気が早い幸せな未来◆終わり◆
暫くすると、殿下と聖女様の結婚式も盛大に行われた。隣国の王族も祝いに訪れ、お祝いムードはこの国に留まらなかった。
大衆の面前に現れた2人は、幸せそうな表情でマレーナ様を眺める殿下と、時折照れながら視線を合わせるマレーナ様とで仲睦まじい事が伝わってくる。
私達は、二人の幸せを見届ける事ができた。
…
それから更に暫く経ったころ。
…
私は、侯爵家の寝室で静かに息を整えていた。多くの人が私を静かに見守り、励ましの言葉をくれる。
——出産の日。
痛みの波が引いていくと同時に、医師の明るい声が響いた。
「おめでとうございます、奥様。……女の子ですよ」
「おん、なのこ…」
女の子。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
——この子にも背負わせてしまうのだろうか。
——エレオノーラが男だったら、と他家から何度も言われた、あの重圧を思い出す。
私が幼い頃から浴びてきた視線、期待、失望。
侯爵家の一人娘として、当主として、
“女であること”を理由に何度も価値を測られた日々。
この子も、同じ思いをするのだろうか。
そんな不安が胸をよぎったその時。
「やった!ノーラ!!」
私の耳には暗い気持ちを吹き飛ばす喜びの声が届いた。医師から赤子を受け取ると、まるで宝物のように両腕で抱きしめる。
「……っ、可愛い……世界一可愛い……!これは縁談が絶えないぞ、きっと」
その声は震えていて、目尻には涙が滲んでいた。
「アルト……?」
「あ!!大丈夫。ノーラも世界一です!」
心配して声をかけたのに、違う方向からの励ましが振ってくる。それはそれで嬉しい言葉だったから自然と笑顔になってしまった。
「お疲れ様です、ノーラ。よく頑張りましたね。ほら、見てくださいよ、指が……こんなに小さい……! 目元はノーラ様に似てる……いや、全部ノーラ似だ……! 」
「まだフワフワで…どちらに似ているか分かりませんよ?でも、確かに、髪色は私に似ていますね」
「ノーラに似て侯爵家を支える立派な娘になります…間違いないっすよ!」
その言葉に、私は思わず息を呑んだ。
“落胆”は少しも感じない。
“誇り”として語る彼の声。
私が抱えてきた不安を、
彼は知らぬ間に軽々と超えていく。
何か言いたいけれど言葉にならない私の手を、アルト様はそっと握った。
「ノーラ」
優しく、しかし強い…大好きな声。
「もし、この子を困らせる“常識”がこの世にあるなら——」
彼は娘を抱いたまま、まっすぐ私を見つめた。
「——俺たち二人で、ぶっ壊しましょう。俺たちは最強なんで!最強の両親に囲まれたこの子は無敵です!」
その笑顔は、あまりにも頼もしくて、
あまりにも優しくて、
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「……アルト…」
涙が溢れた。
ああ、この人となら。
どんな未来でも怖くない。
娘が小さく泣き声をあげる。
アルト様は慌ててあやしながら、嬉しそうに笑った。
「ほら、ノーラ。泣かないでくださいよ。娘が心配してます」
「……泣いてなんて……」
「はいはい、強がりも可愛いっすよ」
私は笑いながら、そっと娘の頬に触れた。
「ようこそ……私たちのところへ来てくれてありがとう」
アルトが頷く。
「あ~、兄上のとこで抱っこのやり方を鍛えてきた甲斐がありました。」
「本当に、パパは抱っこが上手ね」
「パパ…良い響きっすね…」
伯爵家長男とエリザの商会は順調に侯爵領を豊かにしていった。そこへ確認に訪れたアルト様は長男との交流を深め、その子供達とも仲良くなっていた。エリザは見違えるほど大人しくなっていたそうだ。
こうして家族が増えて改めて思う。
「アルト…私…たくさん子供が欲しいです」
「え!?今からそんな…気が早い」
「ふふっ、そんな夢見てしまうのは…貴方のせいですからね?」
本音を言えば、私は兄妹に憧れがあった。病弱なお父様にそれを求めるのは酷な話だから言わないでいたけれど。今となっては忘れ去ってしまったはずの気持ちだった。
しかし、それを思い出したのは…あまりにも頼りになり、幸せをくれる彼のせい。
責任を取ってもらわなければと心に決めるのだった。
窓から差し込む光は、新しく始まった我が娘の物語を、祝福するように優しく照らしていた。
◆終わり◆
完結!pv数で沢山の方に読んでいただけている事が確認できて、全年齢版も作って良かった(泣)と思いました。読んでくださった皆様、そして反応を下さった皆様。本当にありがとうございました。他の作品も、全年齢版出してみようかな…と勇気が出ました。皆さんのお陰です!!




