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モテないと騒ぐ君が好き。  作者: かたたな


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公衆の面前で!?



 目の前で、荒い息を整える人物の背中。

 その様子は今、割り込んできた時ほど荒々しさはなく、何か安堵したようにぐったりとする。



「ああ、もう、ジェマ……お前かよ……。……心臓止まるかと思った……焦った……」



 声は確かにアルト様なのだけど、酷く疲れている様子…。



「アルト様?どうされましたか?そんなに慌てて」

「変な噂を…っ…耳にしたもので…はぁ、でも違いました。よかった…」



 アルト様は、私の手を握っているジェマさんを恨めしそうに睨みつけ、それから泣きそうな顔で私を見つめる。



「とりあえず、コイツから離れて下さい。変な噂になるんで…」

「ジェマさんが女性だということは、アルト様もご存知ではありませんか」



 私は、必死な形相で今にも泣き出しそうなアルト様を見て、思わずくすりと笑ってしまう。


 彼がそんな顔をするなんて、どんな噂だったのだろう?


 けれど、アルト様は私の笑みに安心するどころか、さらに詰め寄ってきた。



「ええ、勿論知ってます。 性別がどうとか、そんなのは分かってるんです。 でも、噂じゃ『エレオノーラ様ととてもお似合いの麗しき貴公子』とか広まってたんすよ!」



 アルト様はジェマさんをビシッと指差すと。



「たとえ噂だとしても、貴女の隣に立つのが俺以外なんて認めないっすよ! 客観的に見て、絶対俺の方が似合ってる! 誰がなんと言おうと、俺の方がエレオノーラ様に相応しい!」



 そんなアルト様の様子を、ジェマさんは呆れたように、けれど少し楽しそうに眺めていた。



「……真面目に仕事の話をしていただけだ。護衛として雇って貰えないかって」

「…護衛?」



 混乱は一瞬で、すぐに側近らしい鋭い目つきに戻ると、ジェマさんに向かって説教でもするように見据えた。



「いいか、職務として側にいるというのなら、なおさらだ。公衆の面前でノーラ様の手を握るなど言語道断! 物理的距離は心の距離に直結する。護衛なら三歩下がって、不必要な接触は避け、節度を持って接してもらわなければ困る!」



 息をつく暇もないほどの勢いで繰り出される正論。



「たとえ女性同士だとしても、周囲から見れば今の貴方は『美少年』だ。エレオノーラ様の淑女としての名誉を守るのも護衛の務め。 俺がいない間に、変な噂を助長するような真似は絶対に許可できない!」



 ジェマさんは圧倒されたように目を丸くしている。

しかし、彼女はとんでもない反論が待っていた。



「まだ正式な護衛じゃない。それに、節度って…お前が言えた事か?エレオノーラ様に許可も得ず何度もキスしていた癖に」

「!?…な、何故しってる!」

「別の部屋にいても、気配で何となく分かるだろ」

「分かるか!?」



 アルト様は少し考えてから、今度は私の方へと詰め寄ってくる。



「エレオノーラ様。俺はまたすぐに、ここを離れて公務に戻らなければなりません。殿下が国王陛下を説得し、交渉している間、他の堅物に嘘偽りない状況の説明をしたり根回し出来るのは、あの場にいた俺しかいない。各方面への説明する文書の作成だってある」



 彼は私の逃げ場を塞ぐように椅子の背に手をかけ、至近距離で私を見つめてくる。


 一晩中、神経を削り続けてきた疲れのせいだろうか?その瞳は少し虚ろで、疲労が滲んでいる。



「この忙しさは……恐らく卒業まで続くでしょう。」



 独り言のようにポツリ、ポツリとしかしハッキリと伝わってくる。



「その間、俺がいない場所で、誰かが貴女に言い寄るかもしれない……。他の男が貴女をエスコートし、貴女に微笑みかける。そんなことを想像して怯えながら仕事をするなんて、気が散って仕方ない。俺には到底、不可能です。」

「アルト、様……?」



 すると次の瞬間、彼は周囲に大勢の生徒がいることも忘れてしまったのだろうか?言葉が途切れると同時に、私の視界がアルト様の顔でいっぱいに。


 そして、昨日の甘い温度が再びやってくる。


 大勢の野次馬の視線に晒されながらの、あまりにも強引で、なのに一瞬触れるだけの口づけがやってきた。



「……っ!!」



 静まり返っていたこの場に、悲鳴に近いザワザワとした歓声が響き渡る。


 侯爵令嬢が、白昼堂々、婚約もしていない男性に唇を奪われる姿に野次馬たちはもはや言葉を失うか、ざわつくしかない。


 アルト様は、呆然とする私から唇を離すと、満足げな、どこか吹っ切れたような笑みを浮かべました。



「はぁ~、これで、もう誰も近寄りません。それに来ても渡しません。……仕事、行ってきます」



 これで安心!と言わんばかりに言い残すと、彼はフラフラと来た道を戻ってゆく。


 残されたのは、ただ真っ赤になって彼の奇行に戸惑う私と、手に負えないほどの大騒動だった。


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