2人で
笑って心が落ち着いてから、先ほどの事を思い出す。辺りを見渡すと私の制服が草と地面の上にぐしゃぐしゃになっていた。
「…!」
私は立ち上がると、その汚れてしまった制服を慌てて拾いに行った。手でその生地を握ると、土がポロポロと落ちる。予備とはいえ、この学園でも何度も袖を通し共に頑張ってきたその制服。卒業前に、こんな状態にしてしまったことが悲しくなる。
「私の不注意でこんなにしてしまったわ…」
その制服を眺めると、卒業を目前にして自分の責任が重くのしかかってくるように感じた。私は卒業したら本格的に侯爵家の後継者として動き出す。
もし、今みたいな気の緩みで…この様な不注意で領地がボロボロになってしまったら。悪意ある者の意思に気づかず私が…
「ノーラ様」
「っ!!」
侯爵家の事を考えていたら心配させてしまったらしい。アルト様が私のすぐ隣に寄り添ってくれる。
「そんな顔をしないでください。」
アルト様が、私の手から泥に汚れた制服をそっと取り上げて生地の汚れを払い始める。
「貴女は何も悪くないんですから。元はと言えば俺が…側にいてあげられないからだ。」
「そんな…それこそアルト様にはなにも…」
彼は首を振って静かに否定する。
「でも、これからは違います。俺がちゃんと傍にいます。貴女の心配事を片っ端から潰してやります。」
「!!…は、ぃ」
「…これ、俺が責任を持って預かってもいいですか?あいつに渡すつもりだったんでしょう? 」
その言い方には語弊がある。
「あの生徒が、知り合いの娘にあげると言っていましたから…譲るつもりではいました。でも、アルト様にこんな汚れた物を…」
「いいえ、貴女の身の安全と、貴女の背負うもの全て。常に考えられるように頂きたいのです。職務に没頭し過ぎて…平和ボケしないために。」
少しだけ悔しそうに眉を下げて言う。そんな顔をされてしまったらダメとは言えない。こんな状態になった制服を綺麗にしても誰にも譲れない。そのまま私の手元にあっても嫌なことを思い出してしまうなら彼が持っていてくれるのもありがたいのかもしれない。
「分かりました。ありがとうございます。アルト様」
「はい。大切に預かります。あと…」
アルト様が内ポケットを探ると1枚の書類を取り出した。
「これは、皆の前で貴女にキスをしてしまった時…殿下が下さった俺達が殿下の承認のもと婚約していた…と証明する書類です」
私はその書類を確認して驚いた。
「私は…既にアルト様と婚約関係にある…という事ですか?」
「はい、貴方が保留にしているので…ノーラ様の意向に反するものになってしまいましたが」
「気を使ってくださったのですね…私はてっきり…キスした時点で婚約したも同然と勘違いをしていたものですから…」
「え?そうだったんですか?」
「…はい。だって、やっぱり無理と言われましても結婚を強行できますもの」
こんな行き違いがあったなんて…と笑うと、アルト様は引き続き真剣な表情で話を始める。
「侯爵家の皆さんは…今、王都の別邸にいらっしゃいますか?」
「はい、卒業式に参加する為に来ております」
そう言うと一層気を引き締めたように彼は言う。
「ご挨拶させて下さい。俺の不手際で勝手に婚約を進めてしまった事を誠心誠意謝罪いたします」
「それはとても嬉しいことですが…そこまで気合を入れなくても…」
「いいえ、侯爵令嬢に公の場でキスをしてしまうなど…いくら仕事で疲弊していたとはいえ許されない事ですから。」
多分、大丈夫だと思うのだけど…
両親は私がアルト様に好意があることを知っているから。そうして悲壮な覚悟を決めたアルト様に連れられ、私たちは王都の侯爵家別邸へと向かった。




