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モテないと騒ぐ君が好き。  作者: かたたな


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チョーカー


 私の視線に、少し居心地が悪そうに俯く彼。しかし、その言葉はしっかり私に届く。



「キッカケは殿下に連れられて行ったのですが…って今言うべきじゃないな。と、とにかく!ちゃんと貴女の事を考えて選びました。」



 アルト様も感情が出てきているのか…余計な言葉が出てしまうようだ。その様子から、今の彼の言葉はだいぶ信用できると思える。


 体を少し離し、涙で滲んだ視界の中でそれを受け取る。その箱にどんな品が入っているか知らないものだから慎重に、静かに開けてみる。


 中から現れたのは、上質で繊細なリボンの上に、小さな鳥が休んでいる、愛らしいチョーカーだった。



「……可愛い」

「こんな贈り物まで用意しているのに、貴女の事を何とも思ってないはずはないでしょう?」



 その可愛らしいチョーカーを手に取ると、手元でキラキラとする小さな小鳥を眺めた。



「以前、鳥を可愛いと言っていたでしょう。だから…その…これです」


「そんな些細な事を覚えていてくださったのですね」


「…覚えています。…これを渡して、俺を選んでほしいと説得するつもりだったんです。…ノーラ様を支えられるのは俺くらいのものですって、改めて。」



 彼は私の瞳を真っ直ぐに見つめると、自嘲気味な笑みを浮かべた。



「でも、ダメっすね。……そんな勘違いする事を言われて。それでもまだ自分を傷つけない為の『理屈』を並べているのが、今は心底、愚かに感じます」



 アルト様は私の手からチョーカーを取ると、私の首筋にそっと手を添えた。

 冷たい銀の感触のせいで、彼の指がとても熱く感じる。

 カチリ、と小さな金具が留まる音が、静かなキッチンに響く。慣れた手つきで、苦しくない緩さに調節された。



「苦しくありませんか?」

「はい」

「良かった、長さの調節方法を店主から何度も学んだ甲斐がありました」



 慣れているな…と感じたのは練習の成果だったようだ。それにホッと胸をなで下ろす



「どうですか?ちゃんとノーラ様の事も考えていますって…伝わりましたか」

「……」

「…半信半疑って感じっすね…エレオノーラ様の事。何とも思ってないわけないんです。多分逆で、貴女の隣を誰にも渡したくないと思う……それはハッキリしています。」



 その言葉は、私に事実確認をするように真剣な眼差しで告げられる。



「俺には兄上のように身を滅ぼすほどの『恋』は理解出来ない。『恋』は人を愚かにすると目の当たりにしました。ノーラ様への気持とは違うと…さっきまで思っていました。」


「さっきまで?」


「…殿下が、マレーナ様の環境全てをひっくるめて背負う覚悟を持っていた。」



 吐息が触れるほどの距離。

 彼の瞳が、熱を帯びて揺れている。


 ついに、


 彼の手は、私の頬を包み込んだ。



「そこは、俺がエレオノーラ様に抱いてる考えと同じではないかと…感じました」

「…同じ?あの…殿下がマレーナ様に見せる気持ちと…?」



 涙はすっかり止まっていて、私の視界にはアルト様でいっぱいになっていた。まさか、アルト様が先ほどの殿下のような気持ちを私に抱いてると言うのか。どうしょうもなく相手が好きで、全てを背負う事も嬉しいと言うような愛情に。



「……泣き止んだ」

「はい、びっくり、してしまって…でも、でも…」



 話をなんとか理解した私に、また涙が溢れてゆく。そんな私の涙を指先で拭ってくれた…



「奪われたいって言葉、本気にしますからね?」

「…ぅ、はい…それは本心ですが、…なんと説明したらいいか…」



 次の瞬間、驚くほど優しくて、けれど苦しいほどの執着が滲む口づけだった。


 涙の味が混じる、初めての温度。


 背後に聞こえる事務所の喧騒も、今は遠い世界の出来事のようで。



「泣き止みそうっすかね?」

「まだ…」



 そうして、また柔らかい唇が目元に当たる。そして、離れた時。また別の気持ちが溢れてきた。



「うっ、うう」

「涙…止まりませんね」



 そうして、彼の胸に体を預け、ゆっくり深呼吸をする。すると彼の香りで気持ちが落ち着いてきて…だいぶ涙が引いてきた。ちゃんといつもの自分の感覚を思い出してきた。



「何だか…少し頭が、痛いです」

「ここで少し寝ているといいっすよ。側にいますから」



 そう言って頭を支えられ、座っていたソファに肩を押されて寝転ぶ。ここは自分の部屋ではないから、居心地の悪さを感じるのに自然と瞼が重くなる。なんとか目を開けると、いつもと違う眼差しの彼が、私を覗き込む。


 それは、彼が殿下を見る時とも違う。私のお父様が…お母様を見る時のような…


 記憶の中で、それに近いものを探し、考えていると再び寄せられる彼の温もり。今度は、当たり前かのように、深く重ねられる。


 その触れ方が、あまりにも私の求めるものに似ていて…


 私の口から、ずっと止めていた言葉が溢れてしまった。



「私を…こうして…これからも愛してくださいますか?」

「コレが貴女の求めるものだと言うなら。俺はいくらでも…嫌と言うほどあげられる自信があります。だから、貴女の隣は、俺だけにとっておいて下さい」



 言葉となった瞬間。

 恐怖が訪れる隙も無く、返事が返ってきた。


 私は、その言葉にただ頷いて瞼を閉じる。


 

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