第29話 純白の王との邂逅。
場面は王城、
そこへ避難したミースとイノセスは、ドレスなどに着替えたりし、いろいろ準備を終え、王城の"玉座の間"に通される。
その内装は広すぎて、把握し切れない。
1ヘクタールぐらいの陸上競技場は、余裕で入るだろう、
そんな無駄に広いだだっ広い空間であった。
天井はそれに見合う以上に、気が遠くなる程高く、光輝いている。
いや、吹き抜けとなっており、外の人口太陽の光を直に入れていた。
そしてその影響で、全体的に眩し過ぎる。
これは、ミースの得意魔法が黒魔法であることは、関係が無い。
そう言う構造、光を反射する大理石の様な建材が多様されていた。
そんな無駄に壮大な空間には、その壮大さに負けず、大勢の人間達が列を成している。
まるで初詣を連想させる太い列が腸の様に曲がりくねりながらも、永遠と伸びているのだ。
そしてその列の終着点として、この玉座の間の奥側が、5段程高くなっており、ポツンと王座が存在する。
しかし、その玉座が決して小さい訳では無い。
むしろ一軒家と同じくらいの大きさだ。
さらにその玉座は独特な形をしていた。
簡単に言うと、巨大で様々な形の椅子が縦に重なり、上に行けば行く程、マトリョーシカの様に小さくなっている。
そんな独特な玉座の先には、
当然、1人の男性が座っていた。
その男性は、王を象徴する派手な王冠を被り、大きな赤いローブ、と白い下着を着ている。
さらに、白髪に立派な白い口ヒゲ、立派なシワのある厳格そうな顔、少しふくよかだが、充分体格が良く、2m程の身長を持っていた。
まさに、中世ヨーロッパの王様と言う見た目である。
そんな見た目の彼こそ、現在の国王、"ジャッチス・ホワイト"その人である。
そして、王との謁見は、ジャッチスにとって流れ作業であった。
初詣の様な長蛇の列は、見た目の割に回転率が早い。
ほとんどの人間がトライアントの前で自己紹介をするだけで、すぐに出口へ向かう順路へ捌けるからだ。
そんな人々の流れを、ジャッチスはただ偉そうに見ているだけなのである。
自己紹介にて、言葉を続ける事は、禁止されていないのだが、
自己紹介以外に、口を開く者はいない。
もし、下手な事を言い、ジャッチスの時間を無駄にしようものなら、周りから反感を強く買う為だ。
王との謁見は、今日1日だけ、
0時から24時の間、途中休憩を挟むが、その間に先着順で謁見が出来るのである。
しかし、ここで例外があった。
それが王家以外で白髪を持つ聖女だ。
聖女であるミース、イノセスは、長蛇の列を無視し、優先的に王と謁見する事が出来るのである。
白髪、ファストパスだ。
{カーッぺッ、}
ミースは、心の中で痰を吐く、
その為、ミースとイノセスは、長蛇の列を無視して、王、ジャッチスの膝下まで直行で案内されるのであった。
{あ〜元日本人として、心にくるわー}
ミースは、長蛇の列を横で飛び越えながら、そう感じる。
そうして、とうとう、
長く様々な事があった旅路の終着点、
"王との謁見"、ジャッチスの膝下へ到着するのであった。
立ち位置があるようで、縦に様々な形の椅子が重なっている独特で一軒家ほどの大きさがありそうな巨大な王座の約3m前の床の模様で止まるように案内を受ける。
ちなみにミースの付き添いの父は、ちゃっかり済ませており、ミースの背後で待機していた。
横入りされた長蛇の列に並ぶ人々は、さらに10mほど後ろの5段下で待機させられており、聖女パワーのおかげか、一切悪い顔をされていない。
そうして周りを観察しながら、案内された場所に到着したミースは、膝を落とし、頭を垂れる。
イノセスもワンテンポ遅れてミースの真似をし、ぎこちなくも頭を垂れた。
ミースから見えていなかったが、付き添いのアルマも頭を垂れていた。
多くの、非常に多くの視線が集まる。
前世の記憶がなければ、萎縮していたことだろう。
{こんな注目、屁でもないわ。
ただ一言二言、自己紹介してはい終わり、逆になんで緊張しなければいけないの?
それに加えてあの玉座、
男子がよく遊んでいた景色を思い出して、逆に威厳がないわ。}
ミースは、この状況にツッコミを入れながら感想を心の中で吐露する。
そして、その独特な玉座に座る、2mほどの身長を持ち、白髪で、まさに西洋の王様のような姿の男性、ジャッチスが口を開く。
「表を上げ、挨拶を許可する。」
白い口髭に隠れた口が開き、見た目相応の低い声が広い玉座の間へ響く。
ミースとイノセスは顔を上げ、ジャッチスを見上げる。
{さて、自己紹介のパターンは2つ用意した。
普通の物、
尖った物、
やっぱりここは普通が無難ね。}
ミースは王に自己紹介の許可を得てから、少し思考を回転させ、前世の経験からそう結論付ける。
しかし、
「お、」
「私は!イノセス!
トーガ村出身!
父と母は物心つく前にはいなくなって、
ハテナ・ロージーピンクの元で育ちました!
そして私は平和な世界を作ることを目指します!
よろしく!です!」
ミースが自己紹介しようとしたその前に、イノセスが先に自己紹介を言い切る。
{な、イノセス!
…まぁ、良いわ、
このまま、私も簡単に自己紹介をすれば終わる。}
ミースは出鼻を挫かれたが、持ち直し、再度口を開く。
しかし、またしても先に響いたのは、ミースとは別の低い声であった。
「ほぉ、面白い。
平和な世界とは、大きく出たな。
どう実現するのだ?」
それは王、ジャッチスの声であった。彼から重々しく放たれたその言葉は、イノセスに再び発言のチャンスを与えた。
{なんで! 子供の戯言よ!
無視しときなさいよ!}
ミースの思いに反し、ジャッチスはイノセスに興味を持つ。
本来なら自己紹介しか許されない空気だが、ジャッチスの質問には逆に答えなければならない。
当然、ミースもそれを邪魔することはできない。
「はい!
まず平和を学び!
その平和を実現させる為に!
1番偉い人! 王様を目指します!」
イノセスは迷いなくはっきりとそう宣言する。
{こいつ、}
ミースはイノセスを周りにバレないように睨む。
{このままじゃ、
イノセスの方が印象に残る。
こうなったら尖った方で行かないと、
ごめんお爺様!}
ミースは状況を見て、自分の自己紹介を頭の中で再度組み立て直す。
「そうか、頑張るといい。」
ジャッチスはイノセスの純粋な目標に満足し、そう続ける。
「はい!」
イノセスは元気良く返事した。
そしてジャッチスの視線はミースに移る。
ミースの番である。
「お初にお目にかかります。
アイボリー領、ボワーメイト出身。
アイボリー家のミース・アイボリーでございます。
私は"前世"が分かります。
そして、その知識を生かして"平等な世界"を目指します。
よろしくお願いします。」
ミースは簡潔に出せる手札を全て切った。
その効果は絶大で、周囲は大きく動揺した。
この国の秘密、国王が前世の記憶を持つ者が代々着いていることを知っている者であれば、何を目指した発言か分かる内容である。
と言うかド直球だ。
「ふははは! そうかそうか!」
ジャッチスは豪快に笑い声を上げ、ミースの自己紹介を受け入れた。
「、」
ミースは心の中で安堵する。
もし喋りすぎな場合、
ジャッチスが受け入れてくれなかった場合、
悪い印象が残る結果となっただろう。
しかし、悪い賭けではなかった。
その成果として、王ジャッチスと大勢の人々に強く良い印象を残すことができたのだ。
そして何よりも、王位継承の条件である"前世の記憶"を持っていることを知らしめることができた。
白い口髭に隠れながらも、笑みを深め、続けて口を開く。 「出身は?」
ジャッチスが挙げた出身地は、当然"前世"のことを指している。
ミースには、もはや嘘をつく理由がないため、素直に答える。
「日本です。あ、ジャパンで分かりますでしょうか?」
「ふはは!やはりか!
私もなんだ!期待しているよ、
アルマの娘、ミース。」
ジャッチスとはまさかの同郷であり、声援を受けることができた。
{なったわ、これ以上ないくらいに、}
ミースは、ジャッチスに想像以上の印象を残せた、と確かな手応えを感じる。
「ありがとうございます。
精進して参ります。」
ミースは、自己紹介がうまくいき、上機嫌でそう返す。
「アルマ・アイボリー、前に出よ。」
ジャッチスは次に、すでに謁見を終えたはずのミースの父親、アルマへ声をかける。
「は!ここに。」
アルマは前に出て、ミースの隣に立った。
「今は伯爵だったか?」
ジャッチスがそう確認を取る。
「その通りでございます。」
アルマは、その確認に対して、発言の裏を考えながら肯定する。
「もう良いだろう。
この件を持って、アイボリー伯爵家は、
今後"アイボリー侯爵家"に昇格とする。」
ジャッチスはアルマに、まさかの爵位の昇格を言い渡した。
「・・・光栄の極み。
謹んで拝命いたします。」
アルマは再び膝を折り、頭を深く下げて受け入れる。
その横顔は明らかに嬉しそうで、口元が緩み上に向かっていた。
その流れを見て、ミースは満足気に思う。
{最高だわ、無理して王との謁見に来た甲斐があるってものね。
逆に国の西側の国境を守っているのに、今まで伯爵止まりだったことがおかしかったのよ。}
しかし、これで終わる"王の謁見"では無かった。
爵位の昇格を受けたアルマ、ミース、そしてそれらを羨ましげに見ているイノセス。
その後ろに、もう一人の人影が現れる。
祝福ムードの中、長蛇の列を作る市民やそれを整理する騎士、王の近衛兵たちに、さらに別の驚愕の雰囲気が流れる。
その空気の変化に気づいたミースは、振り返った。
そこにいたのは、約180cmの長身で、黒の軍服のような正装に身を包み、首にマフラーのようなものを巻いたスラっとした人物だった。
鋭い目が特徴的で、凛々(リリ)しくも美しい顔立ちをしている。
その髪は長く、純白の長髪が煌めくように流れていた。
つまり、この人物も聖女であったのだ。
ここに来た理由は一つ、"王との謁見"である。
その人物は毅然とした態度で、ミース、アルマ、イノセスの前に並び、膝を折って挨拶する。
「初めてお目にかかり、光栄です。
これも運命、"本日この地で"聖女となりました。
"ハイヴ"です。」
{はぁ!?}
まさかの、3人目のミースのライバルだったのだ。
しかもなりたてほやほやで、インパクトも十分である。
そんな自己紹介を受け、再び動揺が広がる中、
王、ジャッチスは口角を少し上げた。
※備考
国王にとって、王との謁見は、最も暇な公務である。
24時間、食事、トイレ以外は、ずっと座っているだけである為、仕方がないといえる。
そんな中で、変化があるとすれば、顔見知りの貴族、白髪の聖女の挨拶ぐらいであり、国王ジャッチスがイノセスに興味を示したのも必然であるのだ。




