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モテないと騒ぐ君が好き。  作者: かたたな


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ジェマさんと学園へ



 ……行っちゃった。



 アルト様との別れ際、彼の名残惜しそうな瞳を思い出して胸がドキドキと高鳴る。そのうるさい心臓のせいで更に頭痛が酷くなる。


 やむなく、重い頭をソファに預け体を休めることにした。


 カチャリ


 扉が開く音がして、ジェマさんが一人で戻ってくる。



「……」



 ジェマさんは何も言わず、手際よくキッチンを片付け始めた。マレーナ様や他の子供たち、そして殿下の一団がいなくなった事務所は、驚くほど静かで広い。


 そんな静けさがあるものだから、何も言わないジェマさんに、余計に気まずさを感じてしまう。だから少しだけ声をかけてみる。



「ジェマさん……ごめんなさい。私があんな風に泣いてしまったせいで…。マレーナ様の側にいたいはずなのに」



 消え入りそうな声で謝る私に、ジェマさんは作業の手を止める。彼女は、いつもの刺々しさを削ぎ落とした、柔らかな声で呟いた。



「気にするな。他の頼もしいママの子供達がいるからね。特にキュカがいれば心強い。……それに、あんたには、恩がある…ゆっくり休めばいいさ」

「恩……ですか?」



 意外な言葉に目を丸くすると、ジェマさんは窓の外、殿下たちが去っていった道を眩しそうに見つめた。



「あんたに『聖女』の疑惑があったんだろ?……でもあんたは、それを否定した。 偽ってでも立場を得ようとせず、本当の聖女を……ママを、見つけてもらえるように立ち振る舞った」



 彼女はそこで初めて、私に優しく微笑んで見せた。



「おかげでママは、殿下に見つけてもらえた。子供達の中から最も美しい3人を揃えたというのに…あんなにも真っ直ぐにママだけを想ってくれる男なんて、そうはいない。少しは目移りするものだろう?この国の王子なら、気に入った者全て『聖女』の名目で側に置くというのもできるのに」



 その光景を思い出すように笑うジェマさんは、年相応に女の子らしい笑顔だった。



「ママの幸せのきっかけをくれたのは、あんただよ。……だから、ゆっくりお休み。」



 彼女の優しさが胸に染み渡る。

 私はチョーカーに指先で触れながら、深い眠りへと落ちていった。

 




…翌朝




 太陽が顔を出し始めた頃。

 その日差しに目を覚ますと、窓の外の風景で『朝』だと察した。



「ぁ、朝!!」



 私がこの探偵事務所に皆と訪れたのもお昼時が近づいた朝だったはず。それから、色々話が進み…私が寝込んだのは遅くてもお昼頃なのでは…


 それは、ものすごく寝た…ということだ…。


 はっ!!じゃ、じゃあ今日は!?



「大変…今日は学園に行かなければいけないのに…」



 私が一人、身支度をどうするか悩み焦っていると、ジェマさんが、誰かと共に部屋へ入ってくる。



「ジェマさん!申し訳ございません、今日は授業が…」


「問題ない。アイツがあんたの家…侯爵家の使用人に連絡したらしくてね、人を寄越したから全て揃っているよ」



 ジェマさんの隣には、紛れもない侯爵家の使用人が控えていた。なんて準備がいい事だろう。ジェマさんの言う『アイツ』というのは多分アルト様だ。会えなくとも私を気遣い、配慮してくれるその姿勢が嬉しくて仕方ない。


 そのまま、侯爵家の使用人と共にせっせと私の世話を焼くジェマさん。この家の道具に慣れない侯爵家の使用人と和気あいあいと朝食や簡単な湯浴みも手伝ってくれる。



「もしかすると…この綺麗なお部屋もジェマさんがお掃除されているのですか?」

「だいたいは…。キュカも少し手伝ってはくれる」



 仕立ての良いシャツと、カチッとした厚手のジャケットを羽織りながら話してくれた。すらりとした長身に、上着がその柔らかな曲線を完全に覆い隠す。その姿は、どこか陰のある「美少年」と誰もが勘違いしてしまいそうだ。


 使用人達がポッ!とするのがわかる。


 そのまま彼女の運転する馬車に揺られ、私たちは、朝の光が差し込む学園の正門へと到着。


 ジェマさんの手を借りて、馬車から降りた。その瞬間、制服に身を包んだ登校中の生徒たちの視線が一斉にこちらに突き刺さる。



(分かるわ、その気持ち。ラインハルト殿下の美しさとはまた違う、野性的でダークヒーローみたいなジェマさんだもの)



 更には、侯爵令嬢である私が、見慣れない「少年」を伴って現れたように見えるのだから。きっとどこぞの貴族だと思われている事だろう。



「ジェマさん、ここまで送ってくださって本当にありがとうございました。」

「ああ」



 その時だった。


 背後から走ってきた生徒が、立ち止まっていた私にぶつかりそうな程近くを通り抜ける。


「危ない」


 低い声と共に、ジェマさんの長い腕が私の肩を強く抱き寄せた。

 私の背中が彼女の胸板……正確には、上着で硬く補正された彼女の体にぴたりと密着する。周囲から見れば、それはまさに別れを惜しむ恋人同士の「熱い抱擁」だ。


 距離が近い、彼女ならではの所業だ。


 周囲の女子生徒たちが「きゃっ!」と小さく息を呑み、制服の袖で口元を隠すのが見えた。

 ジェマさんは周囲のざわめきなど気にする様子もなく、学園の広大な敷地と校舎を、珍しいものを見るように興味深げに眺めていた。



「……へぇ。ここが、お坊ちゃんたちの通う学び舎か。随分と立派なもんだね。」



 興味深そうなその視線に、私も好奇心で返してみる。



「もしよろしければ、中をご案内いたしましょうか? 私の付き添いとして届け出をすれば入れますよ?案内中は私が側にいることになりますが」

「……いいのか?」



 ジェマさんの瞳が、子供のようにパッと輝いた。

 

 そうして、私は窓口に届け出をすると、ジェマさんと並んで学園の廊下を歩き出す。

 私の隣で、周囲の視線をどこ吹く風と涼しい顔で歩く美少年。彼女がふとした瞬間に興味を引かれた事柄について聞く為、囁きかけるように顔を寄せたりするたびに、廊下のあちこちから驚きと困惑の囁きが波のように広がっていく。


「見て、エレオノーラ様……今朝はあんな美少年と睦まじく登校なさるなんて」

「とてもお似合いの2人ね。エリザさんの事件がありましたから…心労が心配されていましたが、前向きになれたのですね。あの方はいったいどこの公族かしら」


 私の知らない所で、瞬く間に学園中を駆け巡った噂。


『エレオノーラ侯爵令嬢は、謎の美少年と朝を迎え学園デートを果たした』と。


16時・21時投稿です。夜もよろしくお願いします。アルファポリスへ投稿している年齢指定ありの物語は完結日が決まりました!こちらには引き続き全年齢版に修正と加筆をして投稿を続けます。

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