのために時間を掛ける。
時間を掛ける事で当事者を冷静にさせ、スムーズに物事が進められるか、最終的に有耶無耶になり、解決だ。
巻き込まれた人間、裁判官などは、マニュアルに沿って対応するだけで良い。
やはり、"風化"を自然な形で活用できる"裁判"は、実に素晴らしい。」
「・・・そうですね。」
ジャッチスの意見を全て聞き、肯定するもミースは思う。
{びっくりした、
クソ老害じゃない、コイツ}
「…1つ、頼まれてくれるか?」
「…? 何なりと。」
「今から、私がこの黒髪と戦う。
"よく見て"、"よく考え"、"倒す方法"を考えろ。
"もしもの時"は任せる。」
「??、承知しました。
しかし、まるであなたが負けるような言い方ですね。」
「保険だよ。
勿論、負けるつもりはないが、
黒髪とは、そういう存在なんだ。
前世を知っている我々でなければ弱点を知り得ず、犠牲者が大勢出る。」
そう言うとジャッチスは、ミースとの会話を終え、人型の蜂の化け物、ハイヴの元へ歩いて行く。
{保険ねー、
その改名の能力なら負ける方が難しいだろうに。}
ミースは、その大きな後ろ姿を見送りながら、脳内で嫌味を言った。
"カッ!!"
ジャッチスがハイヴの前に立つと、再びフラッシュが発生する。
その光の瞬きを受け、ジャッチス前のハイヴ以外の思考が回復した。
「民を避難させろ。」
ジャッチスは、開口一番にそう指示を出す。
「「「は!」」」
返事をした彼ら、王家直属の近衛騎士、“ホワイト・ホールナイツ”から見たら、ジャッチスが瞬間移動していたが、慣れているのか何事も無かったかのようにその指示に従い、民たちの長蛇の列で避難誘導する。
そして、民たちと一定の距離を空けたのを確認し、ジャッチスは宣言する。
「白髪偽造!
私への殺害予告!
それに加えて国家転覆罪!
ハイヴに!、"死刑"を言い渡す!!」
そう言い終わると、ジャッチスは獅子の装飾の美しい黄金の剣を抜き放つ。
そして、そのまま一線を引く。
ハイヴは、なんの抵抗もなく、その一線を受け、頭部の額から上が切れ落ちる。
ハイヴはそのまま後ろに倒れ、無くなった額から血が吹き出し、血の水溜まりを作る。
そんなハイヴは痙攣こそするものの、立ち上がる気配はなかった。
{首じゃなくて、わざわざ脳を切断するなんて、殺意が高いわ。
能力勝負じゃ、ジャッチスに敵わないわね。
っていうか、見せしめね。
"私が"反旗を翻さないようにって。}
ミースは、そんなジャッチスを引いて見ていた。
そして"よく見て"、"よく考え"、"倒す方法"を考えた。
"ジャッチス"を倒す方法を、だ。
※備考
国王ジャッチスが考える黒髪について、
本文では
「黒髪は……存在するべきではないな。」
と、発言していた彼ですが、
ある点を考慮すれば黒髪でも見逃してくれます。
それは、黒髪を別の色へ染め、隠す事です。
処罰の対象となる行為ですが、これは、周囲への協調性がある事を示している為、公共の場でバレなければ見逃します。
逆に黒髪が処分の対象とされるこの世界で、彼の前まで黒髪であり続けているやつは、協調性が無く、相当やばいヤツである為、彼でも即決で処刑を言い渡します。
余談、
髪色は、魔法で変える方法が手っ取り早く、検索などに引っ掛かりませんが、相当器用じゃなければ出来ません。
だいたいは、定期的に染料で染めるという手段を取ります。
ちなみに貴族でも染めて、偽っている者がいます。




