子供のこと(アルト視点)
まずは、大人っぽく夜の庭園を散歩など…。これはデートプランが必要だ。考えてみれば、デートのような出来事はあっても『デート』に誘い、互いが『デート』と認識して会う事は無かった。
今度こそ完璧なデートを…
そう考えた直後、彼女が消え入るような声で呟いた。
「……でも、お側にいられるのなら…アルト様との子が早く欲しいです。きっと可愛らしいですよ?アルト様は可愛いお顔立ちされてますから」
心臓が、限界突破しそうな程にバクバクと鼓動を刻む。これはとんでもない誘惑だ。先にそこまで行ってしまっていいものなのか!?
いや、待ってほしい。
一回その領域まで踏み込んでしまえば、初々しい距離感でのほんわかデートは叶わなくなるのではないだろうか?
あれにも少し憧れがある。
中等部から高等部へ上がる時「もしモテモテになったらこんなデートしたい」など考えた事がある。街へ共に足を運び…飲食を共にし…手を繋ぐか繋がないかで悩む…そんなデート。
ふとノーラ様との関わりを思い返してみる。
夜会では、当主不在の際は俺が積極的にエスコートを務めた。鳥に襲われた際は、街をフラフラと歩きながら同じクマパンを食し…探偵事務所までの道のりでは腕も組んだ…
やってる。
憧れ全部…やってる。
じゃあ…いいのか?そこまで踏み込んでしまって。心残りはないな…。貴族ならば結婚式の夜には…。
考えていると俺の冷静な部分が、ふとある疑問を投げかける。
「……あの、エレオノーラ様。一応確認なんすけど。その……『過程』についての知識は、お持ちなんすか?」
喉を鳴らして尋ねると、彼女は自信満々に胸を張った。
「もちろんです! 愛を深め、キスをして触れ合うことから始まるのだと学びました。」
「あぁ、そうっすね…なるほど」
彼女の様子から、それなりに具体的に学んでいそうだ。唯一の跡継ぎともなると、知識をしっかり教えられるものなのだろうか?
この世界では「男に任せる」しか学ばない事もよくあることだそうだ…
そう考えた時、ノーラ様はウキウキとした調子で話し始める。
「……もう、赤ちゃんは授かっているでしょうか。今この瞬間に育まれているかも知れないと思うと、なんだか誇らしい気分です」
「………………?」
なんか…変なことを言わなかったか?
彼女を見れば、冗談を言っている気配はない。まさか、ノーラ様は俺との関わりの中で子が授かると勘違いしている?その勘違いはいったいどこで…。
「ノーラ様は…現段階で、子を授かった可能性があるとお考えで??」
困惑する俺にノーラ様は首を傾げた。
「アルト様は、子が早く欲しいからキスをしたのではありませんか?」
「へ、ぁ、キスで!!……あ、あの。すっ飛ばしすぎでは?そう教えられたのですか?もし、そうなら担当者に苦情入れた方がいいレベルの欠陥知識っすよ」
「ああ! そうですね。生まれる前にお名前を考えなくてはいけませんものね。男の子でも女の子でも私たちから1字取って……」
「……ま、待った!」
なぜか話が未来へ進んでしまった。
だから一旦止めて話を整理しなければならない。
「それ、つまり貴女は、全校生徒が見てる前で……俺と子供を授かるようなことをしたと、そう思ってたんすか!?」
「もちろんです。心の準備も整えていたではありませんか。」
とんだ学園崩壊である。
「少しはしたないですから、指導室でお叱りを受けるのも仕方ありません」
「少しどころじゃ…じゃ、じゃあ……あの後『もう一回』って言ったのも……」
「ええ、数回では心もとないと思いまして。子を授かるには運が良くないと出来ませんもの」
俺はついにその場に膝をついた。
考えが完全に肉食系なあれだ。
……なのに、そんな彼女も「愛おしい」と思ってしまうんだから、俺は末期らしい。
「あの……アルト様? もし私の勉強不足なら、今、教えていただければ……」
「今はまずいですって、それは!」
再び顔を近づけてこようとする彼女の肩を、必死に掴んで押し留める。このままではNEXTラウンド(エレオノーラ基準)が始まってしまう。
「いいですか。命の神秘っていうのは、もう少し……秘密裏に行われるもので、工程が違うんすよ! 口づけだけで赤ちゃんができたら、この学園は今ごろ子供で大賑わいになってます!!」
「……そうなのですか? 皆さん熱いのね」
彼女は不思議そうに瞬きをした後、感心したように頷いた。
「では、まだ『予備動作』に過ぎない……と? さすがアルト様、そちらの方面でも非常に知識が深いのですね。……勉強になります」
やめてください。
俺が特別詳しいみたいに言うのは。
さっそくメモ帳を取り出そうとする彼女に対し、俺は震える声で告げた。
「……それは、結婚式の後。俺の口から、全部説明します。だから今は、その『確実な追究』をお休みしてください。俺の心臓が、結婚前に止まっちゃいますから……」
その日、婚約の書類などはすっかり忘れて頭の中は色々な事でいっぱいになった。




