1戦目?
「正直驚いたよ、彼らが対抗戦に乗ってくるなんて」
「レベル10未満の雑魚が出てくるって事実を、それとなく伝えておいたからな」
俺がそう言うと、ミハエルは冷めた目を向けてくる。無断でやったのは事実だが、責められる謂れはないぞ。
「やっぱり、君は捻くれてるね」
コロシアムに用意された、控え室での一幕。クラン戦のときみたいに、どこにあるかもわからない場所……とかではなく、タルスにある闘技場を借りていた。
結構借りるの簡単だったな。ほとんど公民館だったよ。
この世界は魔獣がうじゃうじゃしていて、冒険者がメジャーな職業なので、普通にどこの街にもコロシアムがある。
『例えるなら競馬場みたいな感じ、ここは地方競馬場かな?』とは、ハロンの弁だ。例えの上手さなら、一級品だな。
ただ競馬場は別にどこの市にもあるというわけじゃないから、そこに関しては減点だな。
と、自分でも理不尽に思う採点をしていると、円がそんな気の抜けた様子の俺に、突っかかってくる。
「ミハエルさん、やはり反対です。今からでも出場内容の変更を」
「そりゃ、できるけど。する必要は感じないかな」
「なぜですか? この人、始めて1週間のニュービーですよ?」
「レベルで見ればね。それでも君よりは強いと僕は思うよ」
おい、煽るようなこと言うなよ。殺されそうな目線を向けられるのは、俺なんだぞ。
「ってか、おい。まだ俺について話してなかったのか?」
「うん。あんまり、言いふらすことでも無いと思ってね」
「なんでだ?」
「君と一緒にいた、あの子たちが怖い」
桔梗と似たようなことを言いやがった。俺の知らない間に、あいつらの凶暴性でも上がったのか?
「だからコソデとかも、情報を秘匿してるよ。ま、彼女の場合は商売的な意味もあるんだろうけどさ」
「なんだそれ」
言っている意味はわからないが、今の状態がこいつらにとって都合が良いことはわかった。
サプライズ的な意味を考えると、俺もそっちの方がいい気がする。
ここに来て初めて、俺のこれからの方針が決まった。
「そうなると、口調も変えた方が良いね。君のその乱暴な口調、昔から特徴的だし」
「変えるって言ったって……具体的にどう変えろと?」
「逆に女性らしい口調にしたら?」
「逆すぎるだろ。俺は男だぞ」
が、口調を変えるべきというミハエルの案も一理ある。女性らしい口調は、わかりやすくて良いか。ロープレと割り切ろう。
「こ、こんな感じでどうかな……?」
「僕はもっとクールな方が好みかな」
「あんたの好みは聞いてないけど」
うん、バッチリだよ。と親指を立ててくる。そのリアクションがウザかったので、靴を踏んづけた。
「あの……その、良いですか?」
靴をお互いに踏んづけ合っている俺たちの間に、円は控えめに遠慮がちで割り込んでくる。
ミハエルに配慮してか、黙ってこちらを窺っていたみたいだが、その我慢にも限界が来たらしい。
「あの、ミハエルさん。前から、それこそその人と会ったときから気になってたんですが……お付き合い、されているんですか?」
お前、腐ってんのか?
いや、その苦痛に満ちた表情を見ればそれが違うということははっきりとわかる。なに? 同性にも嫉妬すんの?
というかそんな苦しそうな顔するなら、そんな質問してくるなよ。これで俺が付き合ってるって言ったら、どうするんだ?
「ははっ、違う違う。残念ながらこの子が好きなのは女性なのさ」
「うん。実はそう」
残念ながらってなんだよ。というかその返答、合ってるのか?
俺はふと疑問に思うが、それで良かったらしい。
安心したようにため息をつくと、俺の視線に気付いたのか、円は自分の身を庇いながら若干距離を取る。
「何、その反応? 私も人は選ぶけど」
「な、なんだその言い草は! ……い、いや? 喜ぶべきか?」
一人で勝手に混乱している置いておいて、控え室に備え付けられている時計を見る。
もうすぐ、対抗戦の一回戦開始の時刻だった。
「どうするの? 雑談してて、順番とか決めてなかったけど」
「取り敢えず、一番は円に行ってもらおうかな」
「は、はい! わかりました!」
「リラックスだよ。円ならできるから」
その声援、逆効果になってないか? 更にカチコチになってるが。
俺の心配を他所に、円は控え室を出て闘技場の方へ足を進める。
「………俺、あいつの実力知らねんだけど」
「心配してるのかい? 君も丸くなったね」
「お前が俺を語んな」
元からこんなんだよ、バーカ。
「まあ、彼女なら大丈夫だよ。じゃなきゃ選ばないさ」
「あっそ」
ミハエルには絶対の自信があるらしいので、それ以上は聞かない。
どうせ聞いたって、はぐらかされるだけだ。
◇◇◇
「うぇ!? メチャクチャ強そうな人出て来た!!」
「落ち着いてパウンドちゃん! 皆んな見てるからっ!」
「そうそう。どうせ見た目だけさ」
左の入場口、花鳥風月の方から出てきたガタイの良いプレイヤーよ姿に、思わず声をあげてしまう。
身長はここからじゃわからないけど、おそらく見上げるほど高い。あのハロンの仲間のあの……変態にも、引けを取らないだろう。
その身長に加え、現実にはつかない筋肉のつき方をしている。多分、大の大人一人ぐらいじゃ勝負にもならない。
「って、こっちは女の人!? 勝てっこないじゃん!!」
「だからパウンドちゃん! 声!!」
私が一人怯えている間に、クレアシオンの方から出てきた女性プレイヤーの姿に、またまた声を張り上げる。
「ど、ど、どうしよう!? 確かこれで負けたら、あのイケメンさんは引退しちゃうんだよね!」
「う、うん………」
そう言って戦々恐々とする私たちに、ハロンはつまらなそうに気怠そうに、その心配は無用だと伝えてくる。
「そのイケメンってのが、誰を指してるかはわからないけど。多分勝つのは、あの女性の方だよ。見てればわかる」
「え? 見てればって?」
「姿勢に構えに心構え。どれをとっても彼女の方が遥かに優っている。天地がひっくり返っても、あの男の勝利はないね」
……な、なんか、凄いことを言われた気がする。
格闘漫画とかではよく聞くようなセリフだけど、そういうのってリアルでもあるんだ……いや、そりゃあるか。
というか、さっきから謎にハロンが不機嫌だ。終始、ムスッとした顔をしている。
「………ん? ああ、ごめんね。個人的な理由でちょっとね……それより、先輩は? 一緒に観戦するって約束してんだよね?」
「ああ、うん。それが急に用事ができたって、昨日」
「そうなんだ、残念だね」
話を無理矢理転換させたハロンと、それに無難に答える私。
会話が自然とぎこちなくなってしまう。お互いに気を遣っているのが丸わかりだったからだ。
ゴーーーーン
そんな私たちの気まずい空気を破るみたいに、勝負の始まりを告げるドラの音が鳴る。
「やばっ、始まっちゃった!」
放送が始まる直前に、慌ててテレビのチャンネルを切り替えるみたいに、パッと闘技場の方へと顔を向ける。
そんな私の慌てようを嘲笑うみたいに、勝負は決していた。
ゴーーーーン
そう勝者を宣言するドラの音と、困惑と称賛が混じり合った疎な拍手が鳴り響く中で、私は目をパチクリとさせていた。
「凄い……太刀筋が見えなかった」
「無縫流か。思った以上に強いね、彼女」
え? 今、それっぽいことを言う選手権でもしてる?
余所見をしていたせいで一人ポツンと取り残された私は、ただただ試合のリプレイを求めるのだった。




