懺悔?
「僕は君を許さない。彼女たちが、君を許さない限りは」
そう言ってゾロゾロとミハエルの後ろから、4人の少女が入ってくる。小出しにしすぎだろ、最初から来いよ。
「フクロウくんから連絡を貰ってね。こっちでも色々と調べさせてもらったよ。君が情報を流出させた子たちだろ?」
「…………は、はい」
泣きそうになりながら、自分の罪を自供する。火曜サスペンス真っ青の告白パートだった。
「そして彼女たちは、君が自首して自分の罪を認めたら許してくれると言っている……それで、君はどうする?」
「自首します………本当に、申し訳ありませんでした!!!」
今度こそ嗚咽を漏らしながら、そう4人に向けて謝罪する。こういう方面では本当に天才的だな、ミハエルは。
俺もダメ押しとばかりに追撃を入れておく。
「なー、陽炎。ミハエルがお前がやめた後、クレアシオンのクランを残してた意味がわかるか?」
「フクロウ」
「黙っとけよミハエル。馬鹿には言わなきゃわからねぇ」
蹲っている陽炎に近づいて胸ぐらを掴む。
「こいつはお前が帰ってくる場所を守ってたんだよ。いつか、戻ってくるお前のためにな」
「そ、そんな………」
「ついでに言うと、お前と花鳥風月が繋がっていたのも勘付いてたぜ。だからこそ天網に助けを求めなかったし、先のクラン戦で花鳥風月の方に加担して、お前に飛び火が行くのを防いだ。全部、お前のためだぜ」
あ、ハロンが物凄い目でミハエルのことを見ている。
クラン戦での事実を教えてやると言って連れてきたのは俺だから、そういう蟠りが起きてしまうのは仕方ない。
「そんな………俺のためにそこまで……」
「……勘違いしないでくれ。それはその子の勝手な妄想さ」
ミハエルは不機嫌そうに、ツンデレムーブを決める。そういう風に扱われるのが、好きじゃないんだろうな。
「……必ず戻って来ます……罪を償って、絶対!!」
「うん。待ってるよ」
それだけ言うと、陽炎は自動ログアウトして消えていった。
それと入れ違いになるように、麻痺が解けたらしいリュージは我が意を得たりとばかりに、ハイテンションで叫び散らす。
「は! マスター権限で、お前らを追い出してやる!」
「その前に」
臓器の芯まで凍てつかせるような、冷たく低い声。
たったその一言でリュージの動きを止めたミハエルは、ゆっくりと視線を向けると、脅すように言う。
「僕は君を許すつもりはないよ。三日後、覚えてろ」
◇◇◇
「手を貸して欲しい」
頭取と話しているところに唐突に現れて、本人自らそう志願して来たのが、クレアシオンと花鳥風月の対抗戦の1日前。
「わかった、焼き鳥でも売れば良いか?」
「別に集客に関してはどうでも良いよ。何人観戦に来たところで、一銭も入らないし。僕が言ってるのは、対抗戦に関して」
「なんだ? 奴らに下剤でも飲ませれば良いか?」
割とマジでできるラインのことを提案すると、首を振られる。駄目か? 毒でも盛れば確実なんだが。
「対抗戦に出て欲しい」
「アホ抜かせよ」
そう言ってミハエルとの会話を切り上げて、頭取との大事な話の続きを再開させる。
「それで、明日行うノミ屋の利益の分配についてだが」
「そんな話してたか?」
おい、黙って話を合わせろよ。というか、実際賭けはやるだろうが。俺にも一枚噛ませろや。
「誤魔化さないでくれ。僕は本気で言ってるんだ」
「おい。プロポーズなら、こいつ貸してやるから外でやってくれ。さっきからこいつに居座られて迷惑してたんだ」
貸すってなんだよ、貸すって。
「君が必要なんだ」
ミハエルはミハエルで、そんな頭取の頼みも無視して俺に熱い視線を飛ばしてくるし。
俺の知り合い、ろくなのいないな。
「お前、知ってるか? 俺はまだレベル10もいってないぞ?」
レベリングの必要性は感じていたが、正直している暇はなかった。陽炎のこともあって、リアルで色々忙しかったせいだ。
「そこはもう割り切るよ。言ったってしょうがないし」
「おい、なんで上からなんだよ」
「そもそも、君が負うべき責任だと僕は思うね」
更に身に覚えのない責任をなすりつけてきた。無法か?
「焚き付けたのは君だ。そしてこうなるよう追い込んだのも君」
「違う。お前の怠慢だ」
意見がぶつかり合い、平行線になる。お互いがお互い、絶対に譲らないだろうと確信していた。
と、くれば。
「「お前(君)も、そう思うよな(ね)?」」
「ああ、ミハエルが正しいな」
話を振られることがわかっていた頭取は事前にコイントスをして、結果を決めてやがった。
こんな不誠実な方法、許されるはずもないが、二対一の構図になってしまったのは事実。
悔しさを滲ませながら、渋々とミハエルの案に了承した。
「わかった。でも、期待はすんなよ」
「いや、勝ってもらわないと困る」
「お、お前。自分のクランを賭けたのか?」
それが何か? とばかりに頷くミハエルに戦慄する。
対抗戦は通常、一対一のPVPをを3回繰り返すものだが、仕掛ける方は得られる対価として、必要勝利条件数が変わるという変わった仕組みがあった。
奪われたものを取り返すだけなら一勝。単純に資産を求めるというなら二勝。そして、クランを潰す場合は全勝。
この場合の潰すと言うのは、そのクランメンバーが似たようなクランを再建することさえ半永久的に禁止するというもの。
そして更に、そのクランのマスターのフルブラへのログインを、今後一切禁止するという、とんでもなく厳しいものだった。
プレイヤー同士が勝手に決めた取り決めなので、無茶苦茶と言えるほど負けた時の代償が重い。
「そんな驚くことかい? そもそも、君も言っていたんだろ?」
「いや、俺のいう潰すってのは影響力を削ぐとかそういう意味で」
クラン戦自体は人気があるが、クランの半永久的な命運さえ決めてしまう対抗戦は、あまり好かれない。
人が考える、ゲームの範疇を明らかに超えているからだ。
俺が思っている以上に、ミハエルはキレていた。普段温厚なだけに、怒らせると容赦がない。
「なんでそんな大事に俺を巻き込むんだよ」
「確実性をきすためさ」
話が通じてない。ミハエルがバグった。
「というか、なんで前日に言うんだよ。前もって相談しろ」
「それを君が言うのかい? 驚いたなー」
「………良いから、さっさと出てけよ」
なんて感じでわちゃわちゃしながら、前日の夜は過ぎていく。
決戦のときは、着実に近づいていた。
◇◇◇
「ーー、で? 話ってなんだっけ?」
「だから、助けて欲しいんですよ! ミハエルの野郎が俺に、喧嘩を売ってきて」
「ああ、はいミハエルか。折角抑え込んでられたのに。どこのどいつだよ、マジで」
俺よりも幾分若い、大学生ぐらいの男はそう軽口を叩く。
こんな奴に敬語を使っている自分が情けないが、いくら下っ端とはいえ、あのクランのメンバーだ。
媚を売っておいて損はないと、自分に言い聞かせる。
「で、お前ミハエルにクランを賭けた対抗戦を持ちかけられたんでしょ? どんだけキレさせてんだよ、おもしろ」
「全然面白くないですよ!」
未だ他人事であるクソガキに思わず声を荒げてしまう。
「あー、ごめんごめん。で、助けて欲しいんだっけ? 多分無理だわ、あんた結構嫌われてるし」
「は?」
言われた言葉が飲み込めず、戸惑いの声を上げる。
「それにうちのマスターがミハエルのことを気にかけてんのよ。そこも含めて、多分無理だと思うぜ」
「な、何を言って」
「そういや、言伝も預かってたわ。もういらないってさ」
衝動的に手を出そうとしてーー、軽く捻られる。大人と子どもの身長差だというのに、いとも簡単に身動きを封じられた。
「じゃ、そういうことで。もう二度と来んなよ」
その言葉ともに、首元にナイフを突き立てられた。




