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モテないと騒ぐ君が好き。  作者: かたたな


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休憩は大切(アルト視点


「……仕事、戻ります…」


 そう言い残して優雅なテラス席を後にした俺の足取りは、自分でも驚くほど軽かった。これでエレオノーラ様にちょっかい出そうなんて考える輩は現れないだろうと安心しきっていたからだと思う。


 背後から聞こえる歓声。聞こえてはいたけれど、そんな周囲のざわつきより、今は一刻も早く殿下の元へ戻り、山積みの案件を片付けなければならない。



 俺はその後も更にラインハルト殿下のフォローに奔走した。



「ああ、さすがに…しんどい」



 殿下から与えられた王城の部屋…。本来なら光栄な処置だが、今回ばかりは仕事漬けにされる場所だ。


 ソファに深く座り背もたれにダラリと身を預けた。


 そしてぼんやりする頭を何とか動かし、何か見落としがないか…一連の流れを振り返り考え始めた。


 探偵事務所から、出た後。


 マレーナ様とあの場にいた彼女の『子供達』を引き連れての謁見は、なかなかに渋い空気が流れていた。


 マレーナ様の未亡人という立場。

 そして出自の分からぬ子供たちの存在。それも一人や二人じゃない。男女含め、十数名いるとわかった。


 しかし殿下も負けてはいない。

 国王陛下が「王家の威信」を盾に難色を示されたその時、殿下が前へ出た。


 それは、俺と殿下で考え、必死にひねり出したもの。



「父上。マレーナに、そして共に歩んできた子供達に、何ら落ち度はございません。もし、この事態に落ち度があるとすれば、聖女がこうした苦境に立たされるまで発見できなかった我々の不手際です。それを今更、彼女自身の責とするのは、王の正義に反するとは思いませんか。」



 殿下の堂々たる進言に、謁見の間は水を打ったように静まり返った。

 陛下は沈黙し、深く、深くため息をつくと、鋭い視線を殿下の背後に控える俺へと向けた。陛下から「余計な知恵を授けおって」という無言の圧力を察する。俺は冷や汗を流しながらも、完璧な側近の無表情を貫き、微動だにせず頭を下げ続けるしかできない。


 その後も、殿下はマレーナ様の身を守る為…いや、親睦を深める為とも言えるのだが、彼女の傍から離れられない状況だ。事情を知る俺が嘘偽りない説明を周囲にしなければならない。他の誰かに託した結果…脚色された説明をされては困るのだから。



 あと一息、やるしかない。



 そう考えて、ソファに座り直した時。部屋がノックされ扉が開く。



「アルト、…これの確認も頼む」

「殿下、俺が一人しかいないとお忘れですか?」

「アルトなら何人分も可能にするだろう?」



 そんな軽口を叩きながら、俺は少しの仮眠を取りつつ不休で働き続けた。




 更にそれから数日。



 ようやく重要人物への説明が終わり、後は上の人達に丸投げできる段階となった。俺が出来ることはここまでだ。


 やっと終わった…という気持ちと、今後…上がどう動くのか不安を抱えながら…。


 備え付けられた豪華なベッドに倒れ込み、眠りについた。







……どれくらい眠っただろう。




 窓から差し込む柔らかな光に、俺はゆっくりと瞼を持ち上げた。



「……ん」



 数日ぶりにまとまった睡眠を取った。

 深く、静かな眠りはこんなにも世界が違うのかと改めて実感した…。頭の中を支配していた緊張感が消え、驚くほど思考がクリアだ。


 俺は起き上がり、凝り固まった首を回しながら、ぼんやりと忙しかった自分を労う。




「ノーラ様…今、何してるかな…」



 そして、スッキリした頭で最初に思い出したのは彼女の事。


 探偵事務所では、俺に「好き」と言ってくれたはずなんだ。例えそれが聖女候補の影響を受けたとしても、それは彼女の気持ちが溢れた結果…その確認をしなければいけない。


 きっと今の良好な関係なら保留となった打診も進む…はず…


 なんて考えた時。


 探偵事務所で、涙を零す美しい彼女に口づけしたことを思い出した。



「!!」



 ベッドから体を起こすと…記憶が鮮明によみがえってくる。



「いやいや…あ、あれは、きっと…あの場にいた…そう、聖女候補として人の力が多少なりとも影響して…」



 言い訳するが、やってしまった事実は変わらない。更に思い出されるのは、仕事の合間に少しでも話をしようと学園に行って…


 そうしたら変な噂を耳にしたんだ…



 「エレオノーラ様が美少年と朝から親しげにしているらしいわ。きっと何処かの貴公子との縁談がまとまったのね?」「とてもお似合いだったわ」と。



 それで、クラクラする頭でなんとか彼女の元に行ったら相手がジェマで。気持ちの浮き沈みでいっぱいいっぱいで…。でも、このまま話し合いもできなければ彼女と縁を結ぼうとする輩は必ず現れると予想はできた。


 自分が側にいない間に彼女の気持ちが動いてしまったら…。そう考えると気が散って仕方ない…誰も彼女に手出ししないだろう方法を考えた…


 そして…


 そして、彼女の柔らかい唇の感触を思い出す。



「……っ!」


 心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。

 さーっと血の気が引いていくのがわかる。



「……俺は……とんでもない事をしたんじゃ……?」



 冷や汗が背中を伝う。


 侯爵令嬢に対し、現段階では婚約もしていない分際の俺が、白昼堂々、全生徒の見ている前で口づけをする。それは何とも許されないことだ。



「わあああああああああ!!」



 俺は顔を覆い、ベッドに突っ伏した。貴族として、殿下の側近として、一人の男としても、あまりに節操がない事をした!!淑女の誉れを第一に考えるべき立場でありながら、俺自身が彼女の名誉を公衆の面前で損なうような真似をしたのではないか。



「アルト、起きたか。随分と元気な起床だな、外まで聞こえていたよ」



 扉が開き、ラインハルト殿下が入ってきた。その足取りは軽く、表情には確かな勝利の笑みを浮かべている。



「ようやく陛下と王妃を説得できた。マレーナとの婚姻を認めてくださることになったよ。子供たちも王宮に部屋を用意し、マレーナの側で暮らすことが許された。しかし、それは子供達の間でも意見が割れていてね。外で自立すると言う者も多い。王位継承権についてはマレーナと私の間に生まれる実子のみ、という条件がついた。彼女も子供達もそれで納得している」

「それは……おめでとうございます、殿下」



 俺は這いつくばるようにして立ち上がり、主君の朗報を祝福した。本来なら共に喜ぶべきところだった。……殿下の次の言葉を聞くまでは。



「ところで、アルト。学園ではとある話題で持ちきりらしい」



 殿下は愉快でたまらないといった様子で、俺に意地悪な笑みを向けた。


「なんでも、侯爵令嬢が修羅場の末、多くの生徒の前で強引に唇を奪われ、既成事実を作られたらしい」

「……き、きせい、じじつ……っ……」

「相手は確か……私の有能な側近だとか…そんな情熱的で破廉恥な側近はいただろうか?と思ってね。」


俺は真っ白になった。


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