2戦目?
キャーキャーと黄色い声が騒がしい中、俺は闘技場に立っていた。
さっきの試合、控え室備え付けのテレビで見てたけど、気を抜いてたら知らん間に終わっていて、何が起きたかよくわからないままここに立たされている。
今の試合、リプレイとかないのか?
なんて感じで、さっきの試合が気になって仕方がない俺に向かって、黄色い声援を受けている張本人はピシッと指を指してくる。
「黒いの。残念だけど、君の出番はないよ」
奇妙なことに女性に人気らしい、そのフツメンが言う黒いのとは俺のことだった。
ミハエルの助言もあって正体を隠すことにした俺は、現在、真っ黒な外套をすっぽりと被っていた。動きづらっ!
「聞くところによると君、レベル10以下の雑魚なんだって? 舐めてるとしか思えないね」
「あ?」
俺が恫喝するも、そのフツメンはやれやれと首を振るだけだった。
「僕のレベルは50近くある。悪いことは言わない、降参し給へ」
どこか縁起の入った口調で、俺にそう勧めてくる。わざとやっているのか、どこまでも噛ませのセリフだった。
「ん? 言葉が通じないのかな?」
「聞こえてるよ、残念ながら。後、レベルは正確に言えよ。どうせ46辺りなんだろうが、つまんない見栄張んな。カス」
口喧嘩がお望みみたいなんで軽く煽ってやると、すぐ不機嫌そうな表情を浮かべる。
煽り耐性低いんなら、他人を煽んな。無口キャラで行け。
というか図星かよ。少しは隠す努力しろや。
「……見当違いも甚だしいな。むしろ、哀れになってくるよ」
「すぐムキになんなよゴミ。もう、その反応が答えなんだよ」
「話にならないな」
そう言って、腰に提げていたゴテゴテした装飾のロングソードを構えるフツメン。
まだ、ドラ鳴ってねぇよ。マナー違反なの知らないのか。
「一瞬でかたをつけてやる!」
そう叫ぶと同時に、合わせたかのようにドラが鳴り響き、速さこそ正義とでも言うみたいに、馬鹿正直に突っ込んでくる。
ので、
「「『隼』」」
そのスキルを避けるのは、欠伸をするより簡単だった。
スキルを放った直後、何が起きたかわからないという顔で膠着しているフツメンの、ガラ空きの鳩尾に向かって蹴りを入れる。
まあ、全然効かないよな。レベル差もあってか、電柱を蹴ったみたいな硬さがあったし。
それでもフツメンは過剰に反応して、俺から素早く距離を取る。
「お前、今……何を?」
「避けて蹴った。やっぱ、無駄に硬いな」
俺の返答が気に入らなかったのか、続け様にスキルを放つ。
「「『鳳』」」
不可視の斬撃派。勿論、相手のモーションを見ている暇はないので、8割憶測で避けるしかないが、こいつ程度なら2割の予測で充分だった。
「馬鹿な! 動体視力で躱せるはずがない!」
「ああ。勿論、無理だ。スキルは物理法則を超える」
魔力とは世界の法則を捻じ曲げる力。スキル発動時にそれを消費している時点で、世界の法則なんて無意味でしかない。
その前提をわかった上での発言だったが、やはりフツメンは気に食わなかったらしい。一応、お前の言葉に肯定したんだけどな。
逆に、なんなら良いんだよ。
「「『翡翠』、『燕』」」
上に飛び上がっての振り下ろし、下からの切り上げを避ける。そして、スキルの連続使用後の硬直中に、攻撃を加えた。
今度はさっきより柔らかい手応え。通ったような感覚がする。
これは剣士系のスキル、『流型』の代償。スキルをコンボさせられる代わりに、コンボ終了後の隙がでかくなる。
強いスキルだが、俺にとっては都合が良い。このバトル、召喚士のスキルを使わなくても済みそうだな。
「………え?」
俺がそうほくそ笑んでいる中、ダメージを喰らったことに驚いている様子のフツメン。自分のスキルの効果も知らないのか?
流型の、スキル使用後の隙ってのは、反撃できない硬直時間だけを指しているわけじゃない。防御力の低下、被クリティカル率の増加。その諸々の効果を含めて、隙なんだよ。
それを知らないってことは、コンボ後への攻撃を狙わない雑魚としか戦ったことがないのを示している。
タルスで頭張ってるクランにいるんだから、最低限のプレイヤースキルぐらいは身につけろよ。嘆かわしいな。
◇◇◇
「………は?」
私は画面上で繰り広げられている、あまりにも馬鹿げた光景につい、間の抜けた声をあげてしまう。
スキルを避けて……いる? あの者は、何をしているんだ?
「ははっ、よくやるね……視界も狭められてるっていうのに」
私が驚いているのとは対照的に、妙に彼女に対して自信を持っていたミハエルさんは、さも当然といった感じでそれを眺めている。
………え? 私の目がおかしくなったってこと?
「あの………ミハエルさん」
「ん?」
「あれは今、何をしているんですか? 私の目には、スキルを避けているようにしか見えないんですが」
「当然だね。スキルを避けているから」
表情筋が引き攣る。
冗談だろうか? こう見えて、ではないかもしれないけど、ミハエルさんは冗談が好きだ。だとしたら今回も、と淡い期待を抱いてみるが、すぐにでも違うとわかる。
その目が、特撮ヒーローをみている少年のように輝いていた。
「何をやってるかわからないだろ。普通、戦技スキルは避けれるものではないからね」
ミハエルさんの言う通り。戦技スキルを目の前で放たれたプレイヤーは、弾くか防ぐかの2択しか与えられない。
それ以上の動きとなると、絶対に身体が追いつかないからだ。
私が修めている無縫流も、戦技スキルを弾き、カウンターを決めることを主流としている。
スキルを使わず戦うことを念頭に置かれた流派で、そのスタイルが確立されたなら、それ以上はできないということの証左だった。
弾くだけならまだわかる。条件反射でどうにかなる領域だから。
だが避けるとなると、話が違う。
屈む、前に出る、後ろに下がる!半身で逸らす。それらの回避行動を選択して実行に移すという過程が存在している。
そもそも、スキルの及ぶ範囲の違いもある。
刃渡1メートルほどの剣であっても、戦技スキルを使えば壁に4、5メートルほどの傷跡を作る。
そんな代物相手に、目測でどう避けれるというのか。
「例えるなら。相手の手札が全て見えたカードゲームかな」
「はい?」
「わかるんだよ、あの子には。相手が何を扱えて、それをどう使ってくるか。それこそ手に取るように」
だから避けれると繋げるミハエルさん。どこも繋がってなかった。
説明を色々と飛ばしているようにしか思えないが、本当にそれが全てだったらしく、説明をやめて観戦に夢中になる。
わかるから、避けれる。つまり、相手の動きを先読みしてる?
自分で言ってて、頭がおかしくなりそうだった。本当にそんなのが可能なら、それはもう未来予知に近い。
………未来予知? 案外近いかもしれない。
古いバトル漫画で、そんな感じの能力を持つキャラがいたし、それに近しい性能を持ったスキルとかあるんじゃないのか?
そう思わずにはいられなかった。じゃないと、私のこのフルブラ内での、全てを否定されるような気がしてならない。
「やはり、PVP最強は彼女だ。それは、この先も変わらない」
楽しそうにミハエルさんは言う。
私は既に、考えることをやめていた。




