愛ある口喧嘩
彼女にとってどうしても拭えない問題なのだろう。
「マレーナ様。殿下は…子供ではありません」
「そうね…年齢で見れば立派な大人だわ…でも…」
その時。
私達ではない声が聞こえた。
「ただ生きた日数だけで、大人ぶらないで貰いたい。聖女マレーナ」
「「!!」」
声のする方へ振り返ると、そこには仁王立ちする殿下と、その後ろにアルト様が控えていた。先ほどベンチにいたはずなのに、少し話し込んでいる間に移動してしまったらしい。どこから聞いていたのだろう…マレーナ様は気まずそうに視線を下げた。
「殿下…私は」
「私は、その辺の男よりだいぶ大人な自信がある。幼いころから王家の一員として、国王陛下と共にこの国を背負ってきた。大人にならざるおえない重圧を常に感じてきた。しかし、君はそんな私を子供だというのか」
マレーナ様は、何か追い詰められるように首を振る。
「君が、私を子供だと感じるのは…きっと君の前だからだ」
その言葉に「お?」と思う。しかし…殿下は気にせず続けた。
「聖女を夢見て来た私にとって、恋心だけは大人とは言い難い。成長する機会がなかったものでね。」
「…そうなのですか?」
「ああ、私はずっと聖女を求めてきた。そして君を見つけた。君が聖女だと知る前に君に恋をした。一目ぼれだ」
「…」
「しかし、君がそんな私を子供として見てしまうなら…私はどこかで恋というものを学んでこよう。その辺の貴族のように娼館にでも指南役でも…なんでも経験してこよう。そして貴女に改めて向き合う」
その言葉に、マレーナ様は目を見開き狼狽える仕草を見せた。
「そんなの…認められないわ」
「何故?子供は嫌なのだろう?」
その言葉に、マレーナ様は笑った。
「…そう言って…、貴方が遊びたいだけではないの?」
殿下はその言葉に眉をひそめ、しかし怒りではなく、深い悲しみを滲ませた表情で彼女を見つめた。
「遊びたいだけなら、私はとうに“君以外”を選んでいる。」
「初めて会った時、この胸ばかり見ていた癖に」
女の私でも見ました。ごめんなさい。と心の中で謝罪した。それほど豊かで綺麗なスタイルをしている。しかし殿下はめげない。
「それも君の魅力の一つだろう?見るに決まってる」
殿下は、まるで当然のことを言うように、さらりと返した。マレーナ様は一瞬ぽかんとし、それから顔を真っ赤にして睨みつける。
「……貴方って、本当に……!」
「本当に?」
殿下は一歩近づく。
マレーナ様は後ずさりしそうになり、しかし踏みとどまった。
「本当に、どうしようもない人ね……!」
「恋だけはまだまだ未熟だと話しただろう?君にだけは、どうしようもなくなるんだ。」
その言葉は、冗談めかしているようでいて、どこまでも真剣だった。マレーナ様の呼吸が浅くなる。
「……私を、困らせたいの?」
「困らせたいんじゃない。“逃げる理由”を一つずつ潰しているだけだ。何にも囚われず、私自身を見てくれ。私は君の理想に近づきたい」
殿下は淡々と、しかし優しく言う。
「どうせ…私が手に入った瞬間、飽きて離れていくのよ」
そのマレーナ様の言葉に、殿下は眉をひそめた。
「……君が今、誰のことを思い出し、私を拒もうとしているのかは知らない。だが、これだけは断言させてほしい」
「…」
「君がこれまで経験し信じてきた『男という生き物』の常識を、私のすべてを懸けて覆してみせる。一瞬も貴女を不安にはさせない」
「そんなの、無理よ…」
「信じれないと言うなら…こういうのはどうかな。大人だと自負する貴女が…大人に憧れる子供の私を奪い去ってくれればいい。だけど…」
殿下は彼女の顎に指を添えて言う。殿下は長身だから、マレーナ様を見下ろし、美しく微笑んだ。
「奪われるのはどちらかな。楽しみだ」
この人を、誰が子供だと言えようか…。完全に好いた女性を落とそうとする男の顔をしている。殿下はこれ以上無いほど色気を出している。普通の令嬢なら失神してる。
マレーナ様は、睨むように殿下を見るけれど傍から見たら勝敗はついているように見えた。
しかし、そんな殿下をキッと睨みつけるマレーナ様。豊かな胸の下で腕を組み、自ら殿下に距離を詰めた。そして、彼の頬から輪郭をなぞり…顔を寄せて
その瞬間。私は両手で目を隠した。
こ、これは…凄いものを見てしまった!そう思って、そろそろ終わったから指の隙間から覗くと、殿下の後ろにいたアルト様は背を向けて何もない空を眺めているのに気がつく。
2人であわわと慌てている間に、殿下とマレーナ様から声が聞こえた。
「じゃあ…お望み通り奪ってあげる。」
「ああ、この身は貴女一人に捧げるよ」
この攻防…どちらの勝ちなのか全く分からない。分かるのは2人が両想いと言うこと。




